エディトリアルと作家性と広告
—親さんは、あんまり写真集という形でまとめたり個展で発表したりとかには興味がないとおっしゃってたんですけど、笠井さんは一番最初に『Tokyo Dance』(1997年/新潮社)という写真集を発行したり、海外で個展をされたりと、お二人で発表の形式に違いがあって面白いなと思うんです。親さんはそういう風にあまりまとめないということは、エディトリアルに興味があるんですかね?
鈴木:エディトリアルだったら、個人で撮るのが難しい人でも、撮れる機会が作れたりするじゃないですか。
そういう機会を作れるというのは逆に言うと、エディトリアルは自分の写真を撮る時に一番使えるツールと言いますか、若いフォトグラファーの子って結構、そういう仕事を絶対にやらないっていう子も多いけど、大いに活用できる場合もあるんですよ。一人で行くのに無茶な所に連れて行ってくれる場合もあるし、女優さんとかにお会いして無茶なことや面白いことをしていただいたり、あとは会いたい作家さんに会えたりもしますし。すごくプラスになるというか。言い方悪いですけど、ファッションの仕事で撮影の時にクライアントの言う事を聞いて、何も残らない場合もあるけど、そうじゃない違うものだったらすごく自分に残りますよね。だから、エディトリアルに関するものは、僕はすごい大好きです。—そのエディトリアルの中で、自分の表現をしていく、自分だけができる写真を色んな要素がある中で持ってくというのは難しいことなのかなと思うんですけど、その所はどうですか?
鈴木:今だとすごい難しい場合がありますよね。
—それで作家性をキープするのは難しいのかなと。
笠井:でもね、おれは作家性とか考えてないのかもしれない。
—目指すものは後から見えるものなのかもしれないですけどね。
鈴木:ほとんどの人は恐らく、物事を論理的に考えるんですよね。笠井さんとかだったら、笠井さんに頼むから笠井さんで良いっていう。最初の出だしがそういうやり方だったから、それで良かったと思うんです。だけど、誰かに付いてスタジオでやっていくとなると、海外とかで外を見たりとかっていうのがないと日本だとすごく難しくなっちゃいますよね。そう意識せずに始めると、若い子は難しいと思う。
笠井:さっきのエディトリアルの話で言うと、おれも結構エディトリアルは一番好きというか。撮るまでのスピード感、そのスピード感っていうのは時間も好きだし、親くんの言ってたように色んな所に行けたりとか、そういうのが一番出来るフィールドではあると思ってる。今は広告とかほとんどやってないし。
—圧倒的に自由度は高いですよね。
鈴木:尚且つ、上手くやれば、簡単にできちゃうから、そうすると人のお金で作品が作れる。
—基本的に広告は自分でジャッジができないですよね。
鈴木:広告は色んな要素が混じり過ぎてるし、ゴールが確実に決めてあるし。もしかしたら、すごく有名人とか大先生とかだったら、行くだけで自由に撮らせてもらえるかもしれないですけど。だから、落ち着く所はエディトリアルかな。
笠井:良い悪いは別として、広告でそこでやってやろうって思うカメラマンもいるよね。完璧にしてやろうみたいな。それは悪いことじゃないし、おれは個人的にはそういうのがあんまり好きじゃないだけで。
—広告写真を極めて行くという、そこに喜びがある人もいますよね。
鈴木:そうすると、写真が絵に近くなっていくんですよね。それだったら、絵の方が強くなっちゃうし。広告が悪い訳じゃないけど、広告がトップではないということを意識してやらないと、日本だと怖くなりますね。海外のファッション誌とか見れば分かるんですけど、荒木さんは日本だったらファッションのフォトグラファーではないんです。でも、海外の雑誌だと、荒木さんにオファーするのはファッション誌しかないから、僕とかも日本のファッション誌とかでほとんど仕事やってないけど、海外でやる時は全部ファッション誌。海外と日本での認識の差なのかな。だから、もしかしたら、笠井さんも海外の方が認識したら確実にファッションの仕事がいっぱい来ると思う。ファッションの仕事もやる作家タイプのカメラマンとして。日本だと…。
笠井:そうだね。あんまりやらないね。たまにやるけど。
鈴木:だから、認識が外国人とかだとそうなるんですけど、日本だとそうならないんですよね。だから、変な話、日本はちょっとだけ特殊というか。
笠井:結構特殊なんじゃない? 特殊だから、得してる所もあると思うけど。
鈴木:そこをちゃんと特殊だと意識してやってる人はインターナショナルに行けると思うんです。日本が特殊って分からないで、そのまま行っちゃうと、すごくドメスティックなことしかできなくなっちゃう。写真は言葉じゃないから、言語が通じなくても仕事ができる可能性がある。僕とかほとんどデタラメな英語とフランス語で仕事しててなんとかなってるからさ。逆に言うと、外国語を喋れる人が必要になってきてるんだけどね。だから、可能性はすごくあるのに使ってないというのはもったいない気がするというか。アジアのフォトグラファーとか見ると、韓国はもうデジタル。良くも悪くもデジタルで完成度がものすごく高い。でも、ポジとか言っても全然意味が分からないんじゃないかな。中国とかもデジタルで中国の方がもっと合成っぽいですね。日本はゆるい写真が多いというか。それは逆に言うと、珍しいことだから、うまく使えばすごく有効。外に行ける要素がある。僕も結構写真が好きだから、いっぱい色んなのを見るんですけどね。今の風潮はそういう感じだね。で、ロンドンとかだと、ポラロイドがちょっと前のトレンドだったり。そういうのを分かった上で、色々見るというのもすごく勉強になると思う。
「グッバイフォト!」に提供した鈴木親の作品と笠井爾示の作品の解説
—最後に『EYESCREAM12月号(2013年)』の特集イベント「Good Buy Photo!(グッバイ・フォト!)」に提供していただいた作品を解説していただければなと。こちらのわがままで全ての作品を50000円以下に設定していただきました。親さんがラリー・クラークと染谷くんの写真で、笠井さんが花の写真ですね。
笠井:おれが花を選んだのは、あんまり深い話じゃなくて。特集が「写真と暮らす」なので、リビングルームに飾ってほしいんです。人物よりかは人物以外の方が、飾り易いかなっていうところから始まってるんですね。もう1つ、これはデジタルで撮った写真なんですけど、僕は、基本的に毎日写真を撮っていて、撮らない日はないんですよ。仕事以外でも基本的に毎日写真を撮っていて。撮るものを特別に決めてる訳じゃないんだけど、道を歩いていて、花ってどうしても撮っちゃう要素の1つで。なぜこれを選んだかと言うと、これはデジタルで撮ってfacebookにアップしたんだよね。そしたら、友達が「これは額装して飾りたい」っていうコメントがあったの。なるほどな〜と思って、そういう経緯です。
—これはエディションが10で、お値段が30,000円です。
笠井:安っ!(笑)
一同:(笑)
笠井:プリントはライトジェットプリントっていうのを使っていて、すごく綺麗なんだよね。
—一方、親さんは面白い組み合わせですね。
鈴木:俺はただ単にハーフ版をこういう風に使ってる人がいないからというか。元のハーフ版の理由は、フィルムでハーフ版を撮るから枚数を撮れるっていう意味で使ってたもの、単品で使うものだったんですね。ライアンじゃないけど、フィルムの特性を活かすには、分かり易い要素だからわざとSAMURAI(京セラ製のカメラ)っていうハーフ版のカメラで撮った。
笠井:SAMURAIで撮ったの?! 懐かしい!
鈴木:で、わざとこういうレイアウトにして。誰も使わないから面白がって使ってたんだよね。トレンドじゃないけど、最近、若いフォトグラファーの子が仕事でガンガン使ってて、僕とか日本のファッション誌であまり仕事をやらないから、逆におれとどっちが本物か分からなくなるくらいの時期があったので、ぶつけてみました(笑)。でも、実際に作品を撮る時は、僕も結構花が好きなので道端で撮ったりするんですけど。言い方が悪いかもしれないですけど、コピーすることは悪いことじゃない。でも、自分の名前で仕事をし始めて、お金を貰うのにそういうのをやってて、若い子がそれを見て始めると、コピーのコピーという具合に劣化したものにしかならない。だったら、本物を見る機会があった方が良い。ネガティブな理由だけど、そういう理由で選びました。でも、笠井さんの言うように人物写真はあんまり部屋に飾りたいと思わないじゃないですか。飾りたいものは、もしかしたらヌードの人とか花だったりっていうのは、プリントとしては意図的に家に飾るものとしては良いですよね。
笠井:つまり、おれは真面目で、親くんは不真面目だったっていうことだよね(笑)。
一同:(笑)
—真逆のアプローチで(笑)。こちらはそれぞれエディションが10でお値段が50,000円だということで。滅多にこのように写真を売るということはされてないんですけれども、ここだけの話かなりお安くさせていただいております。早い者勝ちです。良かったら皆様、11月30日(土)と12月1日(日)に開催される「Good Buy Photo!(グッバイフォト!)」展にお越しくださいね。笠井爾示さんと鈴木親さんでした。
鈴木 親
1972年生まれ
1996年渡仏、雑誌Purpleにて写真家としてのキャリアをスタート。Purple(仏)、ID(英)、DAZED&CONFUSED(英)、CODE(蘭)、Hobo(加)、IANN(韓)などの国内外の雑誌から、Issey Miyake、United Bamboo、Toga等のworld campaignまでを撮影する、日本を代表するフォトグラファーの一人。
笠井 爾示
1970年生まれ
10 代をドイツで過ごし、1996年に初の個展『Tokyo Dance』(Taka Ishii Gallery)を開催。翌年、写真集『Tokyo Dance』(新潮社)、『DanseDouble』(フォトプラネット)でデビュー。その後も海外で多く個展を開催し、音楽誌、ファッション誌、カルチャー誌などのエディトリアルやグラビア写真集を数多く手掛ける。
【開催概要】
EYESCREAM 「写真と暮らす」特集特別企画
写真展『Good Buy Photo!』
会期 : 2013年11月29日(金)、30日(土)、12月1日(日)
※ 11月29日(金)は搬入日兼レセプションパーティ開催日です。
会場 : BA-TSU ART GALLERY 東京都渋谷区神宮前5-11-5 www.ba-tsuartgallery.com
時間 : 11月29日(18:30〜21:00 レセプションパーティ)、11月30日・12月1日(12:00〜20:00)
協賛 : レミーマルタン(RÉMY:ÜSIC)
協力 : Mid-Century MODERN (MADE BY SEVEN)/ BA-TSU ART GALLERY/ BEAMS T
特別協力 : タカ・イシイ ギャラリー
主催 : スペースシャワーネットワーク EYESCREAM編集部
【注意事項】
・作品によってはSOLD OUTになる可能性もございますので、予めご了承ください。
・写真はすべて「額装なし」のプライスです。会場となるBA-TSU ART GALLERYでも数パターンの額装をご用意しておりますので、会場でお選びください。(1万円〜2万円程度 / サイズ等によって異なります)
・11月29日(金)のレセプションパーティは関係者向けとなります。
・11月30日(土)、12月1日(日)のギャラリー営業時間内は、ご自由に観覧および購入(オーダー)が可能です。購入いただくお写真は、後日プリントの上、当日ご記載いただきました送付先にご郵送させていただきます。送り先や料金のお受け渡しに関しましては、当日ギャラリーとご相談ください。