いまは、“アートとしての音楽”より“エンターテインメントとしての音楽”が強い時代。
それは、リスナーを純粋に喜ばせるためのエンターテインメントというよりは、音楽を売るための潮流にも見える。売るための制作方法、売るためのマーケティング、売るためのパフォーマンス。それも必要なんだろう。音楽が生き延びるためには、音楽が売れないといけないし。だからきっと、大事なのはバランスだ。
NirvanaやSonic YouthのPRディレクターとしてキャリアをスタートさせた、現「Beats by Dr. Dre」社プレジデントのルーク・ウッドは、あるセッションを開くことを思いつく。
「アートとしての音楽を感じてもらうために、楽曲の制作過程を体感してみてほしい」ということで我々は、Dragon AshのKjを迎えておこなわれた、ルークのスタジオセッションに招かれた。
Photo:Yoko Nakata、Edit:Atsushi Hasebe、Text:Sachiko Toda
できあがった曲が人に届いたときに、グッとくるかこないか、それだけ
レコードプロデューサーとしても優秀だったルークには、「①ソングライティング ②ボーカルや楽器のパフォーマンス ③レコーディングのプロセス、この3つが重なってマジックがおこる」というプロデューサーとしての哲学があったという。
本来なら物理的に不可能な、“楽曲を分解して聴く”という体験を通して、そんなマジックを特別に少しだけ見せてもらえるのがこのセッションだ。頭のなかで意識的にトラックを分解してみるだけでも、新たな発見があり、気づかなかった魅力にも気づけるはずなので、ぜひトライしてみてほしい。
今回題材にされた楽曲は、チャンネルをひとつ追加するたびに、重なっていくボーカルが“ハーモニー”として紡がれていく様が感じられるElliott SmithによるThe Beatles『Because』のカバー曲。続いて、The Black Eyed Peasの『Boom Boom Pow』は、蜂が飛んでいるような奇妙な音とドラムだけでメロディーが作り上げられているユニークな楽曲だ。
衝撃的だったのはDr. Dreプロデュースによる50 Cent『In Da Club』。ドラムを重ねてベースを作っているこの曲は、トラックを分解してしまうと、どこに一拍目が置かれているかも分からない、つまづきそうなリズムを刻んでいる……。それが、さまざまなトラックを重ねていくごとにハッキリとした“ビート”に変わっていくのだ。さらにシェイカーを振るような音や手拍子、チョップされた50 Centの声がところどころラップに重なることで、一緒にクラブで楽しんでいるようなパーティ感が表現されていく。
こういった音楽の作り方は、テクノロジーの進化があってこそだとルークは話す。昔は4トラックしか重ねられなかったが、それが8になり、16になり、24になり、今では永遠にトラックを重ねられるのだ。
さて、続いてはDragon Ashの楽曲解説。
実は冒頭、Kjはこんなことを話していた。曰く「自分はバンドマンなので、レコーディングでどんな風に作ってるかを解説するのはヤボだと思ってます(笑)。できあがった曲が人に届いたときに、グッとくるかこないか、体や心を揺さぶれるか、それだけ。自分はずっと歌を歌ったり楽器を弾いたりしてきたから、シークエンスしようと思ってもできないようなものを作りたいなっていうエゴの部分もありますしね(笑)」
そんな前置きをしつつ、最新アルバム『MAJESTIC』のオープニングを飾る、イントロ『MAJESTIC』から2曲目『Stardust』を続けて紹介してくれた。
「この2曲は、メインテーマのシークエンスも同じものを使っているんだけど、bpmが途中で120から160に上がるんです。1小節ずつbpm10ずつ上がってる。楽器を使って作ってはいるんだけど、今のテクノロジーがないとできない表現方法ですね」
もう1曲の解説は、アルバムを締めくくる『A Hundred Emotions』だ。
「普通にコーラスを録って、あとでチョップしてる部分もあるんですが、逆に生のグルーヴのままやってるところもあります。全部チョップして間をキレイにしちゃうと、楽器ができない人にも作れるような曲になっちゃうと思うから。今の“シークエンス管理されてる音楽”に対抗していく、ロックの可能性を模索したアルバムになったので、そういったアンチテーゼも込めて、これを最後の曲にしたんです」