ロングトレイルハイキングを知っているだろうか?
長距離を歩きながら地域の自然や文化を楽しめる道を旅するというアクティビティが、いま盛り上がりを見せている。
その魅力を伝えようとする時、アウトドアブーム、高機能ギア、ロングトレイルの聖地オレゴン州ポートランドと、もっともらしいキーワードはいくらでも出てくる。
しかし、人が何かを始めようと思った時に、どれだけかっこつけても、最後に出てくるのは「やってみたいから」という単純な衝動なのだろう。理由なんてなんだっていいし、目的だってなくていい。その純粋な感覚に従い、知らない世界にまずは飛び込んでみる。そんな感覚でロングトレイルハイキングの世界を覗いてみよう。
EYESCREAM.JPが送るロングトレイル特集。今回は、数々のプロハイカーに同行し取材を行うなど、ロングトレイルの魅力をよく知るコロンビアスポーツウェアジャパン衛藤智の協力のもと、彼が旅したトレイルの絶景写真とともに、ロングトレイルを歩くために必要なことを紹介していく。
トレイルの魅力とは?
— 早速ですが、そもそもロングトレイルハイキングとはどういったものなのでしょう?
衛藤:今でこそロングトレイルっていうジャンルとして紹介されるようになりましたが、簡単に言うと、長い距離を歩きながら自然に身を置くことの素晴らしさを実感するというものです。私が感じる部分では旅の延長という言い方がしっくりくるなと思っています。アメリカってバックパック文化がすごく根付いているから、トレイルハイキングって意識よりも、身の回りのものをいろいろバックパックに詰めて、旅をしているって感覚の人が多い気がするんです。
— 登山とはどんな違いがあるんですか?
登山との違いはあるようでそんなにないのですが、強いて言えば何となく定義があって、1つが”衣食住”を全て背負うこと。そして2つめが”ピークハントを目的としない”ということですね。日本は山岳文化だから、大抵は山の頂上(ピーク)に向かってトレイルがついている。でもアメリカはそうじゃなくて、水平移動できるトレイル(道)がついているんです。日本人って勤勉だから、必ずピークを取らないと達成感を得られない気がするのですが、欧米の人たちってそこにあんまり興味がなくて、もっと自由なんですよ。そこが大きく登山とは違う。山岳要素の中に旅の要素が多く混ざったものと言えると思います。あとは長く歩く人にとっては街に下りることも登山とは違いますね。
— ロングトレイルを歩くハイカーのスタイルについて教えてください。
衛藤:昔の写真なんかを見てみると、なんだっていいって言ったら変な話ですけど、険しい道だろうがジーンズにネルシャツで歩いている人もいたみたいです(笑)それも今ではかっこよく映りますが・・・。「もっと快適にロングトレイルを楽しみましょう!」という提案をするのが立場上僕らの仕事です。とはいえ、スタイルなんか二の次で、もっと単純に「トレイルって楽しいぞ!」と声を大にして言いたいですね!特に若い方々に知って歩いてもらいたい。というのが本音です。トレイルハイキングっていうジャンルも今や定着してきてるし、ギアの機能も進化して、荷物もどんどん軽く、快適になってきています。でも、そんなことは歩きたいというマインドになってから考えればよくて、まずはトレイルに興味を持ってもらうことが大事かなと思っています。もともとは便利なギアなんか存在しない時代から行われていたものでしたから、正直どんな形でも楽しめる。だからスタイルはそんなに気にしなくてもいいと思っています。そんなこと言ったら商売なりませんね!(笑)
— いままでどんなところを歩きましたか?
衛藤:基本的にアメリカが多いです。あとはニュージーランド。実はニュージーランドはすごくトレイルが整備されているんですよ。アメリカはすごい雑多な感じでそれも良いところなんですが、ニュージーランドはトレイルを観光誘致として成り立たせているんです。人数制限が決まっているから(アメリカも決まってますね)日本みたいに山を登って大名行列になることもないし、管理も行き届いてる。だから、すごく歩きやすいと思います。
— 衛藤さんの考えるトレイルの魅力とはなんでしょう?
衛藤:順番は難しいんですけど、一つは圧倒的な景色に出会えること。深く入れば入るほど良い景色に出会えるのはやっぱり魅力ですね。そして、そのトレイルを歩かないと寄ることのない街に立つこと。ハイカーは4~7日ごとに食料や水の補給や道具のメンテなどトレイル沿いの街に下ります。そこは大抵観光地でもなければ聞いたこともない街が多いです。そこで過ごす1日は濃密で人の温かさに触れることになります。あとはギアの選択。旅の準備をしてる時がすごく楽しいっていうか。男ってそういうとこがあると思っていて、例えば次のハイキングは何泊想定で、水が調達できないから浄水ボトルが必要でとか、いろいろ旅の前にシュミレーションしてチョイスしたものを実際に現場で試す。その行為自体が意外と男は楽しかったりすると思うんですよね。道具を使う楽しさ。これも醍醐味です。そしてなんといっても自由さ。登山ではないからこの時間までに降りて来ないとマズいってこともなく、止まりたいところで、今日はこの辺でやめるかーと寝ることもできてしまう。自由なんだけど、だからこそ、いろんな場面で的確な選択をする能力が問われる。自然の中でそういった部分が鍛えられるのも僕は面白いなと思ってます。とはいえ私もそうですが休みの制限があるサラリーマンではそんなに自由ってわけにはいかないですけどね!
— トレイルの普及率についてはどうでしょうか?
衛藤:もっと増えて欲しいですね。たぶんハードルが高く聞こえちゃってるのかな?と思っていて。もっと気軽に楽しめるものと認識してもらえたらいいんですけど。ロングトレイルって聞くと何千キロ歩かないといけないってイメージかもしれませんが、例えば夏休みの一週間で50~100km歩くってこともできますし、まとまった休みが取れたら、ちょっと海外のトレイルに行ってみるとか。ほとんどの人が短期間で組めるセクションハイクを楽しんでいます。調べればコースもいっぱいあるんですよ。私自身も何ヶ月も休みを取ってトレイルを歩きにいける環境ではないので、現実的なコースを提案していければなと思っています。海外のトレイルはキレイだし独特です。参考書籍や雑誌もたくさん出てきているので、若い人にも是非経験してもらいたいですね。