男女の関係について考えさせられる「恋愛」作品
『her/世界でひとつの彼女』
本誌でもお馴染みの奇才スパイクジョーンズ監督、最新作。地下鉄が走る、近未来のLAを舞台に、AI(人工知能)に恋をする主人公のラブストーリー。アーケードファイヤーの音楽の奏でる旋律と、柔らかい映像美の中で、機械とは正反対とも言える、肉感的でハスキーなAI型OSサマンサ(スカーレットヨハンソン)の声が心地よく響く。
ダイアログ中心の展開で、何気ない会話の中にさりげなく、恋愛や他者とのコミュニケーションに関する格言やメタファーが豊富に詰まっている。SFの設定ではあるが、誰もが直面する、とても普遍的な問題を扱っている作品だ。
また、巧みな世界観の作り込みは脱帽もの。上海とLAで撮影を行い、近未来を表現する為に、登場人物のファッションに規定を設けている。画面の中に居る人物全てがヴィンテージをヒントに考えられた近未来のファッションテイストに統一されており、日常の風景の中に無意識に異化効果をもたらす演出がなされているのだ。 ちなみに主人公が着ている鮮やかなカラーのシャツは [Band of Outsiders]のもの。
『ニシノユキヒコの恋と冒険』
この竹野内豊は女子が観たら、鼻血とかそういうレベルじゃない。妊娠する。来る者拒まずの最強のモテ男を演じる竹内豊の魅力が爆発しているのだ。自分の恋愛の参考にはならないかもしれないが、本田翼、成海璃子、木村文乃など、ニシノユキヒコにまつわる美女たちとの、うっとりするようなラブシーンを堪能できるので男性こそ観るべき。
どちらかというとストーリの起伏よりも、演出で楽しむ作品。監督の前作、『人のセックスを笑うな』同様に、雰囲気作りが独特。ワンカットの尺が異常に長く、これを無駄と取るか、余韻と取るか。本作の葬式のシーンで演奏される音楽のように、不協和音が、だんだん心地よくなるような不思議な感覚を味わえる。
『テイク・ディス・ワルツ』
マーゴは28歳のフリーライター。夫ルーは料理本のライター。結婚5年目。経済的にも、精神的にも、安定している。夫は大らかで優しい。料理もしてくれる。子供はいない。静かで穏やかな日々。でも、何かが足りない。大きな不満はないのだけれど、何かが。マーゴは、仕事の取材で訪れた観光地で、青年ダニエルと出会う。偶然、帰りの飛行機でも隣、住んでいるところもマーゴの家の向かい。ダニエルと親しくなるにつれ、日々の物足りなさの正体に気がつき、マーゴは揺れ動く。
そこそこ幸せだけど、退屈。ふたりとも仕事は会社勤めではないし、子供もいないので、比較的に夫婦関係の責任も軽い。そんな状況で退屈さを埋めるすべを見つけたとき、けれども、そのすべがインモラルなものだったとき、人はどうするか。マーゴの姉は言う。「人生というのは、どこか物足りなくて当然よ」と。「新しいものは魅力的よね」という知人の中年女性。「そんなの最初だけよ」という年期の入った既婚女性。けれども結局のところ、最終的な選択はマーゴ自身に委ねられている。若い友達夫婦の限界を描いた作品と言っていいかもしれない。今年結婚予定の方は、結婚生活の予習にどうぞ。なんて。
『わたしはロランス』
モントリオールに住む仏語教師ロランス。30歳の誕生日、「彼」は恋人のフレッドに打ち明ける。実は女になりたいんだ、と。自分は間違って男に生まれてきたんだ。でも、君のことは愛している。このまま関係を続けていきたい。そんなロランスに対して強く反発するフレッドだが、パートナーとしてロランスを支えながら、ふたりで歩んでゆこうと決意する。
日本でも局地的に、しかし確実に浸透してきた、カナダはモントリオール出身のグザヴィエ・ドラン監督。本作は、彼の三作目。モントリオールは今でこそ同性愛者やトランスジェンダーが多く集まる街として知られるが、この映画の時代設定となっている80年代後半から90年代前半では、まだまだ偏見や差別が蔓延っている。「本当の自分」になるためにはそれなりの代償を払わなければならない。仕事だけでなく、家族、友人、恋人さえも犠牲にしなければならない。「自分らしく生きること」の厳しさが、この作品ではひたすら強調されている。それでも陰鬱な気分にばかりならないのは、音楽と映像に対するドランのこだわりが遺憾なく発揮されているからだ。オープニングの時点で、その美しさに目が釘付けになること間違いなし。ほかにも息を飲むほどの映像美が盛りだくさん。かくも嘆美な時間をご賞味あれ。
『ビフォア・ミッドナイト』
パリに住む小説家のジェシーと環境運動家のセリーヌ。ふたりは双子の娘と共にギリシャで休暇中。ジェシーの前妻との息子ハンクもアメリカから訪れている。これまでのこと、これからのことを、ふたりで語っていくーー。
一作目の「ビフォア・サンライズ」(1995)からはほぼ19年越し、二作目の「ビフォア・サンセット」(2004)からは9年越しの、シリーズ三作目。ウィーンで出会い、一晩という限られた時間を過ごして相思相愛となり、ヨーロッパとアメリカという遠距離を乗り越えて結婚したふたり。前作までと同様にほぼふたりの会話だけで話が進んでいくが、圧倒的に異なるのは、ふたりのロマンスがなりを潜めていることだ。不仲なわけではない。ただ、お互いが側にいることに慣れてしまっているのだ。そして、その慣れがあるが故、ふたりの関係は不穏な方向へ徐々に向かっていく。ここで描かれているのは、純愛/熱愛の向こう側だ。
これまでのシリーズを見てきた方なら、ふたりの人生観、恋愛観、結婚観の成長と変化を味わうことができる。シリーズ初見の方は、是非とも「サンライズ」、「サンセット」、「ミッドナイト」を3本まとめてご覧いただきたい。