昨年9月、soe TOKYOから名称を変更し、新たにリニューアルオープンしたM.I.U.。[soe(ソーイ)]のデザイナーである伊藤壮一郎が、互いに共感できる人を巻き込みながら流動的に店作りを行い、偏愛する「ひと・もの・こと」だけを扱う、実験的なショップは早くも中目黒の新名所として日々ファンを増やし続けている。
本日よりMasteredで月1回、10ヶ月限定、全10回で連載される本企画では、その仕掛け人である伊藤壮一郎本人がホスト役を務め、M.I.U.を取り巻く様々な”ひと”にフィーチャー。ゲストのイチ押しするM.I.U.(まいうー)なグルメと共にざっくばらんなトークを展開する。
栄えある第1回目にゲストとして登場してもらうのは[FACETASM(ファセッタズム)]のデザイナーであり、M.I.U.のみで取り扱われるエクスクルーシブレーベル『F』も手掛ける、落合宏理。
でも、洋服が好きってそういうことだと思うんです。(落合宏理)
— 記念すべき第1回目ですね。基本的には毎回、ゲストの方にお気に入りのお店と1品料理を紹介してもらい、その料理を酒の肴としながら愉快なトークを展開してもらう………というような企画なので、まずは落合さんに今回のお店、新宿の粧(からみどころ)さんの紹介をお願い出来ればと。
落合:僕も人に紹介してもらったんですが、土地柄を考えると、この場所にこういうお店があるというのは文化的にも非常に面白いし、料理もお酒もとにかく美味しい。独特の雰囲気もあって、去年あたりから足繁く通っているお店ですね。飲みといったら最近は専らここ。
— 伊藤さんは粧(からみどころ)さんに来るのは初めてですか?
伊藤:僕、新宿自体あまり来ないんですよね………。
落合:僕は逆に基本的に新宿でしか飲まないですね。伊藤さんと飲むときだけ中目黒に行く(笑)。僕も伊藤さんも東京育ちで、1人っ子のデザイナー。知り合うまでは気付かなかったんですが、意外なほど共通点が多いんですよ。
伊藤:2人でたまに行く店があるんだけど、そこは僕と落合くんの共通の友達がやっているお店で。落合君の地元の友達と僕が、偶然友達だったりしたこともあります。
落合:そうそう。高校が高田馬場だったんですけど、1つ学年が上の先輩と伊藤さんが仲良しだったり。
伊藤:東京出身の人ならではのそういう繋がりは面白いよね。
— そもそもお2人が友人関係になったのはいつからなんですか?
落合:『VERSUS TOKYO』ですよね?
伊藤:そうだね。その少し前に会ったことはあるけど、ちゃんと話をしたのは『VERSUS TOKYO』の時が初めてかな。
落合:そうですね。サングラスをかけた伊藤さんがTHE CONTEMPORARY FIXの前で声をかけてきてくれたんです。すごく嬉しかったし、印象的でした。それから『VERSUS TOKYO』で一緒になって、そこからはずっと仲良くさせて頂いています。実は伊藤さんにはすごく恩があるんです。VERSUS TOKYOで初めてショーをやる時、僕はどうしても演出家の籠谷さんに演出を担当して欲しくて。というのも、僕がショーをやりたいと改めて思ったのって、[green(グリーン)]のラストショーを見て本当に感動したからで。その時の演出家が籠谷さん。その頃はまだ伊藤さんとは面識が無かったんですが、僕らのオファーを受けるかどうか悩んでいた籠谷さんに、伊藤さんが[FACETASM]のことを推してくれていたことを後から知って………。結果的に、籠谷さんが演出を担当してくれることになって、僕のファッション人生は大きく変わりましたね。
伊藤:いやいや。彼とは仲良くさせてもらっていて、たまたま相談を受けたんだよね(笑)。でも彼は[FACETASM]のことをすごく考えているし、この間、会った時も「[FACETASM]は本当に面白い」って言ってたよ。
— 今ショーの話が出ましたが、お2人とも自身のブランドでショーを経験されていますよね。ショーについてはどのように考えていますか?
伊藤:ちょっと真面目な話になってしまうんですけど、ショーってやっぱり宿命的なものになっちゃう気がする。特に東コレってちょっと特殊で、落合君もそうですし、荒士君(JOHN LAWRENCE SULLIVAN)なんかにも感じる事なんですけど、立ち位置が重要というか。どういうことかと言うと、僕はショーの経験はありますが、続けられなかったりフラフラしてるからいわゆるトップページを取ったこと無いんですけど、コレクション誌とかああいう雑誌は建前上、掲載順に意図は無い事になっているけれど、絶対にそこには明確な順位があるわけで。そういう意味でトップページを取り続ける落合君とか荒士君の立ち位置っていうのはある種、宿命付けられたものだし、大きなプレッシャーを感じると思うんですよ。もっと言えば、僕とはショーに対する見方や角度も違うと思うんです。実際どう? ショーを続ける事は結構しんどい?
落合:やりたかったことなので、しんどいって感じはまだそこまで無いですけどね。
伊藤:やりたかったことを実際始めてみてどう? あれ、何回ショーやったの?
落合:6回です。色々なところで話してることなんですけど、あんなにも褒められたり、否定されたりする場所って他に無いじゃないですか。今は僕らのブランドはショーがあってこそだと思っていて、自分がやりたかったこと、志の持ち方が、時代にマッチしたのかなと思う部分はあります。「やりたい」と手を挙げる人が増えてきていることは良い事だと思うし、それこそが僕らがずっとやってきた、「ファッションを面白くしたい」ってこととイコールでもあるし。東京のファッションが変わるきっかけに少しでもなれたら嬉しいですね。
伊藤:トップページは意識するものなの?
落合:ショーという王道で勝負する以上、そこは狙っているし、そこを取らないといけないっていう意識はあります。
伊藤:トップである事を意識する事ってある? 今の東京コレクションで言うとFACETASMのライバルってどういうブランドなんだろうね。
落合:ブランドとして王道のバトンみたいなものを自分たちが受取れれば良いなってことは常々思っています。東京は、ショーよりも格好良いルックブックを作っているブランドがすごく多い。そういう意味ではライバルはたくさんいるんですよね。ただ、この間の『VERSUS TOKYO』の丸龍君(GANRYU)の参加は、正直すごく嬉しかったです。色々な意味で。
— そもそも、お2人が考える良いショーの基準ってどんな部分になるんですか?
伊藤:僕らは多分ショーの見方が普通の人と全然違うかもしれませんが、無意識で、常にアラを探している気がします。だから無条件に感動できるショーは、本当にすごい。最初からどこかアラを探す準備をしてるから、見方が歪んで来るんですよ(笑)。これはあるスタイリストの方に聞いた話なんだけど、ショーのスタイリングっていうのは、とにかくアラを消す作業らしいんです。「これをやったら、多分ああいう風に言われるから止めておこう」とか、そういう作業の積み重ね。要は俯瞰で面倒を見る仕事で他の人もそうだし、自分もそうやってきたって。それを聞いた時、この人は本当に優秀なスタイリストだなと思ったし、自分もショーのスタイリングをお願いするならこういう人に頼みたいなって思ったのを覚えています。僕はショーの直前になるといつも浮き足立っていたから、そういう全体を冷静にディレクション出来る人の存在ってすごく大きい。
落合:僕らのショーのスタイリングを担当してくれている山田陵太さんは、「感動」することに重きを置いている人で、そこに向かって突き進む力はすごく大きい。頼もしい存在ですよね。
伊藤:FACETASMのショーを悪く言う人っていない気がする。単純に、そういうことなんじゃないのかな。
落合:そう言って頂けると本当に嬉しいですけど、「今、何かが始まってるな」ってことを来てくれた人たちに感じてもらわないといけないなとは思っています。
伊藤:FACETASMの良さは、一見して理解出来ない部分にあると僕は思っているんだけど、その感じって実際何なんだろう?(笑)
落合:一言で言えばノイズです。ノイズになりたいなと思っていて。
伊藤:その感じが、面白いしとても新鮮。何をやるのか分からないし、掴みどころが無い感じ。自分の店(M.I.U.)で落合君に携わってもらうことの一番のメリットは、何を出してくるか分からないところ。「これはこういうものなんだ」ってカテゴリー分けをしないのは、本当に面白いよね。
落合:ありがとうございます。今回OPENING CEREMONYのイベントにM.I.U.の一員として参加できるのは、僕の中ではすごく東京っぽいことだと思っています。伊藤さんとの関係は結構短期間で濃くなったもので、それがOPENING CEREMONYですぐに形になるっていうのは東京ならではのスピード感かなと。だからこそ今まで見たこと無いような感じになっていると思うんですよね。
伊藤:そう、こういう風にお酒を飲みながら話していて生まれる事って意外なほど多いから。無意味に飲んでいるようで、実はすごく大事なんだよね。話は変わるけど、FACETASMはもっと年齢層の高い人が着たり、着る側のカルチャー感みたいなものが求められたりするのかなとかも思ったりするんだよ。実際ランウェイにも出てるモデルの柳君とかが着てると、すごく決まって見えるし。今日の落合君の格好みたいに、オールスターにFACETASMのデニムを合わせるとか、一見普通なんだけど、実は普通じゃない感覚。そういう落合君のパーソナルな部分を自分の店でやりたいなっていうのが出発点だったんだよね。FACETASMみたいなデフォルメされたものをベーシックに見せるってことがやりたかった。そういう見せ方をするお店が増えれば、もっと違った見え方もするのかなって。
落合:そういう意味では今回のOPENING CEREMONYのイベントも面白い認知がされるような気がしますよね。
伊藤:落合君は、垣根が無いよね。すごく新しい世代。大御所と呼ばれる人たちとも、僕らよりもっと若い世代とも交流がある。僕はどこか垣根の中にいる気がするから、それはとても良いことだと思う。だから僕も南(貴之)も落合君に興味があるし、次はどんなことが出来るか考えたくなる。自分で自分の場所を決めて無いからなんじゃないかな。
落合:でも、洋服が好きってそういうことだと思うんです。そういう感覚を何年も続けていけたらなとは常に考えているんですけどね。
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