90年代に僕らを魅了して止まなかったロンドンのストリートが、今再び面白い。Palace Skateboardsをはじめとした新世代の台頭が、ストリートシーン全体を活気づけ、2000年代以降にオープンしたユニークなショップ達がそのムードを後押し。近年、そんな昨今のロンドンストリートシーンにいち早く注目し、僕らにその魅力を伝えてくれているのが、当サイトでもお馴染みのBEAMS Tである。
前後編、2回に分けてお届けする本特集では、先日THE GOODHOOD STOREにて開催された人気イラストレーター、長場雄のアートショーの為に渡英したBEAMS Tチームに同行し、日本でも話題を呼んだ同アートショーの模様をお届けすると共に、BEAMS Tの周囲を賑わす、現在のロンドンストリートシーンのキーマン達への取材を敢行。
前編となる今回、まずは、THE GOODHOOD STOREでのアートショー終了後に行った、長場雄とBEAMS Tのディレクターである桑原健太郎による対談からお届けしていこう。
Photo:Takanori Okuwaki、Text&Edit:Keita Miki
過去を引きずるのでは無く、新しいものを作っていかなきゃなと思って。(長場雄)
— 日本の街中やメディアでは長場さんのイラストが大分浸透してきたと思うのですが、意外にどんな人なのかってことは知られていないんですよね。絵を描き始めたのは、いつ頃からですか?
長場:子供の頃からずっと描いていますけど、それを仕事にし始めたのは大学卒業後のことですね。Tシャツを作る会社でアルバイトとして描いたのが最初です。そこから段々と仕事になり始めて、7、8年前にフリーになりました。
— 学生の頃から、将来的には絵を仕事にしようと思っていたのでしょうか?
長場:ぼんやりとではありますけど。美大のデザイン科に通っていたんですが、周囲から「広告代理店や制作会社に就職すると滅茶苦茶忙しいらしい」って話は良く聞いていたので、それはちょっと嫌だなと思って。けど、なんとなく絵で飯は食いたいと思っていて、正直それ以外のことはあまり考えてなかったですね。
— 今の作風になってからはどれくらいが経ちましたか?
長場:今の作風になったのは丁度2年くらい前のことですね。2014年の1月に中野で個展をやった時に、この作風のものを初めて発表しました。それまでは「ドラキュラ」とか「かえる先生」とか色々なキャラクターを描いていたんですけど、続けているうちに、自分の趣味と、実際に描いている作品が解離していってしまって。このままじゃダメだなと思って、試行錯誤した結果、今の作風に落ち着いた感じです。
— 最初に発表した時に手応えを感じた?
長場:そうですね、ある程度手応えがあったので、もっと描こうと思ったんです。
— Instagramに作品をアップし始めたのはその後のことですか?
長場:個展の半年後、「POPEYE」の表紙をやらせてもらった後からですかね。昔から「POPEYE」がすごく好きだったので、言うならばそこで1つ大きな目標をクリアしちゃったんですよね。それで浮かれて、何もやらなくなってしまうのが怖かったので、毎日1枚絵を描いて、Instagramにアップしていこうと思ったんです。過去を引きずるのでは無く、新しいものを作っていかなきゃなと思って。
— Instagramでアップされている絵に関しては、例えばジョン・レノンとかBeastie Boysとか、世界的な有名人をモチーフにすることも多いですよね。
長場:みんなが知っている人とかモノを題材にしようと思ったんですよね。最初はモナリザの絵画やアンディ・ウォーホルから描きはじめたんですけど、そういう有名な人とかモノって、見る人にもそれぞれ思い出があるから面白いなと思って。
— そもそも長場さんと桑原さんはいつ頃からのお知り合いなんですか?
桑原:もう10年以上前の事ですけど、先輩に紹介してもらったのがきっかけですね。初めて会った時は”MEGANE ZINE”っていう若手アーティストクルーの1人だったんですけど、今考えてみると、なかなかすごいクルーでしたよね? 花井祐介、JUN OSON、大西真平、Jesse LeDouxとか、今をときめく人たちが所属していたんです。
長場:そうですね。みんな活躍してますね。
— ということは桑原さんは長場さんの今までの作品はほとんど見て来ているということになりますよね?
桑原:そうですね、今の作風になる前のモノも個人的には売れるんじゃないかなと思ってたんですけどね。結果、そこまで売れなかったですけど(笑)。一緒に仕事をした期間としては「かえる先生」時代が一番長かったですよね? サイフとかTシャツとか一緒に作って。かえる先生はもう復活しないんですか?
長場:今のところは無いかな。あれ以上、自分の中でカエル先生を発展させることが出来なくなってしまったので、封印してます。
桑原:たしかに、カエル先生としてやり遂げた感はありますね。
長場:そうそう、結構頑張ったよね(笑)?
桑原:頑張ったと思います(笑)。でも、今でもInstagramのアカウント名は「@kaerusensei」ですよね?
長場:あれは始めた時のアカウント名がかえる先生で、名前を変更するとフォロワーが全部消えちゃうから仕方なく……。まぁ、ニックネームでもあり、ちょっとお守り的な感じでもあるかな。
— 長い付き合いのある桑原さんから見て、長場さんはどんな人なんですか?
桑原:売れても売れなくても変わらないし、忙しくなっても変わらないですね。ずっと腰が低いままで、年上とは思えない部分もあったり。永遠の一年生って感じがします(笑)。あと、色々なアーティストの人にお会いしますけど、長場さんはとびきりオシャレだと思います。
長場:そこは少し気を遣ってます……(笑)。
— 長場さんの好きなものは何歳ぐらいの時に形成されたものなんですか? 何か特別影響を受けたアーティストやカルチャーがあれば教えてください。
長場:高校生から20代前半に見たものに一番影響を受けているように思いますね。今はそれをもう一度紐解いて、やり直している感じです。そこは多分これからも変わらない部分なのかもしれませんね。
桑原:昔はスケーターでしたもんね?
長場:スケボーは30代ではじめたんだけどね(笑)。
— 出身ってどちらですか?
長場:東京ですね。田園調布です。
桑原:すごくないですか? 田園調布生まれってなかなかいないですよね。幼稚園、誰と一緒だったんですっけ?
長場:鳩山由紀夫の息子。
一同笑
長場:小学校の時に一時期、トルコに住んでいたんですけど、そこで油絵のアーティストに出会って、絵の勉強をしたんです。日本に帰って来てからも描いてたんですけど、段々忙しくなってきて、描かなくなってしまって。だから中学、高校は人生で一番絵から離れていた時期ですね。で、進路をどうするかって考えた時に「美大に行こう」と思って、また絵に戻ってきました。