Photo:Shuhei Nomachi | Text&Edit:Keita Miki
— 古家さんの存在をこの特集で初めて知る読者も多いと思うので、まずは簡単に自己紹介をお願いできますか。
古家:古家幸樹と申します。元々は映画プロデューサーを目指していまして、東京の映画会社に在籍していたのですが見事に挫折しまして(笑)、master-pieceにお世話になっています。
— master-pieceというブランドの中で、古家さんはどんな役割を担っているのでしょうか?
古家:2017年にデザインディレクターの水野とnunc(ヌンク)という新たなバッグブランドを立ち上げました。その後、master-pieceでは西日本のセールスマネージャーを担当しながら、MIZUNO(ミズノ)とのコラボレーションプロジェクトを始動したり、色々な経験をさせてもらい、2020年の1月からmaster-pieceのブランドディレクターに就任することとなりました。現在のmaster-pieceでの役割については、ブランドに関わる様々な事柄の発起人と考えて頂けると分かりやすいかと思います。
— 映画プロデューサーを目指していたとのことですが、バッグには以前から興味があったんでしょうか?
古家:撫で肩なこともあって、昔からバックパックばかり使っていましたね(笑)。映画の世界でも両手が自由になるバックパックはマストな存在で、機能面に対する興味もありましたし、自分にとっての必需品という感覚もあったと思います。
— 数あるバッグブランドの中から、master-pieceに入社した経緯を教えてください。
古家:そんなに大層なストーリーでは無いんですが(笑)、単純にmaster-pieceのモノ作りに興味があったんです。ブランドについて深く調べれば調べるほど、「ここでバッグを作ってみたい」と思うようになりましたね。
— けど、映画業界からの転進ということはバッグに関しては素人だった訳で、入社してすぐにバッグ作りに携われるってことは無いですよね。ブランドディレクターに就任するまでにどんな仕事を経験したのでしょうか。
古家:おっしゃる通り、バッグに関してはずぶの素人だったので、実際、最終面接で一度落とされまして。所謂”お祈りメール”に「無給で構わないので2ヶ月だけチャンスを下さい!」って食い下がって、何とか入社に漕ぎ着けた感じです。入社後は物流センターや自社工場のBASE OSAKA、直営店での研修を経て、営業部に配属されました。
— まぁ、そう簡単にディレクターにはなれないですよね。
古家:master-pieceの営業を担当する傍ら、社内のアパレルブランドの営業も自らお願いして手伝わせてもらっていまして、その頃の経験は今振り返っても非常に有意義だったなと思います。ブランドに対する考え方が自分の中に芽生えた時期でもあり、nuncの立ち上げの際には、それらの経験や考え方が非常に役立ちましたね。あとは、大きなターニングポイントで言うと、前述したMIZUNOとのコラボレーションプロジェクトになるかと。
— 2018年春夏シーズンのスタート時から、各所で大きな話題になりましたよね。
古家:実はこのプロジェクトは、自分の祖父や叔父がプロ野球選手だったことをきっかけにスタートしたものなんです。売上的にも、ブランド創設以来最高の数字を叩き出しまして、大きな自信に繋がりました。nuncやMIZUNOとのコラボレーション等の実績が評価され、2019年の暮れにブランドディレクターとしての打診を会社から受けた結果、現在に至るという感じです。
— ブランドディレクターって一般的な目線で言うとすごく曖昧な仕事というか、実際にやっている業務がユーザーから見えづらい職業だと思うんですが、古家さんは日々、どんな業務をこなしているのでしょう?
古家:僕自身、ディレクターという仕事を誰かに教えてもらった訳では無いのですが、この仕事ってやり出すと良い意味で終わりが見えない部分もあって。例えば、master-pieceではシーズンのラインナップの決定やコラボレーションの企画・進行、PRスケジュールの割り出しと訴求方法の考案、直営店の新システムの考案や構築、自社工場に導入する機材の選定など、ブランドに関するあらゆる事柄に関与しています。nuncは僕と水野が2人でやっているブランドなので、もう少しスマートというか、スモールブランドらしい動き方にはなるのですが。
— 古家さんが実際にディレクターに就任したのは2020年秋冬コレクションからですよね。就任後の大きな変化で言うと、まずはウェアライン・master-piece WEARのスタートが挙げられるかと思います。
古家:ブランド創設25周年を迎え、26年目のスタートを切るにあたって、次なるブランドの目標を掲げることが不可欠だと感じていました。結果として、”すべてのバッグユーザーに機能美を”という現在のmaster-pieceのブランドテーマが生まれたのですが、その一環として考案されたのがmaster-piece WEARなんです。なので、僕らの感覚としては、master-piece WEARはウェアよりも”新しいバッグギア”に近いのかもしれません。
— あくまでもバッグありきの洋服ということですよね。
古家:そうですね。衣服の上から使用する以上、バッグだけでは解決できない問題も存在しますので。例えばバックパックを背負った際に背中や脇に発生する蒸れ、衣服との摩擦により発生する毛玉、外出先での突然の雨など。master-piece WEARはこのような課題に対して、これまでバッグを作る上で培った経験値を活かして開発されており、そういったアイテムも織り混ぜる事で、全てのバッグユーザーに機能美を提供し、より良いバッグライフを過ごしてもらいたいと考えています。あとはディレクター就任後の大きな変化で言うと、30種類ほどあったmaster-pieceのブランドロゴを1種類に統一したんです。バッグ自体のデザイン性をより強く押し出す為に、ロゴの主張は出来るだけ控えめにしたいなという想いがありまして。あとは僕の前職の影響で、何かしらの映画を着想源にすることが多くなりましたかね(笑)。この記事を読んでいただいた読者の方は、そういう目線からも今後のブランドメッセージを楽しんで頂けると幸いです。
— ちなみに古家さんはどんな映画が好きなんでしょう?
古家:邦画で言えば、井筒和幸さんの作品が好きですね。洋画はバットマンシリーズやスターウォーズシリーズなど、意外と王道なものが好みです(笑)。
— 古家さんがレコメンドする、master-pieceとmaster-piece WEARのアイテムを教えてください。
古家:master-pieceのバッグで気に入っているのは『confi』というショルダーバッグ。ジャケパンにも合わせられる、カジュアルでちょっぴりラグジュアリーなバッグなんですが、中のポケットが祝儀袋がぴったり収まるサイズ感になっていたり、地味なこだわりが満載でして(笑)。ぜひ試して頂きたいです。
— ウェアのほうはどうでしょう?
古家:肌に密接する部分に吸水性のあるクールマックスメッシュを裏打ちした『PACKERS H/S PULLOVER』というTシャツが最高です。背中の肩甲骨の部分にベンチレーションを配しているので、蒸し暑い時期でもバックパックを難なく背負えるかと。ちょうど2021年秋冬シーズンの新作も発売されたところなので、そちらもぜひ見ていただけたら嬉しいです。
— 昨年からコロナ渦の影響で必然的に外出の機会が減ったので、バッグブランドはどこも苦労していると聞きましたが、master-pieceにも影響はありますか?
古家:人の移動とカバンの需要は比例関係にあるので、もちろん例外ではありません。ただ、業界全体が厳しい時期だからこそ、今後の財産となり得る収穫も多いのかなと個人的には思いますかね。
— 現状で話せる範囲で構いませんので、2021年秋冬シーズンのmaster-pieceの展開について教えてください。
古家:先日、ルックブックを発表したのですが、今季のmaster-pieceは過去最大級に様々な領域とクロスオーバーしたバッグライフを提案していく予定です。また、城崎温泉、SARAYAとのコラボレーションに象徴されるような、ファッション以外の領域におけるmaster-pieceの機能美の展開にご注目頂ければと思います。
— 最後に、主観で構いませんので、古家さんの考える”良いバッグ”の条件を教えてください。
古家:様々生活スタイルに合った使いやすさはもちろんなのですが、例えば鏡でバッグを背負ってる自分を見たくなったり、SNSに投稿する為にかっこよく撮ったり、どのポケットに何を入れようとか悩んだり、移動のパートナーとして、バッグに対する一種の高揚感をしっかりと感じれるものはデザインや値段等も関係なく自分にとって良いバッグだなと思います。自分も色んな人にそう感じてもらえるようなトータルバッグブランドを築いていきたいですね。
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