対談:Mocky × Campanella

by Yu Onoda and Keita Miki

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Mocky:送ってくれた過去の作品をじっくり聴かせてもらって、ラップのフロウも大好きだったし、「彼とならいい仕事が出来そうだな」って思ったんだ。英語以外の言語でラップをすれば、当然、アメリカのヒップホップとは違うものになるんだけど、僕が以前住んでいたドイツで耳にしていたドイツ語のラップはトラック上での言葉の響き方が自分の好みじゃなくてね(笑)。でも、日本語のラップ……といっても熱心にチェックしているわけではないけど、以前、仕事したKID FRESINOやCampanellaのラップは自然と耳にフィットしたんだよ。

Campanella:日本のヒップホップのなかで、僕らのラップは特にいい方だと思うんですけどね(笑)。

Mocky:はははは。リアル・ラッパーっていうことなんだね。音楽的にもCamapanellaはFeistやMoses Sumneyを聴いていたり、トラックもエレクトロニックミュージックの影響が感じられる独自なものだし、ジャンルにとらわれていないところは僕と一緒だよ。アメリカのトレンドであるトラップをコピーしただけのものは世界中に腐るほどあるけど、そういう音楽はナンセンスだよね。もはや音楽にジャンルは関係ない時代だし、広く開かれているべきだよ。僕はカナダで生まれて、その後、ベルリンやロサンゼルスに移り住みながら、色んな音楽を聴き、色んなアーティストたちと仕事をしてきたんだけど、一見、ヒップホップとは関係なさそうなFeistの音楽にしても、実際には大いに関係あるし、そういう色んな要素を1つにまとめあげた新しい表現が「音楽」なんだと思うけどね。

— ちなみにCampanellaはMockyとコラボレーションするにあたって、どんな要望を伝えたんですか?

Campanella:僕がMockyの音楽からイメージするのは、”Birds Of A Feather”にも入っている口笛なんですよ。頭から離れない、ああいうメロディの口笛をフィーチャーしたトラックを作って欲しいとお願いさせてもらいました。

— 以前、MockyがKID FRESINOにトラックを提供した”Let me in (hair cut)”もご自身の作品同様、アコースティックな、メロディアスなものでしたよね?

Mocky:そうだね。知っての通り、ベルリン時代の僕はダンスミュージックで溢れていた街の影響もあって、モダンなエレクトロニックミュージックを作っていたんだけど、その試みが自分のなかで満足がいって。さらにその先で新しい作品を作ろうと考えた時、もともと演奏が出来た生楽器を融合することで新しい音楽になるんじゃないかと思うようになって今に至るんだけど、ラッパーに提供するトラックを作る時もその思いは変わらないよ。

Campanella:自分の作品はオーガニックな作品であるのに対して、Mockyが制作に参加したKelelaの『Take Me Apart』はエレクトロニックミュージックとR&Bが融合したカッティングエッジな作品でしたけど、あの作品はどういう関わり方をしたんですか?

Mocky:あの作品はプロデューサーとしてではなく、ソングライターとして携わったんだ。その後、色んなクリエイターが参加するであろう制作プロセスにおいて、エレクトロニックミュージックの要素が加わることを想定しながら、キーボードを弾いて書いた曲を6曲提供したよ。

— 1曲に複数のアーティストが関わって制作を進めていくアメリカのメインストリームにおける制作スタイルですよね。

Mocky:そうだね。1枚のアルバムを作る時に300曲集めたりするようなポップの世界では一般的なやり方で、リリックを書く人、ちょっとしたコードを提供する人、何人ものビートメイカー……多いときには1曲に10人も携わったりするんだよ。1人のプロデューサーとじっくり作った作品を好んで聴いてきた自分にとっては、そういうやり方が得意ではないので、FeistにしてもKelelaにしてもスタジオに入るんじゃなく、彼女たちに家に来てもらって、2年くらい時間を費やして曲を作ったんだ。

Campanella:なるほど。ポップの世界でもMockyらしいやり方を貫いているんですね。それでもう一つ聞きたいことがあって、Mockyとヒップホップの繋がりというと、以前、Mockyは”Birds Of A Feather”にWu-Tang ClanのGZAを新たにフィーチャーしたリミックスをリリースしているじゃないですか。あの曲でGZAにどういうオファーをしたのか、すごい興味があります。

Mocky:こちらからは一切ディレクションはしなかったよ。というのも、僕の曲は動物にまつわる曲が多いんだけど、GZAも(野生動物のドキュメンタリーを多く放送しているケーブルテレビチャンネル/マガジン)『ナショナルジオグラフィック』が大好きで、よく動物のことをリリックにしているし、僕は子供の頃にチェスの大会でチャンピオンになったことがあるんだけど、彼もチェスのプレイヤーであることを知っていたから、こちらから特に何かを言う必要がなかったんだ。それにあの曲は簡単に実現したわけではなく、実現するかどうかもよく分からなかった。まず、友達を通じて、GZAのマネージメントに連絡を取ったんだけど、それから何ヶ月も音沙汰がなくて、「もういいや、忘れよう」と思っていたら、ある日突然、「完成した」というメールが届いたんだよ。アメリカでラッパーと仕事をするというのは、最初にキャッシュを渡して、その後、出来るかどうか……っていうような不確かなやり取りにどうしてもなってしまうんだ。というのも、本物のアーティストというのは何か感じるものがないと動いてくれないからね。