Photo:Haruki Matsui | Text:Maruro Yamashita | Edit:Keita Miki
— そもそもどのような経緯でスタートしたプロジェクトなんですか?
金子:最初は南くん(alpha.co.ltdの代表である南貴之)が僕らを引き合わせてくれました。「金子さん、絶対好きだと思う」って言って、村上さんを紹介して頂いて、blurhmsの展示会に伺わせて頂いたんです。その中で、一番引っかかったのがこのカットオフされたパンツでした。デザインだったり作りの良さというのも勿論あったんですけど、村上さんが語ってくれた、「いわゆるアメリカのスケーター、キッズたちが雑にカットオフしているパンツがインスピレーションになっています」というストーリーに引っかかったんですよね。そのストーリーから生まれたものであるというのが、すごく良いなと思って。アメリカのキッズたちは破けても良いというスタンスで安いDickiesをラフに穿いているんだろうけど、村上さんの作るパンツには、物凄い繊細さが表現されていて。当然ではあるのですが、縫製とか生地のこだわりとかがDickiesとは全く違うんですよ。そういうクオリティーで、こういう表現をされているっていうのが、僕的には凄く刺さって。このパンツをL’ÉCHOPPEで展開させてもらうのであれば、僕らとしてはこの背景までもちゃんと説明したいなと思ったんですよね。それも、口頭とかブログとかではなく、村上さんがインスピレーションを受けたものを僕らでも追って、それを実際に作って、インラインのアイテムと同時にお見せしていく、っていうのが一番僕たちらしい表現だと思って。少し無理を言って、相談させてもらいました。
村上:その場で話はまとまりましたよね。
金子:まだお会いして2回目でしたし、展示会にも初めて伺ったのに、いきなりそんなお願いをするのもどうなのかなとか思いつつ、やりたいことを思いっきり伝えさせてもらいました。L’ÉCHOPPEは1店舗なので、金銭的にも大きなビジネスが出来る訳ではないんですけど、取り組みの意味を追求したくて。インラインのこのパンツを買われた方の中にも、このパンツが持っているルーツを知らない方はたくさんいらっしゃると思うんです。けど、うちがこういう取り組みをやることで、そこを知ってもらえたら、きっとこのパンツに対する想いも深まるんじゃないかな、と。最初からストーリーを知って買うのも当たり前に良いんですけど、あとから知るっていうのもすごく良いと思うので。村上さんにもすぐに快諾して頂けました。でも、いざ作ろうってなったら、そこからは結構大変だったんですけど。
村上:金子さんと喋ると、なんか貰えるんですよ。インスピレーションが湧きやすくて。金子さんはやっぱり良い意味で変態だし、こっち側の人間て言ったらおかしいですけど、そういう風に感じて。話してると楽しくて、あれも良いね、これも良いねってなるし、単純に何か一緒にやりたいなって思って。変な話、儲からなくても良いくらいの感覚で。
— 今回のパンツは15本限定ですし、利益を追求したアイテムであればその時点でありえないですよね。
金子:ありえないですね。手間を考えたら確実に赤字だと思います。
— 最初から「Made in USAの古着のDickiesのパンツをリメイクする」というプランは定まっていたんですか?
金子:その場でほぼ企画はまとまりましたね。
村上:そうですね。そこからDickiesが集まるのを待ったりとか、黒く染める試験に時間がかかっています。
金子:僕は作り手ではないので、染めて、ちょっと仕様を変えるくらい、って簡単に考えていた部分があったんです。でも、村上さんから進捗の確認とかをさせてもらっていると、仕様書からしてすごいんですよね。要は、10数本のパンツを同じ仕様でまとめて行くんですけど、結局1本1本仕様書が異なる。1本1本に対してスペックが細かく書かれていて、そこに対して股下を何cmにするとか、色々一筋縄ではいかないことを試験しながらやって頂いたので、村上さんは相当大変だったと思います。
— サイズ表記としては同じだったとしても、古着だし個体差がかなり出ているということですよね。
村上:まずは検品から始めるんですよ。どこが破けていて、ウェストが何cmで、股上、股下が何cmなのかって。それをまとめて全部の古着に番号を振っていくんです。番号が分からなくならないように、裏地の部分にスタンプを押しているんですけど、それを基に、「何番は股下を何cmカット」だったり、そのままだとシルエットが太いので1本毎のサイズに合わせたツマミを入れて。そういうのを1本ずつ指示書にまとめていました。
— なるほど。大変な手間がかかっているんですね。
金子:こういうことって仮に僕がアイディアを持っていても、出来なくはないと思うんですよ。「ここを何cmつまんで、パイピングして、染めてください」っていうふうに簡単に業者に投げる感じで。だけど、それだとこのクオリティは再現出来ない。1本1本ちゃんとコンディションも確認しながら指示をしていくっていう、真摯な物作りがあってこそクオリティなんですよね。今回の商品を見て痛感したのは、「プロの仕事はやっぱりしっかりしているな」ってことで。もちろん、その分コストも高くなりますけど、中途半端なものはお客様に届けられないので、お願いしてよかったなと思います。
— 全て真っ黒に染めることになったのはなぜなんですか?
村上:うちのインラインの黒のパンツを金子さんに何回も穿いてもらっていたら、黒が良いねっていう話になって。
金子:「せっかくなら、インラインと同じ色で作ってしまおう」と。
村上:自分自身、結構黒を着ていることが多くて。「黒が村上くんぽいよね」みたいなことも言われますしね。Dickiesって綿とポリエステルで出来ているので、2回染めないといけないんですよ。よく古着屋さんとかでオーバーダイの商品が売ってますけど、Dickiesのオーバーダイって多分無いんですよね。それはなぜかと言うと、手間とコストがものすごくかかるから。そういうところにもすごく惹かれました。商売としてはアウトなんですけど、作りたいっていう気持ちが強かったですね。
金子:基になったDickiesはベージュもあればブルーもあったりで、実は様々な色がベースになっているんです。
村上:だから黒の色味もベースによって全然違います。ポリエステルは、高圧染めっていう方法じゃないと染まらないんですが、高圧染めだと糸まで全部染まるんですよ。だから、Dickiesのネームも普通だったら色が残るんですけど、これは本当に真っ黒。
— 村上さんが、blurhmsのインラインのアイテムとしてアメリカのスケーターのキッズが穿いているようなパンツをモチーフにしたのはなぜなんですか?
村上:僕はスケーターではないんですけど、やっぱり服を作る上でカルチャーっていうのは大事だと思うんです。僕はアメリカが好きで、アメリカが服の基本だと思っているし、色々と学んだことも、どこかアメリカがベースのことだったりして。そういう自分がこれまで通ってきたアメリカのカルチャーを感じられる服が作れたらな、っていうのは常にどこかしらにはありますね。
— それはこのパンツに限らずですか?
村上:限らずです。基本的にうちの服はすごくシンプルなんですけど、素材で見せたり、ちょっとどこかに変なクセがある。それが”blurhmsらしさ”なのかなとも思っています。
— 金子さんはDickiesに特別な思い入れはありますか?
金子:安いし、若い頃は穿いてました。初めて買ったのは、30年くらい昔ですかね。だけど、大人になってからは全然穿いてなくて。結局、僕は洋服が好きだし、もっと穿きたいパンツがあるから。嫌いじゃないんだけど、あえて穿くかと言われると、意外と穿かなくて。今回のこの企画って、キッズからインスピレーションを受けているんですが、テーマには”大人”という部分もあって。例えば「やっぱり大人がDickiesを穿くなら、裏はちゃんとパイピングで始末がしてあってほしいよね」、とか。僕が今まで抱いていた、”チープでハズしとしても格好良いけど、穿けない”っていうDickiesに対する違和感を解消してくれるアイテムに仕上がっていると思います。大人にこそ、このパンツは穿いてほしいですね。
— ディテールにはルーツであるキッズが穿いてる雰囲気を残しつつ、ファッションアイテムとして完全にアップデートされているんですね。
金子:そこがもしかしたら1番のポイントなのかもしれないですね。内側もパイピングで始末しているというところに村上さんらしさが滅茶苦茶出ていて。普通ならこれはやりたがらないというか、どうでも良いと思いがちなところじゃないですか(笑)。
— 金子さんからのリクエストではなかったんですね。
村上:これは僕の判断で入れました。色は2人で決めたんですけど、うちの服は基本的に”裏を綺麗に処理する”っていうのが大前提なので。服を作っている方がたくさんいらっしゃる今の時代、個人的には手を抜いたら終わりだなっていう感じがあるんです。どうせやるなら、本気でやりたいので。
金子:blurhmsの洋服を見ていると、自分が潜在的に洋服に対して感じていたことが表現されていたりとか、気付かされるではないですけど、感じていたことが線になる瞬間があるんです。そうするとすぐに、何かしたいなって思うので、今回のような取り組みを通して、blurhmsとL’ÉCHOPPEの両方のお客さんに発信していきたいですね。村上さんがこういうことをやる人だっていうのは、blurhmsの取引先の人とかファンの方も絶対思わないと思うんですよ。そういう一面をL’ÉCHOPPEが引き出せたっていうところは、うちとしても最も意味があることだと思います。頑張って接客したいですね。
村上:本当に1本1本違うので、ファスナーがYKKだったりTALONだったりとか。そういうのも含めて、お客さんたちには自分だけの1本を選んでもらいたいです。そういうのも昔っぽくて良いですよね。
【商品のお問い合わせ先】
L’ÉCHOPPE
東京都港区南青山3-17-3 1F
TEL:03-5413-4714
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