映画『へルタースケルター』公開直前! 監督 蜷川実花 単独インタビュー

by Mastered編集部

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— 渦中なんですね、まだ。

蜷川:完全に渦中ですよ。だからなんか、これ、ほんとにエリカが役に入りきっちゃって抜け出せないっていうその言葉はほんとに説得力があるんです。そりゃああの子がこの役に魂かけてやったらそうなるよなって。私ですらギリギリですから(笑)。だからまだ取材を受けるんで作品について語るんですけど、自分でも全貌が見えてなくて。けっこうなんか、5年後とか10年後にならないとわからないんじゃないかなっていう。「なんかやっちゃったような気がする」っていうような感じですね。

— なるほどね。

蜷川:わりと普段はバシバシ答えられるんですけどね。これに関しては、「そうなんですよねえ…」みたいな感じで。

— まあでも渦中なんだろうし、公開になってそれぞれいろんな、映画に登場する女子校生から業界の人々を含めていろんな人たちが向き合ったときに、いろんなリアクションが出てくるでしょうけど、それも含めてこの映画ならではなんでしょうね。

蜷川:まあ賛否両論激しいんじゃないかしらって思ってるんですけど。でも今、思ったより”賛”が多くてびっくりしてるの。うれしいの(笑)。

— でもそこがやっぱり蜷川さんの資質じゃないですか? ちゃんと賛をとってくれるっていう(笑)。

蜷川:ちゃんと書いとくぞ、ここは!っていうね(笑)。

EYESCREAMのりりこ表紙ヴァージョン2。

— いろんな資質の人がいるじゃないですか。でもそこは蜷川さんのビューティーだとかポップに振れていく意識があると思うんですよ。

蜷川:そうですね。染み付いてるんですよね。やっぱりでも、最後にりりこがたどり着いたところは、私はハッピーエンドだと思っていて。希子(こずえ)と最後対峙するじゃないですか。そのときに、こずえにはちょっと負けた表情をして欲しくて。しがみついてもなにがなんでもやってきた人が辿り着ける地点っていうのがあるんだっていう理想をこめて、りりこが初めてこずえのほうをまっすぐ見れるような在り方。目を逸らさずに、彼女の方からこずえを見れるようなラストにしたかったんです。これはなんか普通の映画の中での答えではあるんですけど、それはもうそうありたいぞっていう、自分に対するエールでもあり、そういう世の中がいいなあって思ったりもしていて。

— 監督なんでキャラクターそれぞれに思い入れはあると思うのですが、やはりりりこへの思い入れは強いんでしょうね。

蜷川:そうですね、撮ってるときにも思ったんですけど、編集してるときに、こんなに主人公ってえこひいきするんだっていう。とにかくりりこの感情がつながるように、りりこがかわいく見えるように、りりこが…っていう軸で考えるので、こんなにりりこのことをひいきするもんなんだなって思って日々やってました。

— やっぱり、それは蜷川さんがこの作品を映画化したいって思ったポイントですよ。

蜷川:そうですね。すごい私は原作を読んだときからりりこにシンクロしてたし、わかるわーって(笑)。

— それはやっぱり女性として第一線でずっとやって来られたキャリアの部分も重なるでしょうし、女性にしかわからない美に対する執着の部分も大きいでしょうし。

蜷川:でもそれが最初、「男の人に選ばれるためにきれいになるのか?」って、多少自分の中でもバイアスがかかっていた部分があって。で、「彼女を消費していったのは、男性社会なのか?」って思っていた、なんとなくの薄らぼんやりした前提が、ある日「あ、絶対違う!」って直感した。「女は女に消費されてるんだ」って思ったんです。自分がきれいになりたいって思うときって、男の子にモテたいからって理由もなくはないんですけど、まあそこそこでいいわけじゃないですか。美しいからイコール幸せってわけでは決してない。なのに、それでも執着していくのって、結構同姓に対することもあるよなって思ったり。でもそれだけじゃなくて、やっぱり映画の中に何度も出てくる、「きれいになると強くなれるんだ」っていう言葉どおり、自分を武装できる装置でもある。美しくいれば自分に自信が持てるっていう女の性。そこにはもう美しくなった後の目的がないわけですよね。例えば女の子に、「なになにちゃんってかっこいいよね」って言われたいからとか、男の人に「かわいいから彼女にしたい」って選んでもらえるっていうのももちろんあるけど、必ずしもそれが最終目的じゃなくて。なぜ私たちはこんなに「若くなきゃいけない」「美しくなきゃいけない」って思う生物なんだろうなって思っていて。それはいまだに、「これだからだ!」っていう答えは見出せてないんですけど、必ずしも男の子のためだけではないし、女の子のためだけでもなく、自分のために自分はきれいになりたいんだなあって思ったりして。女って不思議な生き物ですよね(笑)。

【映画『へルタースケルター』】
2012年7月14日(土)より全国ロードショー
「へルタースケルター」写真展7月5日(木)より開催(パルコミュージアム)
写真集「HELTER-SKELTER MIKA NINAGAWA」も同時発売予定。