ファイストやジェーン・バーキン、ジェイミー・リデル、チリー・ゴンザレスらを手掛けるプロデューサーであり、ソロアーティストとしてもマルチ・インストゥルメント奏者としての才能を存分に発揮しているカナダはサスカチュワン出身のアーティスト、モッキー(Mocky)ことドミニク・ジャンカルロ・サレロ。ベルリンを拠点に、ヒップホップ、R&Bやエレクトロニックミュージックのオルタナティヴなクロスオーバーを実践していた初期から一転、2009年のアルバム『SaskaModie』以降、コンポジションとアレンジの洗練を極めた生音の滋味深い音楽世界を追求するようになった彼の評価はここ日本でも日に日に高まっている。
昨年10月には6年ぶりの大傑作アルバム『KEY CHANGE』を携え、初のジャパン・ツアーを敢行。その素晴らしいパフォーマンスは各地で大絶賛の嵐を巻き起こし、来たる5月にはceroとの対バン・ライヴを含む、2度目のジャパン・ツアーが決定。このツアーに先立ち、フィジカルリリースは日本のみとなる全13曲を収録した新作『Mocky presents THE MOXTAPE VOL.III』を発表したばかりの彼に話を訊いた。
Photo:Dalton Blanco、Interview&Text:Yu Onoda、Translation:Ai Hanadate、Edit:Keita Miki
かつての音楽業界の焼け跡であるロサンゼルスに、僕は様々な新しいクリエイティブなエネルギーを見たんだ。
— 5月に2度目の来日ツアーが控えていますが、日本のリスナーが長らく待望していた昨年11月の初来日ツアーはいかがでした?
Mocky:これまで日本で数多くの作品をリリースをしてきたから、長らく僕も日本に行きたいと思っていたんだけど、日本での初めてのツアーは最高だったよ! 各地で僕の音楽のファンでいてくれる素敵な人たちとの感動的な出会いがあったし、日本のオーディエンスはとてもオープンで、ステージ上の新しい試みも一緒に楽しむことができた。可能性にあふれた、何でも書くことのできる真っ白なキャンバスを与えられたような、そんな気分だったね。
— 来日公演はギタリスト不在、ストリングスをフィーチャーした編成で、あなたもドラムやベースを弾きながら、ラップを披露したり、シェリル・リン”Got To Be Real”のカバーをプレイしたり、いい意味で予想が出来ない、自由度の高い演奏でしたもんね。
Mocky:音楽がほぼコンピューターで作られている今、実際の楽器を使うというのは最もエキサイティングなことなんじゃないかな。2000年初期、僕はエレクトロをやっていたんだけど、それよりさらに前の時代、僕がまだ子供だった頃はコンピューターや様々な楽器を組み合わせて使うマルチプレイヤーだったし、マルチ・コンポーザーだったんだけど、2009年のアルバム『SaskaModie』と昨年リリースした『KEY CHANGE』では、そういった自分のルーツへ立ち返ったんだ。僕はポップミュージックのゴールデンタイムだった80年代を楽しんだキッズの一人だったから、作品にはポップな要素が自然に反映されるし、ライヴであっても、シンプルさとユーモアが常に共存するのは僕にとっては当たり前のことなんだよ。
— いまお話にあったように、あなたのキャリアは2001年のファースト作『In Mesopotamia』から2005年の『Navy Brown Blues』にかけては、オブスキュアなエレクトロからソウル、R&Bへと移ろいながら、動物園で猿を相手にライヴを行ったり、人形のヒップホップグループ、Puppetmastazに参加したりと、ひねりの効いたセンスが魅力でもありました。いま振り返ってみて、当時はあなたにとってどんな時期だったんですか?
Mocky:2000年初期、僕はヨーロッパの動物園でツアーを始めて、そこで自分のスタイルを磨いたんだ。当時は、午後に猿の檻に向けてライブをして、夜はクラブでライブをしていたんだ。当時はエレクトロにピュアなエネルギーを感じていたんだけど、ダンスミュージックの多くがそうであるように、音楽がフォーマット化され、エネルギーが失われていくように感じて、そういう状況になればなるほど、”マルチプレイヤー”だった私のルーツへ戻るべきだと思うようになった。当時、僕にはDJになるかMCになるかという2つの選択肢があったんだけど、マイクを手に取り、曲を書く道を選んで、製作を続けていくにつれ、アコースティックな要素や演奏のテクニックも含めて、様々な要素を融合させられるようになっていったんだ。
— あなたはイギリスやイタリア、ソマリアやエチオピアなどの血を受け継いでいるそうですが、エスニックなバックグラウンドは作るクロスオーバーな音楽にどんな影響を与えていると思いますか?
Mocky:音楽はどんな人のなかにも流れていて、作品を作るうえでは、そこにアクセスしなくちゃいけないと僕は考えているんだ。僕は家族のなかでカナダで初めて生まれた子供だったから、いつもアウトサイダーのような気がしていたし、そんなバックグラウンドを持つ自分のなかに流れている音楽に導かれるように、僕がファミリーと呼んでいるコミュニティと出会ったんだ。僕にはジプシーのようなところがあるんだけど、音楽は自分が行きたい場所へ連れて行ってくれるガイドみたいなものなんだよ。
— ファミリーというのは、ファイスト、チリー・ゴンザレス、ピーチズ、テイラー・サヴィという世界的に活躍する同郷カナダ出身アーティストのコミュニティ、カナディアン・クルーのことなんですよね?
Mocky:そう。彼らは同じ音楽のDNAを分かち合っている家族みたいなもので、お互い、アルバムのアイデアをシェアし合っているし、一緒にプレイしたり、一緒に製作もしているんだ。それぞれが自分のスタイルを持っているんだけど、いざ、一緒に音楽と向き合うと、それぞれの個性が絶妙にハマるんだよね。そんなファミリーと出会えて、自分はラッキーだと思うよ。
— さらにあなたはあらゆる楽器を扱うソロ・アーティストとしてだけでなく、ジェーン・バーキン、ファイスト、ジェイミー・リデルといったトップ・アーティストを手掛けるプロデューサーとしての顔もあります。ご自身のプロデュースワークについて、どんな哲学をお持ちですか?
Mocky:プロデューサーというのは、アーティストが作りたいものを作らせることが仕事だと思っているよ。それは彼らの個性に一番合う曲を試行錯誤しながら発見するということでもあるんじゃないかな。その際には自分がソロでアーティスト活動をしているということが役に立っているね。アーティストがどんな気持ちなのか理解してあげられるし、自己表現のクレイジーなプロセスや、気持ちがハイとロウの間を行ったり来たりすることは最高の作品を作るためには避けられないんだけど、僕は自分自身の作品でそういう経験もしている。だから、僕がプロデュースする際は、寛大さと忍耐強い取り組みを心掛けているんだ。というのも、音楽製作というのは、タイミングが全てで、上手くいかないこともあれば、どこかのタイミングで上手くいくというような、不確かな世界だからね。
— そして、様々なメディアで傑作と評された2009年のアルバム『SaskaModie』は、一転して、ストリングスやホーンを交えたアコースティックでジャジーかつ繊細な作風を展開していました。長らく暮らしていたベルリンから出身地のカナダ・サスカチュワンのルーツに立ち返るように、ジャズからヒップホップに至るブラックミュージックの尽きない憧憬を蒸留した素晴らしい作品でしたが、このアルバムが生まれた背景というのは?
Mocky:『SaskaModie』は、それ以前に傾倒していたエレクトロ、EDM以前の僕が呼んでいるところの”PreDM”から離れて、自分の人生を見つめ直すための作品だったというか、可能な限り最もナチュラルなところへ立ち返ろうとした作品だね。ピュアに鳴り響く楽器の音でアルバムを作ることが今の自分に出来る最もラジカルなことだと思ったんだよ。そして、そんな作品が聴いてくれるみんなの心にも響けばいいなって。
— そして、2011年にはベルリンからロサンゼルスのエコーパークに移住されたんですよね。大きな人生の転機だったと思いますが、ベルクハインに象徴される、世界に誇るベルリンのダンスミュージックシーンの成長過程に立ち会った日々を振り返ってみていかがですか?
Mocky:ベルリンは素晴らしい街だし、ベルリンはいつも私の心のなかにあるよ。いまでも作曲やレコーディング、創作のためにアーティストがベルリンへ行くことは心からお勧めするけど、個人的にはエレクトロから離れたことによって、自分とクラブシーンの繋がりはなくなったんだ。振り返ると、自分にとって、ベルリンでの時間は、ロサンゼルスへ移るために自分を解放するための完璧なトレーニングのようなものだったと思うな。
— ベルリンからロサンゼルスに移住した理由は?
Mocky:かつての音楽業界の焼け跡であるロサンゼルスに、僕は様々な新しいクリエイティブなエネルギーを見たんだ。僕の妻はドイツ人のファッション・デザイナーなんだけど、ベルリンからロサンゼルスに渡ったのは、僕だけじゃなく、彼女と息子にとっても素晴らしいアドベンチャーになったし、ロサンゼルスは広く、比較的安く暮らせることもあって、才能豊かなアーティストが沢山集まってきていて、いまのロサンゼルスは面白い時期にあるんだよ。
— (Mockyが楽曲を手掛けた)ケレラやP.モリスといったFade To Mind周辺のアーティストやレッキンクルーと呼ばれるスタジオミュージシャンの伝統を今に受け継ぐ腕利きミュージシャンたちとの親交から昨年リリースのアルバム『KEY CHANGE』が生まれたんですもんね。
Mocky:そうだね。今のロサンゼルスには多様な音楽スタイルが存在しているし、成功のチャンスもあると思っているんだ。住み始めた当初は、作曲とプロデュース業に力を入れようと思っていたんだけど、ロサンゼルスのダウンタウンのエリアは、文化的にルネサンスの渦中にあって、ベルリン時代を彷彿とさせるインディペンデントシーンの盛り上がりがあった。そこで僕は沢山の才能あふれるミュージシャンに出会い、家族のように仲良くなっていったことで、このアルバムも自然に出来上がっていったんだ。そして、とても親しい友人で、長年コラボレーションしているファイストが、ある時、ロサンゼルスにやって来て、「あなたは周りから得たインスピレーションを作品にしなくちゃ! ロサンゼルスでモッキーという存在を見失わないで。」と言ってくれたことが作品を大きく前進させるきっかけになった。今にして思えば、あれはアルバムをリリースする完璧なタイミングだったんだなって思うよ。
— モダンな感覚そのままに、生楽器の演奏やその響きを追求するようになったあなたから見て、インスタントに音楽を作れるようになった時代の音楽表現について、どんな考えをお持ちですか?
Mocky:機械が人間の感情を支配し、携帯電話やPCで本来の姿からかけ離れたレベルまで音楽を加工できるようになったことで、僕たちはテクノロジーによって、自分らしさを失ってきているような気がするんだ。だからこそ、音楽の背後にある作り手の意図を失わないように、全ての音を自分の素手で作り出そうと思った。僕は時代の流れに逆らっていたいし、PCにミスを正されるようになるのはごめんだからね。
— そして、日本では『KEY CHANGE』から1年足らずで、13曲入りの新作『MOCKY PRESENTS THE MOXTAPE VOL.III』がリリースされたばかりですが、これまで2作を発表している『The Moxtape』シリーズは、通常のアルバムとどう区別している作品なんでしょうか?
Mocky:アルバム製作の間、いつもたくさんのアイデアが浮かんでくるんだけど、『Moxtape』シリーズは、そのなかでもアルバムに入れるには方向性が多岐にわたりすぎているけれど、みんなに聞いて欲しいという曲を集めたものだね。既存の作品フォーマットに収まりきらなかったから、自分自身でフォーマットを作る必要があったというか、だからこそ、ミックステープではなく、『The Moxtape』と名付けたんだ。
— 全13曲の収録曲はいつレコーディングされたものなんでしょうか?
Mocky:昨年一年を通してレコーディングしたものだね。例えば、ジェイミー・リデルをフィーチャーした1曲目の”Keep Feelin This”は、ベースをチューニングしているときに偶然生まれたものなんだけど、ダンスフロアで踊っているときのような、このままこの時が終わって欲しくないと思うような、そんな楽しい瞬間を凝縮した曲だし、11曲目の”Exception To The Rule”では、他にはない自分の個性を認めること。そして、自分の好きなことを突き詰める時には、既存のスタイルを追いかけたりせず、もっと自由に自分らしくあるべきだというメッセージを歌ってる。それから、昨年の日本のツアーで『The Moxtape Vol.2』に収録されている”Sweet Things”を演奏した時に「keep giving me amaimono」と歌ったのが楽しかったから、”Sweet Thing”のジャパン・ヴァージョンとして、ツアー・メンバーのニア・アンドリュース、ジョーイ・ドーシックをフィーチャーして”Amaimono”を録音したんだ。ちなみに、この曲のショートフィルムは、ニアがツアー中に撮ったものだよ。ニアはロサンゼルスで一緒に仕事をしているシンガーで、僕の音楽ファミリーの一人なんだ。今はこれからリリースされることになる彼女のEPの仕上げに取り掛かっているところ。そして、ジョーイもまた、才能あふれるキーボーディストであり、シンガーで、今年の終わりにリリースされる彼のデビューアルバムを先日一緒にレコーディングしたよ。ちなみに僕とニア、ジョーイに、才能のあるミュージシャンたちを加えたバンド、Mocky and FriendsはロサンゼルスのAce Hotelのルーフトップでマンスリーライブをやっているんだ。5月から始まる2度目のジャパンツアーでは、ニアとジョーイと一緒に日本のみんなと会うのを楽しみにしているよ!
【MOCKY JAPAN TOUR 2016】
■ツアー・メンバー
MOCKY(コントラバス、ドラム、ヴォーカル)
NIA ANDREWS(キーボード、ヴォーカル)
JOEY DOSIK(フェンダーローズ、ヴォーカル)
波多野敦子(5弦ヴィオラ、ヴァイオリン)
菅沼雄太(コンガ、ドラム)
得能直也(LIVE PA)
■日程
5月26日(木)熊本公演
会場:早川倉庫
開場 19:00 開演 20:00
料金:4,500円(前売予約)
主催:WINDBELL
旅する音楽 presents
5月27日(金)福岡公演
会場:ROOMS
開場 19:00 開演 20:00
料金:4,800円(前売)、5,300円(当日) 1ドリンク別途
チケットぴあ 0570-02-9999(Pコード:293-473)
ローソンチケット 0570-084-008(Lコード:82397)
主催:CREEKS
http://tabisuru-ongaku.com/
https://www.facebook.com/Tabisuru.Ongaku
NORENMUZIC presents vol.45
5月28日(土)広島公演
会場:横川シネマ
開場 18:00 開演 19:00
料金:5,000円(前売)、5,500円(当日)
主催:NORENMUZIC
http://facebook.com/norenmuzic
5月29日(日)岡山公演
会場:Johnbull Private labo Okayama
開場 15:00 開演 16:00
料金:4,500円(前売)、5,000円(当日)1ドリンク別途
主催:Deco’s Kitchen / サウダーヂな夜 / Johnbull Private labo
http://www.saudade-ent.com/
5月30日(月)名古屋公演
会場:Live & Lounge Vio
開場 19:00 開演 20:00
料金:4,500円(前売)、5,500円(当日)
主催:Pigeon Records
5月31日(火)大阪公演
会場:シャングリラ
開場 19:00 開演 20:00
料金:4,500円(前売)、5,000円(当日)1ドリンク別途
主催:Newtone Records / Cow and Mouse
http://newtone-records.com/
http://cowandmouse.com/
6月1日(水)東京公演
会場:Liquid Room
出演:cero、MOCKY
開場 18:30 開演 19:30
料金:4,500円(前売)1ドリンク別途
前売券:チケットぴあ(Pコード 294-693)
ローソンチケット(Lコード 75528)
イープラス、ディスクユニオン(池袋店/お茶の水駅前店/新宿日本のロックインディーズ館/新宿クラブミュージックショップ/下北沢店/下北沢クラブミュージックショップ/渋谷中古センター(2F/3F)/渋谷クラブミュージックショップ/吉祥寺店)、Jazzy Sport Music Shop Tokyo、JET SET TOKYO、Lighthouse Records、LOS APSON?、虎子食堂、リキッドルーム
※イープラス・プレオーダーあり
http://eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002186627P0030001
受付期間:3月25日(金曜日)正午~4月5日(火曜日)18:00
主催:Liquid Room
6月3日(金)東京公演 単独公演 TOUR FINALE
会場: 渋谷 WWW
開場 18:30 開演 19:30
料金:5,000円(前売り)、5,500円(当日)1ドリンク別途
主催:WINDBELL / WWW
ローソンチケット(Lコード:75665) ※電話予約なし
e+ http://sort.eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002186867P0030001
企画・制作:WINDBELL
招聘協力:OURWORKS合同会社
協力:カクバリズム