コンプレックス
— 最近またどこかの山に行かれましたか?
岡部:小林さんの森にはよくお世話になってるんだよね。昨日も行って、山作業手伝ってきたんだけど、面白かったな。でも結構キツい作業だった!
— 相澤氏やサスクワァッチ・チームも言ってました。「今、小林さんと話してるのが本当に面白い」って。
岡部:そう。さっきの話に戻るけど、そこなんだよね。40代の人たちって、ウチらがひねくれたことするのを面白いって言ってくれる人たちが多いと思う。それは確実。
そういう人たち相手に「オレ、今こんなこと考えてて」って熱く語ったりするんだよね。するとちゃんと聞いてくれて、アドバイスもくれたりしてさ、まぁでもたまに熱くなりすぎて煙たがられたりもするんだけどね…
(一同笑)
岡部:でも結局、心の奥では優しく見守ってくれてる感じ。「これ、このまんまやったらつまんなくない?」みたいな感覚が共通してるって思う。
— そうですね。そういうことが「ミックス」っていう感覚だと思いますし。
岡部:うん。だからやっぱり、オレもミックスっていうのが「ザ・ジャパニーズ」みたいな感じがしてて。それを謳っていかないといけない気がしてて。サスクワァッチもそうだし、小林さんのとこもそうだけど「ウチ、日本なんだよ」みたいな。海外の文化が好きでいろいろ勉強しているけど、それをアウトプットする時は日本人としてのフィルターを通すような感じ。そういえば小林さんのとこって海外ではやってないんだって。ちょっと意外だった。
— そうなんですね。ほんと意外です。
岡部:「これ外国でやっても分かってもらえないでしょ」って言ってた。それが、オレ分からなかったんだけどね。
あとね、今日もニット着てるけど、nonnativeはすげぇなぁと思うブランド。この前、久々に展示会行ってきたんだけど、チノパンのポケットに手を入れたら、インナーが後ろ側に反ってるんだよ。それってアウトドアのパンツの仕様で「寝っ転がっても小銭なんかが落ちないようにするためのものなんだよね」って。アウトドアでは寝っ転がるっていうシチュエーションがあるから、そういう機能が必要で。そこを面白いと思った藤井がさりげなく取り入れててさぁ。けど、やっぱりディテールとか見るとアイツなワケじゃん、縫製の感じとか。オレ、あれこそデイリーなウェアに見えるけどハイファッションだと思うな。言い過ぎかも知んないけど、既存にないディテールを作り出す、デザインと言ったらいいのか? 上手に表現できないけど、とにかく、もっと評価されるべきブランドだって思う。最近オレにはキツいサイジングになってきてるのが悔しいんだけど…、デブってきたからなぁ最近…(笑)
— 彼のそういう視点や感覚は、素晴らしいですよね。
岡部:みんなが真似しちゃうようなディテールをアイツに作り上げて欲しいな。ほんとあいつのことはリスペクトしてますよ。さりげないからなぁ〜、あのキャラ! その展示会の時、久々にいっぱい話せてちょっと楽しかったし、やる気ももらっちゃった。でも、それもClusterのおかげでもあるんだけどね…。とりあえずヤツを褒めすぎちゃったから、もうおしまいこの話。
— Clusterの存在が役に立てたのなら光栄です。
岡部:あれで藤井の話も読んでたっていうのがあったし。そういえばそこで他の何人かも言ってた「コンプレックス」の話にも共感したんだよね。地方出身者としてのさ。
— 相澤氏もそうでしたね。
岡部:アイツ、所沢っていう東京にかなり近い場所のはずなのにね。ちょっと意外だった。
— 逆に東京への中途半端な距離感と言いますか。それは僕らも一緒なんですけど。
岡部:なんかそっちの方が異常にコンプレックスがあるみたいなことをアイツは言ってたんだよ。ほんとびっくりでさ〜。
— そうなんですよ。地方の人から見れば東京人扱いされるんですけど、実際は全然違うという。
岡部:ねぇ〜。なんかオレからしてみると不思議な感じでちょっと面白い。その辺は岩手育ちのオレには分からねえしな。オレらみたいに吹っ切れてない感じなんだったりするんだね。
— そうですね。全然吹っ切れてなかったですよ。
岡部:オレは「田舎もんですから」みたいなことを言っちゃえるからさ。だけど、東京出身の友達に前言われたのは「お前、田舎もん(出身であること)を売りにしてんじゃねぇの?」って。「田舎もんって、もんって何だ? もんって」みたいな。
(一同笑)
岡部:そう言われたとき結構ショックだったけどね。オレ昔、「田舎クサイリスト」みたいな名前作って出してたけど、「やめなよ」って周りから言われてさぁ(笑)
— でも、そういう感覚をちゃんと持ったまま大人になってるっていうのも重要だと思うんです。
岡部:まぁ確かに。意識はしてなかったけど、自分自身を認める部分って言うのは必要だよね(笑)
だから、みんながコンプレックスっていうのを素直に言えてるっていうのに共感したし、めちゃめちゃ嬉しかったしさ。
オレも口に出さないにしても、思ってたことだったんだよね。「憧れってカッコ悪い」って思ってたこともあったんだけど、認めちゃった上でさらけ出せちゃえば、全然悪くないことで。育った環境でそうなるってことは自然なことだからさ。
— そういうところを個性として表現していければ良いと思うんですけどね。なんだか伝わらないですよね。
岡部:オレもさ、BMXとかモトクロスとかメッセンジャーとかいろんな「本気の人」を見てきてるけど、やっぱりそういう人たちが本物を着用してるっていう感覚がめちゃめちゃカッコ良いなとずっと思ってきてて。
でもそれはそれで、モードも好き、実は昔、モッズにも憧れてたっていう風なミックススタイルが今の自分を確立してると思ってんのね。それはもう本当に、自分にいろいろな部分で影響を与えてくれて、育ててくれた様々なジャンルの人達がいてくれたお陰!
多分スタイリストだけに憧れて、そういう人たちに出逢わずにきてたら、モード一辺倒とかになってたと思う。古き良きモノとかも知らないまま。オレ何も知らなかったからさ。みんな中学高校ぐらいの時期にアメカジとかヴィンテージにハマったりとかしてたけど、オレは本当に何も知らないまま上京してきてるから。
なんか必死で勉強したよね、それから。Beginとか読んだりしながら。boonとかも読んだしさぁ…。遅かったのよマジで。いまだに無知なところいっぱいあるからね。その分、頭ん中は空き部屋がいっぱいだから吸収しやすいのかもね! てか。
— そんな時代があったんですね。
岡部:Beginに載ってるモノとかで、欲しいモノのリストをノートに書いたりしてさ。
「やっぱニューバランスはメイドインUSAでしょ」とか「1500(編集部注:当日インタビュアーが履いていたニューバランスの1500)ヤベぇ」とかさ。そんな感じを知ってる世代がまた、30代前後なんだよねぇ。
みんながみんなこぞってイイもの買ってたりするから「負けてられねぇ」って、そういう楽しさがあったよね。
「桑沢(桑沢デザイン研究所)の学生はちょっとオシャレだ」とかさ。みんなパタゴニア(Patagonia)着ててさ、桑沢の人たちはすげぇカッコいい人が多いなあと思ってた。
— そういう感覚は、みんなが共有してましたよね。
岡部:オレらはそういう感覚を勉強できた一番最後の世代なんじゃないかな? ホント良かったよね。
オレが今25歳前後だったら、そういうとこに興味持たないままストリートブランドとか買って終わってる気がして、考えるとちょっと怖いもん。
— 僕もファッションに関わる仕事はしていなかったと思います。
岡部:そうだよねぇ…。もったいないんだよな、そのままだとさ。
— って、なんだかノスタルジーな雰囲気が強くなってきたんで(笑)この辺で締めますね。
かなり貴重な話でした。今回はありがとうございました。
怒濤のトークで話が二転三転しましたが、いろいろおもしろい話を伺うことができました。
同世代でムーブメントを起こしたいという思いには共感しますし、それにClusterが協力できれば光栄です。
コンプレックスを自認しつつ、さらに「個性」を発揮したスタイルを追求して突き抜けてください。
僕らはそれを表現できる媒体を全力で作っていきますから。ただパンクしない程度にですが…(笑)