G-Eazy x 渡辺真史(BEDWIN & THE HEARTBREAKERS)特別対談

by Keita Takahashi and Yugo Shiokawa

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世界中で大ヒットを記録する人気映画シリーズ『ワイルドスピード』。その最新公開作の挿入歌として使用された楽曲“Good Life”のヒットで、日本でも大きく認知を広げているアメリカはオークランド出身のラッパー、G-Eazy。端正なルックスから、被写体としての依頼も絶えない彼だが、そういったコマーシャルな活動の一方、同じくベイエリアを拠点とするラッパーであるYGが昨年発表したアメリカ大統領批判楽曲“Fuck Donald Trump”の後発リミックスにも参加し話題を集めた。

そんな彼がこの度、東京と大阪で開催された『SUMMER SONIC 2017』への出演のため来日した。彼の来訪にはもうひとつ理由がある。人気ドメスティック・ブランド、BEDWIN & THE HEARTBREAKERS(以下、BEDWIN)と共同で発表したアパレル・アイテムのローンチである。今回のこのコラボレーションはG-Eazyからの強いリクエストでスタートしたものであるとのこと。本稿ではG-Eazy、そしてBEDWINのディレクターである渡辺真史のふたりにプロジェクトの経緯を伺う。

『SUMMER SONIC 2017 TOKYO』でのライブ翌日、BEDWIN旗艦店で行われるミート&グリート直前の16時。陽光射す恵比寿ウェスティンホテル内のエグゼクティヴ・クラブ・ラウンジに現れたG-Eazyは、我々が潜在的にイメージする粗野で横柄な“外タレ”的な振る舞いとはほど遠い、スマートかつ真摯な印象を与えた。

Interview & Text : Keita Takahashi | Photo : Miyu Terasawa | Translate : Tomoki Ichikawa | Edit : Yugo Shiokawa | Special Thanks : Hiroko Okawa (Pred PR)

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— まずは東京と大阪での『SUMMER SONIC 2017』でのライブ、お疲れ様でした。日本での初ライブはいかがでしたか?

G-Eazy:昨日は最高なライブだったと思いますね。ツアー中は毎日ライブがあって、もちろん箱も違えば来てくれるお客さんも違うわけで、実際、毎回いいライブになるわけじゃない。毎日が最高ってわけにはいかないけど、昨日のステージは素晴らしかったと思うし、自分にとって特別なライブになりました。

渡辺真史(以下、渡辺):ぼくもライブを観させてもらったんですが、そこにいるみんなが音楽に夢中になっていて、本当にいいライブだったんじゃないかと。ほかにもフー・ファイターズのライブを観ましたが、20年以上も活動してるバンドだけあって素晴らしくて。反面、観客がみんな音楽に没頭してるという感じでもないなぁと。その点、あなたのライブは一体感があったように感じたし、ぼく自身、いいインスピレーションを得られたと思います。ぼくのブランドはヨージ・ヤマモトみたいな、いわゆる大ブランドじゃない。15年前にスタートして、いまでも小さいブランドではあるけれど、自分のスタイルを信じているし、BEDWINを支持してくれているひとたちも自分がなにを欲しいかがわかっているように思っていて。だからこそ、あなたのライブにとても感銘を受けたんだと思います。

G-Eazy:ひとつのライフ・スタイルやアイデンティティ、美学を支持するということですよね。ぼくとBEDWINに共通するのはそういった部分じゃないかな。支持するそのものを体現し、100%自分のものにしている。それはオーセンティックで純粋なものなんじゃないかと。

渡辺:オーディエンスがあなたの音楽にリンクできる理由もそこにあると感じます。彼らはあなたのそのままを体現した音楽に惹かれているんだと思います。

G-Eazy:音楽にはいろんなひとをひとつにする力があります。友達とドライブするときや、ライブに行くとき、「このアルバム良かったよ」と話をするときなどね。ライブをやっていると、そこに集まった大勢のひとたちのエネルギーがひとつになっているのを感じます。みんながそれぞれに感じている思い入れを同じ場所で共有するのですから、すごいエネルギーが生まれるのも当然ですよね。これまでやったすべてのライブがそうだったとは言えないけど、昨日は本当にスペシャルだったと思います。

G-Eazy
カリフォルニア州オークランド出身のラッパー/プロデューサー。高校の同級生であった“Based God”ことLil Bのグループ、The Pack “Vans”のヒットに触発され、活動をスタート。DIYスタイルでのミックステープリリースで徐々に頭角を現し、RCAとのメジャー契約後にリリースしたシングル “Me, Myself & I” が特大ヒットを記録。一躍スターダムにのし上がる。193cmの身長と端正なルックスで、モデルとしても活躍する他、自身のブランド・THE DELINQUENTSも手がけるマルチな才人。

— 今回の来日にはライブ以外にもBEDWINと共同制作したアパレルの発表という目的がありますね。コラボレーションの発端はあなたの希望だそうですが、BEDWINに対しての印象をお願いします。

G-Eazy:BEDWINはずっと前から好きなブランドでした。美学やインスピレーションに、通じるものを感じています。ミッド・センチュリーの美学というか、クラシックで時代を超越する魅力を備えていますよね。時代を超えたアメリカーナのセンスを持っているという点で、THE BROOKLYN CIRCUS(ブルックリンサーカス)というブランドもぼくの好きなブランドなんですけど、今回のコラボレーションは彼らがぼくとBEDWINをつなげてくれたんです。共同でのポップアップが決定したときはすごく嬉しかった。夢が叶った、という感じでした。

渡辺:ある日、うちで海外マーケティングを担当しているスタッフが「いま人気のアーティストが、ぼくたちのブランドの服を着てるんだよ」って彼のことを教えてくれたんです。髪をオールバックにして、スタイリッシュなアーティストだなというのが第一印象。そこからYouTubeに上がっているMVを観たり、楽曲を聴いたりして。完全にぶっ飛ばされましたね。まず「ラップすごい上手いじゃん!」ってなって、それから音源をちゃんと聴いてみたらリリックも等身大で、変にカッコつけず、ありのままに自分を表現しているじゃないですか。いろいろな面で自分と似たものを感じました。

— 彼がBEDWINに感じた50年代のアメリカーナ的なイメージは、どのようにして得られたと思いますか?

渡辺:50年代に興味を持ったのは、音楽とデザインがきっかけですね。20世紀半ばのアメリカって、産業もそうだし、いろいろな文化が育まれて拡大した時期だと思っていて。あのムードがとても好きなんですよね。アメリカ的な美的感覚というか。とくに西海岸の雰囲気。たとえば、50年代の西海岸ではいわゆるビートニク的な人がスーツを着てビーチにいたりするんですが、けっして怖そうな雰囲気ではなくて、どちらかというと優しそうな感じ。そこが非常にインスパイアされるところで。ビーチでの服装といえば、いまのぼくたちの感覚でいうと短パンにTシャツ、サンダルみたいな感じだと思うんですが、50年代はそうじゃない。悪いやつらがビーチに行くんだけど、読書もするみたいな。その感覚はぼくが思うアウトサイダーのイメージとリンクするんです。以前、ブルックリンサーカスのGabeと「西海岸も東海岸も、海岸沿いの地域が新しい文化の道を開いたところがあるよね」って話したことがあって。いろいろな文化がミックスされることによって、人々がオープンマインドで柔軟な考えを持っているからこそだろうなと思いますね。

渡辺真史
モデルとしての活動やロンドン留学を経て、自身のブランド・BEDWINをスタート。現在もBEDWIN & THE HEARTBREAKERSのディレクターとして活躍しながら、2015年にはよりパーソナルなブランド・A SOCIALISTを新たに設立。adidasやTOMMY HILFIGERなど、世界的ブランドとのコラボレーションも多く手がける。

G-Eazy:それは考えたことがなかったですね。たしかにベイエリアには多様性があると思います。ボヘミアンもたくさんいたし、クリエイティヴな事柄の中心地というか。

渡辺:それが鍵な気がしますね。アメリカ人の多くはもともと住んでいるところからなかなか出ませんから。でも東海岸や西海岸にはいろいろな価値観を持ったひとが集まっていて、そこで道を開ける可能性がある。外国から人が集まるのもそういうことなんじゃないでしょうか。

G-Eazy:そうですね。やっぱり外に出て、いろんなことに身を晒して吸収しないといけないし、自分を隔離しちゃうと経験を得ることはできないですから。そういった意味では、ぼくは世界のいろいろな場所に行けてすごく幸運だと思います。その結果、東京に来ることができたわけだし。常にオープンマインドでいるというのは本当に大事なことじゃないかな。せっかくいつもと違った環境に身を置けるのに、あえてマクドナルドで済ませることはない。新しいことを経験してそこからインスパイアされないと。

渡辺:ぼくがサポートしたいと思うのも、そういった柔軟な考えを持った新しい感覚の人なんです。異なった文化に積極的に触れようとして、かつ、そこから何かを生み出そうとする人。NIKEやadidasがアスリートをサポートするように、ぼくはそういうアーティストをサポートしたいと考えています。“BEDWIN & THE HEARTBREAKERS”というブランド名にもそういった思いが込められているんです。北アフリカに旅行に行ったとき、砂漠に住んでいる遊牧民族にすごく興味を惹かれて。自分は東京にいて、物質的にはすごく恵まれているじゃないですか。いいスピーカーやアンプもあれば、好きなブランドもあって、という。そんな環境に慣れているからこそ、砂漠で暮らす人々に会ってみたいという好奇心があったんです。現地の遊牧民のところに3日ほどお世話になったんですが、とても素晴らしい経験だったと思いますね。“BEDWIN”というブランド名はその遊牧民の名前に由来してるんです。それに“THE HEARTBREAKERS”というバンド名みたいな言葉を付け加えたのは、ぼくがつねに音楽にインスパイアされてきたから。10代の多感な時期には、いろいろな音楽やミュージシャンの生き方に多くのことを学びました。残念ながらミュージシャンになる才能はなかったけど、そのかわり、彼らをサポートしたいなと。

G-EazyとBEDWIN & THE HEARTBREAKERSのコラボレートコレクションより。「ジェラルド」はG-Eazyの本名。

G-Eazy:ミュージシャンはマジシャンのようなものだな、と思うことがたまにあります。楽器を弾いたり、理論を理解するのは訓練次第でできますが、曲を生み出すクリエイティビティというものは、それ自体がマジックだと思っていて。たとえば、ぼくがスタジオで曲を作るとしますね。それは昨日まではなかったものを生み出すということなんです。そして、それがたくさんの人の人生に影響する可能性がある。誰かにとって何かを意味することになるかもしれない。それはもうマジックですよ。だからこそミュージシャンはつねに憧れの対象なんだと思うし、ヤバい曲を聴いたときはいまだに「すげえ!ヤバイなこれ!」ってなりますね。ケンドリック・ラマーの曲を聴いて「もうラップはやめよう」と思ったり。

渡辺:ハハハ! でもたしかに「ミュージシャンはマジシャン」という喩えは素晴らしいですね。8歳とか9歳のときに、学校の先生から将来の夢を聞かれて、そのときぼくが挙げたのがミュージシャン、医者、マジシャンだったことを思い出しました。結局、そのどれにもならずにファッション・デザイナーになったわけだけど。

G-Eazy:とはいえ、まだ存在してないクリエイティヴなものを生み出すという意味では、あなたもマジシャンだと思いますね。自分が持ってるアイディアをどうやって形にするか、どんな色や素材を使ってどう見せるか。その作業は自分をむき出しにすることと、じつは同じなんじゃないかな。

— 今回のコラボレーションを、どのような形で制作されたのか教えてください。

渡辺:彼と彼のチームと何度もやり取りして、お互いにたくさんのフィードバックを経て完成させましたね。時間は限られていましたが、細かいところまで詰められたと思います。なぜなら、彼らはすごくタフで、求めているものとそうじゃないものがハッキリしているから。いいコラボレーションができたんじゃないかな。

G-Eazy:同じ価値観を共有できる相手と仕事をするのは楽しいですね。信頼関係を築いた上で、お互いに挑戦し合ったからこそいい結果が得られたんじゃないかと思います。

「Love Me Tender」のプリントが目を引く、G-Eazy x BEDWIN & THE HEARTBREAKERSのTシャツ。

— あなたは自身でも“THE DELINQUENTS”というブランドを手がけていますが、この名前はどういった経緯で付けられたんですか?

G-Eazy:これはぼくと友達のアイディアですね。ある夜、お酒を飲みながら自分たちを表現するのにふさわしい言葉はないかと話していました。そのなかで思いついたのが“THE DELINQUENTS”だったんです。まさにぼくたちにぴったりな言葉でした。全身を黒で纏めて、毎夜ウィスキーを飲んでトラブルに巻き込まれる。やりたいことをやりたいようにやる。アウトサイダー。ミッド・センチュリーの不良。そして、カウンター・カルチャーの担い手という意味合いがこの言葉にはあるんです。

BEDWIN旗艦店・THE HEARTBREAKERSで行われたポップアップイベントには、THE DELINQUENTSのアイテムも並べられた。こちらは50’sな空気漂う、メイド・インUSAのバンダナとシャツ。

— なるほど。ここであなたのメイン・サイドである音楽の話も聞かせてください。キャリア当初はラッパーとしてではなく、プロデューサーとして活動を開始していますよね。パフォーマンスだけではなく、プロダクション全般に興味があったということですか?

G-Eazy:昔はすべて自分でやっていましたね。ビートの作り方や音響面のエンジニアリングなどを勉強して、そこに自分のリリックを乗せていた。最初期はPhotoshopをLimeWire(編注:2000年代中期に一世を風靡した、今はなきP2Pクライアントソフトウェア)でダウンロードして、ジャケットやマーチャンダイズのデザインまでやっていたんですよ。両親がどちらもヴィジュアル・アーティストなので、デザインや美術に関しての興味はもともとあったんです。とはいえ、Photoshopもそんなに上手く扱えないし、現在デザインに関する実務はチームのみんなにお願いしています。

— 近作で個人的に印象的だったのはYG“Fuck Donald Trump Pt. 2”への参加でした。これは現アメリカ大統領に対するストレートなディス・ソングですが、参加への経緯を教えてください。

G-Eazy:YGはベイエリアのホーミーで、ずっと前から関係があったんです。彼は紛れもない本物で、現在の音楽界のトップのひとりといえるでしょう。去年の夏に彼からメールで“Fuck Donald Trump”のリミックスに参加してほしいというオファーがあって、ぼくはすぐに参加を決めました。なぜなら、聴いた瞬間、この曲はここ数年でもっとも重要なヒップホップソングのひとつだと思ったから。ぼくにとってもすごく意義深い曲だし、ライブでも毎回パフォームしています。

— アメリカはトランプ政権発足後、大きく様変わりしたといえますね。YGやあなたがこの曲のなかで危惧した不安や怒りは、より大きな歪みとなってアメリカを覆っていると感じます。

G-Eazy:本当に酷い状況だと思いますね。不快だし、安全が脅かされている。非常に危険な状態だといっていいでしょう。ドナルド・トランプのような人間が大統領という地位に就いていて、我々の国のもっとも重要な仕事をしている。偏見の固まりで、レイシストで、最低の人間が、いまアメリカにかつてない分断をもたらしているんです。彼を批判する人たちと支持する人たちの距離はどんどん開いていって、ふたつの陣営のあいだには怒りと緊張が生まれています。そして、実際に事件も起こった。ぼくたちは声を上げるのか、それとも黙っているのか。いまは正確に情報を収集し、自分がなにについて語っているのか理解しないといけないと思います。そして自分が正しいと思うことは言うべきだ。

渡辺:ぼくは政治家じゃないし、アメリカ人ですらないけど、彼が大統領の候補になったときは、パロディー映画かなにかと思いました。「なんでこんな人間が?」って。しかも、それが実際に大統領になってしまった事実が信じられなかったですね。ぼくが知っているアメリカ人は素晴らしい人たちばかりなのに、なぜ? っていう。そんななか発表されたあなたの楽曲は、非常にシンプルで強いメッセージで書かれた素晴らしい曲だなと素直に思えた。

G-Eazy:すごく直接的な曲だけど、そうでなくちゃいけないと思います。フックもすごくシンプルなスローガンの繰り返しで。でも、そこに込められた主張はとてもラウドでパワフルなものだと思います。ライブであの曲をパフォーマンスすると、どの会場でも大合唱が起こっていますね。

渡辺:みんながリンクできて共有できる。それが音楽の強みですね。アーティストはムードを作ることができる。そういう意味では、やはりあなたはマジシャンだなと思うな。