Lee『101』とKan Sano – 気鋭のキーボーディストが語るスタンダード –

by Nobuyuki Shigetake and Mastered編集部

新進気鋭なラグジュアリー・ストリートの波やインディペンデントブランド、そしてメディアに上がるスタイルサンプルの数々など、さまざまな価値観の混在するなかに身を置く僕らは、たまに何を基準に服を選べばいいか分からなくなることがある。それは服だけでなく、音楽や食べ物においても同様だ。
本特集では、Lee(リー)が誇るデニムの元祖モデル『101』を、スタンダードと所縁のある多様なミュージシャンに着こなしてもらうとともに、“スタンダード”について、彼らなりの記憶を辿りながら再考。
今回はキーボーディストであり、トラックメーカーやプロデューサーとしても活躍するKan Sanoが登場。2011年にファースト・アルバムを発表して以降、ジャズやヒップホップ、ソウル、R&Bといったジャンルを横断した心地よいサウンドを提供し、去る5月22日には通算4枚目となる最新アルバム『Ghost Notes』をリリースしたばかり。そんなKan Sanoに最新作のコンセプトや自身の音楽遍歴について話を聞くと、彼にとってのスタンダードな音楽が実に多岐にわたっており、それこそが独特なサウンドの根源となっていることが分かってきた。

※本特集内に掲載されている商品価格は、すべて税抜価格となります。

Photo:Shota Kikuchi | Styling:Hisataka Takezaki | Hair&Make-up:Masaki Takahashi | Model:Kan Sano| Text:Yuzo Takeishi | Edit:Atsushi Hasebe

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新作は、自分をそのままさらけ出すような、生々しいサウンドにしたかった。

2011年に『Fantasitic Farewell』でデビューし、2014年には『2.0.1.1.』、2016年には『k is s』をそれぞれリリース。この間、野外フェスティバルにも出演してオーディエンスを沸かせるなど、Kan Sanoはコンスタントな活動のなかで着実に評価を得てきたアーティストだ。その一方で、キーボーディスト/プロデューサーとして数多くのアーティストのライブやレコーディングにも参加。そんな幅広い活躍を見せるKan Sanoが新たにリリースしたアルバム『Ghost Notes』はすでに先行シングルから話題となっており、サブスクリプションでは200万回以上の再生を記録。ニューアルバムが放つサウンドのように彼の活躍もまた、広がりを見せている。

— 4枚目のアルバム『Ghost Notes』が完成して今の気分はいかがですか?

Kan Sano(以下Kan):アルバムの制作は1年前くらいからスタートしました。音はずっと前に完成していたのですが、その後はエンジニアと数ヶ月にわたってマスタリング。1月にその作業が終わった後はジャケットなどの製作があって……。ようやくリリースされて、今はホッとしている状態です。

AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-500) 12,000円(Lee Japan TEL:0120-026-101)、steinのドリズラージャケット 55,000円、BLOHMのブーツ 36,960円(ともにSTUDIO FABWORK TEL:03-6438-9575)、soeのプルオーバーシャツ 19,000円(M.I.U. TEL:03-5457-2166)、その他本人私物

— 楽曲はアルバム用に一から考えているのですか?

Kan:曲が思い浮かんだらすぐに作っていくタイプではあるんですが、アルバム制作においては、まず「アルバムを出したい」という思いが強くなってから楽曲作りをスタートさせることが多いですね。基本的には、アルバム全体の大まかな方向性やコンセプトを決めてから曲を作り始めるんです。前作『k is s』をリリースしたのは2年半前でしたが、アルバムを1枚作ると、すぐに違うことをやりたくなっていろいろと考え始めているんですよ。だから『k is s』のリリースツアーのときは全国を回りながら次のアルバムのことをぼんやりと考えていましたね。例えば「今回は音数が多かったから、もう少し生の楽器にシフトして音数の少ないものがやりたいな」とか。次にやりたいことは常に考えているので、いざアルバムを作り始める頃には方向性がなんとなく固まっているんです。

— 生楽器にシフトしたサウンドがニューアルバムの大きな方向性ですか?

Kan:そうですね。今はみんながシンセサイザーを上手に使うようになっているので、センスのいい音楽が増えていますよね。もちろんそれはいいことだと思うのですが、一方で同じようなサウンドがあふれすぎているので、自分は少し違うことをやりたいとも感じていたんです。楽器のリアルな音や生々しい音を感じたいなって。

— 『Ghost Notes』では、すべての楽器をおひとりで演奏されたと聞きました。

Kan:全部の楽器を自分で演奏しましたね。いつもは打ち込みで作るようなリズムもあえて生のドラムで録ってみたり、シンセサイザーを使って入れるようなフレーズを自分でトランペットを吹いて入れてみたり。もともと楽器はギターから始めたのですが、バンドをやっているとスタジオの合間にドラムやベースを触ったりするじゃないですか? それに、トランペットは高校の吹奏楽で吹いていたし。今回のアルバムは、そういった今までの経験を最大限に使って制作した感じですね。

— 前作の『k is s』はリズムが強調された塊感のある作品という印象を受けましたが、今回はそれを受けて、より生っぽいサウンドを目指したということですか?

Kan:前作からの反動は大きいと思います。それに、前作まではフィーチャリングのシンガーが多かったので、今回はひとりで全部作りたいという気持ちが強くなっていたんです。というのも、フィーチャリングの楽曲をライブで演奏すると、自分の曲なのにカバーを演奏している気持ちになることがあるんですよ。それって自分にとってリアルじゃないということなので、ならば、すべてを自分がやって、それをそのままさらけ出すような生々しいサウンドにしてみようと。

— すべてを自分で担当すると苦労された部分も多かったのでは?

Kan:20代の頃は、今ほど自分の演奏に自信がなかったので、一度弾いたピアノのフレーズをサンプリングするような作業をやっていたんです。でも30歳を過ぎて演奏にも自信が出てきたので、もうちょっと今の自分をさらけ出すようなミックスとか音作りでもいいんじゃないかと思い始めて……。そんなマインドになっていたので、制作自体の苦労は感じませんでしたね。

— 生のサウンドを実践したのは時代感ではなく、あくまでも演奏者のパーソナルな理由なんですね?

Kan:そうです。今、このタイミングで生音の作品を出したらどんなふうに反応されるだろうとか、そういったことは考えませんでした。それよりも、今、自分が聴きたいサウンドを作ることのほうが重要ですからね。

Lee『101Z』 LM5101-500 12,000円 + 税
コーディネートに適度な”隙”を与えてくれるワンウォッシュのデニムは、オールシーズンで使用ができる必需品。大人っぽいスタイルにも難なくハマるストレートシルエットが特徴のLeeの『101』は、その最たる例だ。