Lee『101』とyonawo – 福岡発の新鋭ネオ・ソウル・バンドが考えるスタンダード –

by Nobuyuki Shigetake

新進気鋭なラグジュアリー・ストリートの波やインディペンデントブランド、そしてメディアに上がるスタイルサンプルの数々など、さまざまな価値観の混在するなかに身を置く僕らは、たまに何を基準に服を選べばいいかわからなくなることがある。それは服だけでなく、音楽や食べ物においても同様だ。
本特集では、Lee(リー)が開発したデニムの元祖モデル『101』を、スタンダードと所縁のある多様なミュージシャンに着こなしてもらうとともに、“スタンダード”について、彼らなりの記憶を辿りながら再考。
今回は、2017年に福岡で結成され、2020年11月にファーストアルバム『明日は当然来ないでしょ』をリリースしたばかりの4人組、yonawo(ヨナヲ)が登場。結成の翌2018年に自主制作した2枚のEPは即完売し、2019年11月には早くもメジャーデビュー。しっとりと哀愁漂うサウンドから”新世代ネオ・ソウル・バンド”とも形容されるyonawoだが、彼らの楽曲の数々は実に独創的。彼らはいったいどのような音楽をスタンダードとして捉え、多くのネオ・ソウル系アーティストとは一線を画するサウンドを生み出しているのだろうか。
※本特集内に掲載されている商品価格は、全て税抜価格となります。

Photo:Shota Kikuchi | Styling:Hisataka Takezaki | Hair&Make-up:Junko Kubo | Model:yonawo | Text:Yuzo Takeishi | Edit:Atsushi Hasebe、Nobuyuki Shigetake

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「引っかかりのあるものが気持ちいい」って思ってる(荒谷翔大)

荒谷翔大(ボーカル)、斉藤雄哉(ギター)、田中慧(ベース)、野元喬文(ドラム)の4人によって、2017年に福岡で結成されたネオ・ソウル・バンド、yonawo。2018年にリリースした自主制作EP『ijo』と『SHRIMP』は即完売。その後2019年にはメジャーデビューを果たし、2曲の配信限定シングルを経て、2020年4月にはミニアルバム『LOBSTER』をリリースした。その後もコンスタントに作品を発表し、去る11月11日にはついにファーストフルアルバム『明日は当然来ないでしょ』をリリース。多くのミュージシャンからも支持を得るなど、注目を集めている。

— まずは結成の経緯から聞きたいのですが。

荒谷翔大(以下、荒谷):僕と(斉藤)雄哉が中学のとき、サッカーのクラブチームで出会ったのがきっかけですね。次第に音楽の話で盛り上がるようになって、雄哉の家にはギターやピアノ、レコードもたくさんあるという話だったので遊びに行くようになったんです。お互いにThe Beatles(ザ・ビートルズ)が好きで「バンドやりたいね」って、当時から話してました。ただ当時はずっとサッカーをやっていたから音楽はできなくて……。高校に行ってからですね。本気でバンドをやりたいっていう雰囲気になったのは。しばらくして雄哉が高校2年のときに編入して、2人(田中慧、野元喬文)と出会ったんです。

— そこがyonawoの結成につながるのですね?

荒谷:最初は「バンドをやろう」っていう感じではなかったんですよ。集まって音楽を聴いたり、食事に行ったりして。その後、僕が高校を卒業してバンクーバーに留学して、そのタイミングでギターとドラムと僕が決まったんです。「ベースをどうしようか?」って話していたら慧が「やる」って言ってくれて。ベースは演ったことがなかったのに立候補してくれたんです。

田中慧(以下、田中):一緒にバンドをやりたかったんですよね。

— 野元さんはずっとドラムを演っていたのですか?

野元喬文(以下、野元):いや、全然。もともと和太鼓を演っていたんですけど、高校に入った頃は音楽に興味がなくて、慧にいろいろ教えてもらっていたんです。そこから音楽に興味を持つようになって、いざ楽器を演ろうとなったときに、できそうなのも、やりたいと思うのもドラムだったという感じです。

斉藤雄哉(以下、斉藤):でも、よくドラムを演ろうと思ったよね(笑)?

荒谷:それでようやくメンバーが揃ったんです。19歳のときですね。

荒谷翔太(Vo.)
LeeのAMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-446) 13,000円(Lee Japan TEL:0120-026-101)、FACCIESのニットカーディガン 46,000円(4K TEL:03-5464-9321)、RIVORAのハイネックカットソー 22,000円(STUDIO FABWORK TEL:03-6438-9575)、ayameのメガネ 40,000円(ayame Co.Ltd. TEL:03-6455-1103)、その他本人私物

— 音楽が好きでつながったということですが、The Beatlesが軸になったのですか?

荒谷:僕と雄哉はそうですけど、2人は違いますね。

野元:当時はThe Strokes(ザ・ストロークス)とか……。

田中:Arctic Monkeys(アークティック・モンキーズ)とかFoo Fighters(フー・ファイターズ)とか。

野元:1990年代から2000年代くらいのバンド。最初はガレージロックとかオルタナティブとか、激しいのを好んで聴いていたけど、徐々に落ち着いた音楽も聴くようになりました。とはいえ、ガレージもただ激しいだけじゃなくて、メロディが面白いバンドを聴いてましたね。

— バンドを結成して、今ではネオ・ソウル・バンドと呼ばれていますが、そうした音楽性に行き着いたのにはどういったきっかけがあったのですか?

田中:だんだんと聴く音楽が変わってきたというのは、まずありますね。

荒谷:僕がバンクーバーから帰ってきてから、雄哉がJohn Coltrane(ジョン・コルトレーン)とかChet Baker(チェット・ベイカー)をクルマでかけてくれて、それを聴いて「カッコいいな」って思い始めてからですね。それに、ロックでもアルバムに1〜2曲はメロウな雰囲気というか、ゆったりとしたスローバラードがあるじゃないですか? 昔からああいった楽曲が好きだったこともあって、結果的に作る曲も今みたいな傾向になってるのかなぁとは思います。

— バンド名は共通の友人の名前からということですが……。

荒谷:名字がヨナオくんなんですよ。

— なぜ、その友達の名前を付けたのですか?

荒谷:それこそ中学の頃は一緒のクラブチームで、雄哉はずっと幼馴染みなんです。彼も音楽が好きで、中学の頃から僕らよりも幅広く音楽を聴いていて、いまだにいろいろ教えてくれます。

高い汎用性が特徴の『101』は、襟付きのニットカーディガンやヒールブーツなどの80’sライクなアイテムとも相性が良い。

— では、音楽で影響を与え合っていることも?

荒谷:すごくあります。バンドを組もうとした頃、彼はベースを担当していたんですけど、結果、あんまり練習をしなくて(笑)っていう関係です。

— 2017年に結成してからメジャーデビューまでがとても早いように感じたのですが、みなさんの実感はいかがですか?

荒谷:ほかの方と比較ができないので、どんな感じで進んでいったのかわからないのですが、僕たちとしては焦りがありましたね。

田中:でも、音源を出してからはスムーズだったように思います。

斉藤:配信を始めてからはすごいスピード感でしたね。

— メジャーデビューしてから大きく変わったことはありますか?

田中:いろんなところでライブができるようになりましたね。

斉藤:周りの接しかたが変わった。以前はバンドやってるって言ったら「あぁ、そうなの?」っていう感じだったけど、今はそうじゃない。

斉藤雄哉(Gt.)
LeeのAMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-500) 12,000円(Lee Japan TEL:0120-026-101)、HOMELESS TAILORのコート 98,000円(OVERRIVER TEL:03-6434-0922)、YOKEのニット 36,000円(STUDIO FABWORK TEL:03-6438-9575)、Parabootのローファー 65,000円(Paraboot AOYAMA TEL:03-5766-6688)、その他本人私物

— ファーストアルバム『明日は当然来ないでしょ』が11月11日にリリースされましたが、制作はいつ頃スタートしたのですか?

田中:1月にスタートして、8月に完パケ。だいたい半年くらいですね。

— 曲はアルバム用に書き下ろしているのですか? それとも日々書き溜めている感じですか?

荒谷:書き溜めているほうだと思います。ただアルバム用に書いた曲もあるので、今回はミックスですね。すでに書いてあった曲をみんなでアレンジし直したりとか。基本的には僕が作詞と作曲をするので、軽いデモを作って流れも決めてからみんなに聴かせて、そこからアレンジしていく感じですね。でも今回は慧が作った“cart pool”があって、新鮮な感じになっていると思います。

— ”cart pool”は、ほかの曲とは違った音色になっていて、アルバム全体を通して聴くと心に引っ掛かりを残してくれるような印象を持ちました。

田中:自分のイメージとしては、自分のなかの記憶に溺れていくような、沈んでいくような、そういった感覚でサウンドを選びました。

— アルバムの中盤にあのサウンドが入ることによって印象が変わりますね。

田中:それができてよかったと思います。これまでは、荒ちゃん(荒谷)に曲を0から1にするところを任せていたので、その作業を自分が行うことによってアルバムにどういった影響が出るのだろうと思っていたんです。

荒谷:”cart pool”が完パケしたときに全員「この曲は真ん中にくるよね」っていう感覚はありましたね。「切り替わる曲なんじゃない?」っていう。

— ミニアルバム『LOBSTER』に続いて、今回のアルバムジャケットも野元さんが描かれたのですか?

野元:『LOBSTER』をリリースした後に「yonawo塗り絵チャレンジ」っていう企画を考えたんです。ファンに塗り絵をやってもらってそれをジャケットにする内容なんですけど、僕が描いたのは赤ちゃんの線だけで、隣のモチーフはファンの方が付け加えて色も塗ってくれたものなんです。

荒谷:色を塗るだけでもいいし、アレンジをしてもいいっていう感じで募集したらこういうモチーフが付いている作品が届いたんです。すごくステキですよね。

— この赤ちゃんには特別な意味が込められているのですか?

野元:赤ちゃんのつもりではないんです。地球という1つの星のなかにたくさんの人やたくさんの生物がいて、それを全部つなげるものみたいなイメージ。すべての生き物が帰着する物体みたいな感じです。

荒谷:一緒に話しながら描いてもらったんですが、いろんな視点から物事を見ることができるようなモチーフを表現している感じですね。

— そのイメージにして『明日は当然来ないでしょ』という、ネガティブにも受け取れるようなタイトルですが、このタイトルにした理由を教えてください。

荒谷:ジャケットとの関連性はないんです。雄哉が「小説みたいなタイトルってカッコいいよね?」って言ったことを受けて、僕がパッと思いついたタイトルなんです(笑)。意味は、自分のなかにはあるんですけど、そこはあえて言わないようにしています。ただ1つだけ言えるのは、ネガティブではなく、希望にあふれている言葉ということです。

— 今回のアルバムに収録されている“蒲公英”や、ミニアルバムにあった“矜羯羅がる”を漢字表記にしているのはなぜですか?

荒谷:見た感じの文字面ですね。タイトルを通して見たときに”蒲公英”って平仮名で書いてもカタカナで書いても違う感じがして……。”矜羯羅がる”は単純に「こんな漢字あるんだ!?」っていう。驚きをみんなで共有したいっていうのはありますね(笑)。

ワンウォッシュの『101』が美しいブルーグラデーションのスタイリングをキリッと締める。

— ”cart pool”のサウンドも漢字のタイトルもそうですが、必ずどこかに引っ掛かりを残そうと意識していますか?

荒谷:それは絶対にあります。メンバーにデモを聴かせると「ひねくれてない?」って言われますし。たぶん、自分のなかでも「引っかかりのあるものが気持ちいい」って思ってるんだと思います。普通に流したくはないんですよね。