イギリスに魅せられた男たち – 対談:馬場圭介 × 山本真太郎 –

by Nobuyuki Shigetake

デザイナー自身の長年にわたるイギリスでの生活で感じ取った多様なカルチャーと東京の感覚をミックスさせたシューズブランド・KIDS LOVE GAITE(キッズ ラブ ゲイト)。
グッドイヤーウェルテッド製法を主軸とした本格的な造りに、ひとさじの遊び心をプラス。計算されたボリューム感を生み出すオリジナリティ溢れるデザインが特徴のシューズを実直に世に送り出し続けている。そんな同ブランドのデザイナーである山本真太郎にとっての目標のひとつ、それは、この9月にリリースされたClarks(クラークス)とのコラボレーションシューズを作ることだった。
本特集ではそんな山本と、このシューズを作る上でのキーマンとなったスタイリストの馬場圭介という、イギリスに魅せられた2人の男たちによる対談をお届けする。

Photo:Kazuki Miyamae | Text&Edit:Nobuyuki Shigetake | Special Thanks:Cafe&Bar Delight

「UKカルチャーを薫らせたいとなると、もう馬場さんにお願いするしかなかったんです(山本真太郎)」

— まず、お2人の出逢いについてお聞かせください。

山本真太郎(以下、山本):当然馬場さんのことは知り合う前から一方的に存じ上げていましたし、憧れの存在でした。もう、とにかく絡みたくて必死だったんですよね(笑)。そこで、知人に取り次いでもらい、馬場さんがやっていたGB(ジービー)というブランドの展示会にお邪魔したら会場に立ってらっしゃって、「あぁ、馬場さんって実在するんだ」と(笑)。

馬場圭介(以下、馬場):お互いにロンドンに住んでいたことがあるから、共通の友人も多かったんだよね。会話は全然続かなかったけど(笑)。

山本:そうでしたね(笑)。それから実際にお仕事でご一緒したのは数年経ってからで、The DUFFER of St. GEORGE(ダファーオブセントジョージ)を馬場さんが監修してらっしゃったときに、KIDS LOVE GAITEにシューズの作成を依頼してもらったんです。僕としては「馬場さんと一緒に仕事ができる」ということが感激で、ひとつ目標を達成したような気分でした。

馬場圭介
スタイリスト
1958年、熊本生まれ。大御所スタイリストの1人として日本のファッション界を支える第一任者。28歳の時にロンドンに渡りスタイリストの大久保篤志氏に出会う。2年後に帰国。東京でスタイリストアシスタントして働き始め1年後に独立。2004年秋冬シーズンからnano universeと始めたブリティッシュロックとミリタリーを絶妙に合体させたブランド・GBのディレクターとデザイナーも兼任する。また2007年から2009年までUNIQLO企画のコラボTシャツのデザインをニコラ・フォルミケッティや大久保篤志氏などと共に手掛ける。2019年春夏シーズンより、自身のブランドであるNORMANを始動する。

山本真太郎
KIDS LOVE GAITE デザイナー
1974年、東京生まれ。1990年に渡英。1996年からThe Old Curiosity Shopにてアシスタントとして勤務。2000年に帰国し、OEMの企画営業などを経て、2008年秋冬コレクションよりKIDS LOVE GAITEをスタート。

— では、知り合ってからはスムーズだったと。

馬場:そうだね。でも、真太郎はいまだに俺に緊張してるよ。

山本:いやあ、いつになっても畏れ多くて……。

— (笑)。2020年で12年目になるKIDS LOVE GAITEですが、馬場さんとしてはKIDS LOVE GAITEにはどういったイメージがありますか?

馬場:UKスタイルを貫いているシューズブランドってイメージ。こだわって作っているなと感心するし、何よりワンアイテムで10年以上続くってすごいことだと思うよ。

山本:ありがとうございます。のらりくらりな部分もありますが、馬場さんをはじめとするたくさんの先輩たちに助けられながら続けられているし、有難いことに、少しずつ広がっていってる実感もありますね。

— 先輩方からの助けというと、今回のClarksとのコラボレーションシューズも、馬場さんがビジュアルディレクションとモデルを担当されていますね。

山本:馬場さんに何かをお願いするのは常に緊張感があって、今回も恐る恐るお願いしたのですが、案外さらっと「うん、いいよ」と言って頂けてホっとしました(笑)。

馬場:真太郎が俺に何か頼み事をするときは、電話での前説が長いからすぐに分かるんだよ。今回も「あー、多分これ頼み事だなぁ」って思って(笑)。

— Clarksとコラボレーションをするに至った経緯を聞かせてください。

山本:Clarksはイギリスのブランドというのもあり、KIDS LOVE GAITEとしては「いつかコラボレーションしたい」とずっと思っていたんです。実は数年前からアプローチはかけていて、今回、2020年に『Desert Boots』が70周年を迎えるにあたってようやく実現した、という感じです。コラボレーションを承諾してもらってからは、Clarksサイドは「自由にやっていい」と言ってくれていたから、これはClarksに対しても一発見せるチャンスだったし、KIDS LOVE GAITEの名を広げるきっかけにもなりそうだな、と思っていたので、とことんやってみようかと。

— 一任してもらったということですね。

山本:そうですね。Clarksの『Desert Boots』といえば永世定番だし、既に完成しているシューズとしてのイメージがあるので、あとはどのようにKIDS LOVE GAITEのエッセンスを入れるか、というのが課題でした。いざ作るとなって、モノとして完成させてからの見せ方も含めていろいろと考えてたのですが、UKのカルチャーを踏まえたモノづくりでもあったし、ルックやビジュアルという見せ方のところでもUKのカルチャーを薫らせたい、と考えるともう馬場さんにビジュアルディレクションを依頼するほかなかったんです。それで、恐る恐る連絡してみたのですが、ちょうど少し前に、馬場さんがやっているNORMAN(ノルマン)というブランドのシューズを作らせてもらったこともあったので、これならお願いしやすいなって(笑)。

— あの『Desert Boots』がこうなるか、と新鮮に感じました。すでに完成しているシューズにコラボレーションという形で加工を施すことは、これまでにもあったんですか?

山本:以前に別のブランドで2シーズンほどシューズを作ったことがありました。ただ、それはデザイン面に割と制限があったんです。反面、『Desert Boots』はとてもプレーンなシューズなのでデザインを施せる余地も多く、自由に楽しめましたね。リメイクに近い感覚というか。普段のシューズ作りもそうですが、洋服と比べるとシューズってデザインできるスペースが限られているんですよね。それに、パーツの集合体だから、考え方としては、どのパーツとどのパーツを組み合わせようとか、どの素材をどの場所に使おうとか、ソールはヒールがあるものにしようとか。

馬場:積木と一緒だよな。

山本:そうなんです。立体物だし、パーツのセレクトや配置場所次第でガラッと表情も変わる。そういう意味では、洋服のデザイナーさんの考え方とは全く異なりますね。

馬場:スタイリストの視点から見ると、やっぱり物がないとどうにもスタイリングを組めないんだよな。脳みその中で完結させることは無理なんだよ。だから、ゼロから作る洋服のデザイナーってすごいな、って思う。

山本:本当にすごいですよね。結局、手元にパーツがあって、これとこれをどう使うか、というように考えるので、そういう意味では僕のモノづくりの考え方はスタイリストと近いかもしれないです。制限がある上で物作りをすることが常なので、今回のClarksのシューズなんかも、とてもスタイリスト的に作ったと言えますね。物があって、どのように活かしながらKIDS LOVE GAITEのエッセンスを加えるか。

— 今回でいうと、どのあたりにKIDS LOVE GAITEのエッセンスが入っているか聞かせてください。

山本:シューズの先端部分に施されたラバーコーティングですね。これはスクーターのオイルをイメージしたものになっています。モッズをテーマにしているのですが、「モッズ=バイク」というのは、もうパッと出てきたイメージですね。3つボタンの細身のスーツにミリタリーコートを着たバイク乗りのモッズたちが足元に合わせるシューズ、彼らもキッズだからあまりシューズにお金もかけられない。となると、やはり安価に手に入るClarksを合わせていたんだろうな、と。さらにそのClarksのシューズは、日々乗っているバイクのオイルがかかってしまってもなお大事に履き続けていただんだろうな、とか。想像を膨らませて作りました。

— それぞれラバーコーティングの被り方が異なりますが、これは手作業でやっているんですよね?

山本:職人さんが手作業でやってくれています。なのでひとつずつ、表情が違いますね。この部分は防水にもなるんですよ。

馬場:俺はイエローの方が良いと思ったけどね。

— あ、構想段階ではイエローもあったんですね。

山本:初期デザインの段階ではラバーコーティングがイエローのものも作っていたんです。それもすごく綺麗で、馬場さんに見せたときに大変好評だったんですが、やはりエンジンオイルをモチーフにしていることもあり、ブラックでいきたいなと。

馬場:一言相談しろよな(笑)。

— 今回は『Desert Boots』が70周年ということでベースモデルになっていますが、『Desert Trek』も同じくベースになっていて、それは何故ですか?

山本:どちらかというと昔からよく履いていたのは『Desert Trek』の方で。木型が丸っぽくて、自分の好みにも、足の形にも合っていたんですよね。思い入れもあるモデルだったので『Desert Trek』でも同デザインで作らせてもらったという感じです。

— 馬場さんは、これまでにClarksのシューズは履いてきましたか?

馬場:もちろん、履いていたよ。それこそ『Desert Boots』を、高校生くらいの頃かな。しばらく経ってからロンドンに住んでいた頃、ジャマイカ人の友だちがいつも『Desert Boots』を履いていて、俺としては懐かしいシューズだな、という印象だったんだけど、彼は「これは来年流行るぞ」ってずっと言い続けてたのをよく覚えてるよ(笑)。

山本:良いエピソードですね。おそらく、イギリスでは当時、労働者階級の人たちが履くシューズだったんですよね。元を辿るとその名の通り、デザートブーツって砂漠で履くシューズだから、強度も高くて、労働に適している。汚しても気にしない、履き潰すような靴だった、というわけです。

— ところで、今日はお2人ともお酒を飲みながらの対談ですが、普段からよく飲まれるんですか?

馬場:うん、よく飲むよ。今日もこれで6杯目。普段からよく飲むのは、焼酎かヘンドリックスか、この時期だったらピムス。ピムスはイギリスのリキュールなんだけど、ちょっと甘くて、ソーダやトニックウォーターで割って飲んでも美味しいんだよね。それに、キュウリとオレンジのスライスを入れて飲むんだよ。

— すごく美味しそうですね。

山本:めちゃくちゃ美味しいですよ。イギリスでは、夏になるとみんな飲んでるんですよね。

馬場:そうそう。ボウルにたくさんの氷とピムスを入れて。夏の定番って感じだよね。

山本:向こうは曇りが多いから、太陽が出るとみんなパブから外に出てきて、これを飲むんですよ。

— つまみは何が合うんですか?

山本:ポテトチップですかね?

馬場:合うね。ソルトが効いたポテトチップにビネガーをたくさんかけて食べると最高だよ(笑)。イギリスって食事がいまいちなイメージがあるかもしれないけど、近頃若い子たちが厨房に立つようになってから、見違えるくらい美味しくなった。あとは日曜日になると”サンデーロースト”って言って、ランチタイムに、ローストした肉、ジャガイモ、ヨークシャー・プディング、ファルス、野菜の付け合わせをグレイビーソースで食べる。これも最高なんだよね。

山本:うわー、最高ですね。あとはなんと言ってもイングリッシュブレックファースト。

馬場:外側はカリカリなんだけど中がねちゃっとしてるソーセージ。それにゆるいケチャップ味のビーンズ。分厚いベーコン、マッシュルーム、焼いたトマト。これが本当に美味いんだよね。

山本:目玉焼きも乗せたりなんかして。それに紅茶と、うっすいトースト(笑)。なんで、あんなに美味しいんですかね?

馬場:イギリスは昔、農業が盛んだったから、朝食、昼食をまとめてる人が多かったんだよね。だからボリューミーで味付けも濃口なんだと思う。ただ当然、塩分もカロリーもすっごいよ(笑)。朝に食べようものなら、ランチタイムになっても全然お腹空かない。

— お2人が特に好きなイギリスって何年頃ですか?

馬場:やっぱり、自分が住んでいた頃、1980年代後半が一番好きだね。

山本:僕は1990年代に住んでいたから、やっぱりその頃のイギリスは特別かなぁ。

— ファッションやカルチャーがどんどん生まれていった時代ですね。

馬場:今のイギリスにはオリジナルのカルチャーは無いよね。俺らは70年代、80年代のファッションが好きなんだけど、今ロンドンに行っても、当然その頃のファッションをしている人間はいない。イギリス人に、「馬場はイギリス人よりイギリス人」って言われるんだよ(笑)。

山本:とは言っても、馬場さんは1990年代の東京カルチャーにおいても重要人物ですよ。

馬場:その辺りも話すと長くなっちゃうけど(笑)、芝浦のGOLDとか懐かしいね。でもきっと、今GOLDがあったとしても、あの頃のように盛り上がることはないだろうし、結局時代がそうさせたんだよね。今も昔もそうだけど、日本で盛り上がるのはやっぱりアメリカ由来のカルチャー。俺も、若い頃はアメカジだったしね。でも、アメリカの音楽よりもイギリスのブリットロックが好きだったから。

— 馬場さんがイギリスのカルチャーに傾倒されたのも、音楽がきっかけだったんですか?

馬場:うん、そうだよ。やっぱりThe Beatles(ザ・ビートルズ)。最近はBuzzcocks(バズコックス)なんかも自分の中でリバイバルしていて、よく聴くかな。

山本:やっぱりイギリスってファッション、音楽のカルチャーが非常に密接に繋がっているんですよね。スキンズやパンクスがいて、モッズがいる。

— その中でもモッズはとりわけ洗練されているイメージです。

馬場:そもそも、モッズは”Modan’s”の略で、当時の土臭い大人たちから見ると、彼らはモダンな存在だったんだよね。色の数は少なめで、着崩さずに、身体に合ったサイズの洋服をちゃんと着る。イタリアの伊達男みたいなチャラい着こなしではなく、男たちにウケるファッションなんだよ。

山本:それが”イギリスっぽさ”ですよね。昭和、大正時代の日本にも同じようなムーブメントがありましたね。

馬場:事実、イギリス人と日本人はすごく似ていると思うよ。例えば、フランス人、アメリカ人、イギリス人、日本人の4人で酒を飲んだとする。最初はイギリス人と日本人はとにかくおとなしい。でも、結局最後まで飲み続けているのは、イギリス人と日本人。アメリカ人とフランス人は、自分が満足したらすぐに帰る。

— なんだかことわざみたいですね……(笑)。

馬場:イギリス人はとにかくタフで、酒もすごい飲むんだよね。

山本:馬場さん、いま何杯めですか?

馬場:10杯目かな(笑)。

山本:(笑)。確かにずっと飲み続ける忍耐力も、奥手でシャイなのも、日本人の性格とよく似ていると思います。

— 日本では、そんな日本人のシャイ、奥手な気質を、”粋”とか”奥ゆかしい”とか、綺麗な言葉で語ることもありますが、英語圏ではどのように表現するんですか?

馬場:”Gentleman”だよ。日本もイギリスも島国だから、通ずるものがあるんだよね。

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