“止まっている時間を楽しむ。”
[Lee] ARCHIVESと、新世代のデニムスタイル。

by Mastered編集部

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尾花大輔 × 細川秀和 対談

Photo: SATORU KOYAMA(ECOS)

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「止まっているものと動いているものが融合するっていうのは
ファッションの着こなしの奥行きが増すんですよね。」(細川秀和)

— まずは、お二人の出会いについて教えてください。きっかけはコラボレーションですか?

尾花大輔:そうですね。おそらく14年前。きっかけは何で知り合ったのか定かではないのですが、僕は古着の仕事をしていたので、まさか憧れのUSデニムブランドと仕事ができるなんて夢のようで高揚していて。それからは、今も年に二回、打ち合せ&決起集会をしています。細川さんはヴィンテージだけではなくいろんなものに造詣が深いので、特にヘリテージ的なものを扱う時はだいたい、「何年ぐらいにこういうものがあるじゃないですか?」って振ると、それが10倍返しくらいで返ってくるので。だったらこのタグを使って縫製はこれでっていう、口頭レベルでミーティングができてしまう。デザイナーとしては非常に一緒に仕事がやりやすいです。

細川秀和:テーマが、時代考察にしっかり腰を据えるということなので、[Lee]という歴史があるブランドと、[N.HOOLYWOOD]のコレクションはどこに位置するのかを年表上で照らし合わせてみる。そうするとその当時の[Lee]にとっての時代背景も見えてきて。何が売れていて、ビジネスとしては何を売ろうとしていたかということ、それらが合致して[Lee]から見ても世界観が見えてくるというか。

尾花大輔:ほぼデザインがないような状態で、その時代[Lee]が何をしていたかってことをまず考えます。例えばコレクションのテーマとワークウエアがどうしても合わないこともあるので、その時は時代背景から考えて、テーマに合わせていったり、そこで擦り合わせてものづくりをしています。

 細川秀和(Lee Japan 取締役/ディレクター)


細川秀和(Lee Japan 取締役/ディレクター)
エドウインに入社。Leeの担当となり以来20年以上にわたり国内でのLeeの企画開発に携わる。

細川秀和:創業当時、[Lee]はファッションで売っていたブランドではないのですが、それでも利益を上げていかなければいけない。ファッションブランドだったらファッションブランドとして考えるマーケティングからアイテムが生み出されるのですが、[Lee]の場合は、時代や、当時の労働者がどういう状態だったか、といった経済寄りに近いマーケティングを元につくられています。[Lee]に限らずアメリカの物って戦前と戦後でものが大きく変わります。戦前は完全にワークウエアです。機能性があって、破れずに丈夫で、ペンが入れられてすぐ取り出せるポケットがついたような物だった。その後、第二次世界大戦が終わって全世界に散らばっていた米軍の兵隊達が、その地域では何をしたかっていうとジーンズを履くっていう文化をその国に残した。そうして、アメリカに戻ってきた彼らは、家族と過ごす時間が増える。戦時中は家族と離れていたから、家族と会ったらどういうビジネスが生まれるかっていうと、レジャー産業なんです。みんなでドライブに行こう、旅行に行こうとなってくるとジーンズは機能性ではなくファッションのアイテムに変わっていく。[Lee]でいうと、『Lee COWBOY』っていうシリーズで売っていたものから『Lee RIDERS』と名前が変わったり、ちょうどジーンズが作業着から街着に変わるという大きなターニングポイントになりました。このように、ファッション的なマーケティングからではなくて、社会の環境から影響を受けるものが多かったですね。

尾花大輔:それでいくと、なにかの写真集でドイツのRockersが、みんな[Lee]を着ていて、他にもブレイクダンサーは糊の効いた200番のセットアップ着ていたり。そういう必要需要じゃなくてファッションに落ちてきた時になぜ他のデニムブランドじゃなくて[Lee]を選んだのかっていうのが印象的でしたね。

細川秀和:伝説的な話で本当か判らないのですが、昔の[Lee]のアイコンとして必ず登場するジェームスディーンが[Lee]を選んだ理由は、「僕はメジャーなものじゃなくて、いつも2番手を選んできた。」と言っていたという話があります。[Lee]はずっと[Levi’s]を追いかけていて、だからこそ[Levi’s]とは違うことをしようという戦略でものづくりをしてきたわけです。その2番手感っていうのは、それこそRockersの写真集も舞台はイギリスじゃなくて、スイスだったりドイツだったり、そのマイノリティ感と[Lee]の相性が良かったんだと思います。言ってしまえば、見方によっては、ダサい、洗練されてない、そこにある良さですね。

尾花大輔:デニムの始まりってそもそもワークウエアで、その中でも、[Lee]は本格的にワークに特化したウエアで、それがファッションのアイテムとしても使われている。そういうブランドって少ないですよね。

— ARCHIVESとはどんなものか、読者へ解説をお願いします。

細川秀和:[Lee]の歴史のなかでも、主に20~50年代に焦点を当てて、名品を復刻させたコレクションが ARCHIVESです。さっきの話にも繋がるのですが、この時代のアイテムってとにかく機能性なんですよ。だから、アーカイブを復刻するっていうのは、作り手側としても古いものを頭の中で解体して考えることですごく勉強になります。なんでここはこうなっているんだろう?って部分には全部理由があって、ただ効率を上げたいだけということもあるのですが、それも見て気が付きます。ものを作る側の人間の学習の場にもなっているんです。時代によってはどうしてもファッションに流れたりしがちですが、やはりビジネスなので、こういうものが売れるといったリサーチもします。それだけじゃなくて、復刻ものをつくることによって、ジーンズを作るブランドの人間としての使命というか、もう一回原点に忠実に、リセットし直そうという、意味もあります。そういった内側に向けたこともあれば、マーケットに出すにしても過去の歴史上の名品はデザインを考え抜いた上でここに落ち着いてるなと。そこにもヒストリーがあって、そんな[Lee]のアイコニックなアイテムをもう一度作り、常に市場に残していく為でもあります。

尾花大輔:そもそも[Lee]はこういうものが始まりだったっていうことを知らないで手にするお客さんも非常に多いと思います。だからこそ、[Lee]ってどういうブランドなのか、内部のスタッフの方にも深く知ってもらって、次のシチュエーションに反映させることは絶対にやってもらいたいですね。歴史を持ったブランドだからこそ重要なことだなって思います。

細川秀和:売れる、売れないは別にしてね。

尾花大輔(N.HOOLYWOOD デザイナー/ディレクター)古着のセレクトショップ、go-getterの立上げに携わり、リメイクやオリジナルの展開を始める。2000年N.HOOLYWOODを設立。同年12月、原宿にMister hollywoodをオープン。2011SSより、コレクションの発表の場をNYに移す。

尾花大輔(N.HOOLYWOOD デザイナー/ディレクター)
古着のセレクトショップ、go-getterの立上げに携わり、リメイクやオリジナルの展開を始める。
2000年N.HOOLYWOODを設立。同年12月、原宿にMister hollywoodをオープン。2011SSより、コレクションの発表の場をNYに移す。

尾花大輔:我々でも、売れないのは判っているけどこれは伝えなきゃいけないと頑張って作るものもありますからね。それは15年ぐらいしか歴史のない我々にも過去の名品と呼ばれるものがあるぐらいですから、[Lee]はレベルが違うというか。いま90’sブームが飽和状態にきてるじゃないですか?我々が90’sをリアルに体感していた頃はストリートとヴィンテージをミックスするのが当たり前でした。そういう意味ではNIGOさんがヴィンテージを着てストリート感を出していた当時と、今のNIGOさんのヴィンテージ感って全然違いますよね。昔はヴィンテージとしての価値だけでしたが、今はメゾンブランドのいいコートを着ているような感じの、ヴィンテージってよりもアンティークの高級品を着ているような感覚。

細川秀和:ヴィンテージとアンティークって言葉の印象がまったく変わりますね。アンティークっていうとぐっとヨーロッパ感が出る。

尾花大輔:高級品を身にまとう、それをさらっと着こなすのは嫌味じゃなくて、むしろセンスがある。そういう着こなし。当時はヴィンテージを十二単衣で着るのがクールっていう価値観だったのですが、今はストリートブランドをさらっと着こなすような、新しい合わせ方って意味では、この辺のアイテムを着ていたら本当はおもしろいと思いますね。

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細川秀和:90年代の古着ブームが起きた時から、日本人のファッションの切り口がカルチャーミックスしてきたというか、その前の、サーフブーム、アウトドアブーム、IVYの頃も、それだけで、全身を固めることが正義でミックスをすることが毛嫌いされていた。でもジーンズはヴィンテージがヒットした後に次のストリートブームと融合して残っていくんですよ。ファッションカルチャーとしては着こなしがミックスしてきた分岐点で、次の時代のカジュアルファッションを形成する一つの役割としてヴィンテージブームがあった気がする。そこからずっと価値が下がらないんですよね。

尾花大輔:価値が下がらないから、マニアックな人には掘り下げ過ぎている人も居ますよ。僕も今、古着屋に行って教わってますからね。それはそれで全然違うカルチャーに成長しています。だから、何かの機会で、またものすごい勢いで火がついちゃう恐れがあるジャンルだと思っています。昨今、また来るんですかね?来たら面白いですね。でも今はそれがファッションとして蔓延しない。それはつまり、やっとこういうものが正しいという位置付けになってきてるってことなんです。ニッチな世界で楽しめるようになっておしゃれな人は勝手に一人で、自分で合わせるっていう。そういう意味では毎シーズンこういうのがあるといいですよね。

細川秀和:掘り下げると、戦前戦後の30~60年代のものがヴィンテージとされてるけど、70年代80年代でもヴィンテージなんですよ、アンティークではないけれど。だから、そこの時代背景を読み解くとおもしろいものがいっぱいあって。例えば、デニムの世界でいうと初めて生まれたデザイナージーンズは[Calvin Klein]。[Calvin Klein]が70年代後半に、15歳だったブルック・シールズを起用したテレビCMを作ったんです。「私とCalvin Klein Jeansの間には何もいないわ。」というフレーズで、下着を穿いてないことを匂わせるということから、全米では若い子に刺激が強すぎるから放映中止になったんです。[Calvin Klein]は、ジーンズを完全にドレスのくくりの中に入れようようとしたんですよ。そして、ジーンズブランドは何を目指したかっていうとディナージーンズというものでした。当時はデニムが労働階級の証という認識がすごく強くて、星がついているようなホテルやレストランにはデニムでは入れなかった。じゃあ、どうやったらデニムで入れるんだってことで、皆ジーンズをきれいにセンタープレスして、スラックスのようにして、ジャケットを着ることで、紺のスラックスを穿いてるように見せかけたんです。そういう新しいカルチャーを生み出そうとしてきたものが根付いてきて、違う文化が生まれて、融合してみたり、また戻ったりを繰り返していて、80年代も面白いんですよ。だから、いまの若い人って“デニム”っていうじゃないですか、“デニム”と“ジーンズ”の感覚の違いってどうしても違和感あって。このARCHIVESはデニムじゃなくてジーンズ、ワークウエアなんですよね。

尾花大輔:そういう風に、その時代のカルチャーを持った人間がキャッチしてくれて、調和するといいコラボレーションになりますね。だから、作り手は発信しているけど待っている側でもあるんですよね。

細川秀和:特にヴィンテージってものは、ここが良いんですよ!とこちらから価値観を押し付けるようなスタンスではないですね。ただ、じっとそこに佇んでいるというか。

尾花大輔:若い子は、ミレニアム文化を紐解きながら自分なりに落とし込んでみたら面白いんじゃないですかね。

細川秀和:でも、あんまり考えすぎない方がいいような気がしていて、90年代みたいに掘り下げすぎるとよくないですよ。深いスパイラルに陥っていくので。

尾花大輔:あの頃は、雑誌も丁寧でしたよね。昔は裏原ストリートブランドの年表とかをみんな血眼になって読んでましたから。そのストリートの歴史の中に、[Lee]はカルチャーとして存在していたので、是非このリジットを思いっきり穿いて欲しいですね。

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細川秀和:1個のアイテムをミックスするだけでいいと思うんですよ。例えば、デニムのジャケットを買いたいなって思った時に、古着屋に行ってヴィンテージのものを探してみるか、リジットのものが買いたいのであれば、ARCHIVESのものを買うとかヒストリーのあるものを1個だけ混ぜてみるのもお勧めです。

— 考えすぎも良くないという事でしたが、全く古着に対する知識がない人が注目するべきポイントはどういったところでしょうか?

細川秀和:ひとつは時代背景。ざっくり何年代かっていうところだけ意識して、60年代のものを身につけるなら、他の自分の目指している例えばストリートスタイルだったら、その頃のカルチャーはどうだったか、コーディネートに60年代のエッセンスが入ったらどうなるかといった感じで、時代で大きく捉えた方がいいような気がします。

尾花大輔:ヴィンテージは、昔みたいに現象とか流行りのものではないですから。掘りたい子は掘るけど、掘りたくない人は全く堀りたくないと思うだろうというのはわかります。でも、堀る角度が何箇所もあるという意味では、捉え方がいろんな世代それぞれにあるんです。だから80歳のおじいちゃんでも10歳の子供でも着られるっていうのは実はこういうものなんじゃないですかね。いろんな人種が着られるっていうのは、すごいですよ。我々のブランドでは絶対になかなかできないことですから。

細川秀和:最近の若い世代へのアプローチは難しいんですよね。色落ちに関しても、その過程が面倒臭いと感じる人も居ますし、薄汚れたものは着たくないって人も居て。今はすごく色々なスタイルが混ざっている時代ですから。その中で全てを満たすことができるのが生、リジットだと思うんですよ。

尾花大輔:最近、古着は着れないって子も多いですからね。

— 最近の若い人はどういうデニムを選ぶ傾向にあると感じますか?

細川秀和:まず機能性の面で、伸びるということ、そして丈が短い、クロップド。大きな柱はその二つですね。要は楽な方向に向かっています。ジョガーパンツであったり、裾リブもそうなのですが、そこはそこでいいのはスローな感じがするじゃないですか。生き急いでない。生き急いだ世代が上にいて、もっとゆっくり時間を過ごしたい、ゆるく生きたいというか、そういう象徴だと思います。そこに自転車を組み合わせたり、部屋着が混ざったり、カフェでの時間の過ごし方と融合したり。本当にスローなカルチャーで言ったらARCHIVESは代表格みたいな存在です。逃げないですから。

尾花大輔:一概に楽なデニムだから買うかって言ったら、そうでもないですけど。これぐらい間口が広くて歴史のあるジーンズを持っていたら、気負わなくていいから、「楽です!いいです!」って感じる人も多いと思います。

細川秀和:デニムのジャケットなんかもトレンドの旬なストレッチの素材を着るのもいいのですが、「あいつ、いっつも古いヴィンテージの着てるよなー。」ってなった方が、「それかっこいいね。どこの?」って言われる頻度が高いはずだと思うんですよ。それは何故か?っていうと、僕が思うのは、止まってるんですよね。常に流れている流行りものを着たいっていうことは、誰しもあると思うのですが、これはそうじゃなくて、立ち止まっているものじゃないですか。止まっているものと動いているものが融合するっていうのはファッションの着こなしの奥行きが増すんですよね。

— それでは最後にARCHIVESをどんな風に楽しむのが良いか、読者に向けてのアドバイスをお願いします。

細川秀和:時間を楽しむことです。時間が止まっているものですから逃げないので、追わずに。自分が着てる洋服の中で(ジーンズは)時間が経つのが最も遅いもののはず。時間って何?って言うと、1つは、ずっと着ていて色が落ちて育っていく、経年変化という考え方。2つめは[Lee]という歴史の中の過去。止まっている時間を切り取ったもの、その時代を考えてみる。そんな楽しみ方ができる、「時間」がある洋服です。

尾花大輔:これを全身で着ても「クールですね」「ヤバいね」って言われるような人になって欲しいですね。それぐらい自分を作り上げて着て欲しい。自分のスタイルを持っている人なら全身セットアップで着ていても、今っぽく見えますし。そこまで持って行ける自分作りみたいなことをして、これを着てみたらすごく楽しめると思いますよ。

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