Kan Sanoはバークリー音楽大学のピアノ専攻ジャズ作曲科を卒業した経歴を持つ。同校での経験は、その後のアーティスト活動における重要な一小節となるが、当然のことながら現在の音楽活動を支えているのはそれだけではない。Kan Sanoがたどってきた音楽遍歴を探ってみると、彼の幅広い嗜好のなかでのスタンダードが見えてきた。
— バークリーを卒業されていますが、その当時はジャズに傾倒していたのですか?
Kan:高校生の頃はジャズにどっぷり浸かっていましたね。でも、同時期にネオソウルやジャムバンドのブームもあって、とにかくいろんな音楽を聴いていました。そのなかにジャズもあったのですが、ジャズってアカデミックな音楽なので独学で演るには限界を感じて、それで留学することにしたんです。バークリーって、先生も生徒も腕利きのジャズマンばかりなんですよ。でも、そういう場所にいると、違うことに関心が向いてしまって……。
— 天邪鬼な性格ですか?
Kan:いつもそんな感じです(笑)。その頃からですね、ヒップホップやクラブジャズを聴き始めたのは。もちろん、ジャズのセッションは楽しくて毎日演っていましたし、素晴らしいミュージシャンが学校にたくさんいるので、そのなかでプレーヤーとして鍛えられたという感覚はあります。でも、「これが最終的に自分のやりたい音楽ではない」というのはずっと思っていましたね。
— 卒業してから2011年にファーストアルバムを出すまでの活動について教えてください。
Kan:デモをたくさん作って海外のレーベルに送っていましたね。なかでもGilles Peterson(ジャイルス・ピーターソン)が好きで、彼がオーナーを務めているブラウンズウッド・レコーディングスというレーベルにもデモを送っていました。あとはSoundCloudに曲をアップしたり、フリーダウンロードで配信したり。そんな活動を続けているうちに、海外のコンピレーションに楽曲を入れてもらえるようになったんです。
— Gilles Petersonからレスポンスはあったのですか?
Kan:ありました! 何年か送り続けていたら、あるとき「ラジオで使いたい」って返事が来て、番組でかけてくれたんですよ。そのときはめちゃくちゃうれしかったですね(笑)。
— 幅広いジャンルの音楽を聴かれていますが、Sanoさんにとってのスタンダードな音楽はどういったものですか?
Kan:今回作ったアルバムにも通じる話なのですが、やはり、10代の頃に聴いていた音楽、ネオソウルとか1970年代のソウルミュージックが自分のスタンダードになっていると思います。例えばMarvin Gaye(マーヴィン・ゲイ)の”What’s Going On”はずっとライブで演っているのですが、あの曲は自分にとってのスタンダードですね。ずっと聴いていられるし、何回演奏しても、何歳になっても飽きないんですよ。
— 最初にこの曲と出会ったのはいつ頃ですか?
Kan:高校1年のときです。だから音楽に夢中になり始めた頃の気持ちを思い出させてくれる曲でもあります。”What’s Going On”は最初にDonny Hathaway(ダニー・ハサウェイ)のバージョンを聴いたのですが、それがカッコよくて、当時、自分のバンドでもカバーしましたね。それがきっかけでMarvin Gayeにも興味が湧いて……。この時期はブラックミュージックに興味を持ち始めて、同時にいろんな音楽を聴いていましたね。Soulive(ソウライブ)やJohn Scofield(ジョン・スコフィールド)など、ジャムバンド・シーンで盛り上がっていた音楽も好きだったし、その一方でJohn Zorn(ジョン・ゾーン)とか、リアルタイムで盛り上がっていたネオソウルとか。高校生の頃は、とにかく貪欲に新しいものを何でも聴きたい時期でしたね。
— 今はどういった音楽を聴いていますか?
Kan:30歳を過ぎてから、昔ほど新しい音楽に興味がなくなっているのを感じているんです。もちろん、それは自分でもよくないことだと思っているのですが、今は昔聴いていた音楽を聴き返す作業になってますね。僕は吸収してから吐き出すまでに時間がかかるタイプだと思っていて、やはり10代、20代の頃はインプットの時期だったように思います。逆に、今は何かを吸収するよりも、どんどん作って送り出していきたい気持ちが強いですね。
— では、曲を作るうえで、時代性はそれほど意識していないのですか?
Kan:そうだと思います。もちろん、仕事柄いろんなミュージシャンと関わるので、トレンドや流行っている音楽は耳に入ってくるし、そういった音楽にも携わっていますが、自分自身はメインストリームとは少し距離を置いていたいんです。全く違うことをやりたいわけではないですが、トレンドとは適度な距離を保っていたいタイプなんですよね。今、ちゃんとこの時代を生きていれば、自然と時代性は付いてくるだろう──それくらいのつもりでいます。
— 6月7日からは『Ghost Notes』のリリースツアーが始まりますね。
Kan:先日、ツアーに向けてリハーサル合宿をやったんですが、めちゃくちゃいい感じに仕上がってます。今回のツアーは、ドラムとベースと僕の3人で回るのですが、ひとりで作った音楽をもう一度3人で再構築するのがすごく楽しいんですよ。僕は音源よりももっとライブに熱量を込めていきたいタイプなんです。例えばMiles Davis(マイルス・デイヴィス)は1969年に『Bitches Brew』というアルバムを出しましたが、同時期のライブ音源を聴くと、全く違う演奏なんですよ。これももしかしたら自分にとってのスタンダードと言えるかもしれません。パフォーマーの感覚として染み付いていますからね。
— 最後に、普段のファッションについて聞かせてください。
Kan:今日穿いたデニムもその一つかもしれませんが、最近はトラディショナルなスタイルが多いですね。でも、服の好みが数年ごとに変わるので、何年かしたらまた変わっている可能性はありますね(笑)。
— 今日掛けているメガネを見ても感じるのですが、ちゃんとしたものを好んでいるような印象を受けます。
Kan:やはり、身につけるからにはいいものを選びたいので、なるべくファストファッションで済ませないようには気をつけています。でも、リサイクルショップなどで安くていいものを探すのは好きですね。だから古着も好きですし、リサイクルショップでレコードを探したりもします。あとは壊れているけどいい感じのフィルムカメラが数百円で置いてあったりすると、つい買っちゃいますね。
— Leeの『101』にも相通じるかもしれませんが、ビンテージっぽいものや歴史を感じさせるものが好きなのですか?
Kan:ズッシリと重みを感じるものが好きですね。もともとモノを集めるのが好きなので、例えばマンガも電子書籍じゃなくて紙の本で買っちゃうんですよ。ちょっと時代遅れなのかもしれませんが、このスタンスはこれから先も変わらないでしょうね(笑)。
レーベル:origami PRODUCTIONS
ASIN:B07QRN3W8W
JAN:4580246160813
価格:2,500円 + 税
アメリカを代表する老舗デニムブランド、Leeのアイコンであり、最もスタンダードなモデル。
往年のライダースジーンズを現代風にアレンジした日本製の本格モデルは、デニム本来の質実剛健な無骨さを持ちながら、合わせる洋服を選ばない高い汎用性が特徴。
【Lee商品のお問い合わせ先】
Lee Japan
TEL:0120-026-101
http://www.lee-japan.jp