対談:KID FRESINO × 三浦淳悟(ペトロールズ)

by Mastered編集部

2016年7月にSummitからリリースした愛知県知立のラッパー、C.O.S.A.とのWネームアルバム『Somewhere』が今まで以上に幅広いリスナーからの支持を獲得したKID FRESINO。その勢いはとどまることを知らず、半年という短いスパンで早くも新作が届けられた。

彼にとって初となるEP”Salve“は、ペトロールズのベーシストである三浦淳悟を含む4人編成のバンドとレコーディングを行った3曲とLA在住のカナダ人プロデューサー、Mockyが全ての楽器をプレイして作り上げた1曲を収録。大きな飛躍を果たしたEPを音楽的に紐解くべく、KID FRESINOとペトロールズの三浦淳悟との対談を行った。

Photo:Shin Hamada、Interview&Text:Yu Onoda、Edit:Keita Miki

今回のようなトライアルを重ねることで、自分は何をやってもいい人間になりたいんですよね。(KID FRESINO)

— まず、今回、バンドでのレコーディングを行うことになったいきさつを教えてください。

KID FRESINO:新しい作品を作りたいとは思っていたんですけど、制作を1から始めようと思ったタイミングで、JJJは自分の作品に取り組んでいたり、すぐにトラックが集まる気がしなくて。そして、自分自身、そういう作品の作り方にどこか飽きていたこともあって、これは時間がかかりそうだなって思ったんですよね。

— Kendrick Lamarだったり、Chance The Rapperが参加しているDonnie Trumpet & The Social ExperimentやA Tribe Called Questの新作もそうですけど、ここ最近活発化しているラッパーとミュージシャンのコラボレーションも念頭にはあったんですよね?

KID FRESINO:それはもちろん。Chanceの影響はあって、ああいうコラボレーションはいいなって思っていたし、ちょうど、その頃、日本のバンドのアルバムをあれこれ聴きながら、そのうえでラップして遊んだりしてたので、その流れでJJJ担当のA&Rにバンドとレコーディングするにはどうしたらいいのかを相談してみたんです。そうしたら、まずは誰に曲を作ってもらうのか、バンドメンバーは誰がいいかを決める必要がある、と。そこで最初に思い浮かんだのが、三浦さんのベースだったんですね。自分の勉強不足で、その時点で三浦さんが今も活動しているのかどうか……というか、三浦さんがメンバーとして活動しているペトロールズの存在を知らなかったんですけど、まずは三浦さんの名前を挙げてみたら、「今はペトロールズってバンドのベースですよ」って。それですぐにペトロールズの音源を聴かせてもらって、三浦さんに声を掛けさせていただきました。

Loop Junktionのアルバム『Turkey』

Loop Junktionのアルバム『Turkey』


— ペトロールズを知らなかったということは、フレシノくんは三浦さんがそれ以前にベースを弾いていたヒップホップバンド、Loop Junktionを聴いていた、と?

KID FRESINO:そう、Loop Junktion時代の三浦さんのベースが好きだったんです。

— でも、Loop Junktionの最後のアルバム『Turkey』は2003年リリースだから、当然、後追いですよね?

KID FRESINO:ですね。先輩が聴いていて、その存在を知ったんです。

三浦: 2003年っていうと、フレシノくんは……10歳か(笑)。

KID FRESINO:俺、日本語ラップの中古CDをひたすら集めてた時期があって、『Turkey』もその時に手に入れたんですよ。

三浦:誰かが手放したんだね(笑)。

KID FRESINO:『Turkey』は高かったんですけど、手に入れてからは、アルバムを聴きながら、三浦さんのベースパートをよく口ずさんでたし、”Mystery Train”って曲はDJでもよくかけてて、「この曲いいね」って言われることが多かったんです。

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— フレシノくんからのオファーを受けた三浦さんはどう思われました?

三浦:送ってもらった音源を聴かせてもらって、その後、すぐにライヴも観させてもらったんですけど、その時、出演していた他のラッパーと比較して、声の抜けの良さが際立ってるなって思いましたね。頂いた話として、最初はプロデュースを頼みたいっていうことだったんですけど、自分にはそういう経験があまりなくて。ただ、Loop Junktionを聴いて、声を掛けてくれたことがうれしかったし、「ベースラインを持っていくことだったら、出来ますよ」ってことで引き受けました。

— 三浦さん以外のメンバーはどうやって決めたんですか?

KID FRESINO:ドラマーのカッキーさん(柿沼和成)は三浦さんが紹介してくれて、ギターの斎藤(拓郎:Yasei Collective)さんと鍵盤奏者の佐藤(優介:カメラ=万年筆)さんは、録音を担当して頂いたエンジニアの葛西(敏彦)さんが紹介してくれたんです。

— フレシノくんはバンドでの曲作りの経験もなければ、知識もなかったわけでしょ? そういう状況下で曲作りはどう進めていったんですか?

三浦:最初はニューヨークにいるフレシノくんとSkypeで話して、言葉でイメージを伝えてくれたよね。確か、「晴れかけ」って言葉が出てきたんじゃなかった?

KID FRESINO:ああ、言ってましたね(笑)。Donnie Trumpet & The Social Experimentが自分にとってはまさに「晴れかけ」のイメージだったというか。

三浦:その後はメールでのやり取りで、参考曲のYouTubeリンクをいくつか送ってもらったんですけど、生バンドじゃなく、トラックものの音源が多かったですね。

KID FRESINO:その参考音源をもとに、三浦さんがベースラインのアイデアを考えて、それをスタジオに持ってきてくれて。そのベースラインをもとに生まれたのが、1曲目の”Salve”と2曲目の”Keys open door”なんです。

Donnie Trumpet & The Social Experimentのアルバム『Surf』

Donnie Trumpet & The Social Experimentのアルバム『Surf』


— 三浦さんにとっても雲をもつかむような作業だったと思うんですけど……。

三浦:フレシノくんとは事前にやり取りしていたものの、スタジオでの作業は初めてだったし、カッキー以外のプレイヤー3人も事前のリハーサルはなく、レコーティング当日に初めて会ったので、スタジオではぶっつけ本番で探りながらの作業だったんですけど、僕は「当日なんとかなるでしょ」って思ってました。

KID FRESINO:レコーディングは2日間で、バンドが音合わせしているのを見ながら、自分に判断が委ねられるわけなんですけど、俺は俺なりに見えているものはあって。こうして欲しいっていう要望もあったんですけど、譜面が読めるわけでもなければ、コードの知識もないので、そこでどうすればいいのか、どう言えばいいのか、いきなり戸惑うっていう(笑)。

三浦:でも、ベースとドラムのベーシックトラックを「こういうのどう?」って聴かせると、気に入った曲だとガラス越しにラップしているのが見えるんですよ。その反応を見ながら、少しずつ曲を形にしていったんです。

— フレシノくんはフレシノくんなりに、演奏を聴きながら、ラップをフリースタイルで試していた、と。

KID FRESINO:そう、演奏だったら、その場ですぐに曲のテンポが変えられるじゃないですか。だから、ラップしながら、言葉がハメやすいテンポを自分なりに探りましたね。

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— Loop Junktionの曲作りもそんな感じの進め方だったんですか?

三浦:いや、スタジオはお金がかかるから、時間は無駄に出来なくて、事前に普通のリハーサル・スタジオである程度は形にしておくし、ライヴでも試したうえで、レコーディングすることが多かったですね。今回のように、その場のセッションで曲を作っていくレコーディングはそうそうあることじゃないです。でも、せっかくプレイヤーが集まって、そういう進め方でレコーディングしているわけだから、演奏を切り貼りして、ループを組んだり、ダビングを重ねて曲を作り込むんじゃなく、生演奏ならではの揺れや、突っ込んだり、遅れたりする部分を活かすことで、フレシノくんの参考曲から、ある意味かけ離れたものになればいいなって思ってました。ただ、演奏するうえでは久しぶりに同じフレーズの反復に徹したので、最後の曲”by her”では、展開を付けたくなる気持ちを抑えて演奏しましたね。

KID FRESINO:Loop Junktionでは”弔”って曲が自分のフェイバリットだったので、そういう曲でラップをしたくて。鍵盤奏者の佐藤さんが、ベースからドラムから全部自分で弾いて作ってくれたデモの中から”弔”のことを念頭に、”by her”を選んだんです。

— そんな短くも濃密な今回のレコーディングを振り返ってみて、いかがでしょうか。

三浦:その場で聴いた音に触発されて、ばーっと言葉を生み出していく瞬発力は、やっぱり、ラッパーならではだなって。今は楽器を弾く人たちもそうなんですけど、若い子はみんな上手いんですよ。フレシノくんのラップを聴いて、ヒップホップの世界でも同じことが起きているんだなって思いました。そして、僕個人としてはこうして若い世代のラッパーから声をかけてもらって、Loop Junktionでやってきたことが無駄じゃなかったなって思いましたし、ヒップホップの作品を作るのがLoop Junktion以来だったので、懐かしくもあり、長らく離れていたぶん、新鮮でもあり。たった、2小節のベースラインのアイデアから最終的にラップが乗っかって、音楽になっていく過程が楽しかったですね。

KID FRESINO:自分のなかでは、今回、ラップするうえで、トラックとバンドではアプローチが違ったというか、意識して変えましたね。単純にテンポが違うということもあるし、例えば、JJJのトラックだと、バチバチに音が出ているので、”がなる”ようにラップすればいいやって感じなんですけど、今回の曲は音像も含めて、ぐっと落ち着いているので、曲に込めるテンションとか、声の使い方も難しくて、リリックを書くのが難しかったし、ラップの録りも時間がかかりました。自分のなかで1曲目の”Salve”が一番上手くラップがハマってる気がするので、ぜひ聴いてみて欲しいです。

— 今回の作品は4曲入りのEPですけど、この先、どこかのタイミングでバンド編成でのライヴや新たな作品リリースも期待していていいんでしょうか?

KID FRESINO:もちろん、やってみたいなとは思ってます。ただ、こんな自分のために、忙しいプレイヤーの皆さんの手を煩わせるのも悪いというか……(笑)。

三浦:いやいや。ターンテーブルは入れずに、生バンドでライヴやろうよ。

KID FRESINO:ホントですか。みんなが付き合ってくれるなら、そりゃやりたいですよ。今回のようなトライアルを重ねることで、自分は何をやってもいい人間になりたいんですよね。例えば、Kendrick LamarなんかはTerrace MartinやCardo、Pharrell、もちろん、TDEのプロデューサーチーム、Digi+Phonicsとも自由に音楽を作っているわけで、この作品はそうやって音楽をやっていきたいという自分なりの意志表示でもあるんです。

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【KID FRESINO 『Salve』】
2017年1月25日(水)リリース
品番:DDCB-12094
価格:1,300円 + 税
レーベル:Dogear Records / AWDR/LR2

■収録曲
1. Salve ft. JJJ
2. Keys open door ft. Campanella
3. Let me in (hair cut)
4. by her ft. 茂千代