2013年秋のブランド大特集 VOL.05:[CHRISTIAN DADA]

by Mastered編集部

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—Masteredで[CHRISTIAN DADA]を大きく取り上げるのは今回が初めてなので、色々な媒体のインタビューでお話ししていることかとは思いますが、森川さんが洋服作りを始めた経緯について教えて頂いてもよろしいですか?

森川:中学生ぐらいの時までは、別に洋服の学校に行こうなんて思っていなくて、デザイナーになろうなんて全く考えていませんでしたね。ただ僕の実家が刺繍屋で、祖父と一緒に住んでいたんですが、祖父はなんとなく自分の後を僕に継がせたいと思っていたようで、刺繍の手伝いをすることはありました。そういう意味では家業がルーツになっているのかもしれないですけど、洋服はあくまで選択肢の1つとしか考えて無かったですね。一般的な夢は色々ありましたよ(笑)。

—将来的に洋服で食っていこうと思い始めたのは、大体いつ頃なんですか?

森川:高校の時ですね。着る方ではあるんですけど、姉の影響もあって、ファッションは好きだったんですよ。その頃はいわゆる”裏原系”のブランドのモノを買っていて、将来的にもそういうジャンルの洋服をやりたいなと思ってました。

—リアルクローズの洋服をやりたかったっていうのは意外ですね。「洋服をやりたい」っていうのは、デザイナーになりたいと思ったということでしょうか?

森川:いや全然。なんとなく洋服に関すること、俗に言う「アパレルにいきたい」とかそのくらいのレベルでした。「プレスって何?」、「パターンって何?」とかそんな状態だったから、とりあえず専門学校に行ってみようと思って。専門ではマーチャンダイザー科に入ったんです。だから、そこでもまだ作る方では無いんですよ。まぁ、作るには作るんだけど、1年に4、5着って感じの学科で。マーチャンダイザー科だから基本的には販売員になる人が多いんですけど、僕は就職活動をせずにそのまま東京に行って。それで東京に来て一番最初に受けた会社で、「君は販売は無理だけど、企画なら面白そう」って言われて、企画で採用されたのが作る側に回るきっかけですね。

—じゃあ、本格的に洋服作りを学ぶようになったのは、実際に働き始めてからなんですね。

森川:そうですね。でも、その会社でも自分で1から洋服を作ることは無かったです。そういう意味で言えば、本当に洋服作りを始めたのはロンドンに行って、[Charles Anastase(シャルル アナスタス)]のもとで働くようになってからです。

—では、自分でブランドをやりたいと思い始めたのもシャルルのもとで働くようになってからですか?

森川:その時にようやくって感じですね。それ以前に語学留学もしていたんですが、どうせなら働きたいなという想いもあって、渡英することを決めて。自分が当時イラストを描いていたこともあり、イラストの勉強も兼ねて、シャルルのもとでアシスタントとして働き始めました。ファッションの面に関しても、彼の洋服は絵本がインスピレーションになっていたりとか、ファンタジーの要素が強くて、今まで自分が携わってきた企業的なものとは全然違ったんですよね。だから、ファッションに関する色々な情報や知識が一気に入ってきたのはこの時期で、時間もあったからファッションの勉強もたくさんしました。あの時ロンドンに行っていなかったら、今の僕は無かったかもしれないですね。

—ロンドンに行っていなかったら、もっとリアルクローズ寄りの洋服を作っていた可能性もある?

森川:そうですね。実際、一番最初に友人と始めたブランドは、かなりリアルクローズ寄りのものだったし、その中では[CHRISTIAN DADA]のようなファンタジー要素の強い洋服を作ることを許されていなかったので、ロンドンに行かなければ自然とそういう流れになっていたのかもしれません。

—自分のブランドをスタートさせてみて、何が一番大きく変わりましたか?

森川:一番は決定権が全て自分にあるってことじゃないですかね。例えば今シーズンのコレクションは全部で100体出来ましたって言っても、普通は経営サイドから「これはいらないでしょ」って精査が入るけど、自分のブランドの場合は基本的にはそれが無い。その代り、責任も全て自分にありますけどね。

—日本でブランドをはじめるとなると、必然的にオーナーデザイナーになることが多いと思いますが、そこに対してこだわりはありますか? 例えば将来的にはフリーのデザイナーになって、大きなブランドのリブランドに携わることに興味があったりもするのでしょうか?

森川:オーナーデザイナーにこだわりはないです。むしろ古いかなとも思います。リブランドに関してもやりたいですし。今一番やりたいことだし、今後の目標でもあります。

—とすると、自分のブランドでデザインを行うことに強いこだわりは無い?

森川:もちろん自分のブランドでデザインを継続していくのが大前提です。けど、リブランドにも興味があるって感じですかね。自分でブランドをやっていると、「作りたいけど、作れない」ってものが意外に多いことに気付くんです。生産背景や、予算的な意味も含めて。それを実現出来る資金と大きな工場を持っているのがメゾンじゃないですか。現時点でもすごくたくさんあるんですよ、やりたくても出来ない事。洋服だけじゃなく、ショーの演出1つとっても。そこがやっぱり個人でやっている会社のジレンマでもありますね。

—今東京で”モード”をやろうとしている若いデザイナーたちってたくさんいると思うんですが、一方ではいまいち東京コレクションが盛り上がらない現状もあって。でも、そんな中でも[CHRISTIAN DADA]の存在感は頭一つ抜け出していますよね。この間のSS(2014年春夏コレクション)ではKISSが出てきたりだとか、ああいうエンターテインメント的な部分も含めて、きちんと”モード”として完結している稀有な存在であると思います。

森川:たしかに、東京のショーはエンターテインメント性が弱いって印象はありますね。身内で盛り上がって、褒めあって、そこで終わりというか。そうじゃなく、ライブみたいなことがしたいんです。並んで待ってくれる分、楽しませたいというか。観客を並ばせて、待たせて、それで10分弱のしょうもないショーを見せるくらいなら、ゆっくり展示会をやっていた方が全然良いと個人的には思います。

—たった10分の為に、莫大なお金と時間を掛けるっていうパッとした部分もファッションならではの側面だったりしますしね。

森川:そうそう、その10分間の中でどこまで観客に伝えられるのかってところがショーの面白さだったりもして。今の東京のショーを見ていると、いくつかのブランドか除けばどうしてもその部分が薄いなと感じてしまうんです。資金的な意味も含めて。もちろんショー自体にエンターテインメント性が無くても、洋服にそれだけの説得力があるなら問題無いと思うんですけど、洋服もやっぱりパリなどに比べると内容は薄いですよね。

—将来的に海外でショーを行うことも視野に入れていますか?

森川:考えていますよ。ありがたいことに、実際に声を掛けて頂く機会も多いですし。リアルな話をすると、海外の方がモデル代が抜群に安かったりはするんですよね。あとは場所にしても海外はコレクションウィーク中、本当に色々な場所を開放しているし。日本だと現状、ヒカリエとか宮下公園がメインですけど、海外は街全体の協力があるし、教会を開放したりもします。そうやって色々なベニューを開放出来れば、新しいブランドももっとたくさん出てくるだろうし、今ショーをやっているブランドだって、規模を大きくしたり、洋服によりお金をかけることが出来るはずなんですけどね。

—個人的な感覚で言うと[CHRISTIAN DADA]は紛れも無く”モード”な存在なんですが、森川さん自身、自分のブランドをモードだと思っていますか?

森川:ひと口にモードと言っても定義は色々とあると思うんです。例えば、白シャツに黒い服。着る方の定義で言えば、これをモード系と解釈すると思うんですが、自分が考えるファッションにおけるモードっていうのは、ショーの演出もそうですが、ブランドの「姿勢」に現れるものだったりするんですよ。そういう意味では、黒い洋服だけでなく、柄物などの”ファンタジー”だってモードになり得る。洋服の括りだけではないモードな部分をこれからも拡大していきたいですね。僕自身ストリートを通ってきていますけど、ストリートウェアに流れていたらきっと今の立ち位置にはいないだろうし、常にストリートに対する対抗馬ではありたい。なので、僕自身、[CHRISTIAN DADA]はモードだと思っているし、思いたいですね。

—正直な話、[CHRISTIAN DADA]の洋服って万人受けするものでは無いと思うんですよ。でも、同時に森川さんは経営者でもある訳じゃないですか。経営者として、ビジネス的な観点で自分の洋服を見ることもありますか?

森川:もちろん。本当は考えたくないんですけどね。洋服作ってるだけで良い時代では無いし、そこも考えながらやってはいますよ。

—そういうビジネス的側面から見て、今後どのように[CHRISTIAN DADA]というブランドを展開していこうと考えていますか?

森川:うーん、今の[CHRISTIAN DADA]はやっぱり若い人たちに支持されている部分が大きいと思うんです。でも実際に直営店が出来て、30代のお客さんが購入してくれたりするところを見ると、ブランドのコアは崩さずに、年齢層の幅を広げる方向に行くのが良いのかなと。自分も今年で30になったし、自分の年齢でも着られるようなデザインにシフトしていく必要性を感じてはいます。例えば[SAINT LAURENT(サンローラン)]って、それが出来ているじゃないですか。エディ・スリマンの核は崩れていないけど、様々な年齢の人が身に着けている。そういう幅の広さが今後の課題なのかなとは思います。

—今直営店の話が出ましたが、今後店舗展開という意味では何か展望はありますか?

森川:まだオープンして間もないんですが、既存の店舗の面積の拡大や、都内以外に直営店舗を増やしたいという考えはありますよ。でも、まずは様子見ですかね。内装はシーズンによって少しづつ変えていきたいとは思ってますけど。

—[CHRISTIAN DADA]としては初の直営店になりますが、デザイナーとしての感想は?

森川:責任もあるし、不安もありますけど、お店が出来たことによって、今までとは違う洋服作りが出来るかなとは思っています。お客さんが今どういうモノを欲しているかって情報が直接入って来る訳で、ショップ連動ならではのモノ作りも今後増えてくるんじゃないでしょうか。

—Lady Gagaの影響もありますが、[CHRISTIAN DADA]は少し逆輸入的なイメージがありますよね。

森川:そこに関しては狙っていた部分も多少ありますね。実際海外のバイヤーの反応はすごく良いし、将来的に海外でショーをやりたいっていうのも、やっぱり日本だと僕らがどんなショーをしても、来るバイヤーは同じなので広がる要素がほとんど無いんですよ。だから、本当は直営店をオープンした後、海外でショーをやろうと思っていたんですけど、がらっとサイクルが変わるのでシーズンの移行がなかなか難しくて。まぁ、そんなに焦っても仕方が無いので、時間を掛けてじっくりやろうかなと。

—正直な話をすると、きちんと洋服を見せて頂く前は[CHRISTIAN DADA]に対して、色モノ的な見方をしている部分もありました。言い方は悪いんですが、今の東京にはモードという言葉を盾に、専門学生の延長みたいなことをやっているブランドってたくさんあるし、そういう人達ってすごく閉鎖的じゃないですか。

森川:「着れるもの、あるの?」みたいなね(笑)。結局はその「専門学生の延長」というイメージをどう脱却するかって部分だと思うんですよ。どのタイミングで、どう仕掛けるか。僕も元々アパレル業界に全然知り合いなんていなくて、はじめのころはバイヤー、スタイリスト、色々な人に「何この変なブランド」って思われたと思うんです。でも、自分の作っているモノをどんなに笑われても、1年後、2年後には笑っていた人たちを笑わせないようにしてやるって気持ちはあった。

—その言葉通り、[CHRISTIAN DADA]は見事に黙殺していた人たちを振り向かせましたよね。スタート3年目にしてはすごく順調だと思いますが、これは計画通り?

森川:いやいや、予想していたペースよりは遙かに早いというか…。本来はもう少しゆっくりやろうと思っていたので(笑)。たぶんリスクが怖くてやりたい事を出来てない人ってたくさんいると思うんですよ。でも、それじゃあ日本は廃れていく一方だし、そういう人達の何かのきっかけに自分がなれれば良いですよね。それが本来のモードの役割なんじゃないかなとも思いますし。

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