— この特集は、デニムのスタンダードであるLeeの『101』にちなんで”スタンダード”をテーマにしているのですが、実際に影響を受けてきた音楽やミュージシャンなど、楢原さんにとってのスタンダードな音楽はどういうものですか?
楢原:決定的なのが4つあるんですけど、そのなかでも2つを挙げると、1人は山下達郎さん。『僕の中の少年』というアルバムが、よく家で流れていたんです。
— それはご両親の趣味ですか?
楢原:母親ですね。ほかにもいろいろとかかってはいたんですけど、父親とあまり趣味が合わなくて、僕が音楽を流していると止められちゃう家だったんです(笑)。まぁ、それは仕方ないとして、数少ない音楽体験のなかでも『僕の中の少年』は特に印象に残っていて、ずっと聴いていられるし、実際に聴いてきた音楽ですね。そしてもう1つが、高校2年のときに聴いて衝撃を受けたナンバーガール。どちらもたしかにブラックミュージックの影響は強いのですが、並べてみると、衝動か洗練かっていう両極的な感じですよね(笑)。ナンバーガールについては、”NUM-AMI-DABUTZ”のシングルを同級生が教室でデカい音で流していて、それが衝撃的だったんですけど……。それまで聴いていた山下達郎さんとの決定的な違いは、やっぱり衝動的な表現というところなんですかね。
— 一気にトップギアに入れた感じがしますね(笑)。
楢原:前体験としてはHi-STANDARDやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTも聴いていたんですけど、やっぱり”NUM-AMI-DABUTZ”のなかに感じられるディスコやヒップホップ、ファンクっぽさが刺さったんだと思いますね。基本的にダンスミュージックが好きなので、ナンバーガールの楽曲では”omoide in my head”とかオルタナ全開なのももちろん好きなんですけど、最初に刺さったのは”NUM-AMI-DABUTZ”でした。
— バンドへの興味が高まったのはそこからですか?
楢原:「音楽ヤバっ!」って感じたのはそのときで、そこからルーツを掘りましたね。「もっとこの感動を味わいたい」みたいな気分になって。でも当時はまだウェブにあんまり情報なかったから、ライナーノーツを読むしかないじゃないですか。いろんなライナーを読んで「Pixies最高!」とか「Princeすごい!」って(笑)。最初はロックのなかでもダンスの要素があるThe Stone RosesとかXTC、Talking Headsにいきましたが、大学に入った頃からはクラブやレイブにも行き始めて、Daft Punkがきっかけでテクノやハウス、さらにレアグルーブ、バレアリックに広がっていった感じですね。
— ちなみに残り2つは何ですか?
楢原:Hi-STANDARDと小沢健二さんです。4アーティストともルーツが豊かな人ばかりなんですよね。彼らの音楽から、Steely Danってスゴいなぁとか、The Beach Boysっていいなぁとか、いろいろとつながっていく。音楽の先生みたいな感じはありますね。
— ルーツを感じられるミュージシャンに惹かれるのでしょうか?
楢原:みなさん当然、自分とは違うものを吸収されていますからね。例えば小沢健二さんだったら、最初は「オザケンいいね」って思うんですけれど、聴きまくっていくと「この楽曲のこの成分は何だろう?」と引っかかってくる。そういう目線でいろいろと聴いていると、ルーツがわかってくるという感じ。食材に近い感覚ですね。
— 普段のファッションで意識していることはありますか?
楢原:記号性のないスタイルが好きなんですよ。模様も文字も極力入っていないものが好きでそういうアイテムを着ているんですけど、実はコンプレックスもあるんです。ファッションからはちょっとズレますが、タトゥーを入れたり、PCにステッカーを貼りまくったりできる人っているじゃないですか? 僕、全く出来ないタイプなんです(笑)。プレーンにしがみついているというか。貼りたいステッカーはたくさんあるのに貼れなくて、それがファッションにも出ているなっていうのはすごく感じますね。ロゴとかキャラクターものを上手く取り入れられる人って多いですが、僕はそういうのが苦手で……。
— シルエットへのこだわりはありますか?
楢原:スタンダードっぽいけれど、ちょっとモードっぽさも見えるようなものが好きですね。切り返しの位置とか素材感がちょっと変わっているとか。
— 普段、デニムは穿きますか?
楢原:たまに穿きます(笑)。どちらかと言うと、ゆったりしたシルエットが好きなんですよ。中学1年生のとき、初めて古着屋で買ったデニムがLeeだったのを覚えています。今日はワンウォッシュの『101』とアノラックジャケットを合わせていただきましたが、こういうスタイリングもあるんだなって。新鮮でしたね。
— 楢原さんはAdult Oriented RobesやBEAMSのイメージ音楽も手掛けられていますね。
楢原:Adult Oriented Robesに関しては、母体となるレコードブティック兼レーベルのAdult Oriented Recordsから『Weekend on the Moon』をリリースしていて、その経緯からAdult Oriented Robesの2021年春夏シーズンアイテム15点すべてのイメージ音楽を制作しています。それと、実は僕自身が編集の仕事もやっていて、ある現場でスタイリストの方に名刺を渡したときに「楽曲制作もできる」と伝えたら、その方がBEAMS案件のクリエイティブも兼ねていて、それをきっかけにBEAMSのお仕事もお手伝いさせていただくようになりました。編集者としての仕事からつながっていったところもありますね。
— 今後の予定を教えてください。
楢原:Adult Oriented Robesから2021年秋冬シーズンに出るアイテムのイメージ音楽も制作したり、他にもいろいろ制作・リリースが控えています。あと、今後はPoor Vacationのセカンドアルバム制作にも入っていきます。『Weekend on the Moon』をリリースしたのが一昨年の12月なのでずいぶんと間が空いてしまいましたが、ようやく自分のフリーランス活動のペースが掴めたので、いよいよ次の作品を作ろうと決意を固め、動き始めたところですね。
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