Lee『101』と蓮沼執太と塩塚モエカ – 初共演を実現させた異才の2人が考えるスタンダード –

by Nobuyuki Shigetake

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トレンドに向かうというより、もう少し幅広い時間軸で音作りをしていますね(蓮沼)

LeeのAMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-500) 13,200円(Lee Japan TEL:0120-026-101)、STILL BY HANDのニットシャツ 18,700円、カットソー 13,200円(すべてSTYLE DEPARTMENT TEL:03-5784-5430)、Parabootのレザーシューズ 71,500円(Paraboot AOYAMA TEL:03-5766-6688)、その他本人私物

— この特集は、デニムのスタンダードであるLeeの『101』にちなんで”スタンダード”をテーマにしているのですが、たとえば聴いてきた音楽や影響を受けたミュージシャンなど、おふたりにとってのスタンダードな音楽とはどういったものですか?

蓮沼:僕はシカゴのTortoise(トータス)が好きなんですよ。シカゴのおじさんたちが集まってロックを演ってるんですけど、ハードコアだったりヒップホップをやっていたり、いろんなジャンルのミュージシャンが集まって新しい音楽を作ろうとしているのが、すごくカッコいいなぁって思って。そのTortoiseのアルバムに『Standards』っていうのがあるんです(笑)。

塩塚:えーっ! そんなうまい話ないですよ(笑)。私の場合、その日によって全然違うんですよね。今までを振り返ってみても、最初はYUIさんが好きで、その影響で音楽を始めたんですけど、それからは日本のバンドも聴くし、アンビエントみたいな音楽もすごく好きだし……。でも、最初にスゴいと思ったのはSigur Rós(シガーロス)。父がプログレ好きで、プログレみたいなのが外国の音楽だとずっと思っていたんです。そんななかでSigur Rósを知って、何語で歌っているのかわからないけど、ふわっとした壮大な音楽で、映像を観ても大自然のなかで演奏してるし、なんか、自分が知っているバンドとは全然違うけどしっくりくるみたいな感覚でしたね。今、3人でバンドをやっていますけど、音に広がりをもたせたいとか、声に長めのリバーブをかけたいとかっていう表面的な音作りのイメージは、Sigur Rósを聴いたときに感じた印象が根底にある気がします。

— ポップミュージックって、時代性を意識して作っている方と、そいういうことを意識せず、時代を超えて愛されるような曲作りを目指している人の両方いると思うのですが、おふたりはそのあたりを意識されていますか?

蓮沼:社会のなかで生きているので「意識していない」っていうことはないです。ただ、否定するわけではないですけれど、トレンドって一過性のものだと思うので、そこに向かってサウンドを作るというよりは、もう少し幅広い時間軸で音作りをしていますね。だから、アンサンブルで大人数で合奏するときに「この人数が集まってひとつの音楽を演ることって、どういうことなんだろう?」と思うんです。そのなかでのクリエイションは、時代の空気もあると思います。昔の西洋のオーケストラであれば、いわゆるピラミッド型で強い人がいて「こう演りなさい!」って指示しながら演奏していましたけど、僕の場合は、もちろん指示はしますけど、もっとフラットな関係性。そういう作り方も時代の流れ、影響があるんじゃないですかね。

ボリューミーなレザーシューズには、ややオーバーサイズのデニムでバランスを調整。大人顔のクルーネックカーディガンとも良く馴染む。

— 羊文学の場合は「新しい音楽を作ろう」みたいな意識があるようにも感じますが。

塩塚:どっちもあります。結構ミーハーなので、みんながいいって思っているものはどうしても耳に入ってくるじゃないですか? それを聴いて、自分がいいと感じちゃったらそれがすべてになりますね。昨年の冬はBillie Eilish(ビリー・アイリッシュ)しか聴けない時期があったんですけど、その一方で「これ、流行ってるから演らないでおこう」っていう気持ちになることもあるし。追おうと思って追っているわけではないし、絶対に追わないって決めているわけでもないんです。自分で聴いていいと思ったら、それがチャート1位でも何千位でも関係ないかなぁ……。

LeeのAMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-526) 14,300円(Lee Japan TEL:0120-026-101)、PHEENYのレイヤードTシャツ 27,500円(PHEENY TEL:03-6407-8503)、Sellenatelaのサンダル 41,300円(HALL by Sellenatela TEL:03-6419-7732)

— Sigur Rósからの影響は感じる一方で、Billie Eilishは意外ですね。

塩塚:大好きです。それに、Justin Bieber(ジャスティン・ビーバー)も。でも、音作りは3人しかいなかったからそうなったんだと思います。楽器があんまり上手じゃなかったので「テクニックがないなら、音の大小で表現するしかない」みたいなことは研究していました。

— そもそもおふたりが音楽を始めたきっかけは?

蓮沼:逆にバンドは組んだことがなくて、ずっと1人でしたね。というか、音楽を作り始めたのも大学卒業前なんですよ。そのときは、就職したくないから作ろうと思って……。

塩塚:強すぎる……(笑)。

蓮沼:(笑)。自分でも何なんだろうとは思うんですけど、そんな感じで、消去法で音楽を選んだんです。音楽だったら自分でも作れるだろうと思って。もともと、フィールドレコーディングをしていたんです。スーパーニッチだし、サウンドアートの世界になっちゃうんですけど、環境音だけで作品になっているジャンルもあるんですね、なので食えるとか食えないとかも全く考えずにやり始めたんですよ。だから徐々にですね。「あ、俺、音楽やってるんだ」みたいな気分になったのって(笑)。

— 珍しい経緯ですね。

蓮沼:そうですね。よく「10歳くらいで曲を作っていそう」とか言われるんですけど……。

塩塚:作ってそう! ピアノの英才教育とか。

蓮沼:そういうイメージを持たれがちなんですけれど全然違って、演奏するよりは音を聴くほうが好きで……。フィールドレコーディングも「レコーディングする」って捉えられますけど、録ったあとにその音を聴かなきゃいけなくて、一番大切なのは聴く作業なんですよ。だから、リスナーの延長っていうか、そういうスタンスがいつまでもあります。

— フィールドレコーディングを始めたきっかけは?

蓮沼:勉強でフィールドワークをしていたんです。サウンドレコーディングだけじゃなくて、調査として。都市だったら空き地だったり……今でいう文化人類学のような。

— 大学でそういった分野を専攻していたのですか?

蓮沼:環境学です。特に一所懸命やっていた生徒ではなかったですけど、きっかけはそこです。面白かったんでしょうね。

塩塚:私は、幼稚園くらいのときにテレビでSPEEDを観て歌手になろうと思ったのが最初です。小学生のときはYUIさんが好きだったから、シンガーソングライターになろうと思っていたんですけど……バンドは、誘われて入って今に至るって感じです(笑)。でも、なんでバンドやってるんでしょうね? 高校生のときにJames Blake(ジェイムス・ブレイク)を聴いて、それにサカナクションさんもその時代好きだったので、パソコンで音楽を作ることに憧れていたんですけど、でもパソコンって高いじゃないですか? 高くて買えないからバンドになりました。

— 羊文学のサウンドからは、気概みたいなものを感じるので意外ですね。

塩塚:バンドを始めてからは意識が変わりましたね。

— 普段のファッションについて聞きたいのですが、ステージと日常での服装は、意識して変えていますか?

蓮沼:特に現代音楽のコンサートとかライブを観ていると、たぶん、予算がないからだと思うんですけど、みんな衣装がないんですよね。すごく難しい音楽を演っているのにヘンなTシャツとか柄シャツを着ていて、あべこべなんだけど音のなかに人となりが見えたりして面白いなぁって。難しそうなジャンルだけど、いろんな人がいるのを感じられるのが好きで。その人をちょっとだけ分かったりするっていうか。だから僕も、基本的に衣装は用意していなくて、「私服で、今一番オシャレだと思うものを着てください」って言うんですけど、そうすると滅茶苦茶です(笑)。一度「写真を撮るから黒いものを着てきて」っていったんです。そうしたら、みんな黒を着てきたんですけど、全員違う黒。素材とかが違うと、同じ黒でもこんなにバラバラなんだと思って、もう揃えないことにしました。それに自分でやるときも、基本は全部私服で出ますから。U-zhaan(ユザーン)といっしょに演る時も、彼は派手ですけど、あれは彼の私服ですからね。

— 普段のファッションについて意識していることはありますか?

蓮沼:僕、小学生くらいからあんまり変わってないんですよ。

塩塚:めっちゃオシャレな小学生じゃないですか!(笑)

蓮沼:フーディにシャツとか、そういう感じですね。夏はTシャツに短パンが多いですね。モードよりはストリートっぽいのが好きですけど、でもストリートすぎるのはイヤみたいな。それに最近はまた古着を買い始めていたりするので、いろいろですね。

塩塚:私は、ソロのときは私服です。普段はいろいろですけど、ステージはワンピースをずっと着ていますね。ワンピースが好きなので。

蓮沼執太
1983年、東京都生まれ。音楽作品のリリース、蓮沼執太フィルを組織して国内外でのコンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、音楽プロデュースなどでの制作多数。近年では、作曲という手法を様々なメディアに応用し、映像、サウンド、立体、インスタレーションを発表し、個展形式での展覧会やプロジェクトを活発に行っている。

— 普段、デニムは穿きますか?

2人:穿きます。

— 今日穿いた『101』の印象はいかがでしたか?

蓮沼:穿きやすかったですね。僕、わりと同じデニムをずっと穿くのでボロボロなんですよ。今日はワンウォッシュでしたけど、それが新鮮でしたね。

— 普段穿いているデニムは古着で買ったものですか?

蓮沼:新品を買って穿き込んだ感じです。

塩塚:普段は太めのシルエットが多いですね。でも、本当はもうちょっとスリムなデニムを穿いてみたいなって思ってました。今日はかわいくロールアップしていただいたので、こういう風にロールアップするのもいいなって思いました。

塩塚モエカ
1996年生まれ、東京都出身のシンガー・ソングライター/ギタリスト。2012年に3ピース・バンドの羊文学を結成し、2017年にEP『トンネルを抜けたら』でデビュー。フルアルバム1枚、EP4枚を発表しながら、ライヴでも盛況を収める。一方で、ソロ活動ではバンドとは異なる楽曲、ヴォーカルエフェクトを使ったギター弾き語り演奏による浮遊感あるパフォーマンスが特色。また、ファッションブランドや広告でのモデルを務める。

— 4月23日に渋谷のBunkamura オーチャードホールで予定されている『○→○(マルヤジルシマル)』には塩塚さんも出演されますね。

蓮沼:本当は2020年の夏にやる予定だったんですが、コロナで延期になってしまったんです。まぁ、今もいい状況とは言えないんですが「音楽やろう!」と。ただ、昨年の夏にやっていたら塩塚さんは入っていなかったと思います。”HOLIDAY”を作る前だったので。延期になった分、時間が経って、中身も変わって、新しい出会いもあります。より面白いものが作れそうだなっていう気持ちはあるし、みんなといっしょに演るのも初めてなのでワクワクしていますね。

— 4月23日にライブを行い、後日、映像を配信されるということですが、サウンド面での仕掛けは考えていますか?

蓮沼:昨年、スパイラルホールで配信ライブをやりました。それはホールの真ん中に360度のマイクを立てて、その場にいるかのように音が聴こえるような仕様にして、それがとても上手に出来たんです。そのときのエンジニアの方とも「今回は、いくつか視点を作れたら面白いかな」っていう話になっていて。演奏しているときの僕はどんな音を聴いて演奏しているのか。例えば、塩塚さんが歌っているときに彼女はどんなフィルの音を聴いて歌っているのか、みたいな。オーチャードホールは3階まであるので、3階から聴くとこんなふうに聴こえるとか、そういう視点を設けたいですね。ライブはライブで探求したいテーマがありますけど、せっかく配信をする機会もあるので、昨年も何回か配信ライブをしてスタッフとも「ああすればよかった」「もっと、こうすればよかった」と話していて、常々より良くしたいと思っています。とにかく、面白くしたいっていう気持ちです。