『伊藤壮一郎のM.I.U.(まいうー)!』 第3回:Noritake(イラストレーター)

by Mastered編集部

昨年9月、soe TOKYOから名称を変更し、新たにリニューアルオープンしたM.I.U.。[soe(ソーイ)]のデザイナーでもある伊藤壮一郎が偏愛する「ひと・もの・こと」だけを扱う、実験的なショップは早くも中目黒の新名所として日々ファンを増やし続けている。

全10回で構成される本連載では、その仕掛け人である伊藤壮一郎本人がホスト役を務め、M.I.U.を取り巻く様々な"ひと"にフィーチャー。ゲストのイチ押しするM.I.U.(まいうー)なグルメと共にざっくばらんなトークを展開する。

第3回目となる今回ゲストとして登場してくれるのは、広告、ファッション、書籍、プロダクト制作などを中心に国内外で活動するイラストレーター、Noritake。4月5日(日)までAT THE CORNER by ARTS&SCIENCEにて開催中の自身の展覧会『PAN』の話を中心にたっぷりと話を聞いた。

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Text&Edit:Keita Miki

地方で朝市に行ったりすると、野菜を育てて調理して売るってことが普通なんだなって気付く。そういう感覚からあまり遠く無い場所にいたいなと思っています。(Noritake)

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— お二人はいつからの付き合いなんですか?

Noritake:南さん(南貴之)に紹介してもらってからですよね。

伊藤:2、3年ぐらいの付き合いになりますかね。M.I.U.をスタートした時にTシャツを作ってもらったんですけど、その後、第2弾をやろうやろうと思っていながらも出来ていない。でも、その頃から言ってた気がする、「パンが良い」って。だから、自分としては「最近、随分パンが流行ってるんだな~」なんて思ってた。

Noritake:今回のAT THE CORNERでの展覧会の前から、アイデアのストックとして「パン」というキーワードはありましたね。あの頃話していた「パンが良い」って事と今回、展覧会でやった事は違いますけどね。

— そもそもNoritakeさんが絵を描き始めたのはいつ頃からなんですか?

Noritake:幼稚園ぐらいかな、もっと前かな、多分絵を描くのが好きな人、みんなそうじゃないですか。漫画が好きだったり、お母さんに見せてうれしかったりとか。ただ、小学生って、「絵がうまい」よりも「足が速い」が、カッコいいって思う世界ですよね。僕は周りの子よりも足が速かったから、その時はそれで認められたい気持ちは満たされていて、絵を描くのが減っていきました。「面白い」っていうのも評価が高いことって思ってて、それで調子にのって漫才やコントもやってました。授業中も、どこで笑いをとるかって考えてたし、近くの席の子にこっそり面白いこと言ったりとかも真剣(笑)。

伊藤:それって何歳ぐらいの時?

Noritake:小4、小5、それくらい。

伊藤:その時の人を笑わせたいって気持ちが、今の作風のルーツになっている感じしますね。

Noritake:自分のやることで家族以外の人が楽しそうっていう喜びは、その時に知ったのかもしれない。で、中学に入って成長が止まると足の速さも普通になってきて満たされてた気持ちが無くなって。そこから影みたいな時期が続いて、高校2年くらいから絵を描くようになったかな。

伊藤:絵を描いていて、将来的に美大に入ろうとかって考えはあったの?

Noritake:いや、美大に入りたいってよりは、やる事が他に無くて。高校生になってからバンドをやるようになったんだけど、別に上手い訳じゃないし、勉強も出来ないし。それで仕方なく美大に行かないと進まないみたいなムードを勝手に作って、受験したんだけど不合格。結局1浪してもダメで、もう受験したくないからバイト生活。でもバイトだけっていうのも嫌だったから、またバンドを始めたんだけど、そんな生活を続けるうちに段々と危機感が膨らんできて、なんとなく「東京に行かなきゃいけないのかな」って。行き場が無かったんです。

伊藤:僕は東京の人間なんだけど、「東京に行けば今とは違う何かがあるかもしれない」っていう感覚だったのかな?

Noritake:地方の若い人から見た東京って「得体の知れないすごい場所」ってあるだろうけど、僕はそこまでの熱量は無くてというか、無くなってて、「まぁ東京しかないかな~」って感覚でしたね。地元でバンドしながらバンドメンバーの友達の家で絵を描いて、それをその友達に見せてっていうのが、すごく楽しかった。単純にその友達が褒めてくれてたんですね。それで絵で誰かに喜んでもらいたいっていう実感が沸いて、美大とか何とも思わなくなってた。それから東京で絵を描ける方法を探し始めて、受験無しで入れるセツ・モードセミナーっていう学校を見つけて出てきました。東京に何かがあるって感じじゃなくて、そこしか受け入れてもらえないなぁって。

伊藤:最初に住んだのはどこだったんですか?

Noritake:板橋。学校行きながら働ける新聞配達の奨学生の派遣先が板橋だったってだけ。ちょうど20歳の時、自分の誕生日に上京。くるりの”東京”を聴きながら(笑)。

伊藤:すごく良い話じゃないですか。

Noritake:絵に描いたような(笑)。でも、この辺りの話をすると「大変だったんですね」って言われるけど、体力は今よりあったから新聞配るのは眠かったけど、大変って感じでもなかったんですけどね。部屋も食事も用意されてて、意外と居心地よかった、くらい。

伊藤:今みたいに絵を描くことで飯を食べていくっていうイメージは当時自分の中にあったの?

Noritake:間違ったイメージだけど、ありました。突如、自分の絵が何百枚も売れるイメージ(笑)、いきなり売れっ子作家みたいな。でも、実際は全然売れないし、新聞配達で貯めたお金で2年くらい生活して、売れる可能性を探してましたね。もっと地道なものだというのは、ここ数年でやっと理解しています。

— 学生の時からNoritakeさんの絵は今のようなタッチだったのでしょうか?

Noritake:違いますね。地元にいた時はヒリヒリしたもの、セツの時は絵の具で試行錯誤していたし、そのあとも絵の具を中心に色々やっていました。それぞれ良い部分もあったと思うし、少しずつ絵の具を使った絵とかで仕事はいただけるようになっていきました。

伊藤:商業的にNoritakeさんの絵が受け入れられるようになった明確なきっかけって何かあったのか興味ありますよね。

Noritake:2011年に『IT IS IT』っていう展覧会をやって。物をそのままモノクロで描いた絵で構成して。その時に周囲の反応が変わったような気はします。良いって思って描いたものを、見た人が楽しんでるなっていう実感が会場でもてました。

伊藤:作家性と商業的に描くもののバランスっていうのはどういう風に考えてる?

Noritake:それはあまり意識していないかな。イラストレーターだし、関わってるのは商業的な場だと思っているから、大きな違いは無いし、同じことっていうか。頼まれたことに対して、自分が出来ることを考えて、必要なことを進めてるだけ。それよりは、地方や海外に行くと自分が東京でやっている仕事がどういうバランスなのかっていうのは考えるかも。例えば、地方で朝市に行ったりすると、野菜育てて調理して売るってことが普通なんだなって気付く。そういう感覚からあまり遠く無い場所にいたいなと思っています。一方で、海外の美術館やギャラリーに行くと、とんでもない値段や規模のアート作品があったり。

— AT THE CORNERで開催されている展示会のきっかけは?

Noritake:AT THE CORNERで展示してみたいと思ったので、いくつかアイデアを持ってプレゼンに伺って。そこから「パン」でやりましょうって、まとまって。それから、ARTS&SCIENCEさんと話し合いながら詰めて、今回の形が出来上がりました。

— Noritakeさんの方からアプローチをしたんですね。

Noritake:ARTS&SCIENCEで作っている商品やお店やギャラリースペースに魅力を感じてましたし、以前からいくつか一緒にものづくりをご一緒してて。だから、何か出来たら面白いと思って、相談しただけなので、始まりは軽い相談っていう感じでした。展示の内容はそれから、ですから。

— 今回のように外部の人たちと仕事をする時と、自分の好きな絵を描く時、どちらの方が楽しいですか?

Noritake:自分が好きな絵を描くってことがあるのかな。絵は描くけど、それもほとんど誰かと仕事としてやってるから、外部の人とやる仕事が楽しいのかな。

伊藤:でもパンは好きな絵を描く事に近いんじゃない?

Noritake:ちょっと違うかな。アイデアは、いくつもストックしてて、それは好きな素材みたいな感じであるけど、それを一人で好きに進める事って今は無くて、進め始めると内容は変わっていくし、そうすると頼まれた事のようにもなっていくから、一人で楽しく終わりましたっていうのは、できてないから実感が無いのかも。

伊藤:今、純粋に描きたい題材は?

Noritake:興味あるのは結局、人かな。人を描いてると、いくつも発見があるので。

伊藤:M.I.U.のコンセプトの1つに「人を掘り下げる」っていうのがあって。自分のブランドでは表現出来ない部分というか、例えば自分が好きでいつも着ている何でも無いシャツとかが案外それ良いねとか言われちゃう事ってあるじゃないですか。そういった様な、よりパーソナルなものを発信していけたら良いのかなと。そういう意味では、次に何か一緒にやる企画があればNoritakeさんの濃い部分を見せれたらと思いますね。

Noritake:自分が良いなと思うこと、「PAN」だと慣れてない立体作品を作るとかパン屋さんのパンを売ってみるとか。イラストレーションの仕事とあわせて、一緒に考えていたい部分ですね、考えてるだけで楽しいから実現しなくても良いこと多いけど。M.I.U.でそういう部分が出せるタイミングあれば、ぜひ。

— では最後に今週のM.I.U.な1品の紹介をお願いします。

Noritake:渋谷ののんべい横丁にある『黍-kibi-』さんの『筍と鶏もも肉の木の芽蒸し』。このお店は紹介制なんですが、色々な人が入れ代わり立ち代わりやって来て面白い。来るようになったのはここ1年ぐらいですかね。

伊藤:ここに来ると偶然色々な人に会うんだよね。Noritakeさんとも約束して飲むより、ふらっと飲みに来たらたまたま会うって感じの方が多い気がする。

Noritakeさんが薦めるM.I.U.な1品 – 渋谷 黍-kibi-の筍と鶏もも肉の木の芽蒸し

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【黍-kibi-】
住所:非公表
TEL:03-3797-6303
※紹介制。一見さんお断り。
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