ファッション、音楽、グルメ、アートなど、今や様々なジャンルにおいて盛んに行われるようになった”コラボレーション”。そんな”コラボレーション”をテーマとしたユニークなエキシビジョン『シブパル展。』が現在、渋谷パルコミュージアムにて開催中だ。
蜷川実花、チームラボなど、当サイトでもおなじみの豪華クリエイター陣による珠玉のコラボレーション作品は現在進行形で大きな話題を呼んでいるが、このたびMasteredではその中でも最新作品集『glamour』の発売決定をお伝えしたばかりの”サイケデリックマスター”田名網敬一と、国内外で活躍を続ける稀代のアートディレクター伊藤桂司のコラボレーションに大きくフィーチャー。ファッションメディアとしては初掲載となる両者の対談を通し、2人が考える”コラボレーション”の意味、そして肝心のコラボレーション作品の真相に迫った。
最近は”手に痛みを感じるような仕事”っていうを目にする機会が結構少ないんですよ。表現の分野でね。そりゃ、コンピューターでちょちょっとやれば、手なんて痛むわけない。(田名網敬一)
— このコラボレーション以前から、お二人は面識があったのですか?
伊藤桂司(以下、伊藤):もちろん。そもそも以前から田名網先生を尊敬していましたが、あるきっかけがあってお会いすることが出来ました。それ以来、ずっとお世話になっています。
— お二人で一緒に何かをするのは今回が初めて?
伊藤:このように1対1で、それも公の場で作品を一緒に作るというのは今回が初めてです。トークショー、対談、イベントでご一緒することはありましたけどね。あとは、田名網先生が教えておられる大学に呼んで頂いたり。
— ずばり、伊藤さんから見て田名網さんはどんな方でしょうか?
伊藤:いや、もうとても一言では言い表せないですよ。まぁ、よく先生を語る際には”サイケデリックマスター”という言葉が使われますが、まさしくその通りですね。でもそれ以上に僕にとっては、人生のお手本というか。絵はもちろん好きですが、衰えることのない実験性と、常に前に進もうとされている姿勢、思考の柔軟性には、非常に日々刺激を受けております(笑)。
田名網敬一(以下、田名網):伊藤さんとはもう知り合ってから10年くらいになりますが、その前から気になる存在ではあったんですよ。昔、それこそ、この渋谷PARCOで『VERSUS展』という展覧会があって、僕は宇川直宏くんと一緒にやったんですが、その展覧会に伊藤さんも出展していて。そこで初めて紹介してもらったんです。その後は先ほど話していたように私が教えている京都造形芸術大学の授業に参加してもらったり、お酒を飲みに行ったり、ずっと良い関係を保っていて。今回の『シブパル展。』でも、伊藤さんだからこそご一緒させて頂いた部分もあるし、やっぱりやって良かったなと思いますね。
— 今回の作品は、田名網さんの40年前の作品をベースにされていると伺いました。どういった経緯で40年前の作品を使うことになったのでしょうか?
伊藤:最初の打ち合わせで、先生のアトリエにお邪魔したのですが、その段階ではまだ何も決まっていなかったんです。どうしようかと話している最中に、先生の40年前のコラージュ作品が倉庫で見つかったという話が出てきて。実際に見せて頂いた瞬間に、僕の中ではもうやるべき事が決まったような感じですね。非常に強烈な体験でしたよ。久しぶりに心臓がドキドキして、震えがくるような。ありますよね、もの凄い”何か”に出会った時の感覚。まさにそんな感じだったんです。
— 40年前の作品が見つかるというのはなかなかレアなケースだと思いますが、何をきっかけに発見されたのでしょうか?
田名網:近々、僕の1960年代から70年代の作品をまとめた本(4月12日(金)、ERECT Lab.よりリリースされる作品集『glamour』)が出るんだけど、他にも何かないかと思って、倉庫とかを探していたんですよ。そしたら、作品の束が出てきて。この展示でも4枚原画を並べているけど、それが本当にたまたま出てきた。それを机の上にポンッと置いておいたのを、伊藤さんが見つけて「これがやりたい」と言ってくれた訳です。
— 実際の作品の制作過程としては、どのように制作を行っていったのでしょうか?
伊藤:先生のコラージュは40点以上あったので、その中からまずセレクトして、高品質の版画紙に原画よりも大きなサイズでプリントをしてもらって、僕がコラージュを加えていきました。そして、それを更にもう一度スキャンして、80号のキャンバスに出力。そこにペインティングやコラージュを加えて出来たのがこの作品です。
— 制作の際に何か特定のテーマはありましたか?
伊藤:作品1つ1つにテーマがある訳では無いんです。ただ、コラボレーションやコラージュは常々とても音楽的だと思っていて、この作業も、要素を重ねたり、削ったり、歪ませたりと正にリミックスのようだったので、『音楽的プロセスの実験』がテーマと言えるのかも知れませんね。同時に、improvisation(即興)のような側面もありました。即興といってもメチャクチャしているのではなくて(笑)、状況に対してどのように瞬時に”反応“するかという編集作業でもあるわけですよね。結果的には、お互いの個人史と創造の歴史が、上手くクロスして反応しあい、緊張感のある作品が生まれたんじゃないかな。
— 田名網さんはご自身の40年前の作品がこのような形で現代に生まれ変わったことについて、どのように感じていらっしゃいますか?
田名網:1960年代の後半、僕はニューヨークにいたんだけどね、その頃のニューヨークはとにかく色々な出来事が起こっていたんですよ。ケネディ大統領の暗殺、ウッドストック、公民権運動、ウーマンリブ、ベトナム戦争。アメリカ社会において、色々な事件が一気に起こったような時代で、そういう意味ではすごく活性化していたと言えるのかもしれない。そんな時代に初めてアメリカに行った訳だから、若かった僕はものすごく刺激を受けた。なんせ、街中でエロ新聞が普通に売っている訳ですよ(笑)。
そういうものが面白かったから、手に入れる度に日本の家に送っておいたんだよね。それをしばらくしてから日本で見て、「あぁ、これはやっぱり面白いな」と思って、素材にしてコラージュしたのがあの作品なんです。今の時代って、色々な意味で”規制”がされていて、人間をどんどん大人しくさせていこうとしてるでしょ。1960年代というのはその点、全く違っていて、こういうモロに出る身体的感覚みたいなものは、そういう時代の産物な訳だよね。そういう感覚が、こうやって伊藤さんと組むことによって、ラジカルな形で表面に出てきた。僕はそれがすごく楽しかったね。
— この『シブパル展。』では“コラボレーション”がテーマとなっています。先ほど伊藤さんは音楽的な作業に似ているとおっしゃっていましたが、田名網さんにとってコラボレーションとは?
田名網:2人でやっても必ずしも良い結果になるとは限らないんだよ。作品というのは基本的に1人で作った方が良いに決まってるんです、自分のものだから。それに全くの第3者が手を加える訳だから、当然、自分の意に沿わないことも出てくる。でも、それも含めて1+1が5にも6にもなるっていうのが、コラボレーションなんじゃないかな。伊藤さんの作風や考え方が好きだから「僕の作品を好きにしてください」って言えるけど、伊藤さんじゃなかったら、そうは言えないですよ。そういう関係性だと、コラボレーションっていうのは上手くいかなくなってしまう。だから、やっぱり思い切ったことができる関係性っていうのが一番大事ですよね。
— 近年、田名網さんは[Stussy]とコラボレーションを行ったり、valveat81でTシャツ展を行ったり、ファッションの分野でも盛んにコラボレーションを行われていますよね。そういったアートとは異なるジャンルの人たちとのコラボレーションというのには、また別の楽しみがあるものなのでしょうか?
田名網:僕はファインアートにこだわって、どうしてもこれでなければいけないというような活動ってもう長いことしていなくて、むしろファインアートで一点物を作るよりも、ファッションブランドと一緒にものを作ったりする方が好きなんです。その方が単純に面白いものが出来るし。ただ、こういう作品を共同制作するっていうのはまた別の次元の話だよね。これはこれで、すごくスリルがある。だって、一歩間違えたら自分の作品が全然ダメなものになっちゃうかもしれないんだから(笑)。
— スリルがあるとおっしゃいましたが、そういった類のコラボレーションは今までに経験が無い?
田名網:そうだね、こういうのはやったことが無いと思う。アニメーションを作ったことはあるんだけれど、アニメは割とはっきりと分業が出来るし、色々な人が関わるから。その点これは2人しかいない訳で、誰の介入もない。そういう意味では伊藤さんは流石ですよね。敬意をこめて、僕は「コラージュの家元」と呼んでいます。
一同笑
— 伊藤さんは過去のインタビューの中で「コラボレーションはグラフィックの活動を続けていく上で非常に大切な行為」というお話をされていましたよね。冒頭で田名網さんを尊敬しているとも言っていましたが、自分の尊敬するアーティストと実際にコラボレーションをしてみて、どのように感じましたか?
伊藤:そうそう。普通は無いでしょ、こんな機会。こんなに貴重で素晴らしい機会を与えてくれたPARCOさんには本当に感謝しております(笑)。
— 作品を一緒に制作するうえで、何か影響を受けた点はありましたか?
伊藤:まずは、何よりも原画そのものの凄さですよね。40年前にして、このタイムレスなコラージュがあまりにも素晴らしかった。おかげで展覧会中もずっと興奮状態が続いています。特に今回は時間と場を共有することで、生の創作現場を見られる訳で、こんなに贅沢な時間は他に無いですよ。昨日も先生が現場で最後の仕上げとして、ニスを塗っていた訳ですけど、グッと込み上げてくるものがありました(笑)。
田名網:自分で言うのもおかしいんですが、これは相当良く出来たと思いますよ。なかなか自分の作品を「良く出来た」とは言えないじゃないですか。でも、今回の作品は本当に”良く出来た”。
— 実際に来場される方には、どんなところに注意して作品を観て欲しいですか?
伊藤:原画との比較が出来るように、元絵となった40年前のコラージュを4点展示していますので、プロセスを想像しつつ、完成作品との違いを楽しんで欲しいですね。そして、作品を良く見てみると色々な部分が盛り上がっていたり、光っていたり、破れていたりします。ディティールに宿る物質としての力やダイナミズムみたいなものも同時に楽しんで頂ければと。
田名網:今伊藤さんが話したことに尽きるんですが、最近は”手に痛みを感じるような仕事”っていうを目にする機会が結構少ないんですよ。表現の分野でね。そりゃ、コンピューターでちょちょっとやれば、手なんて痛むわけない。でも、手に痛みを感じる仕事っていうのを復権させていかないと、人間の想像力というのはどんどん枯渇していくと思うんです。そういう意味で、人間の想像力をもっとダイナミックに復活させるようなことを僕は考えているので、その辺を観てもらえたら嬉しいですね。
— この『シブパル展。』ではお二人の他にも、様々なクリエイターがコラボレーション作品を発表していますが、若手で注目されているクリエイターの方がいれば教えてください。
伊藤:今回も少しお手伝いをしてもらった、河村康輔くん。彼はとても勢いがあるし、性格もセンスも良い。今後、どんどん伸びてくるんじゃないですかね。先生もお好きですよね。
田名網:うん、そうだね。彼はすごく良いね。
— 最後にMasteredを読んでいる若い読者に向けて、何かメッセージを頂ければと。
田名網:僕は大学で毎週、若い子に会ってるからさ。あまり若い子に対して違和感が無いんだよね。だから若い子に期待することって言われてもあまり出てこない(笑)。
でも、面白い子も一杯いるしね。良く「最近の若い子は」なんて言うけど、昔の子も今の子も全然変わりないよ。
伊藤:「栄養を蓄えて」とはよく言っていますね。色々なものをたくさん見て、読んで、考えて、感動する。このあたり前な事の蓄積があれば、いくらでも伸びるとは思いますけどね。でも、その重要な要素が欠落している若い子が、結構多かったりする。話は戻りますが、今回の作品は栄養満点。むしろ栄養過多なのかもしれないですけどね(笑)。
【シブパル展。】
会期:2013年3月15日(金)〜4月1日(月)全18日間
時間:10:00〜21:00(最終日18:00閉場/入場は閉場30分前まで)
会場:パルコミュージアム
〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町15−1 渋谷パルコパート1 3F
入場料:一般500 円・学生400 円・小学生以下無料
主催:PARCO 協力:TOKYO FM
企画制作:PARCO・RCKT/Rocket Company*・Bau-Communications.
グラッフィックデザイン:GROOVISIONS
www.parco-art.com