役者の魅力が見事に引き出された「日本映画」。
『味園ユニバース』
大阪のある広場で行われていた赤犬のライブ中、突然若い男(渋谷すばる)が乱入し圧倒的な歌声を披露しはじめる。赤犬 マネージャーのカスミ(二階堂ふみ)は、歌うこと以外の記憶を失ったその男に興味を持った自宅兼スタジオで働かせることになるも、男の失われた過去には大きな問題があった。
単独映画初主演となる渋谷すばるの貫禄ある演技、歌唱力による存在感が際立つ本作。前田敦子をニート役に抜擢した作品『もらとりあむタマ子』など、山下敦弘監督の得意とするアイドルらしからぬ設定で、アイドルらしからぬ魅力を引き出す手法が見事にハマっている。
ジャニーズのメジャーアイドルと、実名で出演したバンド赤犬、舞台となった実在する貸しホール、味園ユニバースという大阪アングラシーンの邂逅による科学反応も醍醐味だ。アイドル、バンドマン、お笑い芸人など、様々なジャンルのキャストが脇を固め、それぞれの人物の普段は見られない役者としての新たな魅力を発見できるだろう。
『海街diary』
『そして父になる』、『誰も知らない』など、いま日本映画界で世界的に最も評価されている一人である是枝裕和監督が、マンガ大賞2013を受賞した吉田秋生の人気コミックを実写映画化。
鎌倉に暮らす香田家3姉妹のもとに、15年前に家を出ていった父の訃報が届き、葬儀で異母妹となる14歳の少女すずと対面する。身寄りのいなくなってしまった彼女を香田家の四女として迎え、鎌倉で新たな生活を始める。
主人公の姉妹を演じるのは、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず。漫画原作、売れっ子の豪華キャスト4人というキャスティングに、映画好きには心配になる方もいるだろうが、是枝作品らしさはそのままに、女優の魅力を最大限に引き出したスター映画としても機能している。
家族の絆、血のつながりといったテーマもありながらも、何か大きな事件が起きたり、衝撃的なラストが待っているわけではない。淡々と描かれるドキュメンタリータッチの日常の中で、鎌倉の美しい景色、役者のさりげない仕草、小道具など、随所でハッとさせるようなシーンが散りばめられており、それらひとつひとつが、静かに進むストーリーの推進力になっている。日本映画らしい繊細なディテールを味わえる作品だ。
誰かと語り合いたくなるような、自分のお気に入りの名シーンが見つかるはずなので、全編を通じて流れる穏やかな雰囲気の中で、壮絶な目の保養をして欲しい。
『イン・ザ・ヒーロー』
あなたは、スーツアクターを知っているだろうか?
本作は、特撮作品などで、ヒーローや怪獣のスーツ、着ぐるみを着用し素顔をさらすことなくスタントシーンをこなす彼らの夢と奮闘の物語だ。オリジナルの共同脚本を手がけたのは、『パッチギ!』などの映画プロデューサー李鳳宇と『夢を叶えるゾウ』で知られる小説家、水野敬也。一般的に馴染みのない、光の当たらない職業を題材とした、新鮮な設定の面白さに加え、実在するスーツアクターへの取材を重ね、リアリティに徹底的にこだわって制作された。
台本を読み「自分の話じゃないか」と感じたという主演の唐沢は、自身も下積み時代にスーツアクターの経験を持つ。50歳とは思えない彼のアクションシーン、その演技の熱量から、本作にかけるストイックな情熱が伝わって来る。自分の仕事に誇りを持つ男たちの姿に、胸が熱くなり、4回は泣ける秀逸な王道ヒューマンドラマだ。
『海を感じる時』
1978年に発表された中沢けいの、同名小説を映画化。純粋な少女から女へと目覚めていく主人公恵美子を市川由衣が初のヌードを披露しながら、体を張って熱演している。相手役は、近年話題作に数多く出演する日本映画界の逸材、池松壮亮。激しいラブシーンに目を奪われるが、原作者に生まれてくるまで待っていたと言わしめた、主演の2人の演技が素晴らしい。
70年代の時代設定に、文語調の台詞回し、演出まで古めかしいが美学を感じる独特の雰囲気も味わい深い。腰を据えてしっかりと堪能したい1本。