Lee『101』とKIRINJI – 進化を止めないポップス・アーティストが語るスタンダード –

by Nobuyuki Shigetake

新進気鋭なラグジュアリー・ストリートの波やインディペンデントブランド、そしてメディアに上がるスタイルサンプルの数々など、さまざまな価値観の混在するなかに身を置く僕らは、たまに何を基準に服を選べばいいかわからなくなることがある。それは服だけでなく、音楽や食べ物においても同様だ。
本特集では、Lee(リー)が開発したデニムの元祖モデル『101』を、スタンダードと所縁のある多様なミュージシャンに着こなしてもらうとともに、“スタンダード”について、彼らなりの記憶を辿りながら再考。
今回は、去る11月20日に通算14枚目となるアルバム『cherish』をリリースしたKIRINJIが登場。2018年にメジャーデビュー20周年を迎え、このタイミングで発表されたアルバム『愛をあるだけ、すべて』では生音 × プログラミングというサウンドスタイルを提示。そして、わずか1年半で完成した『cherish』は、前作のサウンドをさらに進化させた快作となった。バンドのリーダーでありプロデューサーでもある堀込高樹に、この作品に込めた思いや制作の背景、さらには自身のバックグラウンドについて話を聞くと、彼の考えるスタンダードが、”進化するKIRINJI”の原動力の一要素であることが分かる。

Photo:Shota Kikuchi | Styling:Hisataka Takezaki | Hair&Make-up:Masaki Takahashi | Model:Takaki Horigome | Text:Yuzo Takeishi | Edit:Atsushi Hasebe、Nobuyuki Shigetake

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「この言葉の賞味期限はいつまでなのか?」って考えたら、何も作れなくなる

1996年、実の兄弟である堀込高樹と堀込泰行の2人によって結成したキリンジ。1997年にインディーズデビュー、続く1998年にはメジャーデビューを果たし、以後2人編成のバンドとして10枚のアルバムをリリースした。2013年に弟・泰行が脱退するが、その後は5人編成となりバンド名も”KIRINJI”として再始動。現在は堀込高樹(ボーカル/ギター/キーボード/プログラミング)を中心に、田村玄一(ペダルスティール/スティールパン)、楠均(ドラム)、千ヶ崎学(ベース)、弓木英梨乃(ギター/ボーカル)のメンバーで、”キリンジ”時代とは異なるスタイルを展開。メジャーデビューから20年を超えた現在も、世代を超えて新たなファンを獲得し続けている。

— 『cherish』は前作からわずか1年半でのリリースとなりましたが、内容については早い段階から構想があったのでしょうか?

堀込高樹(以下、堀込):構想というほどではないのですが、前作の評判が良かったし、作り方やサウンド、曲の雰囲気も含めて、もう少しこのスタイルを突き詰めたいという気持ちがありました。しかも、その精度を上げていこうとか、もっと今どきな感じにしたいと考えていたので、前作の延長でスタートした感じです。

AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-400) 12,000円(Lee Japan TEL:0120-026-101)、BODEのジャケット 182,000円(LANTIKI CENTRAAAAAL TEL:03-5766-8415)、Marvine Pontiakのシャツ 33,000円(OVERRIVER TEL:03-6434-9494)、Parabootのブーツ 72,000円(Paraboot AOYAMA TEL:03-5766-6688)、その他本人私物

— KIRINJIの詞にはフレーズ選びが独特な印象があって新作でもそれを強く感じるのですが、やはりサウンドと同様に時代感を意識しているのですか?

堀込:それほど、今の時代っぽくしようという意識はないのですが、普段使っている言葉とか、普段生活しているなかで感じていることを曲にしていくので、自ずと同時代的になっているんでしょうね。たしかに、“インスタ”とか“タワマン”みたいな、軽薄というか、消えてしまいそうな言葉を使うと、リスナーの方から「いいんですか?」みたいな意見をいただくこともあります。でも、たいていの言葉は消えていくじゃないですか。たとえば「ダイヤル回す」なんて、今の若い人からすれば「ダイヤル? 何のこと?」っていう感じだし。身の回りのことを盛り込むときに「この言葉の賞味期限はいつまでなのか」って考えていたら何も作れなくなってしまうし、何より今の人が聴くものなので、そこは躊躇しないで使おうと思っています。

— 特にアルバムの冒頭を飾る“「あの娘は誰?」とか言わせたい”は、詞の内容がより現代的でした。

堀込:あの曲は、最初にナイトフライトとかナイトプールをイメージしていて、夜遊び感を出したいと思って作り始めました。でも、僕は全然夜遊びをしないし、夜のドライブもずいぶんしていないから、リアリティがないんじゃないかと思って。だから単純にナイトライフみたいなものを描くよりも、むしろ、そういった光景のなかに潜んでいる寂しさとか、残酷さみたいなものを盛り込んでいった方が、自分らしい作品になるのではと考えて作っていった曲です。

コンパクトなシルエットのストライプジャケットは、足元のロールアップでバランスを。
1950年〜60年代に流行したシルエットを見事に再現した『LM5101-400』は、深めにとった股上が印象的。

— ”寂しさ”という点では、アルバム2曲目の”killer tune kills me”はそういった雰囲気を強く感じさせます。この曲は先行シングルでしたが、弓木さんがボーカルを務めたこともあり、かなり反響があったのではないかと思います。

堀込:反響はありました。まず、弓木さんが歌ったことが大きいですね。それに、今までシングルは男性の声の曲ばかりだったので、ファンのなかにもそういったイメージはあったと思うんです。なので、女性ボーカルのシングルを出したことに対して面食らった人もいると思いますが、この数年、弓木さんはステージでもアルバムでも歌っているので、そこはちゃんと伝えていこうと。

— この曲はYonYonさんが参加していますが、曲自体は弓木さんとYonYonさんのどちらの声をベースに考えて作っていったのですか?

堀込:最初にメロディを作るときは、誰が歌うかということをあまり考えません。曲を書いて、メロディの性質を見極めながら自分で仮歌を歌うのですが、”killer tune〜”のときは何か違う感じがしたんですよ。そこで「女性が歌ったらどうだろう?」と考えていたら、その方がふさわしい気がして、結果、弓木さんにお願いしました。YonYonさんはラジオで彼女の参加した曲を耳にして気になって、その後、Instagramで連絡を取り合うようになったタイミングで、あの曲を歌ってもらうのにふさわしいと直感してオファーしました。それに、通常は女性ボーカルだと男性をセットにしがちなんですけど、そうすると、どうしても男女2人の関係性みたいな内容にしかならなくてつまらない。でも、女性2人だったら変わった角度から描けるかもと思って。それも、女性の友人同士が何かを話しているのではなく、全く違う世界にいる女性が1曲のなかに共存している感じ。弓木さんとYonYonさんの声を聴いて思い浮かべるパーソナリティーって違うと思うのですが、それが1つのなかに入っているのが面白いんじゃないかって。

— ”killer tune〜”はMVも印象的でした。

堀込:若い監督に頼みたいと思っていたんですよ。今回監督してくれた鈴木健太さんは、お母さんといっしょに子どもの頃からKIRINJIを聴いてくれていて、僕の作る曲も理解してくれているんです。だから、このMVも詞の世界をストレートに映像に表していると思いますね。

— 『ネオ』(2016年)に収録の”The Great Journey”から始まった、フィーチャリングでラップを取り入れるスタイルは、今回、YonYonさんと鎮座DOPENESSさんを起用して行われていますが、これにはどういった狙いが?

堀込:日本ではフィーチャリングって特別なものとして捉えられる傾向にあると思いますが、海外ではわりと普通に行われています。それに、曲を書いてラップなしで収めることもできますけど、ラップが入ってくることによって、よりグルーヴィーになると思うんです。特に今回、鎮座くんにお願いした”Almond Eyes”は、曲自体はクールでメロディも8ビートなので、ぼんやりしているとまったりとして終わりがちなのですが、そこに彼の声で、普段の彼よりも突っ込み気味のラップを入れてくれたので、曲が途端にグルーヴしてグイっと上がる感じに仕上がりました。

— こうした、MVやフィーチャリングトラックなどでの若いクリエイターやアーティストの起用は意識的なものですか?

堀込:やはり若い人を起用していかないとリスナー層が広がっていかないですからね。今聴いてくれている人だけに向けていると、そういう人たちだけが喜ぶ音楽を作り続けることになって、新作がつまらなくなるし。「またベスト盤かぁ……」みたいな。「またライブ盤かぁ」とか「またあの曲の2019年バージョンかぁ」とか。そういう連鎖になるのが怖いし、それだけは絶対に避けたいと思ってます。