「95年」から「永遠」へ。
今明かされる制作秘話と、20周年を祝した新たな『AIR MAX 95』。

by Mastered編集部

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『ナイキ エア マックス 95』の生みの親、セルジオ・ロザーノにインタビュー

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エア マックス 95は計算づくで生まれたシューズでは無く、色々なアイディアが偶然重なって生まれてきたものです。だからこそ面白いのだと思います。

— エア マックス 95の制作に関わった経緯について教えてください。

ロザーノ:私は1990年にナイキに入社したのですが、その頃、社内にフットウェアデザイナーは数人しかいませんでした。全員が複数のカテゴリーを担当しており、それは別段、珍しいことではありませんでした。ナイキに入って4年程、テニス、トレーニングとACGを担当し、中でもテニスとACGに主に力を入れていました。そのときにランニングシューズのデザインをしないかと聞かれ、面白そうだったので「やります」と答えました。それが1994年頃のことですね。当時、ナイキの中でランニングは大事なカテゴリーでありながらも、バスケットボールと比べると幾分弱い立ち位置にありました。エア マックスも少なからず影響は生み出していましたが、現在のような大きな人気を博するところまでは至っていない状況でした。ランニングチームとしては少し新しい要素を混ぜたい、つまりはリスクを取りたいと望み、ある意味では私がそのリスクであったのではないかと今にしてみると思いますね。」

— エア マックス 95のプロジェクトに関しては、何か具体的な指示があってスタートしたのでしょうか?

ロザーノ:しっかりと文書として指示をもらったかどうかは覚えていませんが、開発担当、製品マーケティング、そしてランニングカテゴリーの代表と幾つか重要な話をしたことは覚えています。カテゴリーの代表はとても独創的な考えを持った人で、時に雄弁になることもある人物でした。個人的にはそれが彼の強みでもあると思っています。このプロダクトは、イノベーションチームが開発してきたビジブルエアを前足に使ったもので、製品を意外性に満ちたものにしたいというチームの希望から生まれました。そこで、私たちはシューズに保護性を求めるランナーにフォーカスして製品を作りたいと考えたのです。

— そこから、どのような過程を経てデザインを仕上げていったのですか?

ロザーノ:先ほどお話した通り、私はこのプロジェクトを引き継ぐ前にはACGカテゴリーで仕事をしていました。当時は、(ナイキ本社の)マイケル・ジョーダンビルの、窓から池が見えるところに自分の席があったんですが、その席である雨の日、池の向こう側の木を眺めていると、雨が地面を侵食していく姿が自然と頭の中に思い浮かんできたのです。その時、もし地中に完璧なプロダクトが埋もれていて、それがこういった雨の侵食で発掘されたとしたら面白いだろうなぁとも思いました。そうした想像から、グランドキャニオンの岩の壁に見られるような筋のあるシューズのスケッチを描きました。少しずつ重なっていく層が、年を経て模様を作り出す。ただ、そのスケッチは引き出しにしまっておくことにしました。というのも、その時に手掛けていたものとは何の繋がりも持たないスケッチだったからです。しかし、いずれきっと良いACGシューズになるだろうという直感みたいなものはありました。エア マックス 95のプロジェクトで、アイディアの話合いをしていた時、ほとんどのアイディアは伝統的なランニングシューズにしようとするもの、つまりはこれまでにナイキが使ったことのあるアイディアでした。そこで私はあの引き出しにしまったスケッチのことを思い出し、エア マックス 95の元となるアイディアにたどり着いたんです。このアイディアは全く新しいアプローチに繋がるのではないかと感じたんです。エア マックス 95は計算づくで生まれたシューズでは無く、色々なアイディアが偶然重なって生まれてきたものです。だからこそ面白いのだと思います。

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— 解剖学的な視点を活かすというインスピレーションはどの時点から頭の中にあったのでしょうか?

ロザーノ:他のプロジェクトに関わっていた時の話なんですが、ティンカー・ハットフィールドは常に「いいデザインだね、それで自分の伝えたいことは何?」と私に聞いてきました。彼が常に「どうして」と、理由を求めるので私も自然とその答えを考えるようになっていたんです。エア マックス 95に関して言えば、シューズから自分の思考過程を伝えたいというのがその答えだったのですが、当時、会社の図書館に何冊か解剖学に関する本があり、まだインターネットも無い時代だったので、本から人間の足の構造について調べ始めました。体の様々な部分の作りがナイキ製品の作りに多くの点で興味深く繋がっていることが私は好きだったんです。つまり、私のやるべきことは、最も納得のできる繋がりを選んでいくことでした。その後は有機的にものづくりが進んでいきました。結果として最終的に出来上がったものは、私が最初に描いたビジョンとそれほど違うものではありませんでした。

— 描いたビジョンを現実にするために乗り越えなくてはいけない障害はありましたか?

ロザーノ:当時、私はナイキで働き始めてから4年しか経っていない新人だったので、ナイキの中でそれほど高い評価や信頼を得ていたわけではありませんでした。このシューズが実際に生産されるに至ったのは、自分のアイディアを支えてくれた人たちのお陰です。最初のコンセプト会議でもデザインを良いという人、嫌いだという人、賛否両論で、当然全てがうまく行ったというわけではありません。色1つをとっても大きな議論になりましたし、デザインに最終の承認がおりた後にも、もう少し違う色の表現を探るようにと言われたほどです。デザイン自体も決してランニングシューズらしいものではありませんでしたし、とても小さいスウッシュロゴを使うというアイディアもかなり問題になりました。もちろん、否定的な意見ばかりだった訳ではありませんが、自分のアイディアがすぐに認められるという状況でもありませんでした。端的に言えば、好みの分かれるデザインだったのです。ただ、そのように感情的な反応を得られる時、そこには何らかのつかみどころがあるということも事実でしょう。

— エア マックス 95のカラーリングは典型的なランニングシューズとは大きく異なりますが、どうして黒、グレー、ネオンというカラーを選んだのですか?

ロザーノ:シューズが泥やゴミで汚れるのを目立たなくするために、色をうまく使いたいと思ったんです。少しナイーブな考えかもしれませんが、単純な決断でした。私はランニングデザイナーでは無いので、あまり深く考えなかったんです。オレゴンでは雨の日も、トレイルでも走ります。すると5マイル(約8km)走っただけでもシューズがものすごく汚くなりますから、それをなるべく目立たないようにしたかったのです。誰の言葉かは覚えていませんが、当時グレーのランニングシューズは売れないと言われていました。だからこそ、私は挑戦したかったんです。グレーを魅力的な方法で、同時に機能的な目的で使おうと考えた。ネオンは今となっては新しくありませんし、当時もそこまで新しい色ではありませんでした。ただし、ナイキのレーシングにとって歴史的な意味合いを持つ色なんです。ナイキのクロスカントリー向けスパイクなどのレーシングシューズを見ると、ネオンは1995年以前から取り入れられています。

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— エア マックス 95はほとんどスウッシュが見えないという点でも話題になりましたが、スウッシュを小さくした理由は?

ロザーノ:そもそも、オリジナルのデザインにはスウッシュが無かったんです。デザインを見ればナイキのシューズだとすぐに分かるのだから、もう少し自信があるところを見せても良いんじゃないかと思いまして。ビジブルエアがあり、それが前足部にも使われていて、ナイキらしいものはたくさんデザインに詰め込まれているのだから、デザイン自体を引き立てたかった。スウッシュの配置場所を考えても、シューズの真ん中にはたくさんの重要なデザインがありますから、そこにはつけられません。中足部の立体的な形やウエッビングはシューズの決定的特徴なので、そこには妥協したくなかったんです。なので、最終的にスウッシュはアクセントとして使うことにしました。もちろん、大きな議論にはなりましたが。

— エアソール周辺のデザインについては、イノベーションとデザイナーはそれぞれどんな関係にあったのでしょうか?

ロザーノ:私がプロジェクトに入った時には、エアソールはすでに開発中で、ほとんどの機能や生産に関する作業には見通しがついていました。だから、私は担当者からもらったものを元にしてデザインをしたのです。私の仕事はソール部分のサポート性を損なうことなく、どこまでエアを見えやすくすることができるかを判断することでした。その次は、できるだけ重さを削ぎ落とす作業。当時は現在使っている(フォーム素材の)ファイロンよりももっと重たいポリウレタンを使用していたからです。最後のステップは、立体的に成形したアッパーとミッドソール・アウトソールがうまく連動することを確認することでした。

— エア マックス 95はスエードのパネルも特徴の1つですが、メッシュの使用に関してなにか面白い話はありますか?

ロザーノ:研究室のメンバーと話をしている時に、足で一番汗をかくのは甲の部分だと聞きました。そこで、シューレースとシュータンの部分の通気性を確保することにしたんです。

— エア マックス 95は新しいエア マックスロゴを使用したことでも知られています。このロゴはあなたのデザインですか?

ロザーノ:いいえ、私はロゴのデザインはしていません。ブランドデザインチームが作りました。あのロゴはエア マックス 95だけのためのものでもなく、トレーニングやバスケットボールシューズにも使用される予定でしたからね。

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