愛について考えさせられる「恋愛映画」。
『ラブ&ピース』
『ヒミズ』、『冷たい熱帯魚』などで知られる園子温監督が、題名の通り直球に愛を描いた。魂の集大成と自ら語るように、本作は監督が20代の頃から温めていた脚本を映画化したものだという。
かつてロックミュージシャンという夢を抱いていたものの現在はさえないサラリーマンとして働く、鈴木良一(長谷川博己)は、同僚の寺島裕子(麻生久美子)に、想いを寄せているが、気が小さく、まともに話す事もできない。そんなある日、1匹のミドリガメと出会ったことから、音楽とファンタジーと特撮で描かれる奇想天外な物語が始まる。
監督の代名詞とも言える、エロ、グロ、の描写が一切ないという点では、多くの人が観やすい作品ではないだろうか。それでもなお、万人受けする映画とは言えない、いい意味での園子温らしさが満載となっている。荒唐無稽なストーリーに振り回されながらも、きっと自然と涙が溢れ、心が温まる。クライマックスでは、RC サクセションの『スローバラード』がずっしりと心に染み渡るだろう。
『私の男』
愛にも、様々な形があり、それは必ずしも美しいわけではない。直木賞を受賞した桜庭一樹の同名小説が熊切監督によって映画化された本作でも、そんなどうしようもない、禁断の純愛が描かれている。
10歳で孤児となった少女・花(二階堂ふみ)を引き取ることになった遠縁の男・淳悟(浅野忠信)。孤独だったふたりは、北海道紋別の田舎町で寄り添うように暮らしていた。6年後。冬のオホーツク海、流水の上で殺人事件が起こる。暗い北の海から逃げるように出ていく彼らは、ふたりだけの濃厚な秘密を抱えていた…。
画面に広がる雪景色、流氷、廃れた街の映像美の中で描かれる、当人達にしか理解し得ない、偏った、歪んだ愛情の形。愛というコントロールできない利己的な感情を、二階堂ふみが10代とは思えない妖艶な演技で見事に表現している。その迫力は、観ていて、強い嫌悪感を抱く程に、いつの間にか引き込まれてしまうような好演だ。
暗く重い空気感が続き、ストーリーも過激な内容ではあるが、日本映画界に衝撃を与えたこの問題作は一見の価値がある。
『博士と彼女のセオリー』
徐々に体中の筋肉が衰える難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)のハンデを負いながらも理論物理学者の立場から宇宙の起源の解明に挑み、現代宇宙論に多大な影響を与えたスティーヴン・ホーキング博士と、彼を支え続けた妻ジェーンの実話を綴った本作。
なんと言っても”難病 × 恋愛 = お涙頂戴作品”というお決まりのセオリーにはとどまらないのがポイントだ。大恋愛から始まりながらも、闘病、夫婦生活の苦悩といったシリアスな展開もしっかりと描かれている。
自分の研究で宇宙の秘密を解き明かせば、時間だって戻せてしまう、そんな神にも近い天才と言われる博士も、妻の前ではただの一人の男でしかないのだ。親近感が湧くような天才の人間味溢れる描写など、意外なアプローチはいわゆる難病系の恋愛映画を敬遠する方でも、きっと楽しめるのではないだろうか。
『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』
『ラブ・アクチュアリー』で知られる王道ラブコメに定評のある、リチャード・カーティス監督の真骨頂と言って差し支えない傑作だ。今回は、タイムトラベルの能力を持つ家系に生まれた青年(ドーナル・グリーソン)が意中の女性(レイチェル・マクアダムス)との関係を進展させようと奮闘する中で、愛や幸せの意味を見つけるSFラブコメ作品。
「何気ない日常こそが、かけがえのない大切なものだ。」というフレーズは、これまで何度も聞いた覚えがあるし、言葉だけではその本質を実感することは到底できない。
だが、この映画を通して時間について考えた時、そんなありふれたメッセージが、人生の尊さ、そして、あなたのこれからの生き方を変える新たな気づきへ導いてくれるはずだ。