一見煌びやかに見えて、完璧な人ばかりがいるように思えるファッションウィークだからこそ、写真を通してその人の内面のリアルな部分を覗けたら面白いと思うんだ。
「率直に言って、写真にモットーは無い」と自身のサイト「This is not a tie」を開くなり書いてあるのを見て、一体どんな気難しい人なのだろうかと思ったものの、実際にコンタクトを取ったところ快くインタビューに応じてくれたFrançois Guillaume。フランスで編集者として働く傍ら、青春時代の夢だった写真を再びはじめたという彼が撮った写真からは、ストリートを歩く人々の内奥がモノクロの陰影を通じて伝わってくる。
— どういった経緯で自身のウェブサイトを立ち上げたのですか?
François Guillaume(以下、François):十代の頃は読書に夢中だったんだ。中でもドストエフスキーの『罪と罰』の主人公のラスコーリニコフという、スタイリッシュなスーツを着ることが自分のみっともなさや周りからの疎外感から逃れる唯一の手段、といったタイプのキャラクターに一番影響を受けたんだ。“This is not a tie”では、ストリートというオープンな空間で、控えめな態度だけど主張のある格好をしたり、街に埋もれがちではあるけどエレガントな格好をしようとした人を取り上げて見せていこうと思っているんだ。
— なぜストリートで写真を撮り始めたんですか?
François:初めてカメラを手にしたのは、17歳の時に父親から貰ったFujicaのAX-1だった。当時は夏休みにフランス中をヒッチハイクしながら、十代によくある「どこか他の場所に行ってしまいたい」なんてことを考えた写真を撮っていたよ。二十代に入ってからはお金もなくて写真を撮るのをピタッとやめていたんだけど、その後新たな活動として、日常の光景の下手くそな写真を撮り続ける若い男を主人公にした小説を書いたんだ。その執筆活動を機にまた写真に興味を持ち始めて、ある程度働いてお金もあったから、昔の夢を再び追ってみようと思ってまた写真を撮り始めたんだ。
— 自身のサイトを通して何を表現したいと思っていますか?
François:孤独と不屈の精神。うん、変だよね(笑)。でもそれが最初に思いついたことなんだ。それってみんなが共通して持っているもののはずなんだけど、でもそれを目にすることはできないから、切り取ってみたら面白いんじゃないかなと思ったんだ。たとえ煌びやかに見えて、完璧な人ばかりがいるように見えるファッションウィークだったら尚更ね。
— 写真を撮ろう!と思わず手が動いてしまうような被写体ってどんな人ですか?
François:きっと自分の内面を表に見せている人に惹かれていると思う。単純に内面を明け透けに曝け出す人なのか、抑えようとしても出てしまう人なのか、はたまた周りにどう思われようが気にもしない人なのか、いろいろな人がいるけどね。ストリートという公共の場では素の自分は出さないようにした方がいいのかもしれない、というのはフランス人的な考え方なのかもしれないけど・・・。でもだからこそ、その人の内面を感じるファッションに魅力を感じるんだ。
— フォトグラファーから見て、どんなファッションが面白いと思いますか?
François:控えめで、身軽で着心地がいい、というのがまず最初に重要なポイントになる。オーセンティックなワークウェアをイメージした、フォークロアとエレガンスをミックスしたリラックス感のあるスタイルが今の自分の気分だね。例えばChristophe Lemaire、Stephan Schneider、Assembly New-York、Enginereed Garmentsが面白いよね。
— 「ストリート」という言葉の定義は人それぞれだと思うのですが、あなたにとって「ストリート」とはどんなものですか?
François:子供のころ、学校が終わると母親の店の前の通りでよく遊んでいたんだ。今でもその頃の臭いを覚えているよ。土煙と花と犬のおしっことガムが混ざった臭いを。でもそこが自分の遊び場だったんだ。何時間も人間観察をしたり、本当に飽きない場所さ。今はフランスで編集者として働いているからずっと室内で仕事してばかりだけど、カメラを片手にストリートに出ると子供の頃の遊び場にまた戻ってきたような気がして本当にワクワクする。僕にとってのストリートはそんな場所かな。
All photos on this page credit to “This is not a tie”.
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