誤解を恐れずに言えば、[Lee]の魅力はいつになってもナンバーワンになれないところじゃないですかね。2位であること、3位であることの凄さって確実にあると思うんですよ。
—初めて尾花さんが[Lee]というブランドに触れたのはいつ頃だったか、覚えていらっしゃいますか?
尾花:一番最初は、中学校3年の時に下北沢の古着屋で買ったオーバーオールかな。ご存じの通り、僕は古着屋出身で、古着が好きなので、世界3大ジーンズブランドのアイテムとは随分長いこと付き合ってきている訳です。だから、15年くらい前に初めて[N.HOOLYWOOD]と[Lee]のコラボレーションが実現した時は、嘘なんじゃないかと勘ぐってしまうくらいに嬉しくて(笑)。それくらい敬意を払うべき偉大なブランドであることは間違いないですよね。
—古着では[Lee]のどんなアイテムを中心に購入していたのでしょうか?
尾花:若い頃は当然あまりお金が無かったから、気に入ったインディゴのヴィンテージであればストアブランドやマイナーなブランド、無名のワークウェアブランドのものも買いましたけど、やっぱりそういう中でも[Lee]の名前が付いていて安く買えるものは、思わず買ってしまっていました。面白いことに、歴史的に見ると[Lee]は[Levi’s®]という存在があったからこそ、よりワークウェアに特化して活動していたという経緯が見える。カバーオールとか、オーバーオールとか、ワークよりのアイテムに関しては他のブランドに類を見ないようなプロダクトを多く排出しているんですよね。そういうアイテムは良く掘ったし、当時は値段も安かったので手にする機会も多かったです。あとは、[Lee]ってスペックがすごくしっかりしていて、年代ごとのスペックが緻密に管理されているんです。品番を聞けばどの型なのか、ある程度古着に精通している人ならば分かるので、そういう点も男心をくすぐると言うか、燃えるポイントだったのかなと思いますね。
—[Lee]のアイテムの中で、特に思い入れの深いモデルがあれば教えてください。
尾花:たくさんありすぎて選ぶのが難しいですが、いわゆる大戦モデルと呼ばれるカバーオールや、ツーポケットのカバーオールが個人的には好きですね。[Lee]のカバーオールには他のブランドには無い独自のフォルムがあるし、コレクションのテーマと何か絡みがある時は、[N.HOOLYWOOD]と[Lee]のコラボレーションでもカバーオールをリリースするケースが非常に多い気がします。
—そもそもの話になりますが、[Lee]とのコラボレーションはどのようなきっかけでスタートしたのでしょうか?
尾花:これがね、明確には全く覚えていないんですよね(笑)。何かの縁で知り合うことが出来て、現在も過去最長の関係でコラボレーションを続けているんですが、15年前と変わらないメンバーでずっと続けてきていることなので、全然初期のことが思い出せないんです…。コラボレーション自体はテーマとは関係なくポイントで「こういうものが出したい」ってお願いすることもあれば、時には気難しいものも作り、時にはヒット商品も作りという感じで、僕らを非常に寛大に迎え入れて頂いている関係ですかね。
—15年間コラボレーションを続けているとのことでしたが、初期の頃と、現在ではコラボアイテムの作り方にも変化が出てきているのではないでしょうか?
尾花:そうですね。初期の頃は自分の考えているクリエイション、例えば極端にサイズの大きいカバーオールやペインターパンツをつまんで、そのつまんだタックをデザインにしたりだとか、どちらかと言うとデザインを加えていく作業が多かったんですけど、時間が経つほどに自分の物に対する考え方も変わってきて、ある時代がテーマだとしたら、まずはその時代のものがどういうものだったのかを知り、極力その雰囲気を、特にフォルムに関しては変えないように作ることが多くなってきました。結局、形を変えて、ポケットの位置やディティールだけを当時と一緒にしても、何も伝わらなくなってしまうんですよね。何故なら時代と共にフォルムを変えるというのが、元々の[Lee]のデニムのあり方なので。極論を言えば、ポケットなんて無くても良いからフォルムだけ残っていれば、時代感を伝えられるんじゃないかと思うんです。歴史のあるブランドだからこそ、リスペクトの気持ちを持って、そぎ落とす作業を中心にクリエイションをやっていっているというのが今の僕らのやり方かな。そして、それを口に出すだけで分かってくれる[Lee]チームの経験と知識が、日本でもこれだけ[Lee]が支持されている由縁なのかなとも思います。
—自身が若い頃からずっと見てきた[Lee]のアイテムを自らの手でいじるというのはどんな感覚なのでしょうか?好きなブランドだからこそ、クリエイションで悩んだりする部分はありませんでしたか?
尾花:若い頃は悩まずに行けたんですよね(笑)。歳を取るほどに物のあり方を深く考えるようになるので、時には触れられなくなってしまうようなこともありました。でも、今はそれも一周して見てくれる人達に「[Lee]を熟知している尾花は、今回どんな部分をいじったんだろう」って理解して貰えるような自分たちのベースをある程度築けたと思うので、深く悩むようなことは無いですね。ただし、絶対的に「これは[Lee]じゃないよな」というものは一切リリースしません。「見た目は[Lee]だけど、ちょっとどこかがおかしい」とか、そういう部分を大事にしたいなと。タグだけ残っていても[Lee]のアイテムでは無いと思うので、そこに関しては僕らもすごく大事にしているつもりです。
—では、他社のデニムと比較して、[Lee]の魅力はどんな部分にあると思いますか?
尾花:誤解を恐れずに言えば、[Lee]の魅力はいつになってもナンバーワンになれないところじゃないですかね。2位であること、3位であることの凄さって確実にあると思うんですよ。2位を取った回数に関しては断トツの1位な訳で、それって決して簡単なことでは無いんです。
—たしかにNo2の魅力というのもオンリーワンなものですよね。過去のコラボアイテムで何か印象に残っているものがあれば教えていただけますか。
尾花:1つはブラックパンサーをテーマにしたシーズンのもので、[Lee]と初めてコラボレーションをさせてもらったデニム。そのシーズンはブラックパンサー党をメインにするのでは無く、40’sのブラックパンサーのセラミックの置物をすごく美しいなと思って、クリエイションをスタートさせたんです。まだ自分の中でもテーマをはっきりと作れていなかった時代で、コレクション自体は未完成で混沌としている部分もあったと思うんですが、このデニムに関してはこれまでの[Lee]には存在していなかった1本を作れたような気がしていて。パンサーのプリントをキレイに直線上に入れるために、色々と試行錯誤したのを今でも良く覚えているし、初回にも関わらず[Lee]の人たちもすごく協力的に動いてくれたので、結果的にはすごく出来も良かったと思います。
尾花:もう1つ印象的なのが、2013年春夏シーズンにリリースした[Lee]のブランドロゴ入りのTシャツ。デニムブランドとは言え、当然デニムだけ作っている訳では無く、時にはすごくコマーシャル的な要素が入ったアイテムなんかもリリースしてきているんですけど、デニムだけでコラボレーションをするのが僕らと[Lee]の関係性なのかと言えば、そうでは無く、[Lee]という1つのブランドの流れの中で起きたことを適時ピックアップしていくのも僕らの仕事だと思っているし、そこにはそれ相応の意味もあると思うんです。だから、このTシャツに関してもタグまで当時のレシピにかなり近いもので作って頂いて。僕的には正直、全然売れないだろうと思っていたんですけど、これが信じられないくらいに好評でして(笑)。そういうエピソードも含めて、思い出深いアイテムですね。
—今日は来シーズン(2014年秋冬シーズン)にリリースされる[Lee]とのコラボアイテムも用意して頂いたんですが、今回のコラボアイテムについて解説をお願い出来ますか?
尾花:このシーズンは、禁酒法時代のマフィアと闇酒を製造するブートレッカーたちをテーマにしているんですが、当時の資料を見てみると、みんな白衣のようなカバーオールを着ているんですよね。なので、1920年代ごろ[Lee]で生産されていた白衣系のカバーオールを、ゆとりのある当時のシルエットを忠実に再現しながら作らせてもらいました。[Lee]のロゴ入りのボタンをあえてチンストラップの部分にだけ使い、他の部分は練りボタンにしたところもポイントですかね。
もう1つはオーバーオールなんですが、オーバーオールって現代だとすごくナンセンスなアイテムで、機能的に全く受け入れられていないんですよね。当時、闇酒を造っている人たちでさえ、肩から紐をかけているのが辛かったらしく、フロント部分をペロンと垂らして、紐かベルトで縛って着ていたりするんですが、何か現代でも機能するオーバーオールの形って無いものかなと思って作ってみたのが今回のオーバーオール。フロント部分のポケットのシルエットやフォルムを重要視しながらも、無理矢理な感じが無い変形ネタのオーバーオールになっています。
—今後[Lee]とのコラボレーションにおいて、何か実現してみたいことがあれば教えてください。
尾花:特定の実現したいものというのは特にありませんが、今後も継続的に良い関係を築いていきたいですね。と言うのも、「これをやりたい!」って限定するようなものは、もう存在しないくらいに色々とやらせてもらって来ているから。もちろん、コレクション以外でも1年を通して色々なイベントがあるので、そういう時にコレクションテーマとは全く関係の無い、純粋に面白いからやりたいというようなものは引き続き作っていきたいと思っています。あとは例えば、[Lee]の方から「こんなものがあるんですけど、何かアイディア無いですか」みたいな逆提案的なものがあっても面白いのかもしれないですね。
—話は変わりますが、尾花さん自身、デニムという素材に対してはどのような考えを持っていますか?
尾花:デニムって要は100年以上前に考案された機能服な訳ですけど、現代ではもはや機能服でも何でも無く、「スカート」や「ショーツ」のように1つの洋服のカテゴリーでしかないから、作り手側がスタイルや位置づけに対して、ある程度の考えを持って作らないと、履きづらいアイテムになってきているのは事実ですよね。時代を追う毎に、作った側の意図がはっきりと見えない限り、消費者が選ぶ順位としては低いものになっているように思うんです。逆に言えば、だからこそやりがいがあるし、格好良いデニムが作れた時には嬉しい気持ちもあります。日常的で安心感のある素材だからこそ、デニムに触れると良い意味で悩むことが多いですね。
—尾花さんは良くアメリカに行かれると思うんですが、現代のアメリカで[Lee]はどのような受け入れ方をされているのでしょうか?
尾花:本来のワークウェアブランドという認識は、昔よりも薄くなってきていますが、ジーンズを中心としたカジュアルウェアブランドとして広く受け入れられていると思いますよ。でも良い意味で根底は何も変わっておらず、昔からマスに向けてものを売ってきたブランドなので、現代でも様々な形でマーケットを拡大して展開を続けていますね。アメリカで[Lee]を見て、「なんか良いな」と思うのは、田舎のウエスタンウェアショップとかに行くと、未だにパキパキに糊が付いた着づらそうなデニムやシャツが売っているんですよ。そういう部分は現場に行って初めて分かる事だったりするし、すごく勉強になりますね。どれだけマスになっても、きちんとマーケットを分けてものを売っていて、マスマーケットにおけるブランドのあり方っていうのを考えさせられます。すごく緻密にマーケティングをやらないと、糊付きのデニムなんかはなかなか売れない訳で、その部分に対する[Lee]への尊敬はすごく大きいかな。
—125周年を迎えた[Lee]のこれからに何か望むことがあれば教えてください。
尾花:ブランドのスタンス自体には100%賛成なので、これからも変わらずにいて欲しいですね。変わらずと言うのは、「必ず変わって、進化を続けていく人たち」が作っているのが[Lee]というブランドなので、そのスタンスを変えずにいて欲しいということですけど。結局のところ、ブランドってアーカイブを持っているだけでは何も進化は無い訳で、彼らなら、僕が想像も付かないような”何か”をこの先も見せてくれるだろうと信じています。
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