『無類の服好き』小木基史(Liquor,woman&tears ディレクター)

by Mastered編集部

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「バイヤー小木基史」の本質に迫る

サボテン型のループタイ 1,260円(Liquor,woman&tears)

サボテン型のループタイ
1,260円
(Liquor,woman&tears)

—- お伺いしたあたりの気分は、やはり今シーズンのバイイングにも反映されてるんですか?

小木:そうですね。派手なものは今まで通りやるんだけど、ロックマウントのバンダナを取り入れてみたり。
新しい感じをミックスして提案したいです。

最近は分業化というか、なんでも細分化されすぎていて。カジュアル担当・モード担当・スーツ担当…みたいな。なのでバイヤーも選ぶ幅が必然的に狭くなってきてしまうんですよ。
でも僕は、全部を見た上でセレクトしたい。それがセレクトショップだと思うから。やっぱり(固まった)スタイルじゃなくて、服自体が好きなんで。

昔のセレクトショップってスーツもあれば、派手な服もあった。
でも、今はそういうお店が少なくなってきてるんで、秋冬からはよりそういうお店にしたいなって。
まず普遍的なモノがあって。でもそれだけじゃ満足しないんで、ぶっ飛んだモノをセレクトする。

ランバンのサングラス(小木氏私物)

ランバンのサングラス
(小木氏私物)

—- しかし、男子的にはどうしても『オレのスタイルはコレ!』みたいな美学に凝り固まりがちな気もするのですが?

小木:ターコイズみたいなモノに出会うと、どうしてもハマってちゃうんですよね。
だから、あえてハズしてランバン(Lanvin)やヴィトン(Louis Vuitton)のサングラスを掛ける、とか。
そういう風にミックスしていくのが新しく思えるんですよね。

—- 一般的に、何かにハマると突き詰めて行ってしまう人って多いと思うんです。 本物志向というか、「より良いモノへ」的な。
それでも本物至上主義にならず、一般的には価値が低いとされるような安い物でも躊躇無く買える。そのセレクトの判断基準にとても興味があるのですが?

小木:やっぱり自分の目ですかね。
今回ミラノに行った時、エンジニアード・ガーメンツ(Engineered Garments)の鈴木大器さんに会って、ちょっとお話する機会があったんですよ。
そのときに言われたのが『セレクトショップに期待してるのは、その感覚』って。
例えば、僕らがハマっていってどんどん本物を買っていったとしても、今までそれ以上の歳月を本気で接してきた人たちには絶対に勝てないんで。
だから逆に、そういう人たちに「面白いね」って言って貰えるようになりたい。
今までダイヤモンドにしか興味がなかったのに、ターコイズみたいな面白さに気付いた。
こういう感覚を大切にしてバイイングしたいなって。

LWTの名物ディスプレイにターコイズを添えて

LWTの名物ディスプレイにターコイズを添えて

—- しかしこういった思い切った舵取りは、ともすれば「わざとらしい変化球」と取られたりすると思うんですが、そういった事は気になりませんか?

小木:僕の中で外れてないモノであれば、迷い無くセレクトする感じなんです。みんなが避けがちなところを、あえて行ってるだけで。
お世辞かもしれませんけど、鈴木さんが『LWTのようなトコロを応援してるよ』って言ってくださって。
確かにそういう外面的な部分を気にしてる所も正直あったんですけど、それでもう「自分はコレでいくしかないな」って思いました。
まぁ、本当にお世辞で言ってくれただけかもしれないんですけど…(笑)

—- こういう新しい感覚の提案が、実際に受け入れられるのか?という恐怖感はありますか?

小木:色々やりたいことが多すぎて、どれをやるべきかと悩む事はあります。
でも僕にとって、普段フェノメノン(PHENOMENON)とかを着てるファッションに敏感な若い人にターコイズの魅力を伝える、っていうのはすごく興味深い事なんです。それで色々知ってもらうきっかけになれたら嬉しいですし。
バックグラウンドにあるカルチャーを知らない人たちでも、どこかに反応して買ってもらえるようになれば、結果的にすごく楽しくなると思うんで。

—- 少し話は戻るのですが、グッチもフリーダ・ジャンニーニがクリエイティブ・ディレクターに就任してから、ウェスタンというかフォークロア的な雰囲気の物が多いですよね。やっぱり全体的にその流れに向かってるんですかね?

小木:そうですね。そういえばこの前、ウェスタンシャツにループタイを2本重ね付けして、イブ サンローランの太いパンツを履いて取引先に行ったら、『80年代のヴェルサーチ(Versace)みたいですね』って言われて。
その頃のヴェルサーチにもあったらしくて。あと、バッファロー(Buffalo)とか。

—- レイ・ペトリ(Ray Petri)ですね。その流れはなんとなく分かる気がします。

小木:ストリートや最近のモードって、今までの80年代の流れよりも90年代のイメージが強くなっていると思うんですね。
クリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche) あたりを皮切りに、自分達の世代が先輩達から受け継いだ事を、次世代へ伝えていく時期がきてるんじゃないかな、って。
それも自分達のフィルターを通しながら、なおかつ本気で・・・。

90年代って、インターネットも未発達でまだそんなに情報もなくて。今考えれば、新しいミックス感とかもあったんだろうけど…。
でも、今はみんな知りすぎてるから、逆にミックスができなくなってると思うんですよ。
だからその辺を、ちゃんと基本を知った上でミックスしていく感覚。それが東京スタイルだと思うんで。
それを提案していかないと若い人には伝わっていかないし、大人をビックリさせることだって出来ない。

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