Photo:Dai Yamamoto | Text:Kaijiro Masuda | Edit:Atsushi Hasebe
新幹線の新大阪駅で降りて、JR神戸線に乗り換えること約30分。いかにも工業地帯の風情を残す線路沿いに、工場というにはいささか洒落た無機質な建物が見えてきた。
CA4LAのデザインと生産の一部を担うCA4LAファクトリーだ。デザインラボ、木型を収納するコンテナ、出荷場を含めた工場の総面積は3300平方メートル。
デザイン、生産、出荷のすべての工程を、この場で一貫して行うことができるという。
「国内の委託工場への発注数を減らさずに、普通の工場ではできないことをやろうと 思ったのが自社工場を作ったキッカケ。3K的なイメージを払拭したかったので、とにかく”カッコいい工場”を作ろうと思いました」
そう話すのは、CA4LAのクリエイティブディレクターの秋元信宏。工場というよりはデザイン工房という趣の内部は、アパレルの生産工場のイメージを覆すスタイリッシュな空間が広がっている。
超ベテランから売り場からトラバーユしてきた若手まで15人の職人を抱えていて、月産は約3000~4000個。通常の帽子工場は、ボウタイならボウタイ、ベレーならベレーと専業がほとんどだが、この工場では帽子作りのほとんど全ての工程を工場内でこなすことができる。
工場に入るや否や、サングラス越しにハリスの目の輝きが増したのが分かった。
島精機の自動編み機でニットが自動的に編まれる様を飽きることなく観察したり、ベレー帽の成形を担当する職人に熱心に質問を投げかけたり、タイダイ染めの工程を自ら体験してみたり……。まるでディズニーランドでアトラクションに熱狂する子供のように、帽子作りの過程を楽しみながら学んでいた。
「どの工程も印象的だったけれど、ハットの成形は特に熟練した腕が必要なのが分かった。ベレー帽はシンプルな形だから簡単に作れると思っていたけれど、工程は想像以上に複雑だった。こういう風に作るというのが分かったから、次にデザインする時に今回の経験を活かしたいな。本当にいい勉強になったよ」
2019年秋冬シーズンのコラボレーションは、モロッコのフェズハットのディテールを落とし込んだベレー帽、タイダイ染めのベレー帽、1990年代のフーリガンを連想させるワークキャップの3型。それぞれに込めた思いは?
「モロッコへ旅した時に、現地の人が被っているフェズハットの美しさに心惹かれたんだ。それで”フェズハットに付いているタッセルをベレー帽に付けてみたらどうだろう?”っていうアイデアが生まれた。タッセルはモロッコの友人に頼んで現地の市場で買ってきてもらったものだから、風になびく度にマラケシュの薫りがするかもしれないね(笑)。タイダイ染めは、ひとつひとつ違う染まり具合になってしまうけれど、それが逆に面白いと思った。スウェーデンのミリタリーキャップからインスパイアされたワークキャップは、テクニカルな合繊素材がポイント。1990年代のロンドンを連想させる雰囲気で、とても気に入っているよ」
ハリスはまるで自分の肌の一部のように帽子を被りこなす。ベレー帽は特に。格好良く被るコツはあるのだろうか?
「僕のベレーのスタイルは、左側に落とす被り方。でも、これは僕のルールなので、あまり難しく考えずに、自分なりの被り方を楽しんでほしいな。昔のコラボレーションでも提案したけれど、ピンを挿したりするのもありだと思うよ」
ハリスがプロデュースし、2014年にロンドンのサマーセットハウスで公開され、大きな反響を得た『RETURN OF THE RUDEBO展』。日本での巡回展も好評だった同展の第2弾の予定はないのだろうか?
「最近、いろいろな人に聞かれるんだけど、次は違うアイデアでやりたいと思っている。今もっとも注目しているのは、1970年代後半から1980年代前半の北ロンドンで盛り上がったダンシングチームのカルチャー”So Boys”。当時踊っていた人たちが、今もまだ踊っているんだよ! すごく興味深いスタイルなので、いつか形にしたいと思っている」
注目しているファッションデザイナーは?
「Helen Kirkum(ヘレン・カーカム)はいいね。彼女はスニーカーをリサイクルして、新しいものに作り変えている。違うブランドをミックスしたりしてね。日本勢ではdoublet(ダブレット)かな。ユーモアのセンスが面白いし、シリアスになりそうなものをうまく崩すのが上手いよね。あと、僕の新しいブランドも話していい? ”ゲンマイチャ”っていうブランドなんだけど(笑)。アフリカでカラフルな米袋を見つけて何かできないかと思って、リサイクルのバッグを作ってみることにしたんだ。グラフィックが面白いし、ひとつとして同じ組み合わせがないんだよ」
最後にCA4LAの魅力について聞いた。
「2000年代のはじめに、東京コレクションのスタイリングの仕事で初めて日本に来て以来、CA4LAには来日する度に寄っていたんだ。意外に思うかもしれないけれど、ロンドンには帽子専門店ってほとんどないんだ。あと、髪がドレッドでボリュームがあるから帽子探しに苦労していたんだけど、CA4LAはピッタリだった。帽子屋さんってクラシックなスタイルを守るところが多いけど、CA4LAは常に新しいものを作り続けている。そこが世界的に見てもユニークだし、すごいところだと思う。これからもずっとコラボレーションを続けていきたいと思っている。生産の現場に触れてその思いを強くしたよ」
【商品のお問い合わせ先】
CA4LA SHOWROOM TEL:03-5775-3433
https://www.ca4la.com/special/harris_elliott/