デビューEPの『Humor』をはじめ、コラボ3部作、そして”Orion”に至るまで、PEARL CENTERの楽曲はどれも映像的である点は共通しているものの、そのバックグラウンドは掴みにくい。メンバーはこれまで、それぞれのバンドやプロジェクトで活動をしてきたが、一方で彼らはどのようなジャンル、あるいはアーティストから影響を受け、この独創の世界を築き上げているのだろう。
— この特集はLeeの『101』にちなんで”スタンダード”をテーマにしているのですが、PEARL CENTERにとってのスタンダードな音楽とは何ですか?
MATTON:本当にもう、たくさんありすぎて……。でも、たとえばブルースとかR&Bとか、誰とか、そういうのはないよね?
inui:ジャンル分けをするのであれば、オルタナティブだとは思います。オルタナティブって結局はカウンターなので、変容していくじゃないですか? そういう点を踏まえるとRadioheadかなぁとは思います。好きなバンドはたくさんいますけど、象徴としてああいう人たちもいるし。オルタナティブな存在……みたいな人たちが、わりとスタンダード。だから僕らにとってスタンダードな存在って、そもそもスタンダードじゃないんですよ。僕たちがスタンダードだと思っているものがスタンダード。
MATTON:僕ら、Spotifyのプレイリスト(4FRIENDS)を毎週、メンバー1人ずつ更新しているんですけど、その中身は本当にいろいろ。msdくんはこの前何を選んでたっけ?
inui:(井上)陽水さんとか入れるよね?
TiMT:globeも入れてなかったっけ?
msd:陽水さんも入れるし、globeも入れる。スタンダードって、自分のなかでは空気というか……そんな感じですね。
inui:msdくんはDJもやっていたからハウスとかトランスとかの文脈でglobeも聴けるんだろうし、みんなそれぞれ音楽が好きで、いろんなジャンルが好きだけど、同じ部分で重なることが多いなって感じるのがオルタナティブなものだと思いますね。ものすごくポップで、その時代のスタンダードだったものは意外とバラバラ。けど、みんなで同じように好きだったのは、その時代にスタンダードじゃなかったものかもしれない。
MATTON:でも、今のUS……普通にトップのポップスはみんな好きですね。
msd:この前、(プレイリストに)BTS入れた。”Dynamaite”。
inui:現行のポップスってオルタナティブだと思うんです。ずっとオルタナの仕返し、カウンターの仕返しじゃないですか? 毎月違うことをやるっていうか。
MATTON:僕らの世代は許容範囲が広いかも。今のポップスとかも好きっていう人は多いですけど、そのなかでも僕らはトップクラスかなぁ。
inui:多岐にわたり方がね。
TiMT:US、UKのヒットチャートを普通にめちゃくちゃ聴くし。
MATTON:だけど、無理してる感覚が1mmもない。
— バンドの共通項としてはRadioheadみたいなオルタナティブであり、ポップスも大きなテーマになっているようですが、個々人で好きなアーティストはいますか?
msd:僕はそこまで音楽に傾倒してきたタイプではなくて、すごく雑食なんですよね。ファッションにしても、音楽にしても、映画にしても。雑食のなかで好き嫌いを判断してきたので、何かに傾倒したことがないんです。もちろん、若いときに気取ってみたことはあります。何”ぶる”というか。そのうえで、これが好きだなっていうのを何週間とかの単位で繰り返してきているので、ここまでくると象徴するものが逆にないっていう矛盾が常にありますね。
TiMT:俺もそうかも。
msd:こういうファッションが好きだし、でもこういうアイテムが可愛いし、こういう人もカッコいい……みたいなところで生きているし、作っているから。もちろん、何歳のこのときはこれが好きだったみたいなものはツールとしてはたくさんある。その集合体だからこういう感じになるんでしょうね。
TiMT:マイ・ゴッドはいないんだ?
msd:マイ・ゴッドはなかなか難しいねぇ。
inui:僕は最近、自分が100%カッコいいと思うものよりも、カッコいいんだけどちょっとふざけてるみたいなものが好きなんだっていうことに気付いたんです。たとえば、僕が最初にCDを買い集めて格好を真似したのがBlur。Damon Albarn(デーモン・アルバーン)ってBlur時代はペルソナを付けていたんですけど、その裏側に違うパーソナリティがあることがわかったときに、一気に表面的なものが立体的になって、ものすごく趣深くなるっていう体験が多かったので、以来、ペルソナ表現をしていない人に対しても勝手にその人の奥を感じたりするような楽しみ方をしちゃうんです。Julian Casablancas(ジュリアン・カサブランカス)もそうだし、Alex Cameron(アレックス・キャメロン)も全身違うものを身に付ける表現にどハマりしちゃって。それと、The Last Shadow Puppetsは、パフォーマンスでも、曲でも、MVでも、イタリアン・マフィア映画の”ごっこ遊び”をしている。何かを演じている、表現しているのに、見せていない部分まで想像して楽しむのが好きで、自分自身もそういう人間になっているんじゃないかなぁと。MATTONはもっとあるでしょ?
MATTON:それが自分の音楽に反映されるかっていうと、全然そんなことはないけどね。だって俺、Mick Jagger(ミック・ジャガー)がすごく好きだけど、同じ歌い手だとしても違うから。中学生の頃はSteven Tyler(スティーヴン・タイラー)が好きだったけど、今はMickの方が好き。
TiMT:ここ(首)の血管がTylerっぽい(笑)。
inui:いわゆるボーカリストが好きなのかな?
MATTON:Liam Gallagher(リアム・ギャラガー)も好きだったし、Julian Casablancasも好きだけど……やっぱりMick Jagger、The Rolling Stonesかなぁ。ストーンズの「何で、これで成立してるんだろう?」っていう感じが好きですね。バンドを始めた頃にこういうのをやりたいって思ったのは、D’AngeloとかThe XX。ああいうミニマルな……D’Angeloは上手いですけど、The XXはその反対にできることが少なすぎて緊張感ある感じ。音数が少なくて、しかも暗いけどキラキラしているものに影響を受けたかな。
inui:トラックメイカーとしてお手本にしてたのは?
TiMT:最初は、Flying Lotusが出てきたあとくらい、インターネットで世界同時多発的にビートメイカーが大量に生まれた時代にヒップホップのトラックをずっと作っていたから、「どこの国の誰?」みたいなヤツらが作るトラックの質感をひたすら耳で聴くみたいなことをやっていて。
inui:その時代のカルチャーの空気感みたいなね。
TiMT:だから憧れみたいなのはあんまり……もちろん最初はありましたけどね。ギターから入ったので、中学2年の頃にX JAPANのHIDEに憧れて。それくらいですかね。
MATTON:要するにないんだよね。
TiMT:本当に指針になるようなのはないね。PEARL CENTERの楽曲で言えば、自分がトラックメイクで過去にやってきたことのエッセンスはほぼない。
MATTON:ゴッドはそれぞれいるけど、でもそれがPEARL CENTERの音楽、自分が音楽をやるうえでそれが指針になっている人はいない……っていうのが、みんなの答えですね。
— ところで、この特集では毎回、撮影前に着用アイテムのリクエストを聞いているのですが、今回はこれまでで一番細かいリクエストだったんです。
全員:(笑)。
— それが面白かったので、服の好みやNGアイテムの理由について細かく聞きたいのですが。
inui:実は、バンドでのスタイリング的な部分はMATTONに全部お任せしていているんです。僕が着る服は全部選んでくれるくらいなので。それはmsdくんもそう。こだわりが強い2人なので、そこはお任せしてます。
msd:最終的にはMATTONがパッケージングしますけどね。そのほうが的確だし早い。みんなもそれがいいって思っているから。
MATTON:TiMTとinuiくんに関しては、2人よりも僕の方が、何が似合うのかわかるんですよ。
TiMT:だから、買い物に行くと自分が手に取らないようなものを「これ、絶対似合う!」って言われて、散々買わされる(笑)。
MATTON:僕もそうですけど、msdくんは移り変わりがありつつも、ちゃんと自分のスタイルがあるから。なので、msdくんには自由にやってもらいつつ、でもこの4人のバランスを考えています。
— 普段とステージでの服装はみんな違いますか?
MATTON:違いすぎないくらいにしています。やっぱり、衣装っぽいものを着ると、どこか”着られてる感”が出ちゃうので。だからある程度、普段着の延長線上って感じにしていますね。僕もたぶん普段よりちょっとだけシュッとさせてるくらい。
msd:僕は逆。ステージの方がラフにしてる。
MATTON:まぁ、俺もバランス次第だけどね。でも、ステージでは動いたときに袖とかパンツのラインがドレープする感じを意識するかも。動いたときにこっちの方が中性的に見えて良さそうだなぁとか。
msd:写真を見ると、MATTONのそういうところはMick Jagger的だなって思う。彼ほどの規模じゃないけど、そういうムードをまとってるボーカルだなって。
— リクエストのなかで驚いたのが、スキニーがNGという……。
MATTON:スキニーとテーパードパンツは穿かない。もちろん昔は穿いてましたよ。2008年とか2009年……もう少しあとか。DIOR HOMME(ディオールオム)とか穿いてた頃はスキニーだったし、テーパードのパンツも5年前くらいには。でも自分の体型を見たとき、全然自分がよく見えないと思ってやめたんです。結果、ストレートが一番いいんだなって。
— ストレートのパンツ以外にこだわりはありますか?
MATTON:リクエストにも書きましたけど、今はヨーロッパの人がやるアメカジみたいな。僕、スウェーデンのブランドが好きなんです。OUR LEGACY(アワー レガシー)とかAcne Studios(アクネ ストゥディオズ)とか。ヨーロッパの人が解釈してる、ちょっと土臭い要素みたいなのが。
— でも、ちょっと洗練されているような。
MATTON:そう。日本人にもそうだし、個人的にもガチガチのアメカジよりはそれくらいの方がしっくりくる。僕は1988年生まれなんですけど、そのあたりから90年代くらいのCOMME des GARÇONS(コム・デ・ギャルソン)がすごく好きなんです。あの当時のCOMME des GARÇONS HOMME(コム・デ・ギャルソン オム)って、今のスウェーデンのブランドにすごく近いと思う。シルエットとか、素材の使い方とか。そのあたりから自分の洋服の価値観が固まりましたね。
msd:前は空き時間に古着屋さんとかセレクトショップに2人でよく行ってたんですよ。
MATTON:レコードはdigったことないけど、古着はずーっとdigってる(笑)。msdくんは今もHELMUT LANG(ヘルムート ラング)とか好きなんでしょ?
msd:HELMUT LANGとNIKE(ナイキ)とChampion(チャンピオン)は、ずっと好きですね。生々しいっていうか、セクシーっていうか。タンクトップにスラックス1枚でカッコいいみたいなスタイルへの憧れから価値観が形成されてきているので。一方で、スウェットのパンツにゆる~いTシャツみたいな、いかにもアメリカっぽいものにもグッとくる。
MATTON:msdくんは古着屋さんで働いていて、僕も今、洋服屋で働いてるんですよ。
— 今もですか?
msd:今もです。実は僕、楽器をやって、CD聴いて、バンドに憧れてっていう流れじゃないんです。ファッションが好きになって、古着屋さんに行くようになって、そこで1960年代の音楽を知って、いろいろdigっていった。それまではJ-POPばっかり聴いていたので、音楽をやろうなんて思ってなかったし。やろうと思ったのは20歳とか21歳の頃。それまでは彼らのカルチャーへの羨望感があって。でも今、一緒に活動できているのは幸運だなと思う。
— そういう経緯もあるんですね。
msd:今、バンドをやってるなんて夢にも思わなかったですからね。その当時は。田舎に住んでいたので、人と違うことやんなきゃと思って……。
MATTON:それがバンドなんだ(笑)!?
msd:誰もいなかったからね。周りに。で、地元でなんとかメンバーを集めてバンドをやり、曲を作ってボーカルもやっていたんです。そのバンドを辞めて東京に来て、すぐにMATTONと知り合って、その半年後には一緒にバンドやることになった。それから5〜6年経つから……面白いもんだなぁって思いますね。
— 古着から音楽に入っていったミュージシャンは初めて聞きました。
msd:そういうお店があってよかったですよ。教えてくれる人がいたので。最初にThe Doorsを好きになって「ジム・モリソン、カッケー!」みたいな。一方ではaiko好きだし。同時並行で(笑)。でも最初、話はそこで合ったんですよ。「SMAPいいよね」とか、「60年代ロックがルーツだよね」とか。同じタイミングで同じブラックミュージックを聴いていたりとか。それがPAELLASに入った経緯。
— ちなみに、皆さんは普段デニムを穿きますか?
inui:恥ずかしい話、僕は服を全然買っていなくて、もらったりしたものをずっと着てる。MATTONが誕生日にくれた服を、放っておいたら10年着ちゃうくらい。それを気にしていろいろと新しい服をくれるんですけど……。今日もデニムを穿いてますけど、これも誰かにもらったもの。でも、デニムって最初に穿いたときは全然似合わないじゃないですか?
MATTON:そんなことないよ(笑)。
inui:僕はそう思ってるから、とりあえず最初は気に入らなくてもずっと穿くようにしてる。今穿いているデニムも、部屋の中で見つけて最初は違和感があったんだけど「ラクだし涼しいからこれでいいや」って夏に穿いていたら今、こんな感じに。ボロボロなんですけど……。このダメージも、転んで破けたんです。
TiMT:デニムらしい穿き方してるよね(笑)。
msd:僕もそんなに買わないですけど、デニムは大好きですね。基本的には持ってるのを穿き潰すっていうスタイルなので、まあまあ長く穿いてるデニムが何本かありますね。
MATTON:今は1本しか持っていないですけど、前はKENZO(ケンゾー)とか、HELMUT LANGとか、A.P.C.(アーペーセー)の廃盤になってるモデルとか、ACNE JEANSだった頃のAcneとか、ちょっとひねくれたやつを安く買って穿いてましたね。
— 今持っている1本はストレートですか?
MATTON:ストレートです。でもデニムは好きですね。一番ロマンがある。
msd:レザーと同じくらいロマンあるよね。
MATTON:今日の撮影ではデニムのセットアップみたいな感じでしたけれど、あれ、ずっとやりたかったんですよ。
— 着こなしが難しいですよね。
MATTON:デニム オン デニムって濃淡のつけ方が難しいけれど、自分でもあのバランスを探そうと思いました。
TiMT:デニムは昔の方が穿いてたかな。高校、大学生くらいのときはずっと穿いてた。破れるまで穿いて、また買って。
MATTON:でも、今日のはよかったんじゃない?
TiMT:ひさしぶりに足にまとわりつくくらいの細いパンツを穿きました。一番スタンダードなはずなのに、逆にすごく新鮮でした。
MATTON:inuiくんは穿いてきたみたいだったよ(笑)。
inui:普段穿いているデニムは僕の形になっているから何も感じないんですけど、新品って抵抗感みたいなのがあるじゃないですか。でも、それも緊張感があっていいですね。
MATTON:デニムは特にその過程を楽しめるからいいよね。ちょっとパリッとして、それがだんだん自分の形になって。
msd:今日は36インチのオーバーサイズをノーベルトで腰穿きして、シューズのタンを出して……って、僕、高校のときにああいう格好をしていたんです。ちょうど第2次裏原の頃ですかね。なんか懐かしいなって思いながら穿きましたけど、デニム独特のパリッとした感じは引き締まりますよね。あれって新品のデニムじゃないと味わえない部分で、背筋が伸びるし、スニーカーもカッコよく見えるし、これは病みつきになるなって……。正直、喰らいましたね。
— 最後に今後の予定や、今考えていることはありますか?
MATTON:コロナのなかで自分たちが培ったというか、会得した技術や感性で新しい作品を作っています。たぶん、フルアルバムとして2021年に出すと思うので、それを楽しみにしていてほしいですね。