Lee『101』とARM – 異世代が融合した新プロジェクトにとってのスタンダード –

by Nobuyuki Shigetake and Mastered編集部

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ARMができたのは、そのタイミングだったから(RYO-Z)

「部室で作っているような」とRYO-Zが話すように、ARMは世代を感じさせない和気あいあいとした雰囲気を持ったプロジェクトだ。一方で、「聴いてきた音楽が違う」のも事実。彼らはそれぞれどんな音楽をスタンダードと捉え、ARMとしてのベースはどこにあるのかを探った。

— この特集はLeeの『101』にちなんで”スタンダード”をテーマにしているのですが、みなさんにとってのスタンダードな音楽とはどのようなものですか?

RYO-Z:スタンダードな音楽……酒、かなぁ……。

全員:(笑)。

RYO-Z:酒だけがブレない。あとはいろいろ変わっていく(笑)。でも、MGFってそこまでがぶがぶ飲むタイプじゃないよね。俺と陽一郎さんは、明るい時間までいっちゃうこともあるけど……。

伊藤:そこに世代間が生まれてる(笑)。

RYO-Z:俺と陽一郎さんにもありますからね? 俺のなかで陽一郎さんはバケモノですから。一度、夕方に呼び出されて行ったら、ものすごい量のアテと酒があって「何時くらいから飲んでるんですか?」って聞いたら「昨日」って言ってたからね。

伊藤:でも、音楽のスタンダードって聞かれると分からないけど、僕にとっては制作してることですね。1日中制作してますから。それと、最近は絵を描くんですが、絵を描いて曲を作って、夕方になったら料理するのが定番ですね。

RYO-Z:クリエイティブな毎日ですね。

伊藤:クリエイティブなことしかしない。

MGF
KSK、1010、Japssyの3MCによるラップクルー。ささやかなユーモアと秘めたる闘志で退屈な日常を痛快に切り開いていく、モラトリアム群像劇を展開。2016年には1stアルバム『Float in the Dark』をリリース。2019年には2ndアルバム『Real Estate』をリリースし、自主企画イベントである『Modern Groove Fashion』も、好評を博している。
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— 絵の話が出ましたが、今回のジャケットも伊藤さんが描かれたんですよね? それは自ら?

伊藤:(自分から)やると。下描き線もあえて残してて、ほぼ修正なしなんですよ。

RYO-Z:顔を描くっていうから、おどろおどろしい顔になるんじゃないかと思ってたら、すごくカワイイ感じになってた(笑)。

伊藤:まぁ、”それぞれのサタデー”がカワイイ感じの作品だからね。これでおどろおどろしいジャケットはちょっと……ね(笑)。そしたら、デザイナーの友だちがロゴを作ってくれたりして。

— MGFにとってのスタンダードな音楽はありますか?

KSK:ロックにせよ、ヒップホップにせよ、ジャンルはとらわれていないんですよ。オールジャンル聴くので。だけど、やっぱりラップが入ってる曲のほうがスタンダードなのかなぁ。最近はエレクトロとかもよく聴くんですけど、ラップ調の曲のほうがスタンダードなのかと思いますね。でも、ジャンル的には本当に雑食です。

伊藤:それは録音しながら感じましたね。Japssyのラップを聴いて、「あぁ、いろんな音楽聴いてるんだなぁ」って。

RYO-Z:そうですね。オーソドックスなラップって感じじゃないもんね。

伊藤:その価値基準がスタンダードなんでしょうね。オールジャンル感とか。まぁ、僕らもそうなんですけど。

RYO-Z:僕らも若い頃、The Pharcyde(ファーサイド)みたいになりたくてRIP SLYMEを始めたからね。The Pharcydeって亜流なグループだったから、今回、Japssyのラップが入ってきても全然違和感がなくて、むしろ「ロマイとかイマーニみたいな感じだよね。雰囲気あるなぁ」って思った。だから僕も「今回はどんなふうにいこうかなぁ」っていう気持ちにもなれた。自分自身、ラップとかあんまり聴きたくない時期もあったんです。でも、自分が音楽をやるうえではラップくらいしかできるものがないからラップをやるし、それにこうやって録音してると「最近はどんなのがあるのかなぁ」ってラップを聴いたりもするし……。俺はやっぱりラップ!(笑)

伊藤:さっき、酒って言ってたじゃん。酒と書いてラップと読むみたいな?(笑)

KSK
AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-500) 12,000円(Lee Japan TEL:0120-026-101)、MGFのスウェット 6,500円(MGF SHOP)、その他本人私物

— 普段のファッションについて聞きたいのですが、ライブと日常の服装は意識的に変えていますか?

RYO-Z:僕はわりと地続きになっていますね。動きにくいものは、まずイヤ。こだわりはないですけど、いつの時代でもタイトな格好はしたことがないと思う。好んでスーツを着るっていうこともないし。動きやすければいいかなぁ。

KSK:僕らも地続きじゃないですかね。私服で出てますから。最近は服も自分たちで作ってるので、それを着たり。あとはCOOTIE(クーティー)と仲良しなので、彼らの服を着たりとか。。

伊藤:僕はもう変遷だらけですよ(笑)。U.F.O.(United Future Organization/ユナイテッド・フューチャー・オーガニゼイション)近くにいた頃はPLANET PLAN(プラネットプラン)とか、スーツでしょ? 今は本当に地続きになったんですよ。歳をとっていって。でも、全体的にファッションがそうじゃないですか? そんなにフォーマルじゃなくなりましたよね?

RYO-Z:それにファッション関係の人もいっぱいいるし。MGF自体もそうだし。僕なんかも430(フォーサーティー)とかは普通に着させてもらえるから、買い物もあんまり行かなくなっちゃったかな。

伊藤:展示会に行くからね。あ、最近は古着屋に行きだした。楽しいんですよ。

RYO-Z:古着屋は僕も行きますね。もう、古着じゃないんですよ。僕らにとっては。

伊藤:新古品みたいな感じ。デッドストックも買うし。しかも結構安くてびっくりする。海外のものも面白いし、レディス、メンズ問わず買いますね。

RYO-Z:リアルタイムで着てたものが一周してるから。今のコたちが新しいと思って着てるようなものが、「おぉ、それ、俺たちが着てたようなやつ!」みたいな(笑)。それで、自分も「懐かしい」って思いながら着てみたり。

伊藤:ファッションの構成も昔と比べて変わったじゃないですか。音楽と同じですよね。ジャンルがそんなに厳しくなくなったというか。だから楽しいんですよね。

Japssy
AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-500) 12,000円(Lee Japan TEL:0120-026-101)、crepusculeのホールガーメントベスト 15,000円、O -のロングスリーブTシャツ 14,000円(ともにOVERRIVER TEL:03-6434-0921)、ASICSのスニーカー 19,000円(ASICS JAPAN TEL: 0120-068-806)

— デニムを穿くことは?

伊藤:最近は穿いてないんだけど、今日穿いて「あ、このサイズでいいんだ!」って(笑)。今、買う気満々です。

Japssy:僕も最近は穿いてないですね。昔はよく穿いてたんですけど、今は金なくて……。

全員:(笑)。

Japssy:ノンウォッシュのデニムとかって高いイメージがあるんですよ。高校生の頃は無理して買ってたけど、今日穿いてみて、やっぱりいいものはいいなぁって思った。

RYO-Z:いいものって長く穿けるんだよね。俺も今日、アウトドアブランドの高機能インナーを着てるんだけど、20年前に買ったのにまだ暖かい! 安い下着は毎年買い替えなきゃいけないんだけど、これはすごく保つなぁって。

伊藤:長く生きてるとあるよね。30年前に上京したときに買ったタオルとか、いまだに使ってるもん。

RYO-Z:スタンダードだ(笑)。でも、デニムって流行り廃りがないじゃないですか。時代によってシルエットがタイトだったりワイドだったりっていう変遷はあるにしても、とっておけばまた穿けるようになるからね。

伊藤:問題はウエストだけどね。

RYO-Z:それはね。変わっていくから。入らなくなるもんなぁ……。

1010
AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-500) 12,000円(Lee Japan TEL:0120-026-101)、Marvine Pontiak Shirt Makersのサイドベンツシャツ 39,000円(OVERRIVER TEL:03-6434-0921)、WELLDERのパーカー 21,000円(O Daikanyama 2 TEL:03-6455-3361)、CONVERSEのスニーカー 5,800円(CONVERSE TEL:0120-819-217)、その他本人私物

— ところで、MGFから見た伊藤さんやRYO-Zさんはどんな存在ですか?

KSK:僕らがその年代になったとき、「そういられるのか?」って思うくらい若いですね。

Japssy:東京で一時代を作った人たちっていうイメージですね。

KSK:重鎮感っていうか……。

Japssy:重鎮感があるんだけど、実際に会ってみたら自分よりもバイブスが若いから、そのギャップがけっこううれしかったっていうか。

伊藤:でも、中学のときに聴いてた人といっしょにやるってすごいよね。俺がYellow Magic Orchestra(イエロー・マジック・オーケストラ)とやるようなもんだからね。そう考えるとすごく変な感じがするよね。

RYO-Z:俺がユニコーンといっしょに曲やってると考えたら、ものすごい緊張するなって思う。

KSK:でも、その感じだと思いますよ。中学のときに”楽園ベイベー”がめちゃくちゃ流行って、みんな知ってるわけですよ。でもそのときは、将来、曲をいっしょに作るなんて思ってもいないわけじゃないですか。だから、その当時の思い出が不思議な感じで蘇ってくるわけですよ。

伊藤:中学生の俺に教えてあげたいっていうね。

合わせる洋服を選ばないのも『101』の特徴。サイジング、テイストが異なる三者三様のスタイリングでも、この通り。

— 今回が第1弾シングルということですが、第2弾、第3弾については?

伊藤:そこまでは考えていないんですよ。そうやって考えるのって良くない感じがして。今回の”それぞれのサタデー”と同じようなテンションで、ひらめいたりとか、ノリでやるテンションとか、「こんなトラックができたから」みたいな感じにしないとファーストを超えられないって話になっちゃうから(笑)。

— アルバムの制作も考えていない?

伊藤:考えてないですね。だって、今のご時世、アルバムは大変です(笑)。

— 今回のARMを経験したことで、MGFの活動に何かしらの影響はありそうですか?

KSK:結成した感があんまりないですからね。

全員:(笑)。

RYO-Z:結成っていうより、楽しくセッションしたものがこういう形でパッケージされた感じですね。

KSK:さっき、陽一郎さんも言ってましたけど、パッとひらめいたときに集まって、ノリでできる感じがすごくいいなぁって。

Japssy:ちょっと上の世代が聴いてたグループの曲とかをサンプリングしてみるとか、年上の人たちとやったほうが面白いなとは思いますよね。幅が広がるし。

RYO-Z:でも、僕が彼らと同い年くらいだったら絶対にできてないと思うんだよ。今回ARMができたのも、そのタイミングだったからこそ、陽一郎さん、俺、MGFで生まれたんだろうと思う。

伊藤:1年は大切だったってことですね(笑)。