— ちょっと話は変わりますが、今回のアルバムにはTodd Terjeの楽曲が入っているじゃないですか。うちがCluster時代にやったTodd TerjeとDJ Strangefruitとの対談で彼は「リエディットはもうやるのを止めた」という主旨の発言をしているんです。結果として、彼は今年スタジオアルバム(『It’s Album Time』)をリリースしたんですが、制作期間を考えると、EMMAさんの『Acid City』の制作をスタートさせた時期と見事にシンクロしているんですよね。
DJ EMMA:Todd Terjeのアルバム、好きですよ。その中でもこの曲が一番良かった。昔のシティミュージックに回帰するのでは無く、今まさにこの音っていうフィット感がある。『Acid City』にもシティというキーワードは入っていますし、たしかに重なる部分はあるのかもしれません。
— 住んでいる場所も、自身を取り巻く状況も異なる2人が同じ時期に同じような行動をするっていうのは本当に面白いなと思いまして。
DJ EMMA:もちろん、人の曲を加工するのもDJらしくて面白いんですけどね。Todd Terjeくらいになるとバンバン売れるし、そういうのが嫌になる気持ちも分かるので、今回はこの曲をピックアップして、あえてアナログにしか入っていないバージョンを選ばせてもらいました。表現の仕方は違っていても、やろうとしていることは結局一緒だったりしますからね。経済的に回せれば良いって発想を、僕はどうしても持てなくて。そういう発想で言うと、今年のハロウィンは良い例でしたね。折角今年は金曜日がハロウィンだったのに。みんなそれぞれの都合に合わせて好き勝手にやるから、結局2週間ぐらいハロウィンをやっていて。もう「お盆って言えよ!」って感じ(笑)。
HUE:本当に長かったですよね(笑)。
DJ EMMA:そうそう。長すぎて、今日が何日か分からなくなっちゃうくらい。我慢するのって大事なんですよ。結局みんな金曜日まで我慢できなくてやっちゃってる訳だから。経済的に回すためなら何でも良いとか、楽しい日は一杯あった方が良いっていうのは風流じゃないし、全然クールでも無いですよね。
HUE:クラブの話にも通じますけど、個々のクオリティが落ちるんですよね。分散してしまうと。
DJ EMMA:もっと上手に騙して欲しいんだけど、露骨に考えが見えちゃうからね。まぁ、こんなことをTwitterでつぶやいていたら案の定友達から「あんまり怒るなよ」って電話が来ました(笑)。でも怒る人がいても良いんじゃないですかね。それが個性だと思います。
— 結局このまま行くと、クラブの規制と同じ流れになりかねないですもんね。
DJ EMMA:全く一緒ですね。小さい子供があれを見てしまうのが残念でなりません。僕もUNITのハロウィンパーティーに出たんですが、あのイベントには”リアルハロウィンパーティー”って冠が付いてたんですよ(笑)。まぁ、付けたくなる気持ちも分かりますよね。本当にハロウィン当日だったから出ようかなって思いましたし。そんなこんなで、そういう状況をどう思う?ってGonnoに聞いたら、「うーん………、ハロウィンフーリガンって感じですかね」って返信が来て。
一同笑。
DJ EMMA:もう「お前、天才!」って感じですよね。フーリガンだと思えばしっくり来るし、許せる気までしてきて(笑)。とまぁ、冗談はさておき、本来は子供の為のものを大人が楽しんじゃいけない訳じゃないけど、節度ってやっぱり必要な気がするんですよ。みんな頑張っているのは分かるけど、頑張る場所はもっと大事に考えた方が良いんじゃないかと思います。
— 少し話が脱線しましたが、過去にTodd Terjeがそういう話をしていて、今回のアルバムにしっかりとTodd Terjeの曲が入っている辺り、さすがEMMAさんだなと思ったという話です。今ハロウィンの話があったので、その流れで伺いますが、最近、風営法の改正案が閣議決定され、インターネット上でも大きな話題を呼びました。あの改正案に関してはどのように考えていますか?
DJ EMMA:どうしても、この場で話せることと話せないことがあるので正確に全てを伝えるのは難しいんですね。この一年以上、問題になっている「ギャル付け」は終息する兆しはありますが、今だにサービスを続けている店舗も存在します。そして、クラブの中でキッズパーティーをやろうと考えている人たちの存在も、僕のDJとは関係無い事だけど気になりますね。東京オリンピックに向けて、新しいハコに色々な企業が参入してくることを想定しての、新しいアイデアなのは理解はしています。しかし、クラブが整理されておらず、問題が山積みの中で、なぜ好奇心も旺盛で判断力に欠け、傷付きやすい未成年をクラブに入れようとしてるのか疑問が残ります。例えばフジテレビの冒険王の一つとしてクラブとは別の場所でやるのとは全く違うと思う。クラブで二毛作をやれば年齢確認がいらない、タダ酒が出ない、ゲストリストが要らない。3倍儲かりますし。クールジャパン戦略の一つ、それも追い風にする1つの方法ではあると思うんですけど、僕はハッキリNOと伝えたい。解散で振り出しに戻ったとはいえ、風営法の改正案が閣議決定された事実は、沢山の人達の努力があったからで、そういう色々な考えの人達の力が無ければここまで来られなかった。だからリスペクトはしています。だけど他の国の例とか、日本だけじゃなく、もっと全体像を見ないと厳しいかも。僕らがクラブに行き始めた時は18歳からクラブに入れたんですが、今は20歳以上じゃないと入れない。その2年間っていうのはお酒が飲めるか、飲めないかの違いなんです。考えなければいけないのは日本は24時間お酒が飲める国だってこと。そういうところにも配慮して考えた方がいい。偉そうに聞こえてしまうかもしれないけど、僕はDJであって、革命家でも政治家でも無く、DJとしてこの問題に関わってきたからこそ考えてしまう部分も多くあります。DJだから本当なら言葉は必要無くて、クラブで自分の音楽で伝えるしか無いんですよ。ただ考えるってことはすごく大事で、いつも考えすぎてしまうというのが僕のクセというか、個性と言うか(笑)。それに関してはこの場を借りて、皆さんにお詫びしたいと思います。
— また話題は大きく変わりますが、昨年の『Mastered的レコード大賞』でEMMAさんはDJ Harveyによるceroのリエディットを3枚のうちの1枚として挙げていました。最近ele-kingさんがBing Ji Lingのインタビューの中で非常に面白い質問をしていまして、その質問をそのままEMMAさんにもぶつけたいなと思います。DJ HarveyとEDMはどこが違うと思いますか?
DJ EMMA:笑。全然違うと言えば、全然違いますよね。一緒にすべき問題では無いような気もするけど、1つはっきりしているのは目的が違います。EDMって何か臭うんだよね。でもHarveyは臭わない。DJ Harveyは僕がコニーズパーティーでDJをやっている時からの知り合いですが、今でも当時と全然変わってないですよ。別に知り合いだからって、ベストトラックに挙げた訳でもありません。あれは単純に良かったし、「言う事無いわ、これ」ってぐらいの完璧なリエディット。オリジナルのリエディットをひっくり返した面白さがあると思います。もう成立してしまっているから、そこの上にあえて乗っけてしまうって発想がHarveyらしくて好きですね。同じようにてんこ盛りにしても、EDMとは全然方向性が違うんです。EDMはアゲる方向しか向いていないから、踊らせようと必死にビートキープをしているのに近い。最近はEDMも変わってきて、ディープハウス的な抑揚を入れてきたり、進化してますけどね。日本のEDMはそうでは無いけれど。要は快楽だけでは無く、何か違ったものがあるか、無いかの違いじゃないですかね。そこが一番大きいような気がします。
— それでは最後にお二人に質問を。こういう仕事をしていると若い子から「今ってどこのブランドがイケてるんですか?」とか「何を聴いたら格好良いですか?」とか良く聞かれるんですが、現代の悩める若者にアドバイスをお願いします。
HUE:そういう質問をするってことは、それだけリスクを背負いたく無いんでしょうね。僕がアドバイスするとしたら、若い子にはとにかく自分が気にいった洋服を着て欲しいですね。それが客観的に格好良かろうが、悪かろうが、それが自分の糧になると言うか。それこそ僕だって数え切れないくらい失敗をして来ましたからね。
DJ EMMA:しょっちゅうしてたよ(笑)。
HUE:クラブに行った時にすごく恥ずかしい思いをして、その洋服を着なくなったりとか(笑)、そういう経験をどんどんして欲しいですね。もちろんファストファッションはファストファッションで良いと思いますけど、しっかりとした洋服にも袖を通して、自分に合った洋服を見つけてくれたらと。僕の時代は安い洋服って古着しか無かったので、選択肢と言う意味では今の方が豊富で楽しそうですけどね。
DJ EMMA:今でも全然無いけど、昔はとにかくお金が無くてさ(笑)、本当に古着しか買えるものが無くて、Dr.Martensのブーツ1足買うのも大変だったよ。作業用の安全靴を真似して履いたりとか。僕だけじゃ無くて、みんなそうやってた。憧れは原宿のA STORE ROBOTか、COMME des GARÇONSで買い物をすることで。店に入る敷居が高くて、お客なのに「すいません、買わせてもらっても良いですか?」って感じだったもんね。
HUE:それぐらいお店も格好良かったですよね。
DJ EMMA:音楽でも全く一緒で、好きな音楽を見つける為には色々なものを聴くことが一番大事だし、疑問に思ったらとにかく人に聞いてみる。探究するってことはすごく大事なんですよね。ファッションと音楽で異なる部分もあるんだけど、基本的には今、HUE君が言ったことが全てだと思いますよ。
DJ EMMA 『EMMA HOUSE XIX MOUSE-COLORED CAT』
発売中
価格:2,700円
レーベル:NITELIST MUSIC
1. DREAMS (DJ TOOLS version)
2. MAN WITH THE RED FACE (ATFC “When The Light Go Up” REMIX)
3. AIR ALERTNESS (MALAWI ROCKS REMIX)
4. SAY IT
5. ZANZIBAR (MALAWI ACID DUB)
6. STRANDBAR
7. BREAK THE DAWN
8. BELIEVE IN LOVE (DIRECTOR’ S CUT VOCAL MIX)
9. CERO (HARVEY REMIX)
10. TUNER’ S HOUSE
11. BACK IN THE DAYS
12. WHAT YOU NEED (ENZO ELIA BALEARIC GABBA EDIT)
13. FINALLY (PLANET-E MIX)