―それではラスト一問です。
宮藤:あ、これは訊きたかったんですよ!「妄想から絵が産まれることはありますか?」という。
作品を描くにあたって、“妄想”はどういう風な役割なんでしょう?
奈良:ほとんど妄想ですね。
宮藤:最初は?
奈良:最初は、というか、描くときに線とか色をちょんと置いた時点で、そこからブワーっと広がるんですけど。ツタが生えていくみたいに。で、そのツタの先にいろんな妄想があって、「これもできる」「あれもできる」と、全部がそれぞれの結末に向かって広がっていくのね。それを「これ違う!」「あれ違う!」って切り落としながら、最後まで残ったやつを辿っていって描くというような。
宮藤:へえ~。
奈良:絵を描くのは、すごくそう。最後の方には残しておいた、伸ばしておいたのが幹が太くなってるからもう簡単に結論まで持っていけるんだけど、それまでは余分な小枝を切っていくような作業の方が多くて。そういう余分な、小さな妄想がいっぱい。
宮藤。へえ~。いやあ、絵もそうなんですね。最初に思い描いた通りになりますか?
奈良:なんない。なんない方がいいものができるし。不思議なもので。
宮藤:ああ、やっぱりそうなんだ。へえ~。僕もならないときの方が多いんですよね。で、ならないときの方がとんでもないものができるなあと思うことがあって。映画の中でも、最終的に体が柔らかくなったのがああいう風に活かされたじゃないですか。
奈良:マトリックスみたいなね。
宮藤:そう、“CG無しのマトリックス!”っていう。「あのシーンは最初に考えたんですか?」って 訊かれたんですよ。で、そうじゃないんですよ、実は。本当にチンコ舐めようとしてるっていうだけで脚本を書き続けてて、いつかその設定が何かの役に立つは ずだって、僕も思いながら書いてて。それで、この話どうやって終わらせようかなあって考えたときに、”グニャグニャ戦えばいいんだ!”って。
客席:(笑)
宮藤:ラストシーンを書いたときに出てきたんですよ、あのマトリックス風のも。
―じゃあ宮藤監督すら予想のつかない展開だったんですね。
宮藤:そうですね。だから僕も、円山と同じ気持ちだったんですよね。「なんで俺はこんなにチンコが舐めたいんだろう?」、何かこれ活かされるんじゃないか、活かされるのかな、と思って。で、ラストシーンを途中で思いついたんですけど、「じゃあもうそこに向かってい けばいいんだ!」って。途中で気が付くことってありますよね?
奈良:うん、そういうときって途中でパッと気が付くんだよね。すべてが急に一つに繋がるみたいな。僕はそういうことがよくある。
宮藤:そうですね。いやあ僕も、最初に思いつくべきことが意外と最初には思い付いてなかったり、ありますし。
―非常に面白いお話ですね。創作の原点というか。
宮藤:でも絵の方が、言葉で説明できない分だけ難しくないですか?
奈良:いや、言葉で説明できない分、僕は逆に楽で。だから「どんな絵を描いてるの?」と訊かれると言葉に詰まっちゃう。「こういう意味があるんですか?」とか言われても、もうだめで。それができないから絵にしてるような感じがあって。
宮藤:へえ、なるほど。深読みをされる方は多いですよね、きっと。絵だと。
奈良:うん、めっちゃいっぱいいると思う。
―それでは、宮藤監督と奈良さんから一言ずつご挨拶をお願いします。
奈良:えーと、今日みたいなのは僕は本当は得意じゃなくて、いつも暗くして、スライドや画像を見せて、解説しながらやるんだけど、こういう風にライトが当たってるのは『六魂祭』以来なのでちょっと緊張したけど、なるたけ客席じゃない方を見て、ちょっと緊張したら(司会の)上田さんを見て…今もう何言ってるか分からないけど(笑)。
客席:(笑)
奈良:とにかく、ありがとうございました。うまく話せたかどうか分からないけど。
客席:(拍手)
―本当に面白かったです。ありがとうございました。それでは宮藤監督から。
宮藤:えー、まず本当に、観て頂いてありがとうございました。まあこういう映画なので…人に薦めるのは難しいと思いますが。どうにか次回作は、ね。内容をあんまり「チンコ」とかいう単語を使わないで説明できる映画を撮りたいなと。今度こそ。
客席:(笑)
宮藤:ありがとうございました。
客席:(拍手)