Interview:写真家 久保憲司が語るKurt CobainとNirvana

by Mastered編集部

去る1月26日より1ヶ月間の限定受注販売という形式でスタートした『TAKAHIROMIYASHITATheSoloIst.×SPADE』のスペシャルコラボプロダクト、全16点。発売開始当初より大きな話題となり、NMERollingStoneをはじめとした海外の老舗音楽誌にも取り上げられたこれらのプロダクトですが、その肝となっているのが、写真家 久保憲司氏が撮影したカート・コバーン(Kurt Cobain)とコートニー・ラブ(Courtney Love)のプライベート感溢れる写真な訳です。
そこで受注期間終了間際となる今回、Masteredではロック・フォトグラファーとして比類なき活躍を続ける久保憲司氏、ご本人にインタビューを敢行。知られざる撮影の裏側も含め、カート・コバーンとNirvanaに対する想いをたっぷりと語って頂きました。
なお、繰り返しになりますが、『TAKAHIROMIYASHITATheSoloIst.×SPADE』のスペシャルコラボプロダクトの受注期間は2月26日(日)24:00まで。くれぐれもお見逃しの無いよう、ご注意くださいませ!

『TAKAHIROMIYASHITATheSoloIst.×SPADE』のスペシャルコラボプロダクトを今すぐチェックする

Photo:Kenji Kubo
Interview:Hiroshi Inada

これだけギターと声で表現が出来る人っていないから、また見たいなと思いますね。デイヴ・グロールとクリス・ノヴォセリックには悪いけれど、カートは本当にギターと声だけで全てを表現をしていた。

久保憲司
1964年、大阪生まれ。1981年、単身渡英し、ロック・フォトグラファーとしてのキャリアをスタート。以降国内外の音楽誌を中心に活躍を続け、現在はオーガナイザー、ライターとしても活動中。

— 今回の写真はいつ頃撮影されたものだったんですか?

久保:1992年の2月。25歳になるかならないかのカート・コバーンでした。

— この写真集が出たのが、2年後。ちょうど彼が亡くなった直後くらいですか?

久保:うーん……ちょっと覚えていないですね。

— 20年も昔の話ですもんね。久保さんが写真を撮り始めてからどのくらい経った時の作品なんですか?

久保:1982年くらいから撮り始めているので、ちょうど10年くらいです。

— ロンドンから東京に戻ってきたのはいつ頃でしたっけ?

久保:1988年くらいですね。ちょうどマッドチェスターがすごく盛り上がっていた時代でしたが、シアトルで何やら面白い動きがあるというのはイギリスに伝わってきてましたね。

— それまでNirvanaに対してはどういうイメージを持っていましたか?

久保:実は来日した時はあまり好きじゃなくて。あとからジワジワと好きになった感じです。そういう意味ではRed Hot Chili Peppersのジョン・フルシアンテに似ていますね。

— あんまりピンとくる感じではなかったと。

Nirvanaの1stアルバム『Bleach』


久保:1stアルバムの『Bleach』は好きだったんですけど、どちらかというとMudhoneyのほうが格好いいかなと思っていたタイプなので。でも後期になるに連れて、段々とカート・コバーンが変わってくるじゃないですか。フェニミズムが好きだとか、The Vaselinesが好きだとか、少年ナイフが好きだとか、BOREDOMSが好きだとか言い出して。その時期はカバーとかもすごく面白くて。たしか、ウィリアム・バロウズとかとやっていて。それですごく印象が変わったんです。カート・コバーンのものだったら、何でも欲しいなと思うようになりましたね。

— なるほど。これはその頃に撮影されたものですか?

久保:いや、その前ですね。この時、僕はHoleのほうが好きでしたもん。基本的にノイズとかの方が好きなので、キム・ゴードンがプロデュースしていたHoleの方が良いなと思っていた。

— この時の事って、覚えていますか? 恐らくミュージック・マガジンの取材だと思うのですが。

久保:はい。取材で撮らせてもらって。なんで部屋に入ったのかはちょっと覚えてないんですけどね。「セーターが欲しい、あげる代わりに少年ナイフのTシャツをあげるから」と言って部屋に戻ったのを覚えてますね。

— このモヘアの?


久保:そう。やっぱりパンクだからモヘアなんでしょうね。そういうモヘアが好きなんだなぁと思って。

— なんでパジャマなんでしたっけ?

久保:全然分からないですけど、The Boomtown Ratsのジョニー・フィンガーズがいつもパジャマだったので、当時はカート・コバーンもそういうのを見ているのかなと思いましたね。まぁ、ロッド・スチュワートもこういうパジャマを着ている有名な写真があって、格好良いなとは思っていましたけど。そういうのも後から考えると、センス良いなと。

— でも当時は…?

久保:頭のおかしい人

一同笑

久保:宮下さんが言うには、本当に日本に来てすぐに買ったらしいんですよ。2回買ったらしいです(笑)。
僕が知ってたのは、九州のデパートで買ったと言われてるやつ。で、宮下さんが知ってたのは、伊勢丹で買ったやつ。で、どうもこれは伊勢丹で買ったものなんじゃないかって。

— さすが宮下さんは詳しいですね。でもパジャマでも格好良く見えますもんね。僕らが着たら全然違うんだろうけど(笑)

久保:(そのパジャマに)かわいいポシェットだけ。何色かは忘れちゃったけど。

— カートに会ったのはこの時だけですか?

久保:それと、クラブチッタのライブ。

— チッタのライブはどうだったんですか?

久保:すごく爆音で、低音も良く出ていて格好良かったですよ。チッタのライブではThe Stone RosesとNirvanaがよかったです。あとは、My Bloody Valentine。この3つがすごくよかった。

— あの頃のチッタは一番熱かったですよね。カートはずっとコートニーと一緒だったんですか?

久保:どうなんですかね、でもラブラブだなぁとは思ってました。この後すぐに結婚するんですよね、ハワイで。

— 撮影の時はどうだったんですか? すごくプライベート感溢れる写真ですが、ずっとじゃれあっているような感じだったんでしょうか?


久保:たぶん、カートが汚いから、コートニーがノミを取ってあげているようなイメージだと思うんですけどね。お猿さんがやるような感じで(笑)。

— なるほどね。でも結婚直前ですからね。それはラブラブですよね。撮影の際は自然な流れで?

久保:たしかTシャツをあげるって言われて、それを取りに行った時に、じゃあここでも撮らせてって言ったんだと思います。

— それで、少年ナイフのTシャツをもらったんですよね? そのTシャツはどうしたんですか?

久保:僕はそれほどファンじゃなかったから、当時『ポップギア』という雑誌があって、そこで読者プレゼントしちゃいました。

— もったいない(笑)!

久保:いや、でもまさかいなくなるとは思っていなかったんで…。でも本当に汚かったんですよ(笑)。
洗ってるのか、いないのか分からないような感じで。

— でもそれがいいじゃないですか。

久保:もちろん、今考えたらそうなんですけどね。きっと300万くらいで売れてますよね(笑)。

— 今は誰か持っているんでしょうね。

久保:多分、ポップギアの読者の人です。でもその人も捨ててるんじゃないかな。届いた時びっくりしたと思いますよ、汚くて。もうヨレヨレで。柄も覚えていなんですけどね。

— カートはいつも着ているTシャツのバンドにセンスがありますよね。だからあのパジャマもしかり、かなり服のセンスがあるんじゃないかと思うんです。宮下さんのインタビューでも話が出ましたけど、かなり計算してやっていたんじゃないかっていう。今回ああいった形で写真を服に落とし込んでみてどうでしたか?

久保:宮下さんに会えて良かったですね。いや、お会いしたことはあったのですが、きちんと喋れて嬉しかったです。

— 自分の写真が洋服になったのは初めてですか?

classic hunting jacket.
80,850円
(Mastered)


久保:Tシャツはありましたけど、こんな風にパンツやジャケットになったのは初めてですね。

— 久保さんとしてはどういう人に着てもらいたいですか?

久保:女の子がパッと着ていても可愛いですよね。でもカート・コバーンは男の子の方が人気あるのかな?

— いやそんなことも無いんじゃないですか。この写真に関しては、この写真のファンというのもいると思います。この写真集はどうやって制作したんですか?

久保:僕の知り合いで川崎和哉さんという方がいるんですが、その方が家に来て、全部写真を時代ごとに分けて選んでくれて。よくやってくれたなと。僕は何もしていないので(笑)。

— 基本は全部ポジですか?

久保:ポジとかプリントとか全部グチャグチャで。それを川崎さんが端から端まで見直して、さらによいモノをピックアップして、時代も分けて、整理してくれたんです。僕がそれをまたグチャグチャにしてしまいましたけどね(笑)。
大失敗です。

— 1988年というとグランジの初期にあたりますよね。

久保:Butthole SurfersとかPixiesとかがいい感じの頃。でもシーン的には停滞していた時なんですよね。イギリスではマッドチェスターでガッといくんですが、その前のイギリスがあまりにもおもしろくなくって、日本に戻ってきてしまったんです…。それまでは大阪に住んでいたんですが、東京に住んだことが無かったから、住みたいなと思って東京に来ました。

— 大阪、ロンドン、東京っていう順番なんですね。

久保:本当はニューヨークに行きたかったんです。でも前の嫁さんに「子供をジャンキーにするのか!」って言われて(笑)。
本当はニューヨークくらい行っといた方がよかったんですけどね。

— ちょうどそれくらいからですよね。グランジとマッドチェスターの入れ替わりというか。

久保:そうです。マッドチェスターが終わりかけると同時に、グランジがバーっと始まって。それで、グランジが終わりかけの時にOasisとBlurの戦いが始まる。2年くらいでアメリカとイギリスがタームになっているんじゃないですかね。

— Nirvanaも実際の活動期間は僅か数年ですもんね。

久保:僕はもう『In Utero』の頃には興味なかったですもん。一番好きなのは『Bleach』の頃で。

— 昨年、20周年で『Nevermind』の復刻版が出てましたよね。アンディ・ウォレスがミックスする前のデモテープが入っていて、すごく荒々しくて良かったです。

久保:『Nevermind』を作っている途中でGeffen Recordsと契約が決まるんですよね。それから一気に予算が上がっていって。

2011年にリリースされたNirvanaの
『Nevermind』Super Deluxe Edition

— 売るぞ! って感じになったんでしょうね。

久保:でもゲフィン的には5万枚くらいでいいかなと思っていたらしいですね。それが600万枚も売れたんだから。

— そんな売れたロックアルバムって過去に無かったですからね。最終的にはあのミックスをカートはあまり気に入ってなかったという話もありますよね。

久保:でも最初のころは喜んでたんじゃないですか。カートは基本ポップなものが好きだし。本当にThe Knackとかが好きだったみたいですよ。みんな冗談だと思っていたらしいけど。

— 良いバランスだったんでしょうね。アイコンになる必然はあったのかなと思います。

久保:イギリスとかだと、パンクの情報って早いんですけど、アメリカは約10年かかった。地ならしが出来たところに、必然的にカートが出てきたのかなと思いますね。BLACK FLAGとかが地道にライブハウスを回って、パンクって何なのかってことをみんなが分かってきた時に、カートがポップなメロディとパンクの思想的な部分を持ってきてブレイクした。

— そう考えるとSex Pistolsへのアメリカからの返答だったのかもしれませんね。

Sex Pistolsのアルバム
『Never Mind the Bollocks Here's the Sex Pistols』


久保:すごく時間はかかったけどね(笑)。イギリスは何回返答しているんだってくらいですけれど、アメリカでは1つの返答に10年かかるのかと。

— 10年掛かっているからダイレクトではないけれど、現象としてはそれくらいの勢いがありましたよね。カート・コバーンってハイブリッドな存在でもあるじゃないですか。すごくピュアな反抗という部分もあるし、ポップな部分も持っているし、ハードコアな部分もある。

久保:例えばGuns N’ RosesとかはNirvanaによって一掃されたけれど、Guns N’ Rosesも実はゴスなどのイギリスの新しいロックが好きで、それに影響されながら新しいハードロックを作ったと思うんです。後にドラムにSOUTHERN DEATH CULTのやつをいれたりすることからもわかるように、イギリスのバウハウスとかが好きな子らがハードロックをやって、結局両方は出来ないから、ハードロックだけのダサいイメージだけが出ちゃったというか。カートはそういうところ、上手いですよね。

— 普通は時代が変わるとダサくなるじゃないですか。でもNirvanaはならないですよね。ずっとエバーグリーンな存在であり、レベルな存在であり続けるというか。カートが自分から死を選んだというのは不思議ですよね。

Nirvanaの3rdアルバム
『In Utero』


久保:ちゃんと分かっている人かなと思っていたから、すごくショックでしたけどね。だから、コートニーに殺されたという説が出てくるという

一同笑

— 写真集に話は戻りますが、川崎さんがあれだけあるものを整理して、たくさんある中でこれを選んだじゃないですか。Morrisseyでもなく、The Stone Rosesでもなく。

久保:すごいですよね。カート・コバーンが再評価される前だったので本当にすごいと思った。

— 久保さんにとってカート・コバーンはどういう存在ですか?

久保:カートはLeadbellyとかブルースが結構好きで、本当にギターと声だけで表現出来ていた人だなと思います。いないじゃないですかね。ノエル・ギャラガーもそうなのかもしれないですけれど、もっとすごいと思うし。

— 全てを兼ね備えていますね。

Peter Weir監督の映画
『いまを生きる(原題:Dead Poets Society)』


久保:これだけギターと声で表現が出来る人っていないから、また見たいなと思いますね。デイヴ・グロールとクリス・ノヴォセリックには悪いけれど、カートは本当にギターと声だけで全てを表現をしていた。ジョン・レノンもそうだし、ミック・ジャガーもギターを持って弾き語りさせたらそうなるのかもしれないですけどね。ニール・ヤングもそうなのかもしれませんが、でも比較するとカートの方が全然凄かったんだと思います。やっぱり僕はパンクが好きで、カートは年も近くて、パンクの精神をちゃんと表現してくれた人なので好きですね。

— 彼が好きなものも好きですか?

久保:そうですね。宮下さんも多分同じだと思うんですけどね。Dead poets society。僕もすごく好きな映画だし、すごく気持ちが分かる。俺たちはもう詩人が詩人(革命家)じゃない時代を生きている。カートもそうですよね。パンクがパンク(革命)じゃなくなった時代に音楽を始めた。でも、カートも宮下さんも時代を変えたじゃないですか、本当に羨ましい。自分が出来れば良いのですが、自分は出来ないから恥ずかしいだけですけど。デッド・ポエット・ソサエティを生きていくだけですよ。それが今を生きるっていう意味なんですけどね。今の若い子にはそう思って生きて欲しいですね。そういうこと(デッド・ポエット・ソサエティ)を分かって、宮下さんや、カートのように世の中を変えてもらいたいです。