1974年に誕生し、昨年めでたくブランド創立40周年を迎えたアメリカ生まれのアウトドアブランド[Marmot(マーモット)]。昨今のアーバンアウトドアブームに合わせるかのように再び熱い注目を浴びている同ブランドだが、そんな彼らが、[Polo Ralph Lauren(ポロ ラルフ ローレン)]や[RRL(ダブルアールエル)]など、国内外の多数のプロジェクトにおいてその手腕を奮ったデザイナー、加藤博のシグネチャーブランド[KATO`(カトー)]と継続的にユニークなコラボレーションを行っていることは意外にも知られていない。
2015年春夏シーズンで通算3回目となるこの両者のコラボレーションは各々がこれまでに追求し続けてきたデザインと機能を高次元で融合させた、いわばコラボのお手本のような存在。本特集では[Marmot]のチーフデザイナーである佐藤史佳と加藤博の対談、そして[Marmot × KATO`]の最新アイテムの紹介を通し、その本質を紐解いていく。
Photo:Takeshi Wakabayashi、Satoru Koyama(ECOS)、Text&Edit:Keita Miki
コラボレーションの中心となった両名に聞く、コラボの哲学
0から全く違うことをやろうとしてもお互いの良さが消えてしまう。お互いにワガママを言い出すと、大して面白いものは出来ないんですよ(笑)。(加藤博)
— このプロジェクト自体は大体いつ頃から始動したのでしょうか?
佐藤:コラボレーションをスタートさせてから今回で通算3シーズン目になりますね。
加藤:約2年ぐらい前からのスタートになります。
— コラボレーションがスタートしたきっかけについて教えてください。
佐藤:最初は僕の方から加藤さんに声をかけさせてもらったんです。個人的に[KATO`]の洋服の大ファンでして、それが一番の理由にはなりますかね。
— 毎シーズン、どのような制作過程を辿って、プロダクトがリリースされるのでしょうか?
加藤:佐藤さんは僕の作る洋服を本当に良く見てくれていて、ほとんどのアイディアは佐藤さんが出してくれます(笑)。[KATO`]の服をとても上手にアレンジしてくれる。[Marmot]はアウトドアブランドなので、僕たちが普段使っているようなものとは違う質感の素材をたくさん持っていて、デザインもそれに合わせたものになっているので、自然と[KATO`]では作らないようなものに仕上がるんですよね。まぁ、あまり型にはハマらず、楽しくやらせてもらっている感じです。
— 今、加藤さんがお話されていたように、アウトドアブランドだからこそ実現出来ることというのはたくさんありそうですね。
加藤:本当にすごくたくさんありますよ。アウトドアやスポーツ、あとは靴であったりとか、そういうブランドとのコラボレーションはやっていて楽しい。何故かって、アウトドアウェアやスポーツウェアには制約があるじゃないですか。最低限必要な機能というのが色々とあって、それをどうやってデザインに落とし込むかっていうのは、普通の洋服をデザインする時のアプローチとは異なるので、面白いですね。
— 逆に[Marmot]としては、ファッションブランドとコラボレーションを行う上で普段とは違う事って何かありますか?
佐藤:普段と違うって印象は特に持っていないですね。特に加藤さんは元々3Dのデニムを企画されていて、人間の体の動きに即した物作りをしている方ですので、勝手に親近感を感じているような部分もあります(笑)。[KATO`]のアイテムは、アウトドアブランドである自分たちから見ても「良く考えられているな」って感じるようなモノですし、それでいて雰囲気をしっかりと出しているので、すごく勉強になりますね。
— 加藤さんは以前に趣味でアウトドアをされていたと伺ったのですが、具体的にはどんなことを?
加藤:僕らが若い頃はアウトドアっていうのが一番の遊びだったんですよね。波乗りも良くしたし、カヤックもやりましたよ。毎週どこかにいって川下りをして、キャンプして。そういう生活を何年も続けていました。
— [Marmot]の存在を初めて知ったのはその頃ですか?
加藤:そうですね、自然とアウトドアショップに行く機会も増えたので。
— では実際にコラボレーションを行っている今、加藤さんが考える[Marmot]というブランドの魅力はどんな部分にあるのでしょう?
加藤:尖り過ぎている訳じゃないし、だからといって野暮ったくもない。いかにもなアウトドアブランドのアイテムを着ると、コスプレをしているような感覚に陥ることがあるんですけど、[Marmot]のアイテムは普通の人が着ても格好良いんです。かといってオシャレ過ぎて服が浮いてしまうようなことも無いし、その丁度良い感じが一番の魅力なのかなと思いますね。
— 昔と比べると、アウトドアウェアは随分スタイリッシュになったし、街で着る人の数も増えましたよね。
加藤:僕らが若い頃もアウトドアウェアの流行ってあったと思うんですが、当時のアウトドアウェアは60/40のマウンパとか、もっと男臭い感じだったんですよね。今のアウトドアウェアはもっとスマートだし、普段のワードローブの中に入って来ても全く違和感が無い感じ。
— そういったアウトドアウェアの現状を踏まえた上で伺いますが、加藤さんが次に作ってみたいアウトドアウェアというのはどんなものになるのでしょう?
加藤:厳密に言うとアウトドアでは無いのかもしれないんだけど、僕は仕事でもプライベートでもとにかく旅をする機会が多い訳ですよ。だから、そういう時にパッと持っていけるもの、例えばパッカブル仕様で、鞄にも入れておけるようなシェルジャケットだとか、そういうものは作りたいと思っています。
— 今シーズンリリースされるコラボアイテムの制作の上で、特に苦労した点が何かあれば教えてください。
佐藤:やっぱり素材ですかね。雰囲気を出すってことだけを考えれば、天然繊維に勝るものは無いんですが、[Marmot]の名前を冠してリリースするからには、機能性があるものに仕上げなければならない。化学繊維が混じった素材で、天然繊維100%の素材に負けない雰囲気をどうやって出すか、というのが一番頭を悩ませたポイントです。
加藤:僕が言うのもなんなんですが、上手く出来ていると思いますよ。例えば綿100%でパンツを作った場合、糸からこだわっていけばデザインはミニマルでもそれなりの表情に仕上がるんですけど、機能素材の場合はそうはいかない。まぁ、だからこそ思い切ってデザインが出来るという部分もあって、ディティールにはこだわりが詰まっています。パンツのディティールは1970年代くらいに、アメリカの中古屋さんに並んでいた大量生産のパンツが持っていた良い意味でのチープな雰囲気にすごく近いですね。
— 先ほど加藤さんがお話していたような、ある種の制約というのが素材にも大きな影響を及ぼしている訳ですね。
佐藤:そうですね、例えば乾きやすさだとか、素材自体の強さ、軽さなど、化学繊維ならではの良さも、もちろんあるんですけど、「雰囲気のあるギア」っていうところを狙っていくと、どうしても難儀はします。けど苦労した甲斐あって、結果的に出来上がった素材はすごく良いものになっていると思いますよ。
加藤:ここ5年ぐらいの話だけど、日本の気候がだいぶ変わって来たじゃないですか。夏が長くなって、ジーンズなんか暑くて履けないって日も多いし、カットソーやスウェット類も速乾性のあるものとか、綿100%でもなるべく肌触りの良いものを自然と選ぶようになってきていると思うんです。そういうことが、洋服の世界でも今後は重要なキーワードになっていくんじゃないかなという予感みたいなものはありますよね。メンズブランドでも、今後はそういう機能性を考慮した上で、「格好良い」っていうのが大事になってくる訳で。
— 特にパンツに関しては、機能的かつ格好良いパンツってそんなに多くは無いですもんね。
加藤:アウトドアショップに行くと良く分かると思うんですけど、シャツやパンツってまだまだ野暮ったいデザインのものが多いんですよね。ファッションに興味が無い、普段スーツを着ているお父さんが、休みの日とか、子供の運動会の時に着てるようなシャツやパンツが未だに並んでいたりして。
— そういう意味では今回のコラボレーションアイテムはすごく良い選択肢になりますね。
加藤:若い人たちはもちろんですが、幅広い年齢層の方に着てもらいたいです。こういうちょっとデザインが入ったような遊び心のあるパンツを履いている人って格好良いと思うんですけどね。
— 加藤さんは[Marmot]以外にも過去、国内外で数多くのコラボレーションを手掛けてきていますよね。コラボレーションをする時のコツって何かあったりするのでしょうか?
加藤:一番大事なのはあまり熱くならないこと。「こうじゃなきゃ嫌だ」とか、自分のやりたいことをあれこれ言うのではなく、本当にミニマムなアレンジをすれば良いと思うんです。コラボレーションって、元々完成されているものをベースにすることが多いじゃないですか。だから、ちょっとしたアレンジを加えただけで、十分に新鮮なものになるし、0から全く違うことをやろうとしてもお互いの良さが消えてしまう。お互いにワガママを言い出すと、大して面白いものは出来ないんですよ(笑)。
佐藤:そういう意味では、このコラボレーションは[Marmot]のイメージと[KATO`]のイメージを頭の中でお互いに上手く融合させながら、進めて行くことが出来ているのかなと思いますね。
加藤:素材選びから一緒にやってるからね。そういう点では普通のコラボレーションとは、ちょっと違うのかもしれません。自分のブランドで使いたいと思っても、使えない素材って多いから、こういう機会を頂けたのは自分にとっても非常に嬉しい事です。