Lee『101』とPolaris – ”光”を放ち続けるデビュー20周年のアーティストが語るスタンダード –

by Nobuyuki Shigetake and Mastered編集部

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70歳になっても、今と同じような感覚で活動していたい

EP”光”で聴かれるようなスタイルは、まさにPolarisのオリジナリティであり、魅力の1つである。しかし、20年の活動期間のなかでリリースされた楽曲を紐解いていくと、当然のことながらその内容は多彩。いったい、バンドの中心メンバーであるオオヤユウスケは、どういった音楽をスタンダードとしながらPolarisの独創的なサウンドを生み出しているのか。彼の音楽遍歴について聞いた。

— この特集はLeeの『101』にちなんで”スタンダード”をテーマにしているのですが、オオヤさんにとってのスタンダードな音楽とはどういうものですか? 以前、「音楽の聴き方が雑食的」と答えているのを見たことがあるのですが……。

オオヤ:すごく難しいですねぇ……。本当に雑食的なので……というのも自分は、例えば「The Beatles(ザ・ビートルズ)が好きで音楽を始めました」っていうタイプではないんです。もちろんThe Beatlesも好きなのですが、一方でテクノも好きだったし、ジャズも聴いていたし、パンクも好きだった。その年齢での衝動的な聴きかたをしてきたんだと思います。今、ラジオの番組をやっているんですけど、とんでもない選曲になることがあるんですよ。エクスペリメンタルな音楽のあとに突然Norah Jones(ノラ・ジョーンズ)を流して、レゲエを挟んでクラシックで締めるとか。ただ1つ言えるのは、ちょっと毒のある音楽が好きっていうことですね。一聴して爽やかに聴こえるけど、ものすごい言葉が投げ込まれているような音楽とか。だから逆に、形式張っている音楽は聴けないですね。それと、音楽をやり始めたきっかけは、録音するのが好きだったからというのはあります。

AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-500) 12,000円、AMERICAN RIDERS 101J(LM0521-100) 12,000円(ともにLee Japan TEL:0120-026-101)、STILL BY HANDのコート 36,000円、ボーダーロンT 10,000円(ともにSTYLE DEPARTMENT TEL:03-5784-5430)、BLOHMのシューズ 31,000円(STUDIO FABWORK TEL:03-6438-9575)

— 自身の楽曲の録音ですか?

オオヤ:自分の楽曲です。僕はもともとチェロを演っていたのでクラシックも好きなんですけど、1970年代から1990年代初頭くらいまでのクラシックは謎のリバーブが加えられていて、変な距離感とか妙なオフマイク感があって、それがすごく嫌だったんです。生で聴こえるのはゴリッとした音ですからね。

— チェロは子どもの頃から演っていたのですか?

オオヤ:高校生のときまでです。でも、その頃はバンドもやってましたから。

— 当時のバンドではどんな音楽を?

オオヤ:ジャパニーズ・ハードコアのコピーバンドでした(笑)。その当時はメロコアも流行り始めていたのですが、僕は少し前の時代の、ややノイジーなバンドをカバーしていましたね。GAUZE(ガーゼ)とかLip Cream(リップ・クリーム)とか。違うジャンルだけど、LÄ-PPISCH(レピッシュ)もコピーしたけど難しくてできなかったり。

— 今もよく聴く音楽はありますか?

オオヤ:子どもの頃にクラシックをやっていた影響だと思いますが、ジャンルを問わず、ピアノ音楽とか弦楽器が入ってるものとかは自然に聴いてますね。楽器の生音が好きなのかもしれない。

— そういった聴取体験がPolarisの曲を作るうえで大きく影響していると感じることは?

オオヤ:Polarisはレゲエ的な要素がある一方で、ミニマルな音楽の要素もある。自分としては生のバンドで演りつつも、ハウスとかテクノが好きだったからその雰囲気を楽器で表現しているようなところがあるんですよ。中学生のとき、最初にギターでコピーしたのがKraftwerk(クラフトワーク)なのですが、そういったスタイルが今も活きているんだと思います。KraftwerkとかYellow Magic Orchestra(イエロー・マジック・オーケストラ)は中学生の頃によく聴いてましたからね。

リジッドの『101Z』に合わせたのは、セットアップとして着用が可能なデニムジャケット『101J』。ハードな印象になりがちな上下デニムのスタイリングには、ニュアンスカラーのコートをレイヤリングすることで柔らかさをプラス。

— たしかに、Polarisはバンドで演っていても電子音楽っぽさがありますよね。

オオヤ:最近はバンドの録音ってコピペするし、貼り付けて作ることが多くなってますけど、ウチのバンドって基本的にはほとんどフレーズが変わらない10分の曲でも弾きとおすようなところがありますからね。

— 普段のファッションについて聞きたいのですが、好みのスタイルはありますか?

オオヤ:ライブのときは何かしらちゃんとスイッチを入れるようにしているんですけど、その代わり、オフは生活に密着したスタイルですね。ちゃんとした場でも家の近所に出るときでも、地続きになっているほうが落ち着くので。よく、外国の人が半袖Tシャツの上にダウンジャケットを着ているじゃないですか。最近はああいうのがいいなって思っていたり(笑)。

— デニムというアイテムについては?

オオヤ:いつも穿いてます。それこそスタンダードなデニムから、デザインされているものまでいろいろありますが、どれも好きですね。僕が大学生の頃に古着が流行って、当時はデニムって洗わないものだったけど、最近は綺麗に履くようになっていたり、時代によって着こなしとかシルエットも変わっていったりするアイテムだなって。

— そういったトレンドは意識しますか?

オオヤ:音楽もそうですけど、わりと人がどういう格好をしているのかを見るのが好きなんです。流行っているからこれを穿くということはないですけど、音楽をやっているからか人の髪型とかデニムの丈感に目が向いていて、自然に意識しているのかもしれないですね。

— この先のビジョンについて教えてください。

オオヤ:音楽を仕事にしてからずっと決めていることがあって、70歳になってもアルバムをリリースしてツアーをしてっていう、今と同じような感覚で活動することを目標にしているんです。だから何かなければPolarisは当然続いていると思います。やめる理由もないですから。ただ、70歳って結構先なんですよね。僕は21歳くらいでデビューしていて25年近く活動しているので、ようやく半分。若い頃は瞬発力がありましたけど、この先は衰えもあるので目標設定としてはハードルが高いと思うんですけど、それだけは実現させたいですね。

— デビューした頃からそういう意識を持っていたのですか?

オオヤ:大学生の頃から自分のなかで勝手に決めていたんですよ。「そこに向かっていくために、今これくらいはしておかなきゃ」って設定したり。だから、今年は結成20周年って言ってますけど、「むしろ21年目、22年目のほうが大事だね」っていう話をマネージャーとするんです。そうなると、20周年は分かりやすいお祭りみたいな形にはならないかもしれないし、アルバムも斬新な内容になるかもしれない……そういう可能性もありますね。2020年の前半はアルバム制作が大きいですが、その後はツアーも出来ればと思っています。今のPolarisを見せるのはもちろんですが、ここまでの足跡を感じてもらう内容だったり、今まで聴いていただいた方に感謝するような何かができたりするといいなぁとか、アイデアを出している最中です。基本的にPolarisってひねくれたバンドなんですけど、最近は意外と素直になってる感じもありますね(笑)。

Polaris
オオヤユウスケと柏原譲(Fishmans/So many tears)によるロックバンド。2001年にミニアルバム『Polaris』でデビュー以降、5枚のフルアルバムをリリース。FUJI ROCK FESTIVALほか野外フェスに多数出演し、ライヴバンドとして高い評価を得ている。オオヤユウスケの浮遊感のあるヴォーカル、ポストロックやレゲエ/ダブの要素、そして強靱なリズム隊が生み出す圧倒的なグルーヴによって生み出されるPolaris独自のサウンドで多くの支持を獲得している。2018年、6枚目のフルアルバム『天体』をリリースし、2019年12月3日『光』EPをリリース。