Lee『101』とKIRINJI – 進化を止めないポップス・アーティストが語るスタンダード –

by Nobuyuki Shigetake and Mastered編集部

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ポップスって、危うさや際どさを持っていることが魅力だと思う

『cherish』はプログラミングを強調したサウンド・プロダクションが印象的な作品だが、一方では単なるポップスにとどまらない、振り幅のある楽曲と緩急のある構成が魅力的な1枚でもある。とりわけ『ネオ』以降のKIRINJI作品ではこのクリエイションが顕著だが、現在、ほぼすべての楽曲の作詞・作曲を行う堀込高樹にとってのスタンダードな音楽とは何なのだろう。

— この特集はLeeの『101』にちなんで”スタンダード”をテーマにしているのですが、堀込さんにとってスタンダードな音楽とはどのようなものですか? 『cherish』を聴くと、堀込さんのスタンダードが掴みきれないのですが……。

堀込:あまり意識したことはないですね。『cherish』は「どうすれば今どきっぽくなるか」を考えて、頑張ってその方向に寄せていったのですが、ぼんやりと曲を作り始めると、Todd Rundgren(トッド・ラングレン)とかCarole King(キャロル・キング)みたいになりがちなんですよ。で、ぼんやり作っているとそういう曲ばかりできてしまうので「これじゃいかん!」と思っていろいろやるんですけどね(笑)。そう考えると、ああいった1970年代のシンガーソングライター的なものが、自分のなかでの基準になっているのかなという気はします。

AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-500) 12,000円(Lee Japan TEL:0120-026-101)、steinのドリズラージャケット 68,000円、ベルト 15,000円(ともにcarol TEL:03-5778-9596)、SOWBOWのシャツ 23,000円(VA-VA TEL:03-6434-1373)、Parabootのレザーシューズ 65,000円(Paraboot AOYAMA TEL:03-5766-6688)、その他本人私物

— それは、子どもの頃にそういった音楽に触れる機会が多かったからですか?

堀込:むしろ、曲を書き始めた頃によく聴いていたのが、そういった音楽だったという感じです。小さい頃から父親のレコードとか、ラジオから流れてくるものは好きでしたが、自分で楽器を演って、曲を書くようになってからは、1970年代のシンガーソングライターが作る曲をモデルにしていた時期がわりと長かったですから。

— そういった音楽に触れたきっかけは何ですか?

堀込:それもラジオです。僕が中学生のときはFMがブームでしたからね。エアチェックして、カセットテープのインデックスを書くとか。今はあまりないですが、当時はNHK-FMとかでアルバムをまるまる1枚かけてしまうような番組があったんですよ。音質はさておき、それをエアチェックすれば貸レコードにも行かなくてよかったし。新しいものから古いアルバムまで流れていたので、FMのおかげでいろんな音楽が入ってきました。

— 普段のファッションはどのような感じですか? 堀込さんはトラディショナルなものを着ている印象があるのですが。

チェックオンチェックのストレンジな組み合わせからクラシックな表情を引き出すのが、Leeの『101』。
ワンウォッシュの質実剛健なたたずまいは、ボリューミーなレザーシューズにもよく似合う。

堀込:わりと”そうなりがち”だったんですよ。今は、それが1周回って飽きてきた感じで……。だからBarbour(バブアー)とかも着てたんですけど、ちょっと飽きたからやめようと思って違うものを買いに行ったはずなのに、結局ダッフルコートを買ってるっていう(笑)。どうにかしてそこから逃げたいのに、なんだか逃れられないみたいな。

— トラディショナルが好みではないんですか?

堀込:好みなのかなぁ……。好みだとは思うんですけど、トラッド的な服装って、オシャレにこだわるおじさんがしがちなファッションじゃないですか(笑)。だから、そこは避けたいと思いつつも、ダッフルコートを買ってる……っていう感じです。新しい素材のものを着たいとか、新しいシルエットのものを着たいとは思っているんですけどね。

— デニムを穿くことは?

堀込:昔はむしろ何も考えずに穿いていましたね。Leeも、型番は忘れましたが持っていたし。ただ、最近はあまり穿かなくなりましたね。というのも「似合わないな」って思うときがあったんですよ。それに、デニムって毎年買わないといけなかったりしません? 「育てたい」と思う人は違うかもしれないけれど、けっこう頻繁に形が変わるから、「えー! 3万円も出したのに!?」みたいなことがちょくちょくあったんですよ。そのまま丈を合わせて穿いただけだと、形が今どきじゃなかったり、ちょっと古臭く見えてしまうことがあって……。でも本当は、今日穿いたようなキレイなデニムが1本あって、それを安定的に穿けるといいですよね。それに、今日みたいにロールアップすると、今の服と合わせた時にまとまるっていうのは改めて感じました。

— 『101』も、若い人たちはオーバーサイズで穿いたりしますからね。KIRINJIも、初期の曲を長年聴いているファンは多いと思うのですが、曲を作るうえで”時代を超えて愛される”ことはどこまで意識していますか?

堀込:あまり意識しないほうがいいと思っています。意識すると、定石ばかりになってしまうというか、確実に価値が定まったものにしか手を出さなくなるじゃないですか。ポップスって、危うさというか「これ、カッコいいのかダサいのかよく分からない」みたいな要素を持っているのが、面白みだったり魅力だったりすると思うんです。今、1980年代のファッションや音楽が流行っていますけど、あれもよく見たら「カッコいい気もするけど、ダサいのかも……」っていう、わりと際どいものだと思う(笑)。でも、その際どさがないと面白みがないし、結局は時代を巡っているものですから。だから「いつの時代でも聴けるように」みたいなことは考えないほうがいい気がします。

— 2020年の2月28日からはツアーが始まりますね。今回のツアーは『cherish』の楽曲をどのように再現するのかが楽しみです。

堀込:いくらでもレコードの音に近づけることはできるけど、そうするとライブの面白みがなくなる。以前、ラップパートをオケで出したら非難轟々で(笑)、人の声がオケから出てくることに対して拒否反応を示すファンも多いんだと思った。だから、そのあたりはバランスを見ながら。アルバムの雰囲気も残しつつ、生演奏の面白さも伝わるようにしたいと思っています。

KIRINJI
1996年、兄の堀込高樹と弟の泰行の兄弟でキリンジを結成。10枚のオリジナルアルバムを発表した後、泰行が脱退。2013年からバンド体制のKIRINJIとして再始動。その翌夏にアルバム『11』をリリース。2016年には『ネオ』を発表。2018年に『愛をあるだけ、すべて』、そして2019年の11月には『cherish』と、コンスタントにアルバムを発表。2020年2月より全国ツアー『KIRINJI TOUR 2020』が開催される。