『ファッションとスポーツのあいだで』吉田淳志(サウンズグッド プレス)

by Mastered編集部

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本来スポーツに使うモノを買っている以上、そこの厳しさも楽しさも忘れない

— でも最近、リフレクターをファッションに落とし込んでるブランドをあまり見かけない気がするんですが…

吉田:小物なんかにディテールとして取り入れてるものは結構ありますよ。あと、チェックのは肩から腕のラインがリフレクターだったり、プーマ(Puma)のセットアップなんかも総リフレクターだし。イズネス(is-ness)のショルダーもテープがリフレクターで、ソックスもラインがリフレクター。

— このソックス、かわいいですね。

吉田:だから次の春夏にはリフレクターを使ったアイテムをちょいちょい別注したいなと思ってます。

— それから、このニューエラ(New Era)のキャップも別注モノですか?

吉田:これはウチでやってないヤツ。アンパイヤキャップなんですけど、参考商品です。でもニューエラとも何かやりたいなと思ってます。

— しかしリフレクターってなかなかファッションとしては取り入れづらいと思われがちじゃないですか?

吉田:そうなんですか? 確かに普通の人が真っ赤な洋服を着るっていうのはハードルが高いと思いますけど、イルミナイトのこれみたいに黒とブルーが柄で入ってれば全然着られますよね。だから、リフレクターも色めのバリエーションが増えれば、もっと着やすくなると思うんですよ。それでさらに反射レベルも高いモノがどんどん出てくればイイなぁって。

— 安全用の反射板っていうイメージが払拭できれば浸透するってことですかね。
ちなみにこのマウンテンパーカは?

吉田:これはニンジャ(Ninja)の新作。アーモンド(Almond)とニューバランス(New Balance)のコラボレーションブランドです。すごく可愛いかったんで、春夏の新作を借りてきました。

— これもどこかリフレクターになっているんですか?

吉田:これはリフレクターじゃないんですけど、単純にスポーツウェアとしてカッコいいから借りてきました。さっきも言いましたけど、今までこういうマウンパとかっていまいち興味が湧かなかったんですよ。でも最近のマウンパって正直出尽くした感があるのに、またそこからいろいろ攻めて来ていて。
そんな中、この秋冬で気になったのが、ゴアテックスみたいにアウトドアとしての機能性はちゃんと持っていながら、それをオールブラックで組むコーディネイト。実際は山で黒ってダメじゃないですか。目立たないし。

— そうですね。ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)の相澤氏はチャレンジしていますが。

吉田:そうそうそう。でも、はっきり言って僕らは山に登れる機能性はあっても、登らないわけ。だからね、派手なマウンパもありながらこういうのもあって、でイイと思うんです。

それでまたちょっと戻るんですけど、このカッパ(Kappa)もすごいんですよ。デオシームっていう防臭糸を使ってるんですけど、本当に匂いが全然しない。これ着て汗をかいても全然臭くないんですよ。だけど、そんな機能って考えたこともないじゃないですか、僕らの生活の中で。UA(編集部注:ユナイテッドアローズの略称)のお店に立ってたときも。

— 確かにそこまでの機能は必要ないですしね。

吉田:「デオシーム? 無臭? 分かんないです」っていう感じで。でもスポーツっていうジャンルに触れて興味が湧いてきました。

— 面白いですね。

吉田:あと身体から出る水分を吸収して熱を発するブレスサーモとか。あの赤いやつに使われている素材も、太陽の光を浴びると熱を発して、そのまま保温するんですよ。

— すごいですね。でも僕らは普段、そんな極限状態に出くわしたりしないので、機能性について充分理解できていないんですよね。

吉田:そうなんです。でも、それがスポーツになったときってリアルに感じるわけじゃないですか。例えば、自転車に乗るときって、ダウンだと暑いんですよ。だから、これぐらいのレベルでOKなときも多いわけで。
ピスト乗りはじめてからかなぁ、ダウンを着なくなったのって。圧倒的に。全然着てない。革ジャンは着ても、ダウンモノは着なくなりましたね。

— 僕も自転車に乗っていますが、乗り始めというかこぎ始めは寒いですよね。でも、乗っているうちに段々汗をかいて、降りたらまた冷えて。そういった状況を快適にするには、こういったモノを着ていれば大丈夫ということですか?

吉田:ですね。だってカットソーが吸水性のあるものだったら汗も乾いて冷えないし、ブレスサーモのアウターなら動いたときの熱を保温して暖かさをキープできるわけですよ。だから止まっても暖かいまま。

— そうなんですね。でもオシャレに着こなす自信はないんですよね…。

吉田:確かに色めが派手だったりするのでそういう気持ちも分かるんですけど、それってよく考えるとおかしなことな気がしてて。ポップなモノを着こなす提案っていうのは前からありますし。派手だから敬遠するっていうのが言い訳になってる気がして。
まぁ、それはファッションウェアとしてではなく、スポーツウェアとして見てるからなんでしょうけどね。

— 僕の場合、派手なのは全く気にならないのですが、なんだろう…形とかなんですかね。

吉田:そうなんですよ。ファッションメインで考えると、いらないディテールって結構多くて。逆にスポーツウェアから見ると、ファッションにはいらない要素が多すぎる。それを両方ともバランスよく取り入れていくのがウチみたいなところで。サウンズグッドっていうのはそこを提案していく感じなんです。

— そうなんでしょうね。バランスさえ良ければ絶対に着ますもん。

吉田:機能性も好きだし、ファッションも好き。本来スポーツに使うモノを買っている以上、そこの厳しさも忘れないし、楽しさも忘れない。

— 気になる点がひとつあるんですが、その胸のロゴは外せないんですよね?

吉田:いや、お願いすれば外せる場合もありますよ。

— 外せるんですね。どうもスポーツブランドというのは、そのロゴに固執してるイメージがあって。

吉田:そうですね。例えばさっきのカッパにしても、従来ロゴというモノは目立つところにあるんだけど、あえて目立たせない。でも、これってスポーツブランドからするとあり得ないことなんですよね。

— やっぱりそうですよね。

吉田:「いや、吉田さん、(ロゴを)肩にでっかくドーンとリフレクターで!」とか言われることが多かったりしますね。だけど「これが、このブランドのモノっていうことは一見気づかないと思うかもしれませんけど、このデザインはウチにしかないから絶対に分かるんです」って言うわけです。
その点ニンジャとかは潔くてイイんですよ。スニーカーに付く『N』のマークをマジックテープで外せるようにしてたり。(ニューバランス社が)よく許したなぁと思います。

— 「このロゴが無ければ欲しいなぁ」と思うアイテムが多い僕のような人間にとってはうれしいことですね。

吉田:わかります。だから別注するときは、ロゴを消すか活かすかのどちらかしかないんです。どうしてもそのジレンマに陥ることもあるんですけど、彼らにとってみればそれがブランドアイコンなわけですし。

— そうですよね。歴史と思いが詰め込まれている、と。

吉田:そう。だからこそ普通は左胸にロゴマークを入れるんですよね。でも、そう言われるとこっちも変えたくなるじゃないですか。なので、通常とはまったく逆の位置にあたる、右の背中辺りに入れるようにデザインをお願いしたことがあるんですよ。そうしたら担当の人が「それだと肩甲骨に当たりますよ」って。それで「大丈夫です、これはファッションウェアなんで」っていう、こんなやりとりが繰り返されたり。
でも、こんな風に相手の土俵に行って、こっちのフィールドに引っ張って来れる作業は面白いんですよ。

— そういったアイテムがどんどん出てきたら、街で着られるアイテムも増えるでしょうね。

吉田:もっと増えてきますよ。今でもバイクとかで通勤してた人が自転車に乗り換えたりっていうのが、すごく増えてるじゃないですか? それで、そういう人たちが求めるアイテムっていうのが圧倒的にそこだと思いますから。

— マーケットが求める傾向になってきている、と。

吉田:はい。カジュアルウェアはもちろん、もっと機能性の高いスーツも現れるでしょうし。置いておいたのを着てもシワになってないだとか、暖かいだとか。そういうのをやってみたいし、やっていこうと思ってます。
今までは「機能性を求めるとビジュアルがねぇ…」とか「ビジュアルを求めると機能性がねぇ…」というのが多くて、やっぱりちょっとお互いが離れてた。でも、どこのファッションブランドもスポーツウェアブランドもそれじゃダメだって気づいてはいると思うんですよね。

— 状況は理解してるけど、どうしていいか分からないと。

吉田:それを手助けするのが僕らだと思うんです。

— 期待したいですね。

吉田:ファッションウェアを取り扱うショップではあるんだけど、ウチが提案するのはライフスタイル。より快適に、ストレスフリーであること。マーケットとしては今一番合ってると思います。

— なるほど。今後のさらなる発展を楽しみにしています。
それでは、ありがとうございました。

吉田氏も言うとおり、コンセプトはこれからの時代にピッタリだったはずのサウンズグッド。
タイミングが早すぎたのか、この不景気のせいなのか…。
とりあえずはこの春夏シーズンを最後にサウンズグッドは無くなってしまいますが、
またいつか華麗に復活してくれることを祈っています。
そして、今後吉田氏がどのようなポジションに就くのか。その動向にも要注目です。

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