Photo:Shota Kikuchi 、Styling:Hisataka Takezaki、Hair&Make-up:Masaki Takahashi、Model:YOUR SONG IS GOOD、Edit:Atsushi Hasebe、Text:Marina Haga
— はじめに、YOUR SONG IS GOOD(以下、YSIG)はリスナーの立場から見ていると割と前衛的な印象があるのですが、スタンダードというものに対してどのようなことを考えていたりしますか。
サイトウ“JxJx”ジュン(以下、JxJx):そうなんですね、ただ、YSIGにも基準といいますか基盤となる何かはあって、核となるものは存在してるのかなと思います。
— といいますと?
JxJx:例えば、まさかのThe Beatlesになってくるんですが(笑)。
ヨシザワ “モーリス” マサトモ(以下、モーリス):あー、個人的にもThe Beatlesはグッと根っこの方に入っていますね。やっぱり音楽に興味を持ったときに、貪るように聞いていたバンドだったので。あと、僕の中には、スカとかレゲエとかの要素もあって、そのあたりをベースにどう広げてアレンジをしていくかが醍醐味となっています。
JxJx:さっきのThe Beatlesにしても、The Beatlesに関してはモーリス同様に僕も個人的な要素としての位置付けが強いんですが、まずはドシっとした基盤、軸があってそこからどう派生していくのか、その動きを捉えるのが面白いんですよね。The Beatlesに関しては、曲作りの面白さ、メロディー、コード、歌詞、録音技術、そいったものたちのすごいアイデアが詰まりまくっているわけなんですけど。そこを体験したうえで、その基盤からどう離れていくのかっていう距離感、と道筋がまた楽しいな、と。これって逆に、スタンダードを知らないと出来ないのかなと思うので、その感覚は大切ですね。で、その感じが好きなので、自分たちの音楽にもいろんな要素がミックスされていってしまうのかもしれません。で、結果、ややこしいっていう(笑)。
— なるほど、ちなみに曲作りでは、年月を超えて愛されるようなスタンダードを意識して作ったりもするのでしょうか?
JxJx:そこは、できれば長く聞いていける曲を生み出していきたいっていう気持ちはあります。自分が聞き手の立場でも、そういう作品が好きなので。それに時代を超えていく感じってのは、面白いなと思いますし。
モーリス:後はやっぱりその時代の空気感もありますよね。そこを意識しつつ、なおかつ時代も超えて行きたいというめちゃくちゃ欲張りな感じでやってます(笑)。
— そういった中で、自分たちのルーツになったようなミュージシャンっているんでしょうか?
松井泉(以下、松井):リアルタイムで見てすごくいいなって思ったのは、Adrian Sherwood(エイドリアン・シャーウッド)っていうダブの人で、彼のライブが「音楽をやりたいな」って思ったきっかけだったりはします。当時僕は10代だったんですが、今思うとちょっと変わってましたね(笑)
JxJx:僕の場合、特定の誰かというよりはそれが年齢とともにどんどん増えていっている感じですかね。The Beatlesから始まって、例えば、10代中盤に、The ClashやThe Specials。で、10代後半にDonny Hathaway(ダニー・ハサウェイ)とかに辿り着いて、最終的にはそれらに関連する他のバンドやアーティストも全部楽しみたい、みたいな。で、こうやって話していて思うのが、どの作品もリリースされてから10年から20年の時を超えて出会っているので、やっぱりこの時代を超えてくる感じってのは、面白いんですよね。地方の中学生に届いちゃうっていう。
モーリス:僕は、子供の頃エレクトーンを習っていたせいか、鍵盤ものが好きでした。その流れから、若干の後追いだったんですが、YMOを好きになって。それを軸にいろいろ音楽の幅が広がってきた感じがあります。
— ちなみに皆さんは当時、どうやって新しい音楽の情報を仕入れたいたのでしょうか。
モーリス:先輩とか周りからの口コミがメインですかね。中学生のとき、先輩に「The Beatlesが好きなら、The Clashも聴け」と言われて、意味がよく分からないまま聴いたらめちゃくちゃかっこよくて。そういう10代、20代のときに聴いていたものが、自分を支えるスタンダードとして今も残っている気がします。
JxJx:そうだね。ちなみに僕は今年で44歳になるんですが、自分もモーリスも「これがスタンダードだ!」っていうものをバーン! と提示されていた時代に10代を過ごしていたのかなって気がします。『名盤100選』みたいな特集を音楽誌でしょっちゅうやっていた時代と言いますか。なので、最初に言っていた話と一緒になっちゃいますが、まずはスタンダードをガツンと。あとは、そこから、どうマニアックに掘っていくのかっていうのが自然な流れでした。スタンダードっていう考え方が真ん中にあるから、逆に自由が効くっていう。
— 当時スタンダードと言われていたもので、自分は理解が出来なかったというものもありますか?
JxJx:もちろんありましたよ。ただ、そういった大人たちの言っていることを、理解できるか、できないかも含めて楽しんでいましたね。そして、年月を経て、それらが腑に落ちた瞬間がすごく気持ちいいっていうのもあります。楽しいですね、音楽は。
— たしかに「後から分かる良さ」っていうのもありますもんね。ところで、YSIGで初期から変わらないところっていうのはどんな部分なのでしょうか?
モーリス:バンドの雰囲気ですかね。音楽的には初期から現在に至るまで、色々な変遷がありますが、何をやってもYSIGの音になっているっていうところは、案外意図していない部分だったり。
JxJx:メンバーそれぞれのノリがどうしても入ってきちゃうところがあって。よく言えば、バンドマジック(笑)。
松井:僕は、後追いでYSIGに参加させてもらったんですけど、ちょうど、バンドの過度期というかアルバムがミニマルな方向にいくタイミングでの加入だったんですよ。だから、正直、最初は「思っていたYSIGと違うな」って感じていたのですが(笑)、いざライブをやると、結局みんな熱を増してきてだんだん激しくなっていくんですよね。それで「YSIGはやっぱりこうじゃないと」って強く感じたのを良く覚えています。僕自身もそうだし、お客さんもYSIGに熱のこもった演奏を期待していると思うんですよね。
モーリス:自分たちがグッとくるものを一貫して追い続けているつもりなのですが、曲作りにフォーカスして考えると、例えば2つのコード進行の移り変わり方や上昇の仕方、影の落とし方とかは一番最初にベースを作った人たちがいて、それがいろんな人たちの手垢に揉まれた結果、人々の心に刻まれてきたんだな、と先人たちの偉大さを感じますね。
JxJx:コード進行は本当にそうかもしれない。リズムもパターンに関しても同じく。
— ちなみに、音楽以外の部分で「相変わらずだな」と感じる瞬間はありますか。
モーリス:この歳になって、ますます子供時代から存在している食べ物を欲っしますね(笑)。新製品よりも昭和からあるものを選んでしまうというか……。自分の行動の中で、そういった傾向が顕著に見られるようになりました。
JxJx:僕は、新しいモノとの出会いのなかで、ふとした瞬間に“あれ、これ昔から好きな感じだな”ってところに気づくことがありまして。せっかく新しい感覚が芽生えたと思ったのに、実はなにも変わってなかった!っていうある意味、ものすごく残念な瞬間なんですが、そんなことも、けっこう面白いなと思える年齢になってきました(笑)。
松井:それでいうと、僕も小学校からずっと変わらず通っているうどん屋があります。
モーリス:同じく、どんなラーメンを食べても結局地元の佐野ラーメンに敵うものはないと思ってしまいます。
松井:ただ単純に好きで通っているのか、安心感を得るために行くのか、僕自身でも分からないんですけれどね。食以外でいうと、楽器にも同じことがいえるかもしれません。今でも一番最初に買ったコンガを使用しているのですが、慣れや愛着があるせいか他のものと比較すると、全然使い心地が違うんですよ。今、使い始めて15年目ぐらいなんですが、あと2、30年は頑張って欲しいものです。