Photo:Satoru Tada(ROOSTER) | Interview & Text:Kaijiro Masuda | Edit:Atsushi Hasebe
— まず、お2人の出会いから教えていただけますか?
三原康裕(以下、三原):最初は三軒茶屋の居酒屋かな。アートディレクターで、デザイン会社・Nigrecの代表でもあるnescoさんたちと秋元さんが飲んでいて、そこに僕が乱入して出会ったという。
秋元信宏(以下、秋元):そうだったね。その時に帽子を作りたいって聞いて、トントン拍子で話が進んで、コラボレーションに至りました。2015年からだから、もう10シーズンも続いています。
— 三原さんはCA4LAさんとコラボレーションするまでは、どうやって帽子を作っていたんですか?
三原:自分たちで試行錯誤して作ってきたんですが、なにか本物感に欠けるような気がしていたんですね。いろいろ試してみたけど、餅は餅屋だなと。CA4LAはもともと面白い会社だと思っていて、虎がついているハットとか、「えっ!?」て思うようなものが商品化されたりしていて。
秋元:動物をモチーフにしたシリーズですね。
三原:そう。日本語が間違っているかもしれないけど、支離滅裂な感じが良かった(笑)。やりたい放題やっているんだけど、帽子の基本がしっかりしているから、俯瞰して見るとまとまっている。僕はBorsalino(ボルサリーノ)のハットが好きで、なかでもお気に入りだったヴィンテージのハットのツバのカーブを再現しようと何度もチャレンジしたけど、これまでの生産背景だとできなかった。Borsalinoのイタリアの工房に足を運んだこともありましたが、その技術はもう今ではできないと言われた。で、秋元さんに相談したら、上から目線で「そんなの普通ですよ」みたいな。
秋元:そこまで言ってないけど、やれないことはないと思いました。
三原:でも、最初はBorsalinoに負けない正統派のハットを作ろうと思っていたのに、色々サンプルを見させてもらっているうちにアイデアがどんどん湧いてきちゃって、結局クラシックなのは作らなかった(笑)。最初はどういうのを作ったんだっけ?
秋元:生地をパッチワークしたやつかな。その次に作ったのが、三原さんのシグネチャーの炙り出しのやつ。コラボレーションハット専用にベルトを作ってもらって、CA4LAファクトリーで型入れと炙り出ししました。
三原:あぁ、懐かしいね。この歳になるとすぐ忘れちゃうから(笑)。
— レザーはやらなかったんですか?
三原:やったけど上手くいかなかった。靴とはちょっと勝手が違うというか、カビカビになっちゃった。
秋元:市場に出せなかったサンプルも山ほどあります。でも、そうした失敗作にこそ、次の新しいヒントが隠されていたりもするんです。
— 秋元さんは、三原さんのクリエイションについてどう思っていましたか?
秋元:クリエイターとしてすごく尊敬していました。だからお話をいただいた時は、二つ返事でお受けしました。いざ、協業を始めたらメチャクチャなことばかり言ってきますが(笑)、帽子屋の想像を超えたアイデアを貰えるから、僕も楽しんで仕事をしている。彼のアイデアに応えることで、ファクトリーが成長したという部分もあると思います。
— おぉー!
秋元:ちょっと褒めすぎた(笑)。でも、少なからずそういう効果もあると思います。ファクトリーのスタッフにとっても、三原さんの帽子を作ることはモチベーションアップに繋がる。パリコレのランウェイで、自分の作った帽子が歩くのは、職人冥利に尽きます。
三原:そんなこと言われたら、プレッシャーで眠れなくなっちゃうよ(笑)。
— 2020年春夏シーズンのコラボレーション商品の特徴を教えてください。
三原:僕らのブランドの使命は、お客様に求められるものを作るのではなく、魅了するものを作ること。普通のものであってはならないとスタッフには事あるごとに言っているし、自身も心がけている。僕は”エポックメイキング”という言葉を信じていて、それなりの影響力のある商品を作っていきたいと常々思っている。難しい物の見方ではなく、分かりやすいのに誰も考えたことのないもの。このダブルキャップは、バケットハットとベースボールキャップが重なった形を、そのままひとつの形にしている。簡単なように見えて、かなり計算して作っています。
— たしかに被ってみると違和感ないです。
三原:2つのものがひとつになる違和感を、新鮮に思うか変に思うか。カッコいいかカッコ悪いかは二の次で、アイデアをそのまま形にする力を持っているかが重要です。リアリティをそのまま表現することでファンタジーになっていく感覚。そこに重きを置いている。ちょっとここをデフォルメしてみようとか、そういう気持ちを抑えつつ、そのまま表現することを心がけています。これでクオリティが低いと駄作になってしまうので、そこはCA4LAさんのおかげですね。
秋元:生産は本当に大変でしたけどね。生産担当者はホント苦労してます(笑)。しかし、一見では突拍子もないアイデアの中に細かいクリエイションが入っているので、それがこのコラボレーションの面白さなのかな、と。
三原:僕は縫製のキャップがあまり好きじゃなかったんですよ。今回は縫製モノの可能性を広げたいという気持ちもありました。
— 今しがた気付いたのですが、このダブルキャップって、1月のパリコレで発表した2020年秋冬コレクションの商品ですよね(笑)。今、店頭に並んでいる2020年春夏コレクションのお話をお願いします。
三原:あっ、ごめん(笑)。歳をとると時差ボケがキツくてね、とくに3、4日目が。
— 分かります(笑)。この”正ちゃん帽”みたいなロールキャップは、ありそうでなかった感じですね。
三原:『LEON』を見て閃いたんですよ。
秋元:(笑)。
三原:雑誌じゃなくて映画の、Jean Reno(ジャン・レノ)が出てる。久しぶりに見たら、なんかいいなと。ヨーロッパにいた時に、ニットキャップを被っているおじさんがいて、新鮮に見えたんです。でも、まんまは作りたくなくて。
秋元:「こういうロールタイプがありますよ」と三原さんに提案したら、えらく気に入ってくれました。うちでもじわじわと人気が高まっていた形なので。
三原:で、横流しですよ(笑)。というのは嘘で、後ろにバンドを付けたり、色をいろいろ考えたり、細部を突き詰めています。
秋元:ちゃんと三原さんらしい仕上がりになっています。
三原:2020年春夏コレクションの人物像は”ダメな人”にしたかったんです。普段はあまりコレクションの人物像を決めないんですが、今回はナードで何かに特化して偏ったような人物を描きたかった。このロールキャップは、そういう雰囲気を作るのに役立ちましたね。
— もうひとつのベースボールキャップを重ねたダブルキャップは、三原さんならではのハイブリッド魂が炸裂していますね。
三原:これには子どもの頃の思い出が詰まっているんです。1983年頃にブレイクダンスや、SANTA CRUZ(サンタクルーズ)とかのサーフ寄り、THRASHER(スラッシャー)寄りの流れで、キャップを横にズラして被るのが流行しました。それまでは阪神タイガースや広島カープの野球帽だったキャップの意味が変わったんです。無地のアメリカ製のキャップを被ったらすごく新鮮で、同じ形なのに全く違って見えた。このキャップは、その頃の空気を投影した感じです。僕は子どもの頃の思い出にすがりついているので(笑)。
秋元:それを2つ重ねるというのは、一筋縄ではない三原さんならではのアイデアだと思いました。
— ツバがすごく短いですね。
三原:最初のサンプルは長く作ったんですが、なんかドナルドダックみたいでピンとこなかったんです。ツバよりはスポンジが入っている箇所をしっかり見せたいと思ったので、じゃあ短いほうがいいなと。ブランドロゴも下に消えていく感じで。
秋元:簡単に見えて、作る方は大変でした(笑)。すごく存在感があるので、シンプルな着こなしでも洒落て見えます。
— 2020年秋冬コレクションでは正統派のハットも作っていますね。
三原:ハットは魔法のアイテムだと思うんです。ジョニー・デップが被るとワイルドでお酒の匂いがする雰囲気になるし、ヨーロッパの上流階級の人が被ると正統派な雰囲気になる。記号的でもあるけど、ちょっと変わった魔法があって、堅くも見せられるけどヌケ感も演出できるんです。僕のクリエイションは曖昧さが重要で、ストリートっぽくもありトラッドっぽくもありエレガントな部分もある。ハットって曖昧な人間像を作るのに都合がいいんです。僕は分かりやすい人間像を作るのが好きではないので。
秋元:ハットがコレクションに1本の筋を通している部分もありますよね。
三原:うん。だから今シーズンは久しぶりにハットを多用しました。僕は”末端系”が好きなんです。端っこに命をかけている感じが好き。帽子や手袋を”小物”って表現するのが嫌いで、末端系という言葉を定着させたいくらい。秋元さんは末端系の星ですよ(笑)。
秋元:嬉しい言葉です。今後も末長く三原さんと一緒に面白い帽子を作り続けたいですね。
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