Photo:Yuki Aizawa、Interviewer:Riyoko Takagi、Text&Edit:Marina Haga
–ライブをやっているお店とやらない喫茶型のお店だと同じジャズに特化していても違うと思うのですが、中平さん的にジャズ喫茶であり続けるこだわりはありますか。
中平:僕の場合は、学生時代にジャズ喫茶に通っていて、そのころはLPが高くて買えないからジャズ喫茶に行っていたんですよね。そうすると、その喫茶店のオーナーが必ずしもジャズが好きじゃなかったりするんです。このレコードは絶対あった方がいいとか、これがいいみたいなのがないんですすよ。だから僕は自分でやるしかないと思いました。最初は、”自分で聞いたいか”っていうことを基準としてました。あとは、野口久光先生(*1)とか油井正一(*2)さんとかにレコードを教えてもらって買ったりもしてましたね。
–すごい豪華ですね。自分がライブをやっているとやっぱりもっと人に来てほしいなと思いますし、ジャズがメジャーになったらいいなとも思うんですよね。でも、こうしてジャズ喫茶だったり、マイナーなイメージを残しておいた方が魅力的だったりもするのかなと思うこともあって。自分だけが知っている特別感だったり、隠れ家的な空間でジャズを聴くっていう行為が素敵な気がしています。中平さんはこのことについてどう考えているのでしょうか。
中平:やっぱりね、ジャズ喫茶っていうのは辺鄙なところにあったり、隠れ家的な感じがあって特別感があるのはいいことですよね。
—ジャズ喫茶のオーナーの人は頑固だったり、少し人を寄せ付けないムードを感じるんですがいかがでしょうか。
中平:確かにそうかもしれないね(笑)。僕は違うけど。そういや全然関係がないけれど、カーメン・マクレイが昔うちでレコーディングをしたりしてましたね。
—えー、すごいですね! そういうことはよくやっていたのですか。
中平:あとは、ドイツのトロンボーン奏者のアルベルト・マンゲルスドルフもやりましたかね。
—ここで録音したものが有名なCDになるのはすごいことですね。ジャズ喫茶のオーナーとしてジャズミュージシャンにアドバイスをお願いします。
中平:やっぱり、マイルスの真似をしているようなミュージシャンを聞くなら、マイルスのレコードでいいやってなったりはしますかね。なので、真似することは大事なんですが、もっと分かりやすい個性を持って挑んで欲しいですね。まだ、高木さんのライブを見たことないんでなんとも言えないですけれどね。
—是非、聴いていただきたいです(笑)。
中平:楽器をやる人はうまい人の真似から始まると思うんですよね。でも、どうやってその真似から抜け出して、個性を出していくかっていうのが大事ですよね。僕みたいに、名盤ばっかり聴いていると耳ばかり超えちゃって、そこでこの人は誰の影響を受けてきたなっていうのが分かるようになってきます。
—なるほど。すごく腑に落ちる一言です。
中平:そう言った意味で、ボーカリストの、ケイコ・リーさんは自分を持っていてすごく魅力的に感じますね。
—今日思ったのは、意外と若いお客さんが多いなって。これは、村上春樹さんの小説とかの影響なんでしょうかね(笑)。実際、『ノルウェーの森』にこちらのお店も出てきますよね?
中平:そうですね、学生は社会人と比べると時間があるし、意外と来る頻度は多いかもしれませんね。僕も学生時代はそうだったし。
—ウォッカトニックを飲みながら何かを聞くみたいな、音楽とお酒のオススメの組み合わせはあったりしますか。
中平:そういう組み合わせは特に気にしないんですね。それより、例えば、今日は昼間年配の人が多くてあまりうるさいのかけられないからヴォーカルがないものをかけるとか、カップルで来ている場合はムーディな選曲をしたりとか、TPOを多少意識しています。夜みんな飲んでワイワイ騒いでいるときに、コルトレーンのレコードかけるっていうのも、僕はジョン・コルトレーン が大好きなので、「コルトレーンに失礼だから夜はかけるな!」とか言って(笑)。
—アーティストや楽曲によって音量が大事だったりしますもんね。中平さんのオススメの1枚やアーティストが気になります。
中平:個人的に、ピアニストだったらバリー・ハリスですかね。だってこの店でレコーディングしたぐらいですからね。僕はピアニストが好きで。後は、ビル・エバンスも好きですが、あんまりくつろげないですよね(笑)。
—確かに黒人の人の方がスイング率が高いので、ノリがあるかもしれないですね。
中平:そして、なんといっても僕はジャズが好きでレコードを聴いているので、”聴き流す”っていうのが意外と難しくて。聴きながら本を読むとかも。
—そうなんですね。そしたら、なるべくお客さんに聴くことに集中してほしいとかはありますか。
中平:1日に何人かは音楽を聴きにきてくれる。でもお客さんも最近はそういう店がないって承知しているので、さりげなく音楽が存在する空間がいいのかもしれないですね。
—自由にジャズを楽しんでほしいってことですよね。ジャズ喫茶ってもっと敷居が高くて構えなければならないものだと思ってました。
*1:日本の映画、ジャズ、ミュージカル評論家。また、画家、グラフィックデザイナーとしても活躍。
*2:日本のジャズ評論の第一人者。
東京都新宿区新宿3-15-12
TEL:03-3354-7776
http://www.dug.co.jp
私自身ジャズのライブ店には出入りするものの、「ジャズ喫茶」の響きには一歩構える感じがありました。でもDUGさんでイメージが一転。若い方も多い。ジャズ喫茶は「静かに音に耳を傾けるもの」と思っていたら、会話を楽しみお酒を楽しむうち、知らぬ間にお気に入りの楽曲が見つかってしまう様な。
マスターのTPOに合わせた選曲、落ち着いたレンガ造りの内装、壁に埋め込まれたオーディオから響く優しい音……。大好きなエヴァンスをこの場所で聴くスペシャル感に味をしめ、またこっそり一人ワインでも飲みに来たいな、と思ったのでした(笑)。
そして何より、ジャズの歴史をそのまま映したようなオーナー中平さんからの、ジャズレジェンドとの逸話が沢山聴けたことも大変貴重な体験でした。