Lee『101』とマヒトゥ・ザ・ピーポー – 偉才のボーカリストが語るスタンダード –

by Nobuyuki Shigetake

新進気鋭なラグジュアリー・ストリートの波やインディペンデントブランド、そしてメディアに上がるスタイルサンプルの数々など、さまざまな価値観の混在するなかに身を置く僕らは、たまに何を基準に服を選べばいいか分からなくなることがある。それは服だけでなく、音楽や食べ物においても同様だ。
本特集では、Lee(リー)が誇るデニムの元祖モデル『101』を、スタンダードと所縁のある多様なミュージシャンに着こなしてもらうとともに、“スタンダード”について、彼らなりの記憶を辿りながら再考。
今回は、GEZANのフロントマンであり、ソロアーティストとしても活動するマヒトゥ・ザ・ピーポーが登場。ソロ活動ではGEZANとは対極にある音楽性を展開し、また、シンガーソングライター・青葉市子とのユニットとなるNUUAMMでは、やさしくももの悲しいアコースティック・サウンドを響かせるなど、その表現は多彩だ。そんなマヒトゥ・ザ・ピーポーにとってのスタンダードとは何か? 2019年に入ってリリースされた2枚のソロアルバムの背景や、彼自身の思想から探っていく。

※本特集内に掲載されている商品価格は、すべて税抜価格となります。

Photo:Shota Kikuchi | Styling:Hisataka Takezaki | Hair&Make-up:Masaki Takahashi | Model:MahiToThePeople | Text:Yuzo Takeishi | Edit:Atsushi Hasebe

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東京という街も、今の状況も、若干混乱しているくらいが気持ちいい。

2009年、大阪でGEZANを結成。そのフロントマンとして音楽活動をスタートさせたマヒトゥ・ザ・ピーポーは、2011年に最初のソロアルバム『沈黙の次に美しい日々』をリリース。その後は、青葉市子とのユニットとなるNUUAMMをはじめ、テニスコーツや非常階段、スターリンとのジャンルを超えた共演など、GEZANやソロにとどまらない活動を続け、多くのミュージシャンからも高い評価を獲得してきた。そして2019年、マヒトゥ・ザ・ピーポーは、2枚のソロアルバムを立て続けに発表するのみならず、5月には『銀河で一番静かな革命』で小説家としてもデビュー。6月21日からはGEZAN初のドキュメンタリー映画『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』も公開されているが、この混沌とした状況に身を置く彼は今、いったい何を感じているのか。

— 『不完全なけもの』、『やさしい哺乳類』と2枚のソロアルバムを立て続けにリリースされましたが、その経緯について教えてください。

マヒトゥ・ザ・ピーポー(以下マヒト):曲がいっぱいあって、録ったら2枚になったので分けた……みたいな。結構、雑な理由なんですよ(笑)。だから実のところ、コンセプトも特にないんですよね。

AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-446) 13,000円(Lee Japan TEL:0120-026-101)、DAIRIKUのボーダーニット 21,000円(4K TEL:03-5464-9321)、中に着たDEAD STOCKのTシャツ 5,500円(JUMPIN’ JAP FLASH TEL:03-5724-7170)、DCBA by SON OF THE CHEESEのスニーカー 12,000円(Boardriders Japan TEL:0120-32-9190)、steinのベルト 15,000円(carol TEL:03-5778-9596)

— それぞれのタイトルにはどんな意味を込めたのですか?

マヒト:『不完全なけもの』はちょっとネガティブで、『やさしい哺乳類』はポジティブなニュアンス。どちらも同じようなことを言ってるんだけれど、角度が違うんですよ。前々から、ひとつのものの中にはいろんな要素が混在していると感じていて、例えば人に対しても”いい人”とか”悪い人”って言うけれど、実はその2つだけでは分けられない。いろんな性質が混ざり合っているじゃないですか。それは東京という場所もそうだし、2019年という時代も同じ。だから、2枚のアルバムタイトルにはどことなく矛盾を感じるけど、そうすることが一番健全な気がしたんです。

— 2018年のGEZANのアルバムリリースに始まって、今年はソロアルバム、小説、ドキュメンタリー映画と、このタイミングで集中したのは偶然ですか?

マヒト:偶然ですね。特にソロアルバムに関しては、自分のことになると意外と頑張れないんですけど、平成も終わるし、平成の間に作った曲だからちゃんと出し切ろうと思って……。それに、ゲストを入れると頑張らないといけなくなるから、自分の周りにある社会みたいなものを利用して追い込んだ感じ。映画と小説はたまたまタイミングが被っただけですけど、もしかしたら、そうなったのも必然かもしれないですよね。

Lee『101Z』 LM5101-446 13,000円 + 税
ルーズな印象のボーダーニットには、同じくルーズフィットのデニムを合わせてとことんオーバーサイズに。
ハードウォッシュのインディゴブルーとレッドカラーの、目が覚めるようなコントラストもポイント。

— 7月には『FUJI ROCK FESTIVAL ’19』への出演もあり、慌ただしい印象を受けますが。

マヒト:でも、若干混乱しているくらいが気持ちいいと感じるところもあるんですよ。大阪でバンドを始めたとき「東京は住めないよ」って言われたことがあるけど、自分自身はわりと東京が好き。というのも、街自体が結構混乱してるじゃないですか。そのカオスな状態が気持ちいいなって。キレイに統一された場所にいると、自分の馴染めなさが際立って居心地が良くないんですけど、東京は人も街もデザインも壊れている感じがする。異物を受け容れてくれる良さがあると思うんですよね。

— 東京をそう感じるようになったのは最近ですか?

マヒト:大阪出身の友達に「3年くらいすると地理が分かるようになって、街の見え方が変わるよ」って言われたんですけど、本当にそのとおりでしたね。それまでは翻弄されていて、言ってみれば、カフェで垂れ流されている音のない映画みたいな状態。ようやく音が入って内容が見えてきた感じですね。東京って、混乱していてトライブがたくさんあるイメージ。ジャンルひとつまたげば関わる人も違うし、生きてるレイヤーが違う人がたくさんいる。だから、ここがダメなら違うところに行けばいいやっていう気持ちにもなれるし。

— ミュージシャンとして活動しようと考えたきっかけについて教えてください。

マヒト:なんだろう……。カッコよくないですか? 音楽って(笑)。歌おうと思ったのも、カッコいいっていうのが理由ですね。メチャクチャやっても許されそうなイメージがあったし。昔は喜怒哀楽の4つに収まらない不安定な感情がたくさんあって、それを消費する方法が分からなかったんですよ。それをスポーツにぶつけたりとか、方法はいろいろあるのかもしれないけれど、音楽って不完全な感覚とか感情をそのまま出しても許されるような感じがして、結局、いちばんフィットしたんですよね。