Photo:Kiyotaka Hamamura 、Text&Edit:Yukihisa Takei(HIGHVISION)
10年で全く異なる[K・SWISS]との接点
— 「スニーカーのことならこの二人に聞け!」という存在のお二人ですが、まずそれぞれの[K・SWISS]との関わりについて、お聞きしてもいいですか?
国井栄之(以下 国井):僕は正直言うと、実際[K・SWISS]を履いたことは一度もないんです。でもこの業界に入って以来、諸先輩方からスニーカーの話を聞くと、[NIKE(ナイキ)]とか[adidas(アディダス)]とかのメジャーなブランドに並んで必ず[K・SWISS]の話が出てくるんですよ。特に90年代の頭にスニーカーが“あんなこと”になる前の80年代、皆さんが[K・SWISS]を愛用していたという話はすごく多くて。気にはなっていたんですけど、世代やタイミングもあって、なかなか取り扱う機会もなかったんです。
南井正弘(以下 南井):僕は1966年生まれで、実は[K・SWISS]と同い年なんです。小学校高学年頃から『POPEYE』とかを読むようになったら、そこにいつも[K・SWISS]のことは出ていたんですけど、当時から1万6000円くらいしたので、当然中学生では手が出せなかったんですよね。大学生の頃には[adidas]の『Stan Smith』、[TRETORN(トレトン)]の『NYLITE』、そして[K・SWISS]がテニスシューズの“定番”みたいな存在になっていて、憧れの存在でした。バイトをするようになってお金も出来たので、アメ横に[K・SWISS]を買いに行った記憶があります。自分はあえて『Coach』というモデルを買って、大事に履いていましたね。
— ちなみに南井さんが現在51歳、国井さんが41歳になるということですが、10年違うだけで、このブランドとの接し方がまるで違いますね。
南井:そうですね。僕は同い年というのもあって、自分で買えた時は嬉しかったです。実はその年は[THE NORTFACE(ザ・ノース・フェイス)]も誕生したりと、結構1966年生まれのブランドは多いんですよ。
国井:僕が生まれた1976年は、ブランド誕生というのはあまり記憶にないんですけど。
南井:でも76年はスニーカー的には名作が豊作の年ですよ。
国井:確かに1976年は“ソールの当たり年”とも言われていたりとか、過去のシューズでもエポックメイキングなモデルを出していたりするんです。モノではないですけど、今ファッションとか、ストリートの世界でもこの年生まれで活躍している人も多いんですよね。
実はエポックメイキングなスニーカーだった[K・SWISS]
— この[K・SWISS]って、少し時代から忘れ去られてきてしまったようなところがありますよね。ただスニーカーとしては半世紀もの歴史もあるし、ディテールにも実は注目すべきところがあるシューズですよね。
南井:そうなんですよ。このブランドのアイコンの5本ラインには登山のザイル素材を使っていたり、Dリングの部分はスキーブーツのアイデアだし。あと『Stan Smith』とどちらか先かいつも論争になるんですけど(笑)、初の天然皮革をアッパーに使ったテニスシューズでもあります。同じ1966年なので、どちらが先かは意見も分かれるんですが、どちらにせよ“世界で初めて天然皮革を使ったテニスシューズの一つ”ではあるんです。
— そうなんですね。でもそれだけポテンシャルが高いシューズなのに、なぜこれまでちょっと忘れられた存在だったのでしょうか。
南井:やっぱり80年代当時にブームになり過ぎたところもあるんじゃないですかね。特に日本は、取り扱う会社が何度も変わったりを繰り返して来たことも大きいと思います。
国井:[K・SWISS]って、昔からの街の靴屋さんにもネオンサインが残っていたりとかするんですけど、本当に昔はどこにでも売っていたんだなと。でも、その後の僕らの世代以降には、現代的な魅力やストーリーが届かなくて、“昔のもの”で終わってしまっていたんですよね。過去のバックボーンはあったとして、その先が見えなかったというか。
— もったいないですよね。でもスニーカーって、いつの時代も“ざわざわ感”みたいなのってありますよね。気がついたら周りの人が履いているのが目につくようになったら、その後にブームが来たり。ここに来て[K・SWISS]には、その“ざわざわ感”が来ているようにも思うのですが。
南井:やっぱりモノが売れる時というのは、マーケティングやプロモーションも大事ですけど、結局一番大事なのはプロダクトだと思うんですよ。プロダクトが良くなかったら、どんな有名な人が履いても本当の意味での成功ではないんですよね。でも、今回出る[K・SWISS]のMADE IN JAPANモデルやMADE IN USAのモデルは、モノがかなり良い。だからそれがきっかけになって、また広がるという可能性はありますよね。
温故知新で生まれた新しい“クラシック”
— 最近はMADE IN JAPANやUSAのモデルも登場していますが、その魅力はどんなところですか?
南井:USAの方はかなり無骨で、がっしりしているんです。JAPANの方は、ちゃんと日本人の“[K・SWISS]好きな”人が昔の靴を分解して、かなり細かくディテールを忠実に再現しているので、フォルムとかも綺麗なんですよ。やっぱり日本の製靴技術はとても高いので。
国井:MADE IN USAに求めるのって、そういう“味”だと思うんですよね。今アジアで作るとクオリティコントロールがしっかりしている分、一足一足の味が出ないんです。MADE IN JAPANに関しては、再設計の段階でオリジナルを緻密に踏襲しているので、[K・SWISS]に思い入れのある人たちが履いたら、「これだよ、これ!」って訴えかけるものがあるでしょうね。イベント会場でも現物で見比べていたんですけど、当時のチェコスロバキア製の“顔”を見せているのはMADE IN JAPANだし、大量生産品とは違う意味で味が出ているのはMADE IN USAだなと。そしてエントリーモデルとしてアジア製もあるので、いろんな形でタッチできるのが良いと思いますね。
南井:[Levi’s®(リーバイス®)]の『501®』とかでも、いまだにアメリカのスーパーに売っていたりするじゃないですか。中にはアップデートされたものじゃなくて、そういうごく普通のものをあえて買い求める人っているんですよね。普通に洗って、普通に穿く、という人の方が実はカッコよかったりしません? だからこそそういう“レギュラー品の良さ”もブランドには必要なので、[K・SWISS]もエントリーモデルを大切にして欲しいなと思いますね。