Lee『101』とPEARL CENTER – 時代性を超越する新鋭ポップバンドが考えるスタンダード –

by Nobuyuki Shigetake

新進気鋭なラグジュアリー・ストリートの波やインディペンデントブランド、そしてメディアに上がるスタイルサンプルの数々など、さまざまな価値観の混在するなかに身を置く僕らは、たまに何を基準に服を選べばいいかわからなくなることがある。それは服だけでなく、音楽や食べ物においても同様だ。
本特集では、Lee(リー)が開発したデニムの元祖モデル『101』を、スタンダードと所縁のある多様なミュージシャンに着こなしてもらうとともに、“スタンダード”について、彼らなりの記憶を辿りながら再考。
今回は、2019年7月にデビューしたばかりの4人組、PEARL CENTERが登場。結成からほどなくして、コロナ禍によってライブ活動の機会を奪われるも、2020年4月にはデビューEPとなる『Humor』をリリース。その後も3カ月連続でコラボレーションシングルを配信し、12月には新曲”Orion”を発表したばかりだ。いずれの楽曲も透明感と浮遊感が心地よい一方で、そのサウンドは同時代的であり普遍性も感じさせる。そんな、独創的なポップサウンドを繰り出す彼らは、いったいどんな音楽をスタンダードとしてアーティスト活動を続けてきたのだろう。
※本特集内に掲載されている商品価格は、全て税抜価格となります。

Photo:Shota Kikuchi | Styling:Hisataka Takezaki | Hair&Make-up:Masaki Takahashi | Model:PEARL CENTER | Text:Yuzo Takeishi | Edit:Atsushi Hasebe、Nobuyuki Shigetake

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コロナで状況は変わったけれど、バンド活動にとっては得るものがあったかな(inui)

元PAELLASのMATTONとmsd、YOUR ROMANCEのinui、Pistachio StudioのクルーでトラックメイカーのTiMTの4人によって、2019年7月に活動をスタートさせたPEARL CENTER。2020年4月にデビューEPとなる『Humor』を発表し、その後6月からは、Soulflexを皮切りに、AAAMYYYやKan Sanoとのコラボレーション・シングルを3ヶ月連続で配信リリースして注目を集めた。11月7日には結成後初となるワンマンライブを実施。そして、12月2日にリリースされた新曲”Orion”は、幻想的かつストーリー性のあるMVでも話題を呼んでいる。

— 初のワンマンライブはいかがでしたか?

inui:楽しかったですね。ライブ自体も久しぶりだったし。特に今は、お客さんもライブに足を運ぶことが大変だと思うんです。そんななかで来てくれて、会場でも感情表現の手段が拍手しかないなかで、ずっと拍手をしてくれたのがすごくうれしかった。MCでも感謝の気持ちを伝えたんですけど、話している最中に感極まって泣きそうになりましたね。

MATTON:有観客ライブ自体が初めてみたいな感じでしたから。でも、いい意味でやりにくさとか違和感はなかったですね。inuiくんが話したように、お客さんが拍手しかできないなかでも、僕らに気持ちを伝えるように頑張ってくれているのを感じたし。

TiMT:マスクをしているから顔全体は見えないけど、目だけは見えるわけじゃないですか? その眼差しが熱かったんですよね。

inui:僕らが何か言うと「はい」も「いいえ」も言わず、マスクが一斉に上下に揺れるのは不思議な光景でした。みんながルールを遵守してくださったことも含め、非常に尊い体験でしたね。

— PEARL CENTER結成までの流れを教えてください。

MATTON:まだPAELLASをやっていた2018年に、もうちょっとエモーショナルなことをやりたいと思ったのがきっかけです。PAELLASって、いい意味でストイックなバンドだったので。その頃、inuiくんと住んでいたんですけど、彼がやっていたバンドも尊敬していたので、一緒にやりたいなぁと思って。msdくんはPAELLASで一緒に活動していた時期もあったし、TiMTは共通の知り合いから紹介されて、音源を聴いたらよかったので誘ったんです。ただ、最初はバンドっていう形でもなくて……。

TiMT:全員そろったところでバンドの形にならないからね。そもそも役がそろってない。だから、どっちかっていうとプロジェクトっぽい感じで始まりましたね。

MATTON:もっとインディーな感じ。志向もマインドも、やりたいことも。やっていくなかで大きいことができると思ってました。

MATTON
LeeのAMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-446) 13,000円(Lee Japan TEL:0120-026-101)、DAIRIKUのカバーオール 80,000円(4K TEL:03-5464-9321)、その他本人私物

— 音楽の方向性は決まっていたんですか?

MATTON:いや。誰からどう思われようが関係ないくらいの感じ。

inui:単純にみんなで曲を作るのが楽しかったんですよ。

TiMT:どインディーなものをやるんだと思って入ったんですけどね(笑)。PAELLASが解散するまで並行して曲はずっと作っていて、そのなかで変わっていった部分はあります。

MATTON:スタジアムロックとかではないですけど、スケールの大きな楽曲ができてました。でも、2019年はPEARL CENTERとしてはあまりライブができなかったんですよ。活動するっていうことを公表できないまま、でも曲だけはたくさん作っていたので、お客さんの前でパフォーマンスしたり、ちゃんと仕上げて世の中に出したりすれば、もっと大きな反応は得られるんじゃないかと考えてましたね。2019年に2、3本ライブをやって、さて2020年、ここからガッツリ行こうって思っていたところでこんな状況になっちゃった。そういう意味でも11月にワンマンをやれたことはすごくよかったと思う。

— 世の中がかつてのように流れていたら、活動内容は違っていたわけですよね?

MATTON:そうですね。普通にもっとたくさんライブして、地方にも行ってたと思う。でも反面、よかったなって思う部分もあるんです。というのも、4月に出した『Humor』は、ものすごくライブを想定したEPだったんですけど、ちょっと違うなと思って……。

inui:世の中からライブがなくなりましたからね。

MATTON:結局、僕らはライブをやると、原曲をアレンジしてよりライブ感のあるものに昇華できるんですよ。だったら、音源は自分たちがもっとリスニングしやすいものでいいんじゃないかと。ライブでやるときには全然違うものとして聴かせられるわけですから。でも、毎週ライブをやったり、イベントに出続けたりしていると、たぶんそういうことにも気づけない。そういう意味ではよかったなと思う。

TiMT:『Humor』の後、すぐにコラボ3部作ですけど、それもコロナがなかったらやってないと思いますね。

— コラボ3作品は、こういう状況だからこそ生まれた?

MATTON:100%そうです。

inui:コロナ前には、それらの曲自体もなかったですから。

— この3人とコラボすることになった経緯について教えてください。

inui:メンバーが個々につながりのある方にお願いしました。Kan SanoさんはTiMTが仲が良かったり、AAAMYYYはMATTONとすごく仲が良かったり。

TiMT:予想できるものにしたくなかったというか、意外性を狙いたいって思うところもありました。Soulflexは今のシーンで言えば近い部分もあるのかもしれないけど、音楽的にちょっと遠いところにいる人たちとのコラボレーションをどれだけやれるのか。自信があったわけではないですが、進めてみたら面白いものができたので、いい経験でしたね。

— それにしても、デビューEPの次にコラボ作品って……。

TiMT:聞かないですよね(笑)。

MATTON:デビューEPをリリースした翌月にレーベルがその話を持ってきてくれて、それがきっかけでしたから。だから、こういう状況じゃなかったらやってないし、その話を持ってきてくれたことがありがたかった。

TiMT:あの3曲はライブを想定せずに作ったので、それまでのようなライブを想定した曲作りも、そうでない曲作りも、どっちもできるっていう手応えがありましたね。

inui:だから、コロナによって、バンド活動にとっては得るものもあったかなと。

MATTON:絶え間なくライブをこなしているよりも、いろんな技術を身につけることができましたからね。

inui:バンド活動的にもよかったし、個人的にもいろんなことを考える時間がたくさんあったので、立ち止まれてよかったって思える精神状態に、今はなっています。

inui
LeeのAMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-526) 13,000円(Lee Japan TEL:0120-026-101)、08sircusのブルゾン 48,000円(08book TEL:03-5329-0801)、JUHAのTシャツ 8,000円(JUHA TEL:03-6659-9915)、MOONSTARのスニーカー 8,000円(MOONSTAR CUSTOMER CENTER TEL:0800-800-1792)、その他本人私物

— メンバー全員が曲を作れるということですが、曲作りにあたって意識していることはありますか?

MATTON:今はもう、TiMTがメインソングライターですね。

inui:最初に話していたのは、読後感みたいな感じだよね。”聴後感”じゃないけど、人が聴いたあとにどういうふうに感じるか、どういう景色が浮かぶのかを考えながら作るっていう意識が僕にはあって、それはメンバー全員がシンパシーを持ってくれています。

TiMT:僕はトラックメイカーなので職人っぽい要素も強くて、感性を基にしてるところがあるにはあるんですけど、不足している部分をみんなが補ってくれるので、単純にトラックメイクを1人でやるのとは違うんですよ。本当の意味での作曲だと思いますね。

MATTON:テクニカルな意味での正解至上主義じゃない。

inui:表したいことがみんな見えるんですよ。メンバー全員、それぞれに音楽が好きだし、映画とか芸術とか、いろんなものに触れることが好きな人たちだから、そういうものに対するフィーリングとか思いとかイメージっていうのがあるので、そこはすごくいいなって思う。もちろん、イメージを具現化するのにテクニカルな部分も使いますが、目的があって手段があるっていうのは忘れないようにしていますね。

— 新曲”Orion”をリリースされましたが、この曲に込めた思いは?

MATTON:トラックはもう……。

inui:『Humor』よりも全然前。

TiMT:1年以上前からあった曲かぁ……。やっぱり、PAELLASが解散するまでに作っていた楽曲って、ストックが大量にある(笑)。

MATTON:”Orion”はトラックがすごく強い曲だったので、シングルカットとかそういう曲だと思っていたけれど、「出すタイミングっていつなんだろう?」ってずっと話していたんです。で、コラボ3部作をやって、そのあと、ある程度ちゃんと強い曲を出さないといけないっていう思いもありつつ、一方で強い曲をとっておきたい気持ちもあったので寝かせていたんですけど、今だったらそういう曲を作れる自信や信頼もあるので、どんどん出して行ったほうがいいかなって。曲自体は短いけど、結構ビートも強いし、映像的。そういうところは自分たちらしい曲かな。

— ”Orion”は駆け抜けていく感じがありました。

MATTON:曲はやっぱり短いほうがいいじゃないですか。8分とか9分ある曲も好きですけど。

TiMT:短くする術と、短くしつつも短さを感じさせない術をいかに身につけるかっていうのが今年のテーマ。できる限り4分を超えないっていう意識を持ちつつ、そのなかで4分を大事に使うっていう。