映画『私たちのハァハァ』公開記念 松居大悟監督 インタビュー

by Mastered編集部

松居大悟監督の新作、『私たちのハァハァ』が凄い。これまでも『自分の事ばかりで情けなくなるよ』や『ワンダフルワールドエンド』など強烈に“いま”を感じさせる作品により若い世代を中心として高い支持を集めて来た監督だが、今作では音楽ファンの側に立ち代わりつつ、青春映画としても画期的なアップデートを果たしている。

クリープハイプの大ファンである女子高生4人が、ライブを観るため北九州市の片田舎から東京まで自転車での旅に出るロードムービー。ほぼ演技未経験の役者たちと手持ちカメラの映像を全面的に駆使することで、徹底的に“ライブ感のあるフィクション”を切り開いている。自ら拘ってきた青春映画を総括してみせた松居監督に話を聞いた。

Photo:Takao Iwasawa、Intervie&Text:Hiroshi Inada、Edit:Keita Miki

作り手よりも受け手の人のエネルギーの強さが何かを変えてくれそうな気がした。じゃあファンの映画にしようって。

— 傑作ですね。これは画期的な作品だって思いました。

松居:おーっ! ありがとうござます。ほっとしました(笑)。

— 撮影したのが1年前くらいですよね。やっとそろそろ公開となりますが、リアクション的に「あ、これはしっかり届きそうだ」みたいな実感はありますか?

松居:作って仕上げしている期間が長過ぎて、ぼくがあまり客観的な評価を冷静に受け取れないんです。自分が作品にくっつき過ぎていたので、本当に一ヶ月ちょっとくらい前に完成したところで。(ゆうばりファンタスティック国際)映画祭かけた後に、ちょっとした直しをずっとしてて、仕上げにめちゃくちゃ時間がかかった。だから離れたいんですけど、まだ離れられてないんです。撮っているときは本当に、完成像を全く見えてなくて撮っていたんですよね。

— えーっ、そうなんですか?

松居:本当に(主人公4人と)一緒に旅しているような感じで作っていたから。だから編集に時間がかかったんですよね。その瞬間その瞬間で撮っていたから、バランスとるのとか難しくて。この4人が辿り着く景色とか、明確なゴールを作ってなかったんです。自分の中で考えて考えて出した結論がこれなんだけれども、そこに対して明確に言語化できてない。だから評価を受けたとしてもその評価が(自分の)理屈に基づいてないものだったりするから、嬉しいんだけれども手放しでは喜べない。

— 編集に一年近くも時間をかけて、映画祭で一回評価を受けたのにさらにその後も直すって、かなり異例ですよね。

松居:しかも明確なゴールがあって、そこに向かってみんなを連れていくっていうのなら、もっとドライに受けとめられたと思うんですけど。たぶん女子高生とか、あと音楽ファンの映画なので、そういう当事者の人のほうが自分よりも気持ちの強さだったり、リアリティーがあると思っていて。でも自分がやりたかったからやっていたんですけど。

松居大悟 1985年、福岡県生まれ。劇団ゴジゲン主宰、全作品の作・演出・出演を担う。12年2月、『アフロ田中』で長編映画初監督。以降、クリープハイプのMVから生まれた異色作『自分の事ばかりで情けなくなるよ』や、大森靖子の音楽をフィーチャーした絶対少女ムービー『ワンダフルワールドエンド』など時代を鋭く描いた青春映画で国際的にも評価を受ける。『私たちのハァハァ』は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015で上映され、「スカパー!映画チャンネル賞」と観客賞にあたる「ゆうばりファンタランド大賞」の2冠に輝く。

松居大悟

1985年、福岡県生まれ。劇団ゴジゲン主宰、全作品の作・演出・出演を担う。12年2月、『アフロ田中』で長編映画初監督。以降、クリープハイプのMVから生まれた異色作『自分の事ばかりで情けなくなるよ』や、大森靖子の音楽をフィーチャーした絶対少女ムービー『ワンダフルワールドエンド』など時代を鋭く描いた青春映画で国際的にも評価を受ける。『私たちのハァハァ』は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015で上映され、「スカパー!映画チャンネル賞」と観客賞にあたる「ゆうばりファンタランド大賞」の2冠に輝く。

— ちょっと発端に戻りますけど、もともと企画のスタートはファンを描きたいということでしたっけ。

松居:いや、地方の女の子を描きたいというところで高根(プロデューサー)さんと意見が合致して。地方の女の子のロードムービーがやりたいと話していて、やっぱり東京に行く!でしょってなって。じゃあ、東京になんで行くんだろうねってなったときに、その前にやった映画(『自分の事ばかりで情けなくなるよ』)の感想とかを見ているときに、ファンのつぶやきとかを見ていて、ファンの解釈が面白くて。自分がこういう風に作りたいって思ったメッセージとかをはるかに超えてくる。彼ら彼女らのフィルターが入っているのがすごく面白い。ずっとクリープハイプのMVとかやっててファンと接することが多かったからだと思うんですけど、なんか作り手よりも受け手の人のエネルギーの強さって何かを変えてくれそうな気がして。じゃあファンの映画にしようと思って作りました。

— 確かに、ファンを描いた映画ってありそうでなかった。

松居:意外となくて。やっぱり演者の方の話になったりするんですよね。そりゃあ演者の方がドラマがあるとされがちで、でもそうじゃない人たちもちゃんと悩んだり怒ったり、何かに向かって頑張ったりしているし、影響を与える人は少ないかもしれないけれど、でもそれが当たり前の世界でーーというのをちゃんと肯定したいというか、みんなにドラマがあるって思ってるから。だからファンがライブのチケット取れたって喜んでるのとかを単純に見たいなって思って。いちばん自分が生きてきて近い景色だったからだと思うんですよね。

— 松居さんの映画って、『ワンダフルワールドエンド』もそうですけど、すごく“いま”感をびしびし感じるのが面白くて。

松居:映画を作る人って、言葉が難しいですけど、古いというか。おっちゃんがいっぱいいるから(笑)。作り方とかも全部そうなるところがあって。90年代とかを描き続けるならいいですけど、現代を描くのに現代を見てないと違和感を感じます。とくに若者の現代を描いてるとしたら、LINEして既読になるかならないかで喜んだり、どっかに行くことが楽しいんじゃなくて、どっかに行ったことを誰かに報告したり、つぶやきがリツイートされることのほうが嬉しいんじゃないのとか。だからあえて僕はいまを描いてるっぽく見えるのかもしれません。

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— よく他の方も言っているかもしれないですけど『リンダ リンダ リンダ』も女子高生を描いた青春映画の傑作と言われていて、『ハァハァ』はあれ以来の傑作だとも言われている。で、公開が2005年と2015年でちょうど10年目なんですね。

松居:ぼくも『リンダ リンダ リンダ』は大好きなんですけど、1個だけ気になるところがあって。体育館に最後ライブするって集まって、熱狂するやつもいれば、冷めて座っている子とか、壁際にいる子とかもいて。校舎には誰もいないっていう設定がある中で、『いや体育館にも行けないやつがいたらどうするんだよ』って。そいつらはこの映画をどうやって観たらいいんだよって、体育館にすら行けないやつを描こうと思って作ったのが『男子高校生の日常』という作品なんです。

— その比較でいうと、『リンダ リンダ リンダ』には香椎由宇はいたし、ぺ・ドゥナまでいた。今回『ハァハァ』はひとりだけ女優さんがいましたけど、あと3人は演技素人で。それってすごい賭けですよね。

松居:本当にそうですね。有名な女優を呼んできてやるのも考えたんですけど、やっぱりただわけわかんない女の子がどこかに向かって走ってるのがきっといいというのと、ヘアメイクを絶対入れたくないというのがあったので、そしたらもう女優さんにはお願いできないねと。いろんな要素で、最初から賭けはしようと思ってました。変なこだわりがあるんですよね。19歳だとちょっと違う。そのときに高校生じゃないと絶対意味がないと思って。

— あの会話の感じは本当にすごいですよね。セリフじゃないみたいな。

松居:セリフをちゃんと言えないから、曖昧に覚えつつ喋るっていうのがリアルな感じになったんですよね。なんか意外と台本通りやってるんですよ。でもすごいアドリブっぽく見えるじゃないですか。あれは彼女たちのおかげですね。芝居してるという感覚がないんだと思います。手持ちカメラとかで最初やっていたのは彼女たちにスイッチを入れたくなかったからで。「よーい、スタート!」とかって、やると頑張るじゃないですか。なんかそういうのが嫌で。こっちは木陰からこっそり撮ってたり。

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— ビデオカメラを彼女たちに渡して撮らせるという手法はある意味、自撮り文化も入っているのかもしれないですけど、ほとんどそれで撮りきるっていうのも珍しいですよね。

松居:ぼくはこっちの方が賭けでしたね。芝居したことのない子たちに、さらに撮るという技術も背負わせなければならなかったので。ピントがあってなかったらどうしようとか、フレームに指がずっと入ってたらどうしようかとか。ただそれを伝えたら、そうしないようにするだろうから。そうすると制限になるから言わないでおこうと思って。

— じゃあ、ある意味松居さんの中で、ドキュメンタリーの要素、生々しさはあえて入ってくるように意識していたんですね。

松居:だから、ストーリーをどうしようかって考えるのをやめたんですよ。4人が生き生きすることが一番でということで撮りましたね。

— 以前のインタビューで読んだんですけど、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』のようなクリープハイプありきの映画じゃなくて、松居さん発信の映画でクリープハイプにいつか主題歌を頼めるようになりたい、と言っていて。まさにこの映画だよなと思って。

松居:そんなこと言ってました?(笑)。でも、そうですね、台本も全部出来上がった後に作ってくれって尾崎君にお願いしました。

— お願いする側もされる側にとっても最高ですよね。だからこそ、曲も作り直したり、相当こだわりがあったみたいで。

松居:いままでやってきたMVでも、キャッチボールし合いながら、もっといけるでしょっていうのをお互いに牽制し合ってという関係性なので。あとはクリープハイプだから(映画のクライマックスで主人公4人が)ステージ上に上がれたっていうのもあるし。ただお願いするだけだったら絶対、袖で終わってるだろうし。ツアーファイナルの一番大事なところに。

— この映画はフィクションとリアルの狭間とか裂け目に肉薄している感じがして、それが象徴的なのがライブのシーンで。観ている側も彼女らに寄り添って観ているわけですよ、辿り着こうと。で、最後リアル側の現場に突き抜けちゃう。その時に映画の観客とクリープハイプの観客が遭遇するんですね。一緒に辿りついたらそこに自分たちがいたみたいな。

松居:お客さんはフィクションとして観てて、でも実際のライブの現場に辿りついて。

— お客さんの反応する声とか全部リアルなわけで。だからあのシーンはすごいと思います。

松居:考えたらそうですね。それは気づかなかったな。

— 音楽と映画のコラボレーションという意味で、ファンの側に世界観をひっくりかえしつつ決定版を作ったなと。松居さんが作って来た青春映画という意味でも集大成ですよね。

松居:そうですね。そうしないととも思ってますし。これからも音楽とか青春との関わりってあると思うんですけど、でもそれがメインテーマになるっていう意味では、たぶん『ハァハァ』より鋭利なものはできないような気がするんですよね。なので、新しいところを探さないとなって。

— でも松居さんまだ20代なんですよね。

松居:そうです。もうすぐ30歳ですね。結果的にずっと青春映画を作ってきたんですけど。自分が単純に興味があるとか、面白いと思うものがそうだったんでしょうね。なんか、僕もワクワクしてたいし、観る人もこの映画何してくるんだろうってワクワクさせたいし、そういう風に作り続けたいですね。

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【映画『私たちのハァハァ』】
テアトル新宿ほか全国劇場にて公開中
監督:松居大悟
出演:井上苑子 大関れいか 真山朔 三浦透子 / クリープハイプ / 武田杏香 中村映里子 池松壮亮
音楽・主題歌『わすれもの』:クリープハイプ
製作:『私たちのハァハァ』製作員会 / SPACE SHOWER NETWORKS INC.
制作:CONNECTS LLC
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
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