特別インタビュー:高橋盾(UNDER COVER)

by Mastered編集部

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— なるほどね。

高橋:今回の反省点は、物語としての完成度に自分は納得できなかったところ。だからもっと物語性——細かい文章としての物語じゃなくて、ショーとしての世界観——と洋服のバランスをどういうふうに見せていけば面白いものができるのかっていうのが次の課題。方向として、以前やったコンセプチュアルなショーにまた何か違うストーリー性を入れたものにしていきたいのかもしれない。今回完成度は低かったけれども、そういうことへの足がかりとして、自分を確認するような、きっかけとしての役割は大きかった。

— これまでやってきたことが伏線になってて今回に結実してるわけですよね。だからなのか、ショーを見ていて、新しい物語が圧倒的な力で立ち上がりかかってるのをすごい感じました。

高橋:だからパリでこれまでやってたコンセプチュアルなショーっていうのは割とそういう気持ちでやってたんだけど。そこに近いんだけどもっと違う考え方でまたそれを始められればなって思ってる。だからショーを休んだ分色んなことをやっていて。地震があったし結構いろんな大変なこともあったりしたんだけども、結局なんだろう。無駄なことはないっていうか。過ぎてしまえば、マイナスに捉える要素はあまり無いのかなって。すべては次に繋がっていくわけだし。

— 起きたことはすべて正しいこと、っていう考え方もありますね。

高橋:正しいことというより受け入れなきゃならないし。なんでそれが今納得できるかって言ったら、自分でどうするべきかってその都度ちゃんと考えて行動してきたからで。それが中途半端だったらそういう風に思えなかっただろうし。だから常に何かとことんやるべきなのかな。

— そのときそのときの最適なことを見つけながら?

高橋:そうそうそう。それは毎回違っていいし。同じになるっていうのは今までのところまだない。

— 同じシチュエーション、同じ時間は二度と無いですからね。

高橋:その都度の感情に沿って動いていくっていうのがベースにあって、そこは昔から全然変わらない。で“たまたま今はこう”っていう感じかもしれない。だから10年後はまだ分からないけど。またショーやらないかもしれないし、それは全然分からなくて。

— ジョニオさんって最初からそうなのか、いろいろ生きていく上でそうなっていったのか、そのときそのときで最適解をしっかり見つけながら自分の人生もしっかりデザインしていく人ですよね。

高橋:うん、でも多分それは自分の責任だし。別に生まれ持ってのサラブレッドとかでは全然ないし。だから一生懸命好きでやってれば、あとは自分のプロデュースの仕方次第だと思う。確実に責任をもってどうしていくっていうのを考えていく必要があるし。そういうものがみんなに分かってもらえればいいなっていう。だから見る人によっては「あの人なんなんだろうなー」っていう風に思うかもしれないけど、別にそれはどうでもよくて。みっともないくらいの感じのこともやってるし、たとえそれがスマートじゃなかったとしても、自分なりにそれは正直にやってるから。「それが自分ですよ」って、やっと思えるようになってきた。

— そういう強さが出てきた?

高橋:強さというかもう開き直りっていう感じかもしれない(笑)。「もうしょうがないんだよね」みたいな。「俺はもうこういうやり方でしかできないから、俺は俺だから」っていうような感じに、やっとなってきてるのかな。「人は人」って言うと何かちょっと距離があるけど、「自分はこれで」っていう。そこに共感してくれる人がいればいいなって思うけど、無理にそれを強要してもしょうがないことなんで。

— 段々それはやっぱり感覚が変わってきました?

高橋:それは20年くらいやってきてやっと分かったことで、最初は分かんないですよね。始めた当時とか、そこまで考えてなかったし。やってきたことを年月重ねた分振り返ることも多くて。振り返ってもしょうがないんだけれども、自分で自分がやってきたことを見返すと、「しょうがねえな」っていうか。まあ「こうだな」っていう。

— 前も言われていましたけど、20代にしかできなかったデザインもあったし、30代は30代なりの、40代でようやくできることっていうのもあると思うし。

高橋:うん。だからその都度一生懸命やってきたからこうなってるのかなって。それが中途半端にやってたら自信にもならないし。まあ自信があるわけでもないんだけど、字で書いたとおり、「自分を信じる」しかないから。本当それしかないですから。人の見方は100人いたら100通りだから、しょうがないっていうか。でも自分に正直にそれを作るしかないので。そういう部分ではトレンドどうのとかそういうことじゃなくて、自分の流れの中から出てくるものを正直に、一生懸命作るしかないのかなっていう。

— だけどそういう境地っていうかそういう風に思いながら表現している人、特にファッションで、なかなかいないんでしょうね。

高橋:まあだから結局ファッションって作るだけじゃなくてそれを量産して売っていくわけだから、そことの両立っていうのは難しいよね。俺もお金の面は本当に分からないし。

— 難しいは難しいですよね、両立って。

高橋:でもそういうのをちゃんと支えてくれるスタッフとかいるからできるっていうか。俺がやることに対して共感してくれてこの会社が成り立っていて、俺もみんながいないとできないんで。その関係性って……俺本当スタッフと全然喋らないんだけど。でもその分若干感じてもらえてたらいいかなっていう。

— スタッフ側は相当感じ取ってるんでしょうね。

高橋:どうなんですかね。でも一生懸命作ってるし、厳しすぎるくらいうるさいんで、そこに関してはまあ下手なことはできないですよね。これがこうでっていう説明もあまりしない。プレスにはもちろんするけど、それでも都度はしてないし。で結果「あ、こういうのだったんだ」っていうことにはなるけど。でもその一瞬一瞬でやってることの真剣さっていうのはどうしても伝わると思うので。

— やっぱりそれは伝わりますよ。感じるものですよ。

高橋:うん。特に立体でドレスとか作ってるところを見てもらうと、あれは言葉じゃないんで。だからそこまで説明しない。ショー終わって媒体とかプレスの人には説明する必要があるので、インタビューでは説明するんだけれども、あまり説明しないで作ってる分、最近はあとでその説明もしたくなくなってきちゃって。だからなんでこうなったっていうのは、今回で言えばもちろん骨みたいなドレスが作りたかったとかそういうのはあるんだけど、もうそれだけで。

— なぜ?って訊かれてもね(笑)。

高橋:訊かれてもっていう感じになっちゃって。だからアンディ・ウォーホルがインタビューで「なぜこういう物を作ったのですか?」って訊かれて、”I don’t know”ってずっと言い続けてる感じとか、ちょっと強引かなと思うんだけど、そういうことだろうなと。本当にいい写真とか音楽とかもそうだけど、ワッとくるでしょ。それだけで(作品と受け手との)関係性はいいはずなので。そこに説明を入れちゃうとちょっと違くなっちゃう。感じ取ってもらえるものであれば説明は別に要らない。だからなんかそういう物を作れてたらなって。ワッていうのがくる物。だからそれは多分俺のやり方でそれを表現するしかないし。ビッグメゾンでもワッてくるものはすごくやっぱりあるし。それで「なんで?」とか「ここがこうなって、あそこがこうなって」とか聞きたくもないし。それはワッて感じだけでいいっていうか。逆にそう言うのが見えてこないと何も残らないから、そういう気持ちが残る物が作れればなって。すごく難しいですけどね、洋服でそれをやるっていうのは。しかも量産して作らなきゃいけないから。コピーしていくその元にあるプロトタイプを作ってるわけでしょ。でもファッションのシステムっていうのはそういう軸なので、別にそれは間違ってないと思うし。でも何か一点物とかに注ぎこむパワーっていうのはデザイン画を描くのと違って、もっとダイレクトに直感的で、自分の中身とあまり距離がない。子供が絵を描くのと一緒であんまり何も考えてないっていうか、脳に直結してる感じ。だから説明のしようもないっていうか、分析しても分からない。勿論いろいろ設計しながらデザインしながら、ここはこうした方がいいかなとかは考えていくんだけれども。そういう直感ぽいものっていうのは都度ちょっとずつ見せていけたらって思ってる。

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