特別インタビュー:高橋盾(UNDER COVER)

by Mastered編集部

去る2月末、パリのソルボンヌ大学構内で2013-14AWコレクションを発表した[UNDER COVER(アンダーカバー)]。デザイナー高橋盾が、2年ぶりとなるランウェイショーでパリファッションウィークへカムバックを果たしたのは既報の通り。ドラマチックかつ幻想的な演出もあいまって、ときに感嘆の声が漏れ伝わる会場は、フィナーレを迎えて大きな歓声に包まれた。だがここに至るまで、震災を挟んで[UNDER COVER]は、写真やインスタレーション、ウェブサイトでの発表など様々な方法論を試みてきた。それらはすべて、その時々の高橋の直感を発動させながら結実してきたわけだが、すべての糸が縒り合わさったように、今回のショーへと昇華しているように感じた。とはいえまずは彼がパリコレという主戦場へと復帰したことを祝おう。EYESCREAM本誌6月号に掲載したインタビューの超ロング・ヴァージョンを特別掲載する。

1 / 4
ページ

4Z1Z8075
去る2月末、パリのソルボンヌ大学構内で2013-14AWコレクションを発表した[UNDER COVER(アンダーカバー)]。デザイナー高橋盾が、2年ぶりとなるランウェイショーでパリファッションウィークへカムバックを果たしたのは既報の通り。ドラマチックかつ幻想的な演出もあいまって、ときに感嘆の声が漏れ伝わる会場は、フィナーレを迎えて大きな歓声に包まれた。だがここに至るまで、震災を挟んで[UNDER COVER]は、写真やインスタレーション、ウェブサイトでの発表など様々な方法論を試みてきた。それらはすべて、その時々の高橋の直感を発動させながら結実してきたわけだが、すべての糸が縒り合わさったように、今回のショーへと昇華しているように感じた。とはいえまずは彼がパリコレという主戦場へと復帰したことを祝おう。EYESCREAM本誌6月号に掲載したインタビューの超ロング・ヴァージョンを特別掲載する。

Photo:Junko Yoda
Interview&Text:Hiroshi Inada(EYESCREAM)
Edit:Keita Miki

ファッションショーは自分の思いを表現するエンターテインメントの手段であってほしい

— 前回の展示会のタイミングで次の構想はあったようですが、どの辺りのタイミングで「ショーをやるぞ」と思い定めたんですか?

高橋盾(以下、高橋):去年の10月に展示会を久しぶりにパリでやったときかな。そのときに一点物の服を展示したんです。展示会ベースの服だけじゃなくて、もっとこう自分のクリエーションというか作品を見せたいなと思って一点物を作って、それを持って行って飾った。本当はそれでインスタレーションみたいなことをやろうっていう話をしていたんだけど、向こうでいろいろミーティングしている内に「ショーをやりたいな」というのがまた出てきた。世界観をどう見せるかっていうのを考えたときに、「もしかしたらショーの方がいいのかな」って。それで帰って来て、もろもろ会社的にそういうことができるのかどうかとかも相談した上で、じゃあやりましょうと。あとちょっとずつまた何か仕掛けたいなって気持ちがあった。休んでた訳じゃないけども、まあ地震の後の状況とか世の中の動きとかを経て、もうそろそろ何か新しく仕掛けていかないと、自分の精神的にも会社的にもモチベーションを上げる必要もあるし。というところが一番でかいかな。

— なるほど。「やっぱりショーだな」って気持ちが傾いた一番のきっかけってなんですか?

高橋:作品を展示したときのバイヤーさんとかの反応で、やっぱり「これが盾だね」っていう感じが大きくて。それを聞いてやっぱり「ああ、これは間違ってないんだな」って自分でも確認できた。だったらそういうものを一点物も含めて、ショーでやろうと。2年前にやったショーっていうのは、テンション的には普段着やすいとか、女の人が着てきれいでかわいく見えるっていうコンセプトだったので、そうじゃない、もっと自分が本来表現したい部分を出すファッションショーをやってみたいなって。

— 一点物を作ってる時は、なんとなく自分の中での方向っていうか「こういうものを俺作りたいのかな」とか「こういうものを俺観たいのかな」とか、予感めいたものはあったんですか?

高橋:あれはもうデザイン画も描かないで即興で始めるんで。

— GRACE(高橋がイベント時などに即興で作るドール。写真展や写真集にも発展した)に近い?

高橋:GRACEに近いというよりインプロヴィゼーションっていうものなので。予測しない方向に自分で創作していくっていうところで、ゴールは分からない。そこのところの感覚はしばらく自分で必要としてなかったのかもしれない。

— 使っていなかった部分?

高橋:使わなかった部分というよりもそれをやったときにやっぱり、「ああ今こういうことする必要あるな」っていうのがあらためて分かって。それが自分らしいのであればやっぱり、またパリでコレクションを再開するにあたって、[UNDER COVER]っぽいことをやらない限りはみんな……。みんながどうとかいうことじゃないかもしれないけど、自分らしくないことをやる必要はないし。じゃあとことんそういうものを見せられるようなショーをやってみたいっていう。だからただ単に服を見せるんじゃなくて、[UNDER COVER]の世界観っていうのを見せるということ。何年かショーをやってなかった時期、それは過去2年間だけじゃなくてもっと遡ると、『UNREAL REAL CLOTHES(2008年秋冬)』っていうコレクションの後にショーをお休みして、その後にまた『MIRROR(2011年秋冬)』でショー再開。とびとびでショーをやってない時期がトータルすごく多くて。だからその時の感情を[UNDER COVER]の世界観の中で表現したくて。ただ洋服が出てくるっていうことじゃないショーは、自分にとって特別な思いがある。だからそれは『GRACE(2009年春夏)』で、『UNDERMAN(2011年春夏)』で物語を作って、休める時期にやってたそのふたつっていうのが今回のショーとどこかで結びついてて。だから『UNDERMAN』と『GRACE』っていうのは洋服じゃなくて物語に絞った作品だったんだけど、それと今回は洋服を融合して、今度はショーとして物語性を見せていきたかった。

次のページに続きます。